トウヤという子供は、一言で言えば不気味な子だった。
生まれてから何年経っても、にこりと笑うことさえしなかった。どれだけ親が愛情を注いでも喜ばない。頭をぶつけても泣かない。感情がないのではと、周囲は訝しんだ。
一度、それを心配に思った両親はトウヤを病院に連れて行った。その時、トウヤをカウンセリングした医者はこう聞いたという。
「ぼくは からっぽだから」
医者はその言葉の意味を理解することはできなかったが、何かが欠落しているということだけは分かったので、両親には悲観せぬよう伝えた。
しかし、トウヤの不気味さは加速していった。ある日を境に、何もないところに向かって話し始めるようになったのだ。イマジナリーフレンドのそれかとも思ったが、母がトウヤに問いかけると
「ここにいるよ、『』だよ」
という、なんとも聞き取りにくい言語で話されたので、詳しく突っ込む事はやめた。
しかしそれから2年ほど経って、トウヤのもとに同い年の、そっくりな女の子がやってきた。トウコがやってきてから、トウヤは今までの不気味さが嘘のように活発な子になった。
“トウコと一緒なら”ころころと笑い、泣き、ご飯も美味しいと食べる。さらには周囲の子供たちとも積極的に関わるようになった。それを見て周囲はひとまず安心した。もともと双子で生まれる予定だったので、欠けていたのはトウコの存在なのだと安心した。
しかし両親は素直に喜べなかった。いつもトウコにべったりなので分かりにくいが、トウコがいないとまた以前のような無に戻ってしまうのだ。トウコがいないと、トウヤはまたからっぽに戻ってしまう。しかし理由が分からない以上、どうしようもなかった。
トウヤは、生まれつき欠けていた。というよりもからっぽだった。親が自分を愛してくれているのは分かる、頭をぶつけて痛いのも分かる。しかしどうしてもそれから感情を出力することができなかった。
トウヤという器は欠けていた。どれだけ詰め込まれても、欠けているところからぽろぽろと零れていってしまう。ただただ空虚で、淋しかった。
そんなある日のことだった。家族で母の故郷、カゴメタウンに帰省することになった。相変わらずトウヤはぼうっとしていたが、“何か”が語りかけてくるのが分かった。
さみしい さみしい くるしい くるしい
その声が、トウヤはどうしても気になった。気になったので、声がもっと聞こえるところまで行くことにした。気づいたら、大きな野原に出ていた。
そこに、『』はいた。
自分と同じ、からっぽで、虚しい存在。それがなんとなく悲しいと思ったので、連れて帰ることにした。『』はどうやら周囲には見えないようで、また不気味だと言われたがまあどうでもよかった。
『』は、ただ呻くばかりだった。しかしなんとなく意思はわかるので、会話はできた。
それから少し経ったある日のこと。トウヤは幼稚園で周囲の子供にいじめられていた。理由はなんとも子供らしく、笑わないトウヤを不気味がったからだった。最初こそ強い言葉を浴びせるだけだったが、次第にエスカレートしていき、子供のうちの1人が積み木の角でトウヤを殴ろうとした。その時だった。
ひゅららら
『』の声が聞こえたかと思うと、子供の腕が凍りついた。トウヤは呆然としたが、『』が褒めてほしそうにしているので、『』がやったのだと分かった。子供たちは喚いていたが、周囲から見れば勝手に腕が凍りついただけなのでトウヤが責められる事はなかった。
トウヤは静かに、『』にお礼を言った。
しかしそんな日々も、トウコが来て終わった。トウコがやってきて、トウヤの空虚な日々は終わった。トウコと一緒なら、トウヤは笑うことができる。トウコがいるなら、トウヤはからっぽじゃない。やがてトウヤは、トウコに執着するようになっていった。しかしそうなっても、『』のことは忘れてはいなかった。
「ぼく、友達がいるんだ」
「へえ、どんな子?」
「ここにいるよ」
「……へえ?」
トウヤは、トウコに『』を紹介することにした。当然無を紹介されてトウコは困惑していたが、少しずつ順応していってくれた。3人?で遊ぶ時もあった。そうすることで、『』もトウコのことがスキになっていった。
トウヤにとって、トウコは何よりも大切なもの。トウヤが人間でいられる、たった1人の楔。だから、トウコを傷つけるものは許さないし、トウコを誘惑するなんてもってのほか。その気持ちは、『』も同じだった。
大好きだよ、トウコ。ずっと ずうっと 一緒だからね
トウヤくん
重い。
トウコ
そういえばイマジナリーフレンドがいた時期もあったね〜。ぐらいな感じ。多分忘れてる。
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