「………」
「………」
えー、今俺とトウヤくんは散歩していたわけですが。その途中で。
「いやあ、底なし沼にはまってしまってな!!助けてくれんか!」
沼に下半身が沈んでいるアデクさんに出会いましたとさ。なんでだ!!
「いやはや、昨日の雨で沼が深くなっていたみたいでなあ。ポケモンたちと遊んでいたらついうっかりな!」
「大丈夫なんですか……」
「正直大丈夫ではないな、足の感覚がないわ」
「ヒヒダルマ!!」
「承知しました!」
ヒヒダルマが長い両腕でアデクさんを引っ張り出した。さすがヒヒダルマだ、変態性さえなければ。
「いやあ、助かったわ!ありがとう、お嬢ちゃん!それからそこの……」
「ヒヒダルマです」
「うん、それは分かる。だがなぜ喋るのだ?」
「特訓の成果です!!」
「そうか!すごいな!」
なんだこのIQマイナスの会話。つーかアデクさん下半身泥まみれじゃんか。
「あの…良かったらあたしたちのお家でシャワーでも浴びていきませんか?泥まみれだから…」
「む、いいのか?」
「はい、洗濯ならあたしもお母さんのを手伝ってるし!」
「はっはっは、ではありがたくお世話になることにしようかの!」
こうして俺たちはアデクさんを連れて家に帰った。ママさんはたいそう驚いていたが、事情を話すとあっさりOKしてくれた。そしてアデクさんには亡くなったおじいちゃんの服を着せていた。
「いやあ、何から何まですまんな。お嬢ちゃん、名前は?」
「トウコです」
「そうか、トウコ!うむ、ヒヒダルマを連れていることと言い、その優しさといい……きみはトレーナーの素質があるのやもしれんな!」
「ええ、そうですか?」
「うむ。人であれポケモンであれ、大切なのは思いやる心だ。ヒヒダルマもそこに惹かれたのではないか?」
「ええ、その通りです!トウコさんは立派に育ちますよ!」
「はっはっは、ヒヒダルマもこう言っておる!なあに、元とはいえチャンピオンだ、わしが保証するとも!」
ヒヒダルマの言う立派はボディのことなんだけどな……でもそうか、チャンピオンのアデクさんか……
「……ねえ、アデクさん。ぼくもトレーナーになりたいです」
「へっ?」
「おお、君もか!」
「トウヤ、どうしたの?」
「……ぼくも、トウコと一緒に旅したい。どうすればトレーナーになれますか」
「そうかそうか、理由は何であれ旅に出たいと言うのは立派なことだ。そうさなあ……ポケモンがほしい、と言うならばアララギを頼ってはどうだろうか?」
「……アララギ博士?」
「そうだ、親子揃ってポケモンの研究をしておってな。特に娘の方はなんでも近頃カノコタウンに引っ越してくるとか。あの子も結婚していればもう君たちくらいの子供がいる歳……ウォッホン!まあその、なんだ。子供好きだからな、色々協力してくれるかもしれんぞ」
そっか、アララギ博士って独身なのか……なんか悲しいな。でもそうか、ここでアララギ博士との接点ができるわけか。
「…わかりました、ありがとうございます」
「うむ!いやはや新たなトレーナーの蕾がこんなところで見つかるとは!やはり旅は良いものだな!」
その後、アデクさん来訪を聞きつけたチェレンとベルがうちにやってきて、それはもうアデクさんが質問攻めされていて困っていたのだけど。まあそれはまた別のお話だ。
夜中。トウヤは隣で眠るトウコの寝顔をずっと見つめていた。
トウヤには、生まれつき何かが欠けている感覚があった。それが何かは自分でも分からなかった。ただ何か、大切なパズルのピースが欠けているような。
けれどトウコに出会ったとき、その感覚は消え去った。自分そっくりの女の子、けれど自分とは違って明るくて優しい女の子。そんなトウコが、トウヤは大好きだった。
だからトウコとずっと一緒にいたいし、トウコが旅に出るなら自分も一緒に旅に出る。トウコと自分は戸籍上はきょうだいだ。でも血のつながりはない。
眠るトウコの左手をそっと手にとって、薬指にキスをする。
「だいすきだよ、トウコ」
それは子供のものというにはあまりに重く、大人のものというにはあまりに純粋すぎた。
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