ショタ魔族ワイ、フリーレンに腰ヘコヘコして無事死亡   作:(⩌ˬ⩌)

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第一話 ショタ魔族ワイ、フリーレンに腰ヘコヘコして死亡

穏やかな風が若葉の匂いを運び、街道沿いの草花がそよそよと揺れている。空には雲一つなく、旅をするにはこれ以上ないほどの好天だった。

 

そんな麗らかな午後の街道を、三人の旅人が歩いていた。

 

「フリーレン様。次の街まであとどのくらいですか」

 

紫髪の少女……フェルンが数歩先をてくてくと歩く小柄な銀髪のエルフの背中に声をかけた。その声にはどこか急かすような響きがある。

なぜなら件のエルフ、フリーレンは、さっきからずっと道端に咲いている名前も知らない花を凝視していて一向に進む気配がなかったからだ。

 

「んー……たぶんあと半日くらいかな」

 

フリーレンはしゃがみ込んだまま、気のない返事を返した。

指先で花弁をつんつんとつついている。千年以上を生きた大魔法使いの所作とは到底思えない。

 

「半日って……日が暮れるじゃねえか」

 

二人の後ろを歩いていたシュタルクが、げんなりとした声を上げた。

背中に担いだ巨大な斧が歩くたびにがちゃがちゃと鳴っている。

 

「フリーレン様、花はいつでも見れますから。行きましょう」

 

「……もうちょっとだけ」

 

「駄目です」

 

ぴしゃり。

フェルンの声に有無を言わさぬ刃が混じる。フリーレンは名残惜しそうに花から目を離し、のろのろと立ち上がった。

一連の攻防を眺めていたシュタルクが小声でぼそりと呟く。

 

「毎回思うけど、フェルンってフリーレンのお母さんみてえだよな」

 

「何か言いましたか?」

 

「いや何も」

 

シュタルクは即座に前を向いた。

春風がさらりと三人の間を吹き抜ける。

どこにでもある、旅の一幕だった。

 

そうして暫く。

 

異変に最初に気づいたのはシュタルクだった。

 

「おい、あれ……」

 

シュタルクが街道の先を指差す。フェルンも目を細めてその方向を見やった。

 

街道の脇、大きな樫の木の根元にうずくまる小さな影があった。

 

人だ。それもかなり小さい。

 

「……子供、でしょうか」

 

フェルンの足が自然と速まる。近づくにつれて影の輪郭が鮮明になっていく。

 

「うっ……うぅ……」

 

少年だった。

 

年の頃は十かそこら。薄汚れたボロボロの衣服を纏い、樫の根元に背中を預けて膝を抱えている。

細い手足は擦り傷だらけで蜂蜜色の髪は砂埃にまみれている。保護者らしき人影はどこにも見当たらない。

 

フェルンが少年の前にしゃがみ込んだ。

 

「大丈夫ですか? 怪我はありませんか?」

 

少年がびくりと肩を跳ねさせた。怯えきった目がゆっくりと持ち上がりフェルンの顔を捉える。

 

フェルンは小さく息を呑んだ。

 

汚れてこそいるが、驚くほど整った顔立ちだった。

長い睫毛に縁取られた瞳は硝子玉のように澄み、頬は痩せてはいるものの肌理が細かく、作り物めいた完璧さがある。

街道脇にうずくまっているのが不釣り合いなほどの美少年。

 

瞳に、うっすらと涙の膜が張った。

 

「……おねえ、ちゃん?」

 

掠れた声。喉が渇いているのか、小さな唇が痛々しく割れている。

少年の手が伸び、おずおずとフェルンの服の裾を握った。

 

フェルンの胸の奥で何かが疼いた。

 

「大丈夫……?」

 

気づけばフェルンは、少年の頭をそっと撫でていた。砂埃まみれの蜂蜜色の髪を梳いてやる。

少年は手に身を預けるようにそっと目を細めた。長いこと人の温もりに触れていなかった子犬みたいに。

 

「おいおい、こんなとこに一人かよ。水飲めるか?」

 

シュタルクが隣にしゃがみ込み、水が入った革袋の蓋を開けて差し出す。少年は怯えと感謝が入り混じったような上目遣いでシュタルクを見つめ、こくりと頷いてから小さな両手で水筒を受け取った。

こくこくと喉を鳴らして水を飲む姿は、年相応の……いや、年齢より幼くすら見える。

 

「ゆっくり飲んでください。急ぐとむせますよ」

 

「……うん。ありがとう、お姉ちゃん」

 

少年がふにゃりと笑った。その笑顔は汚れも疲労も全部吹き飛ばすような、不思議な透明感を湛えていて。

フェルンの眉尻がほんの少し下がった。完全に母性の回路が開いた顔だ。

 

「名前は? どっから来たんだ?」

 

シュタルクが膝に肘を乗せて問いかける。

 

「リヒト……僕の名前、リヒトっていうの。旅の途中で、みんなとはぐれちゃって……」

 

少年——リヒトは革袋を胸に抱きしめたまま語った。

声は心細げに震え、時折言葉が詰まる。

その度にフェルンが大丈夫ですよと声をかけ、リヒトの小さな背中をさすってやった。

 

「一人で何日くらい歩いたんですか?」

 

「わかんない……三日、いや四日かな……夜が怖くて全然眠れなくて……」

 

リヒトの瞳に再び涙が滲む。フェルンはたまらずハンカチを取り出して柔らかな頬をそっと拭ってやった。

 

「泣かないでください。助けてあげるからね」

 

「お姉ちゃん……っ」

 

リヒトがフェルンの腰にしがみついた。ぎゅう、と。小さな腕が精一杯の力でフェルンの細い腰を抱きしめる。

微かに震えている……ように見える。フェルンは一瞬たじろいだが、すぐにリヒトの背中に手を回した。

 

リヒトの顔がフェルンの腹部に埋まる。

 

「お姉ちゃんあったかい……すごくいい匂いがする……安心する……」

 

くぐもった声がフェルンの服越しに響いた。すんすん、と小さく鼻を鳴らしている。

 

「……よしよし。もう怖くないですからね」

 

フェルンが慈愛に満ちた手つきでリヒトの頭を撫でる。シュタルクもその光景を見て「いい子だな」と目を細めている。

 

——しかし。

 

フェルンの腹にぴったりと顔をうずめたリヒトの表情を二人は見ていなかった。

 

見えるわけがなかった。リヒトの顔はフェルンの体に(正確に言えば胸に……)完全に密着していたのだから。

 

だから二人はリヒトの口元がうっすらと弧を描いていることに気づかない。

 

リヒトは頭を撫でられながら、そっとフェルンの腰に回した腕の位置をずらした。

 

ほんの少しだけ。

 

数ミリずつ。

 

呼吸に合わせるように自然に。

 

「お姉ちゃんってすっごくあったかいね……ぎゅってしてると安心する……もっとくっついてていい?」

 

「ええ、いいですよ。落ち着くまでそうしていて——」

 

「うん……♡」

 

リヒトは甘えるようにフェルンの体に頬を擦り寄せた。

 

すりすり、すりすり。

 

その動きが少しずつ本当に少しずつ。リズミカルになっていく。

 

フェルンの腰に密着したリヒトの下半身が、微かに、ほんの微かに揺れ始める。

 

ヘコ……♡

 

「えへへ……お姉ちゃんやわらかい……」

 

ヘコ……♡ ヘコ……♡

 

「ずっとこうしてたいな……♡」

 

リヒトの頬がほんのり上気している。碧い目がとろんと蕩けて、恍惚の色が浮かんでいた。声に混じる吐息が甘い。

頭を撫でてくれるフェルンの手の感触を全身で味わうように、すりすりと体を擦り付け腰が、こつん、こつん、とフェルンの太腿にぶつかっている。

 

ヘコ……♡ 

 

ヘコ……♡ 

 

ヘコ……♡

 

「あの……リヒト君?」

 

フェルンの手が止まった。撫でていた手が宙で硬直する。

 

何かがおかしい。

 

何がおかしいのか具体的には分からないが、少年の動きが間違いなくさっきまでとは質が違う。

 

フェルンの本能が微かな警鐘を鳴らし始めた。

 

「なあに、お姉ちゃん……♡」

 

リヒトが見上げた。上目遣い。碧い瞳は涙に潤んでいて、頬は桜色に染まっていて、唇は薄く開いている。

 

表情は可愛い。

 

間違いなく可愛い。

 

けれどその可愛さの中に、フェルンが今まで見たことのない類の何か得体の知れない熱が混ざっていた。

 

「……少し、離れてもらえますか?」

 

「やだ♡」

 

即答だった。リヒトはむしろぎゅっとしがみつく力を強め、フェルンの腰に顔を埋め直した。す

んすんと鼻を鳴らし、ふはぁ、と蕩けきった吐息を漏らす。

 

「お姉ちゃんほんっっっとにいい匂い……なんだろこれ……石鹸かな……髪かな……もうずっとこうしてたい……お姉ちゃんのここ、すっごく柔らかくて最高……♡」

 

「リ、リヒト君、ちょっと——」

 

フェルンの声に明確な狼狽が混じった。リヒトの手の位置がいつの間にかかなり際どいところに移動している。

フェルンが引き剥がそうとするが、少年の腕は見た目に反して異様に強固で、びくともしない。

 

「なあ、フェルン。コイツ、なんか変じゃ——」

 

シュタルクが眉を寄せて近づこうとしたその時。

リヒトが唐突にフェルンから離れた。

 

「……」

 

リヒトの目がフェルンの向こう側にいる銀髪のエルフを捉えていた。

 

少し離れた場所に立つフリーレン。さっきからずっとそこにいた。

 

近づくわけでもなく、声をかけるわけでもなく。ただこちらを見ている。

 

リヒトは数秒間、フリーレンを凝視した。

 

「──」

 

碧い瞳の奥で何かが明滅する。計算とも衝動ともつかない光が瞬き——そして、消えた。

 

代わりに浮かんだのは、何千年間も研ぎ澄まし続けてきた笑顔。

 

「ねえねえ! あのクソ貧乳……じゃなくて、銀色のお姉ちゃんも仲間なの?」

 

リヒトは弾むような足取りでフリーレンに駆け寄った。さっきまでフェルンにしがみついて離れなかった少年とは思えない切り替えの速さ。

フェルンは乱れた服の裾を整えながら釈然としない顔をしていた。

 

「あのお姉ちゃんはフリーレン様。私の師匠です」

 

「師匠! すっごーい! お姉ちゃん魔法使いなんだ!」

 

リヒトはフリーレンの前で立ち止まった。見上げる少年と、見下ろすエルフ。フリーレンは小柄だから、二人の間にほとんど身長差がない。碧い目と紫の目が、ほぼ同じ高さで向き合った。

 

「ねえねえ、久しぶり……じゃなくて始めまして!ねぇ、 髪綺麗だね! きらきらしてる! ねえ触っていい? いいでしょ? いいよな? どうせお前のことだから自分で手入れなんてしてないんだろうしサァ!」

 

堰を切ったように言葉を並べ立てる。

人見知りの欠片もない。さっきまで泣いて震えていた少年と同一人物かと疑うほどの馴れ馴れしさで、リヒトはフリーレンの周りをぐるぐると回り始めた。

 

「……」

 

フリーレンは無言だった。

 

一言も発しない。表情も動かない。

 

杖を持つ手が、ほんの少しだけ位置を変えたことに誰も気づかなかった。

 

「千歳越えてもちっちゃくて可愛いね! 僕とおんなじくらい? ねえ背比べしよ!」

 

リヒトがぴょんと背伸びをしてフリーレンの隣に並ぼうとする。

動きの中で、自然にフリーレンとの距離を詰めていく。肩が触れそうな距離。腕が触れそうな距離。

 

腰が——

 

「ね、お姉ちゃんもぎゅってしていい? さっきのお姉ちゃんみたいに。僕ぎゅってするのもされるのも大好きなんだ♡知ってるよね?♡」

 

リヒトが両腕を広げてフリーレンに抱きつこうとする。その目がとろりと蕩けている。

さっきフェルンに見せていたのと同じ——いや、それ以上に爛々とした熱を帯びた飢えた獣のような目。

少年の外見にはあまりにも似つかわしくない、底の知れない渇望の色。

 

フリーレンが半歩下がった。無言で。

 

リヒトは構わず距離を詰める。にこにこと、あくまで無邪気な笑顔で。

 

「あ、そうだ!」

 

唐突にリヒトが足を止め、ぱんと手を打った。

何か閃いたとでもいうように、碧い目をきらきらと輝かせてフェルンとフリーレンを交互に見比べる。

 

「お姉ちゃんたちって面白いね! 二人並ぶとすっごく対照的!」

 

にこにこ。にこにこ。

 

笑顔のまま、ちらりとフェルンを振り返る。

 

その視線が一瞬だけフェルンの顔ではなく、もう少し下の辺りに吸い込まれた。

 

「後ろのお姉ちゃんはさぁ——すっごいよね! もうとにかくすごい! おっきくて! ふわふわで! さっきぎゅってしたとき天国かと思ったもん! あれは人類の至宝だよ! 神様ありがとうって感じ! お姉ちゃんに腰ヘコヘコさせてほしい♡ もう一生お姉ちゃんのおなかに顔うずめて暮らしたい♡」

 

「──へ?」

 

フェルンの顔が耳まで真っ赤に染まった。意味を理解するのに数秒かかった。

 

いや——理解したくなかった。今この子供は何と言った?

 

腰?

 

ヘコヘコ?

 

「ちょ、こいつ何言って……」

 

シュタルクが素っ頓狂な声を上げる。

 

だがリヒトは二人の反応を気にする素振りもなく、くるりとフリーレンに向き直った。

 

碧い瞳がフリーレンの全身を上から下までゆっくりと舐め回すように眺める。

視線の動きには、十歳の少年には絶対にあり得ない、数千年分の鑑識眼がたっぷりと詰まっていた。

 

そして。

 

にっこりと、とびきりの笑顔で。

 

「でもこっちのお姉ちゃんは——」

 

間。

 

春風が吹いた。

 

「ぺったんこだよね♡」

 

フリーレンの前髪が風に揺れた。

 

「もしかしてお姉ちゃん、胸の辺りに強力な隠蔽魔法でもかけてる? 魔力探知に全然引っかからないんだけど……あ、違うか。元から更地なのか!」

 

「千年生きても育たないって、もうそれ呪いじゃん! 神話の時代のバグだよ!あ、でもエルフは全員そうか!ぎゃはは!!」

 

「いや、すごいよ逆に! ここまでなんにもないって逆に芸術だよね! 大陸広しといえどもなかなかないよこの平坦さは! でもね、僕はそういうのも全然アリだから! むしろぺったんこのほうが密着度高くて最高まであ——」

 

♢   ♢   ♢

 

音がしなかった。

 

爆発音も。破裂音も。悲鳴も。

 

何の前触れもなく、何の予備動作もなく——フリーレンの杖が一閃した。

 

「ぶべらっ」

 

視認すらできない速度で放たれた魔法がリヒトの体を消滅させた。貫通でも破壊でもなく消滅。

存在ごと。塵の一粒も残さず。

 

少年が立っていた場所には春の陽光だけが静かに降り注いでいて、つい一秒前までそこで笑っていた少年の痕跡は何一つとして残っていなかった。

 

風が吹いた。

草花が揺れた。

 

それだけだった。

 

沈黙が墜落する。一秒。二秒。三秒。

最初に動いたのはシュタルクだった。

 

「——は?」

 

シュタルクの口から、声にならない音が漏れた。

 

フェルンは固まっていた。真っ赤だった顔から一瞬で血の気が引き、紙のように白くなっている。

さっきリヒトの髪を撫でていたはずの手が、宙に浮いたまま硬直していた。

 

「フ、フリーレン様……?」

 

声が掠れる。

 

「フリーレン!!」

 

シュタルクが叫んだ。その声が春の街道に響き渡る。

 

「おい、今の子供だろ!? なんで、お前……何を……!」

 

シュタルクの顔は蒼白だった。つい数分前に水を飲ませてやった少年が消し飛んだ。

脳が追いつかない。発言は確かに異常だった。だが、それでもまだ、子供だ。子供だったはずだ。

 

フリーレンは杖を下ろした。

 

振り返りもしない。横顔に、怒りも、焦りも、後悔も何も浮かんでいない。

凪いだ湖面のような無表情。

 

そして、何でもないことのように口を開いた。

 

「魔族だよ」

 

フェルンとシュタルクの間を、春風が吹き抜けた。

 

「……魔族?」

 

フェルンが掠れた声で反芻した。

あの子が。あの、泣いて、震えて、服の裾を握って、お姉ちゃんと呼んだあの少年が。

腰をヘコヘコしてきたあの少年が。

 

「でもあの子、人間に見えて……」

 

「あいつ、人間の擬態が上手いんだ」

 

諭すでもなく、叱るでもなく。ただ事実を確認するような温度で。

 

「……あいつのこと、知ってるのか?」

 

シュタルクの声はさっきよりは落ち着いていた。それでも微かな震えが消えていない

 

フリーレンの足が止まった。

 

ほんの一拍。

 

それから、小さく息を吐いた。

その吐息に——千年を生きたエルフの途方もない疲弊の残り香がほんの微かに滲む。

 

「昔から知ってる。すごく面倒な魔族なんだ」

 

——面倒。

 

脅威でも、強敵でも、宿敵でもなく。面倒。

その一語の選び方に、今の魔族との付き合いの長さが凝縮されていた。

 

フリーレンは踵を返し、歩き出した。振り返りもしない。歩幅も速度も少年を消し飛ばす前と寸分も変わらない。

 

「あの、フリーレン様、もう少し詳しく……」

 

「行くよ。日が暮れる」

 

取りつく島もなかった。

 

フェルンは口を開きかけ、しかし結局何も言えずに唇を引き結んだ。

フリーレンがこうなったらもう何を言っても無駄だと、経験上骨の髄まで知っている。

 

シュタルクは少年が消えた場所にもう一度目をやった。何もない。

草と土と、春の日差しだけ。さっきまであった少年の体温も笑顔も、全部嘘だったかのように消えていて……。

 

三人の足音が遠ざかっていく。

 

やがてその足音も聞こえなくなり、街道に沈黙が戻った。

 

鳥が一羽、遠くで鳴いた。

 

♢   ♢   ♢

 

——どのくらい経っただろうか。

 

街道からやや外れた茂みの中。木漏れ日が地面にまだらな模様を落とす、何の変哲もない藪の中に。

 

光が生まれた。

 

最初はほんの微かな燐光だった。蛍のような光の粒子が一つ、二つと虚空に現れ、ゆるゆると渦を巻く。

それが加速し、密度を増し、やがて人の形を——少年の輪郭を象り始める。

 

「ふぅ~」

 

小さな手。細い足。蜂蜜色の髪。

光が弾けて散ったとき、そこには少年が立っていた。

 

傷一つない。汚れ一つない。さっきまでの薄汚れたボロボロの衣服ではなく元のきちんとした装いに戻っている。

街道脇で見せていた哀れな迷子の姿は最初からどこにもなかったかのように……そこに立っていたのは、御伽噺の挿絵から抜け出したような完璧な美少年だった。

 

碧い瞳がゆっくりと開く。

 

リヒトは自分の体をぺたぺたと確かめ、両手を開いて握ってを何度か繰り返した。

首を回す。腕を回す。問題なし。完全復元。何千回と繰り返してきたルーティン。

死ぬのには何千年経っても微妙に慣れないが、生き返るのにはすっかり慣れてしまった。

 

「──腰ヘコ、失敗かぁ。やっぱ千年のババ……エルフはガードが堅いなー」

 

リヒトは三人が去った方角を眺めた。

 

もう姿は見えない。街道は空っぽで、残っているのは傾き始めた日差しと草花を揺らす風だけ。

 

少年は笑った。

 

「ま、しょうがないか。切り替えてこ♡」

 

リヒトは茂みを掻き分けて街道に出た。ぱんぱんと服の埃を払い、ぐーっと伸びをする。仕草だけ見れば、ただの少年の背伸び。

 

それから三人が消えた方角に体を向けて、一歩を踏み出した。

 

春の風が蜂蜜色の髪をさらりと攫う。

少年は鼻歌を歌い始めた。聞いたこともない旋律。この大陸のどんな楽師も知らない……遥か遠い異世界の、遥か昔に流行った歌。

 

「ふんふふん♪」

 

唇が誰に聞かせるでもなく、言葉を紡いだ。

 

「やっぱフリーレンちゃん可愛いわ。ぺったんこも最高♡次こそぶっ殺して、あの更地に腰ヘコヘコするからね♡ 待ってろよ千年の平原!♡」

 

太陽が西に傾いた街道を、少年はスキップで駆けていった。

 

 

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