光太郎と第31A部隊の面々は、完全に崩れ去った大阪ドームの跡地へと足を踏み入れた。
かつて人々の活気に満ちていた居住区は、無残な瓦礫の山と化している。そしてその惨状の中に、痛ましい遺体がいくつも並べられていた。全員ではないが、光太郎には痛いほど見覚えのある顔があった。
あの絶望的なエネルギー砲の直撃を受けながらも、顔が認識できる程度の損傷で済んでいたのは、せめてもの救いなのかもしれない。
光太郎は、いつも威勢よく笑っていた魚屋の男や、口は悪いが腕は確かだった闇医者の老婆……ドームで共に生きてきた人々の冷たくなった躯を見つめ、静かに膝をついた。
「……」
「光太郎さん……」
タマが悲痛な声を漏らし、駆け寄ろうとするのを、ユキが静かに腕を掴んで制止する。
「國見……今は、そっとしておいてやろう……」
「ここの人たちは……何十年も、この狭いドームの中で生きてきた」
光太郎の絞り出すような声が、夜風に消え入りそうに震えていた。
「限られた物資の中で、なんとか知恵を絞って、この場所を少しでも良くしようとしてきた……。生きていれば大変なことだってたくさんあったはずだ。それでも……みんな、明日への希望を持って生きていたんだ……!」
光太郎の瞳から、堪えきれない大粒の涙が瓦礫へと零れ落ちる。
「突然よそから流れてきた俺にも……嫌な顔ひとつせず、良くしてくれた……。本当に、いい人たちばかりだったんだ……。彼らの生活は、これからだったんだ……!」
強く握りしめた拳から血が滲む。
「なのに……こんなにあっさりと……全部が壊されてしまった……ッ!」
痛切な光太郎の叫びに、31Aの6人も胸を締め付けられるような悲しみを覚えていた。
(習志野ドームの人たちも、必死に生きていたから……おっちゃんの気持ち、痛いほどよう分かるわ)
逢川めぐみは、唇を強く噛み締めた。大阪ドームは、セラフ基地や他のドームとの交流も絶たれた陸の孤島だった。もし、自分の愛する家族――ルミや、実の母親が同じような目に遭っていたらと想像するだけで、足がすくむ思いだった。
「……おっちゃん」
めぐみは一歩前へ出て、光太郎の背中に向かって静かに語りかけ始めた。
「うちもな……自分が『ヒトナービィ』やと分かった時、自暴自棄になって部隊から逃げ出して、習志野ドームに身を隠したことがあるんや」
光太郎が、僅かに肩を震わせる。
「そこには、うちがナービィになる前に絶縁した本物のおかんと、ルミっちゅうおかんが引き取っとった子がおった。……奇跡的に会えたんや。おかんは認知症になりかけで、だいぶ歳とっとったけど、それでも……間違いなくうちのおかんやった」
めぐみの声にも、確かな涙の震えが混じっていた。
「けどある日、そのドームにキャンサーが襲ってきた。……なんとかその時はうちが倒せたけど、この世界じゃ、いつ何があってもおかしくない。それを、身をもって知ったんや」
めぐみは涙を拭い、真っ直ぐな瞳で光太郎を見つめた。
「おっちゃんは、大切なもんを何回も失って……それでも、そうやって立ち上がり続けてきたんやろ。うちみたいなガキがこんなこと言うのは、おかしい話かもしれんけど……」
めぐみは、拳を握りしめて光太郎に嘆願する。
「やっぱり、うちらと一緒に戦ってくれへんか? うちも、大事なもん、どうしても守りたいねん。……うちらの救世主に、一緒になってくれへんか?」
「めぐみん……」
「めぐみさん……」
ルカとタマが、その優しくも強い言葉に涙ぐむ。
光太郎は、静かに涙を流しながら、空を仰いだ。
「……そうだな。まだ、葵は生きている」
瓦礫の下から彼女が軽傷で見つかったということは、きっとドームの人々が、最後の瞬間に身を挺してあの幼い命を守ってくれたに違いない。彼らの生きた証は、決して無駄にはなっていないのだ。
「俺も……もう一度、守りたい」
光太郎はゆっくりと立ち上がり、その瞳に力強い光を宿した。
「信彦が本当にやりたかったことを……あいつの分まで、俺がちゃんとやり遂げないといけない」
「光太郎さん……」
可憐が安堵の笑みを浮かべる。
「こんな時に申し訳ないのだけど、そろそろお迎えの輸送ヘリが到着するわ」
つかさが、端末の接近アラートを確認しながら静かに告げた。上空から、ヘリのプロペラ音が徐々に近づいてくる。
「ああ……」
光太郎は、亡き友たちに向かって深く、深く一礼した。
「最低限、見送ることはできた。……行こうか」