ブラックバーンズレッド   作:Kankan3

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9話

 

 光太郎と第31A部隊の面々は、完全に崩れ去った大阪ドームの跡地へと足を踏み入れた。

 

 かつて人々の活気に満ちていた居住区は、無残な瓦礫の山と化している。そしてその惨状の中に、痛ましい遺体がいくつも並べられていた。全員ではないが、光太郎には痛いほど見覚えのある顔があった。

 

 あの絶望的なエネルギー砲の直撃を受けながらも、顔が認識できる程度の損傷で済んでいたのは、せめてもの救いなのかもしれない。

 

 光太郎は、いつも威勢よく笑っていた魚屋の男や、口は悪いが腕は確かだった闇医者の老婆……ドームで共に生きてきた人々の冷たくなった躯を見つめ、静かに膝をついた。

 

「……」

「光太郎さん……」

 タマが悲痛な声を漏らし、駆け寄ろうとするのを、ユキが静かに腕を掴んで制止する。

「國見……今は、そっとしておいてやろう……」

 

「ここの人たちは……何十年も、この狭いドームの中で生きてきた」

 光太郎の絞り出すような声が、夜風に消え入りそうに震えていた。

 

「限られた物資の中で、なんとか知恵を絞って、この場所を少しでも良くしようとしてきた……。生きていれば大変なことだってたくさんあったはずだ。それでも……みんな、明日への希望を持って生きていたんだ……!」

 光太郎の瞳から、堪えきれない大粒の涙が瓦礫へと零れ落ちる。

 

「突然よそから流れてきた俺にも……嫌な顔ひとつせず、良くしてくれた……。本当に、いい人たちばかりだったんだ……。彼らの生活は、これからだったんだ……!」

 

 強く握りしめた拳から血が滲む。

「なのに……こんなにあっさりと……全部が壊されてしまった……ッ!」

 痛切な光太郎の叫びに、31Aの6人も胸を締め付けられるような悲しみを覚えていた。

 

(習志野ドームの人たちも、必死に生きていたから……おっちゃんの気持ち、痛いほどよう分かるわ)

 逢川めぐみは、唇を強く噛み締めた。大阪ドームは、セラフ基地や他のドームとの交流も絶たれた陸の孤島だった。もし、自分の愛する家族――ルミや、実の母親が同じような目に遭っていたらと想像するだけで、足がすくむ思いだった。

 

「……おっちゃん」

 めぐみは一歩前へ出て、光太郎の背中に向かって静かに語りかけ始めた。

「うちもな……自分が『ヒトナービィ』やと分かった時、自暴自棄になって部隊から逃げ出して、習志野ドームに身を隠したことがあるんや」

 

 光太郎が、僅かに肩を震わせる。

「そこには、うちがナービィになる前に絶縁した本物のおかんと、ルミっちゅうおかんが引き取っとった子がおった。……奇跡的に会えたんや。おかんは認知症になりかけで、だいぶ歳とっとったけど、それでも……間違いなくうちのおかんやった」

 めぐみの声にも、確かな涙の震えが混じっていた。

「けどある日、そのドームにキャンサーが襲ってきた。……なんとかその時はうちが倒せたけど、この世界じゃ、いつ何があってもおかしくない。それを、身をもって知ったんや」

 めぐみは涙を拭い、真っ直ぐな瞳で光太郎を見つめた。

「おっちゃんは、大切なもんを何回も失って……それでも、そうやって立ち上がり続けてきたんやろ。うちみたいなガキがこんなこと言うのは、おかしい話かもしれんけど……」

 

 めぐみは、拳を握りしめて光太郎に嘆願する。

「やっぱり、うちらと一緒に戦ってくれへんか? うちも、大事なもん、どうしても守りたいねん。……うちらの救世主に、一緒になってくれへんか?」

「めぐみん……」

「めぐみさん……」

 ルカとタマが、その優しくも強い言葉に涙ぐむ。

 

 光太郎は、静かに涙を流しながら、空を仰いだ。

「……そうだな。まだ、葵は生きている」

 瓦礫の下から彼女が軽傷で見つかったということは、きっとドームの人々が、最後の瞬間に身を挺してあの幼い命を守ってくれたに違いない。彼らの生きた証は、決して無駄にはなっていないのだ。

 

「俺も……もう一度、守りたい」

 光太郎はゆっくりと立ち上がり、その瞳に力強い光を宿した。

「信彦が本当にやりたかったことを……あいつの分まで、俺がちゃんとやり遂げないといけない」

「光太郎さん……」

 可憐が安堵の笑みを浮かべる。

 

「こんな時に申し訳ないのだけど、そろそろお迎えの輸送ヘリが到着するわ」

 つかさが、端末の接近アラートを確認しながら静かに告げた。上空から、ヘリのプロペラ音が徐々に近づいてくる。

「ああ……」

 光太郎は、亡き友たちに向かって深く、深く一礼した。

「最低限、見送ることはできた。……行こうか」

 

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