「……そうして俺は、信彦を倒した」
語り終えた光太郎の低く掠れた声が、静寂に包まれた廃墟へと溶けていく。
凄惨な親友同士の殺し合い。あまりにも重く、救いのない過去の真実を突きつけられ、第31A部隊の6人は言葉を失い、悲痛な表情を浮かべていた。
タマと可憐に至っては、込み上げる感情を抑えきれず、ポロポロと大粒の涙をこぼしながらその悲劇を真っ直ぐに受け止めている。
「そんなの……あまりにも、残酷すぎます……っ!」
「……でも、これが……光太郎さんがずっと一人で背負ってきたもの……」
涙を拭う二人を見て、ルカは痛ましそうに顔を歪め、深く頭を下げた。
「……ごめん。思い出したくないことを、無理に言わせちゃって」
「気にするな」
光太郎は小さく首を横に振った。
「この狂った時代、苦痛や喪失を背負いながら誰もが生きている。……お前たちだって、同じだろう」
その言葉に、つかさは己の過去――そして「ナービィ」としての真実を重ねたのか、静かに伏し目がちに黙り込んだ。
「……あの後。俺はしばらくして、北海道に現れたマザーキャンサーと戦った。そして……死闘の末に意識を失い、気づいた時には北海道から海に流され、この大阪湾へと流れ着いていたんだ」
「北海道のマザーキャンサー……! それって、随分前に何者かによって倒されたって、記録で聞いたことがある」
ユキが驚いたように顔を上げる。
「ああ。大阪に着いた後、色々と調べた結果、どうやら俺はあのマザーキャンサーを倒したらしい。だが……作戦に投入された当時のセラフ部隊は全滅し、俺たちに関する記録はすべて意図的に抹消されていたことが分かった。そして案の定、イージスタワーの一件以来、上層部はドームの人間と前線のセラフ部隊を見捨て、南極のシェルターに身を隠しながら密かに戦況を監視するだけの存在になっていた」
「だから……自分が生きていることに気づいた軍の上層部が、私たちを使って暗殺しに来たと懸念していたのね」
つかさが、すべての点と点を繋ぎ合わせるように呟く。
「せやけど……おっちゃん、さっきの戦いぶりを見てもめっちゃ強いやろ?」
めぐみが身を乗り出した。それに続くように、ルカが希望の光を見出したような真っ直ぐな瞳で提案する。
「ねえ、もしよかったら……私たちと一緒に戦わない? 今の私たちの司令である手塚司令官になら、きっと事情を話せば理解してくれるよ!」
「……それはできない」
光太郎の答えは、静かだが、決して揺るがないものだった。
「俺は、大阪に流れ着いた当初、片足をひどく損傷していた。この足も、日常を送れる程度に治るまで相当な時間がかかった。……その上、今でもたまに酷く痛むことがある」
光太郎は、自身の右足をそっと撫でる。
「それに、お前たちがさっき見た俺の姿は『不完全体』だ。満身創痍の今の俺にはもう、マザーキャンサーどころか、ハブキャンサーを単独で倒し切る力が残っているかも怪しい」
「……まあ、仮に全盛期の力が残っていたとしてもさ」
ユキがため息混じりに、ルカの肩にポンと手を置いた。
「さっきの軍の上層部の胸糞悪い話を聞いてれば、今さら『事情を話すから私たちの仲間になって、軍に戻ってくれ』って言われても、あんたからすれば無理があるよな」
「すまないな……。それに、俺には大阪ドームで生きる人たちがいる。今はただ、彼らの平穏を守りたいんだ」
光太郎の横顔には、かつて世界を救おうとしたヒーローの顔ではなく、ただ目の前の命を慈しむ、一人の男としての優しさが浮かんでいた。
「わかったわ」
つかさが静かに頷く。
「でも、わたしたちはしばらくこの周辺で哨戒任務を続けているから。もし気が変わったり、何か助けが必要になったりしたら……いつでも声をかけて」
「ああ、わかった。……お前たちの武運を祈る」
そう言い残すと、光太郎は愛車である黒いバイクに跨り、轟音と共に崩壊した街の奥へと走り去っていった。
◆ ◆ ◆
バイクを走らせながら、光太郎はポケットの中に密かに忍ばせていた『ある物』にそっと触れた。
それは、25年前に親友が自らの命と引き換えに遺した、緑色に輝くキングストーンの欠片。
冷たい石の感触が、かつての日の約束を鮮明に蘇らせる。
(……信彦)
ヘルメットの中で、光太郎は前を見据えたまま、ただ静かに親友の名を呼んだ。