ブラックバーンズレッド   作:Kankan3

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8話

 

 夜の闇を切り裂いた極太の閃光は、無慈悲にも遠く離れた大阪ドームへと吸い込まれていった。

 

 一拍遅れて、山頂からでも目視できるほどの巨大な爆炎が、大阪の空を赤く染め上げる。

 

「そ……そんな……こんなこと……」

 タマが、その場にへたり込みながら震える声を漏らす。

「うそやろ……?」

 めぐみもまた、信じられないものを見るように目を見開いた。

 

「31D! ドームの状況は!!」

 ルカが血相を変え、インカムに向かって怒鳴るように通信を入れる。

 ノイズ混じりの通信の向こうから、第31D部隊の部隊長・二階堂三郷の悲痛な声が響いた。

 

『……今、大阪ドームにエネルギー砲のようなものが直撃した。防壁は完全に消滅し……ドームの中は、もう……』

 その報告は、あまりにも残酷な「全滅」の宣告だった。

「そんな……クッソぉぉぉぉッ!!」

 ルカが大地を力強く殴りつけ、悔し涙を流す。

 

「なんで……! 光太郎さんが大切にしているものを……どうして……っ」

 可憐が両手で顔を覆い、嗚咽を漏らした。

 

「ギョアァァァァァァァッ!!」

 ククリノスが、自らの破壊の成果を誇示するように、耳をつんざくような歓喜の雄叫びを上げる。

「クソっ……! ルカ、この状況はまずい……! これ以上の戦闘は全滅を招く、一度撤退を……」

 ユキが部隊の生存を最優先し、苦渋の決断を下そうとした――その時だった。

 

「…………」

 爆炎と土煙に塗れた地面から、南光太郎がふらつきながらも静かに立ち上がった。

 その顔は俯いており、表情は読み取れない。しかし、彼の全身からは、先ほどまでの疲労とは質の違う、底冷えするような異常な空気が放たれていた。

 

「おっちゃん! 一旦撤収や! 体勢を整えんとあかん!」

 めぐみが声を張るが、光太郎は無言のまま動かない。

「光太郎さん……?」

 タマが不安げに彼の背中を見つめる。

 光太郎は血塗れの足を引きずり、ゆっくりと、巨大なククリノスの前へと歩み出た。

「おい! 死ぬぞ!!」

 ユキが引き止めようと手を伸ばす。

 

「……ユキ。こいつは、俺がやる」

 振り返らずに発せられた光太郎の声は、恐ろしいほどに静かで、そして重かった。

「自暴自棄になって突っ込んでも、犬死にするだけよ……!」

 つかさが理詰めで制止しようとするが、光太郎はその言葉を怒声で叩き斬った。

「いいから、どけ!!」

 

 その一喝に、歴戦のセラフ部隊である31Aの面々が、本能的な恐怖で言葉を失い、思わず後退る。

 光太郎は、眼前にそびえ立つククリノスを真っ直ぐに直視した。

 脳裏に浮かぶのは、ドームで力強く生きていた人々の笑顔。魚屋の陽気な声、闇医者の老婆の呆れ顔、そして……助け出したばかりの、幼い葵の笑顔。

 

「よくも……俺の、守るべき人々を……!!」

 光太郎の全身の筋肉が異様に膨れ上がり、傷口から凄まじい高熱の白煙が噴き出す。

 瞳の奥に、かつてないほどの激しい憎悪と悲しみの炎が宿った。

 

「ゆ”る”さ”ん”ッ!!!!」

 

 血を吐くような、いや、魂そのものを削り出すような怒りの絶叫。

 光太郎は、両腕の拳を激しく右側へと振って、硬く握りしめた。

 

「何を……するつもりなんだ……?」

 ルカが息を呑んでその背中を見つめる。

「ぐうぅぅぅぅ……ッ!!」

 ギリギリ、ググググ……!!

 光太郎の肉体と細胞が極限まで軋み、組み替わっていく異様な音が、夜の山頂に不気味に響き渡り始めた。

 

「まさか……」

 つかさの目が、信じられないものを見るように見開かれる。

 

 光太郎は、左腕を反時計回りに円を描くように旋回させ、右腕とともに右斜め上へと力強く振り上げた。

 かつて親友と命を懸けてぶつかり合った、あの日と同じように。

 

「変……身……!!」

 

 キュイィィィンッ!!

 腹部に顕現した生体ベルトの中心――キングストーンが、夜の闇を焼き尽くすほどの赫(あか)い閃光を放つ。

 

 激しいオーラが吹き荒れ、光太郎の肉体は一度先ほどの『黒殿様飛蝗怪人』へと変貌し――そこからさらに、全身を覆う漆黒の装甲がより強固に、より洗練された形状へと瞬時に再構築されていく。

 

「さらに……変身した……!」

 可憐が、その圧倒的な進化の過程を前にしてへたり込む。

 立ち込めていた高熱の煙が、夜風に吹かれてゆっくりと晴れ渡っていく。

 

 そこに立っていたのは、禍々しい怪人の姿ではない。

 赫く鋭く輝く複眼と、脈動する赤いベルトのコア。闇よりも深い漆黒の装甲に身を包んだ、研ぎ澄まされた一つの『完全なる戦士』の姿だった。

 

「はぁぁぁ……っ」

 その口元から、静かな、しかし確かな怒りを孕んだ白い呼気が吐き出される。

 そのあまりにも神々しく、そして恐ろしい立ち姿に、ユキとつかさは無意識のうちに、かつて軍の記録の片隅に記されていた「伝説の名」を口にしていた。

 

「あれが……仮面ライダー……」

 

「BLACK SUN……」

 

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