薄い本ルートを全力で回避したいTS転生魔法少女   作:ブナハブ

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魔法少女ピュアステラの敗北 〜敗けた彼女は触手の餌食に……〜

 魔獣。それはこの世界の裏側に潜み、陰から人々を襲う悪しき怪物。

 

「【シュルルル……】」

 

 その存在は表社会で認知されておらず、人々は何も知らないまま、自分たちの暮らしを脅かされんとしていた。

 

「───見つけたわよ、魔獣!」

 

 しかし、世の中にはそんな魔獣たちを屠る者が居た。

 魔法少女ピュアステラ。水色の長い髪にフリルたっぷりのファンシーなワンピース、そして星のように輝く瞳が印象的な女の子……否、正義のヒロインである。

 

「この辺りで目撃されている一つ目の怪物……あなたがそうなのね!」

「【ギョロギョロ】」

 

 裏路地の先にある廃れた空き地、そこに訪れたピュアステラはズビシと指差す。その先に居るのは、無数の触手で覆われた巨大な目玉だった。

 

「……」

 

 この世のものとは思えない異形を前にしても、ピュアステラは動揺しなかった。眉一つ動かさず、努めて警戒を維持している。

 

「アワワワ……!」

 

 ただ、彼女の隣に居る相方は別だった。

 

「ま、不味いキラよピュアステラ。この魔獣、キラたちが今まで戦ってきた魔獣の中でも一番強いキラ!」

 

 フワフワと浮かぶぬいぐるみのような狐っぽいナニカ。彼の名前はラッキー、ピュアステラを魔法少女にした妖精である。

 

「うん、分かってる。まさかこんなに強い魔獣とは思わなかったけど……逃げるわけにはいかない!」

「【シュルルル!】」

 

 ピュアステラの敵意を感じ取ってか、魔獣は触手を激しく蠢かして巨大な目玉で彼女を凝視した。

 

(来る……!)

 

 ピュアステラが予感した時にはもう、魔獣は既に彼女目掛けて触手を鞭のように振るっていた。

 

「……ッ!」

 

 ピュアステラは急いで腰に添えたポシェットに手を突っ込み、小さな星を数個取り出す。

 

「【スターミサイル】!」

 

 取り出した星をピュアステラが投げると、それらはサイズを一回り大きくさせ、回転しながら向かってくる触手に突撃した。

 

 ボボボォーン!!!

 

 ぶつかった星々は爆発し、触手は見事に粉々となった。

 

「【シュルルル】」

 

 しかし、魔獣の攻撃はこれだけで終わらない。続けて二つ、三つと全身から触手を飛び出させて、鞭のように操る。

 

「っ、【スターミサイル】!」

 

 ピュアステラも負けじとポシェットから星型弾を取り出し、向かってくる触手に投げ付けて相殺する。

 

「【スターミサイル】! 【スターミサイル】!」

「【シュルシュル、シュルシュル】」

 

 両者譲らない星型弾と触手の攻防。

 

「【スター───きゃあ!?」

 

 しかし手数は無数の触手を操る魔獣が圧倒的に上で、ピュアステラは横から来た触手に体を打たれる。手に持っていた星型弾は、上空にばら撒かれる。

 

「ピュアステラ!」

「や、やられちゃった……けど」

 

───ボボボォーン!!!

 

「【ギョロロ!?】」

「お返しだよ!」

 

 空から数個の星型弾が降り注ぎ、ピュアステラに意識を向けていた魔獣はあえなく直撃する。

 突如上から降ってきた星型弾、それは先ほどピュアステラが触手攻撃に被弾した際に放り投げていた物である。

 

「ふふんっ、スターミサイルは必中の魔法、逃れることは出来ないわ!」

 

 ピュアステラは得意げに言ってみせる。実際、スターミサイルの爆破を受けた魔獣は怯み、攻撃の手を止めた。そしてその隙を彼女は決して見逃さない。

 ピュアステラはポシェットに手を入れて、ひし形が連なった鎖を取り出す。

 

「【バンドチェイン】」

 

 鎖はひとりでに動き始めて、魔獣の全身に巻きつく。

 

「【ギョ、ギョロロ】」

 

 鎖で魔獣を拘束したピュアステラは、続けてポシェットから拳ほどのサイズの星を取り出す。

 

「これでトドメよ」

 

 取り出した星を両手で持ち、魔獣に向ける。すると星が光り始めて、徐々に輝きを強くする。

 

「【ステラカノン】!」

 

 輝きが周囲を埋め尽くそうとした時、巨大な青白いレーザーが魔獣目掛けて放たれた。

 

「【ギョロ───】」

 

 鎖で動けない魔獣は、なす術なくレーザー光線を全身に浴びる。

 

「これで……!」

 

 その光景を見てピュアステラは勝利を確信する。……しかし、

 

「【───ギョロギョロ】」

「そ、そんな」

 

 魔獣は倒れなかった。確かに今の大技で重傷は与えられたが、致命傷には至っていない。

 

「【シュルルル】」

「きゃあ!」

 

 大技の直後で上手く動けなかったピュアステラは、魔獣の触手攻撃をモロに受けて地面に倒れる。

 

「う、うぅぅ」

 

 当たりどころが悪かったのか、ピュアステラは呻き声を上げるだけで、起き上がらない。

 

「あ、あわあわあわ!」

 

 一向に起き上がらないピュアステラに、ラッキーは分かりやすく慌てふためく。

 

「【……】」

 

 それに対して魔獣は、倒れたピュアステラをジッーと見つめていた。

 

「……」

 

 起き上がらない。死んではいない。気絶したのだろうか? そんな思考を魔獣が持ち合わせているか定かではないが、全く動かない彼女を見て、魔獣は遂に動きを見せた。

 

「【……グパァ】」

 

 魔獣は、その大きな目玉を縦にザックリと裂ける。

 

───シュルシュルシュルシュル

 

 裂けた目玉の中には、無数の触手が蠢いていた。

 

「【シュルシュルシュル】」

 

 魔獣の体内に潜んでいた触手は、ゆっくり外に出てきてピュアステラに迫る。その表面は粘液に塗れて、テラテラとぬめり輝いていた。

 

「ピュ、ピュアステラ! 早く起きるんだキラ! で、でないと」

「……」

 

 ラッキーの呼び掛けに彼女は応えない。そうしてる間にも触手は迫ってきて、とうとう彼女の柔肌に触れようと……

 

「……【スターミサイル】」

 

 しようとした直後、ピュアステラはポツリと言葉を溢し、手に隠し持って星型弾を倒れた状態のまま投げた。

 

 チュドォーン!

 

「【ギョロギョロォォ!!?】」

 

 投げられた星型弾は、先ほど魔獣が開けた体内に直撃。魔獣は今まで以上に悶え苦しむ。

 慌てて目玉の口を閉じようとするが、それよりも先にピュアステラが動いた。

 彼女は立ち上がりざまに、ポシェットからハートのステッキを取り出す。

 

「【ピュアリティソード】」

 

 ブォンッ

 

 そのステッキの先端、ハートの部分から光る刃が顕現する。

 光る剣片手に彼女は魔獣へ肉薄し、

 

「オラァ!」

 

 触手が蠢く魔獣の体内に、自身の剣を突っ込んだ。

 

「【〜〜〜!?】」

 

 スターミサイル以上の火力を誇るピュアリティソード。それが己の体内を蹂躙し、焼き切る状況に魔獣は声にならない悲鳴を上げた。

 

「やっぱりか! やっぱりテメェも()()()()()()()か!」

 

 一方その頃、ピュアステラはついさっきまで同じ人物とは思えないほど粗雑な口調で、自身の激しい怒りを魔獣にぶつけていた。

 

「お前その体の中で()をどうするつもりだった!? 絶対アレじゃん、●●や●●●に触手を挿入()れるつもりだったろ! お●●●しゃぶり尽くす気だったろ!」

「【ギョ、ギョロロォ……】」

 

 少女が口に出すには生々しすぎるFワードの数々、この魔獣が人間の言葉を理解しているのか不明だが、彼女の気迫に魔獣は萎縮していた。

 

「つーかこの粘液、媚薬成分入ってねえか?! お前アレか? アレなのか? 発情した俺に自ら股を開かせる気だったのか???」

 

 そう呟くピュアステラの体は、プルプルと震えていた。それは恐怖から来るものでは全く無く、

 

「ふっっっざけんなァ!!!」

 

 純粋な怒りのみが込められていた。

 

「【ギョ、ギョロギョロォ!?】」

 

 溢れ出る怒りで更にヒートアップしたピュアステラの猛攻により、魔獣は遂に倒れて肉体を塵と化した。

 

「はあ、はあ、はあ」

「お、お疲れ様だキラ」

「はあ、はあ……ああ、ラッキー、もう近くに魔獣は居ないか?」

「うん、大丈夫だキラ。この辺りにはもう、魔獣の気配は存在しないキラ」

「そうか……」

 

 ラッキーの言葉を聞いたピュアステラは、胸元に手を置く。すると彼女の体は一瞬強い光に包まれて、それはすぐに弾けた。

 

「───はあ〜〜〜、ツカレタ」

 

 深々と、それはそれは大きなため息を吐く彼女の姿は、先ほどと大きく変わっていた。

 派手なワンピースはただの制服となり、茶髪に黒目、ショートのツインテールがチャームポイントなだけの、普通の女の子と化していた。

 

……改めて、彼女の自己紹介をしよう。

 

 彼女の名前は愛星(あいぼし)レナ、魔獣と戦う魔法少女ピュアステラの変身者にして、男だった頃の前世の記憶を持つ転生者だ。

 

「ねえピュアステラ、いつも言ってるけどその口調どうにか出来ないキラ?」

 

 事情を知るラッキーは彼女の豹変に驚かず、軽く注意するだけに留めた。

 

「いや、俺だって努力してるよ? けど今回は命の……もとい貞操の危機だったんだから、どうしても()が出るんだよ」

「ま、まあ確かに……気絶しちゃった時は本当に死んじゃうかと思ったキラ」

「ああいや、アレは気絶した()()だ」

「へ? ふ、ふり?」

 

 レナの発言に、ラッキーは驚きを隠せない。その反応を見たレナは、「ああ」と言って近くにあった自販機で水を買いながら語り始める。

 

「確かにさっきの触手攻撃はヤバかったが、やられるほどじゃない。けどもしアイツが俺のことを●●する気なら、殺さず生け捕りにすると思ったんだ」

 

 彼女は買った水で一度喉を潤した後、続ける。

 

「……ぷはぁ、だから一度気絶したフリをして、俺を捕まえようとした瞬間に返り討ちにしょうと思ったんだ」

「そ、そんな作戦を……で、でも! もしキミの予想と違ってたら、どうする気だったんだキラ?」

 

 もし、魔獣がまっとうに殺しに掛かるタイプの敵だったら。気絶したフリなんていう大きな隙を晒した彼女は、あの瞬間に殺されていただろう。

 

「……ラッキー」

 

 それならどうしていたのか? その問いに彼女は、澄んだ瞳で迷いなく答えた。

 

「薄い本ルートにならないなら、その時は潔く死ぬよ」

「え、えぇ……」

 

 ラッキーはドン引きだった。

 

「あ、けど死●される可能性もあるよな。生きたままされるよりかはマシだが、体をいいように使われるってのはそれはそれで腹立つな」

「えぇぇぇ……」

 

 ラッキーは再びドン引きした。

 

「どーして次から次へとそんな発想が出来るキラ?」

「……っ、お前なぁ!」

 

 そして思わず零れ出たラッキーの発言は、意図せずレナの逆鱗に触れた。

 

「俺が好きでこんなアホみたいなこと考えてると思ってんのか!」

「ちょ、頭! 頭掴まないで欲しいキラ!」

「俺だってこんな男子中学生の妄想みたいな考え事したくねえよ! けど、けどなあ……!」

 

 彼女はラッキーにアイアンクローを決めながら不平不満を……この世界に蔓延る圧倒的不条理を一言にまとめてぶちまける。

 

「───この世界は短編エロ同人誌の世界なんだよ!」

 

……短編エロ同人誌、世の紳士達が己の性欲をお手軽発散する為に使用する漫画本のこと。薄い本とも言う。

 

「またそんな訳の分からないことを……キミが別世界から来たことは知ってるけど、ここがそんなふざけた世界なわけないキラ」

「お前の語尾ほどふざけてるとは思わねえよ! じゃあさっきのはどう説明するんだ。明らかに俺のこと●●けして●ませて子孫繫栄を目論んでただろ!」

「確かにそういう手合いも魔獣が存在するのは確かだけど、あんなのは極少数にすぎないキラ」

「この無能淫獣が!」

「いきなり酷くないキラ!?」

 

……なぜ彼女がこんなにもこの世界をR-18認定したがるのか? これまでの経験の積み重ねとしか言いようが無いが、強いて言うなら初めて魔法少女になって戦った魔獣が服だけを溶かすスライムだったからだろうか。

 

(まさか転生した世界がこんなクソ碌でもねえ所だとは夢にも思わなかったが、俺は諦めない!)

 

 そんなこんなレナは、心の中で固く誓う。

 

(ぜっっったい薄い本ルートになんて行かせねえ!)

 

 これは、世界のルール(エロ展開)に全力で抗うTS転生者のお話。

 

(俺はこのまま健全に戦って、定年退職してやるんだ!)

 

 彼、或いは彼女が己の貞操を守る物語だ。




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