薄い本ルートを全力で回避したいTS転生魔法少女 作:ブナハブ
魔獣の脅威から人々を守る魔法少女ピュアステラ。その変身者である
「今日は楽しかったねー」
「ええ、とても良い一日でしたわ」
平日は学校に通うし、休日もご覧の通り友達と一緒に遊んでいる。
友達の名前は
隣町まで遊びに行っていた二人は、帰りの電車に乗ろうとしていた。
「また一緒に……わっ」
しかしいざ電車に乗ろうとした時、レナは電車内の人の数に思わず驚く。
「うひゃー、人でいっぱいだ」
「わぁ、あまり電車に乗ったことありませんでしたが、こんなに人が居るものなんですわね」
「いやー、多分今が夕方だからじゃないかな? 仕方ないけど、我慢して乗ろっか」
「ええ、そうですわね」
レナは渋々と、リコはとくに気にせず電車に乗り込む。
「ぶつからないように気を付けてね」
「はい」
「あ、あと、カバン失くさないように注意すること」
「分かりましたわ。落とさないようにしっかり持っておきます」
「いや、盗られないようにって意味で言ったんだけど……」
座れる場所が見つからない為、レナとリコは立って乗ることにした。
少しして電車が発車する。その間も二人は仲良く会話を楽しんでいた。
「それでこの前ね───」
「まあ、そんなことが」
「……」
その二人の背後に、不審な男が一人立っていた。
「……フヒッ」
男は気味の悪い笑みを浮かべながら、レナとリコのとある部位に目を向ける。
「……」
ゆっくりと、男は降ろしていた手を前に伸ばす。
その先に居るのはリコ。そして男が手を伸ばした先にあるのは、リコの下半身……スカート越しにほんのりと浮き出ている彼女のソレに
───おい
触れようとした時、男は自身の腕をガシッと掴まれる。
「……!?」
不味い。バレた。しくじった。捕まりたくない。様々な考えが男の頭の中に浮かぶが、自身の手を掴んだ張本人の顔を見た瞬間、それらは思考の外側へと消え去る。
「ーーー」
「ひっ……!」
そこには般若が居た。さっきまでリコと話していた可愛らしい少女とは思えないほど、怒りに満ちた壮絶な表情を浮かべていた。
「ーーー」
(な、なんだ?)
男は
───こ
───ろ
───す
───ぞ
「ひ、ひぃー!」
電車の中であることも忘れて、男は悲鳴を上げる。
『ドアが開きまーす』
「ひぃやぁ~!?」
そして電車の扉が開くや否や、男は人混みをかき分けて一目散に外へ出た。
『無理な乗り降りはおやめくださーい』
「まあ、いったいどうしたのでしょうか?」
「……はあ~」
「レナさん?」
起こった出来事を何も知らないリコに、レナは呆れ気味にため息をこぼした。
「リコちゃん、さっきあの男に痴漢されかけたんだよ?」
「置換?」
「痴漢! 人混みに紛れてこっそりお尻触ってきたりとか、そういう辱めをしてくることだよ」
「……!? そ、そんな破廉恥な行為を、わ、わたくしに……?」
レナの説明に、リコは頬をカァーっと赤らめる。
「もうっ、私が気づかなかったらどうなってたことか」
「……? もしかして、レナさんが先ほどの殿方を追い払って下さったんですの?」
「そうだよ。まったく、いい加減警戒心持ってよね」
「まあ……! ありがとうございますわ、レナさん。やっぱりレナさんは頼りになりますわね」
「……まったくもう」
リコから純度百の尊敬の眼差しを向けられたレナは、怒り辛くなって頬を膨らませるだけに留めた。
「本当に感謝しますわ。きっとわたくし、痴漢をされていたら怖くて声を出せませんでしたわ」
「……ああ、うん」(でしょうね)
リコのその発言に、レナ(素出し)は心の中で静かに同意した。
(それにしても、やっぱり出やがったよ痴漢)
……レナは魔法少女であるという他に、あと二つ他の人とは違う点があった。
(電車内での痴漢は薄い本でも王道中の王道、しかも隣に居るリコは世間知らずなお淑やかお嬢様という痴漢適性の高いキャラ属性持ち。痴漢が
それは男だった頃の前世の記憶を持っているという事。
(けど、だからと言って友達が薄い本ルートに行くのを見過ごすわけにはいかない)
そしてこの世界がエロ漫画だと認知しているという事だ。
レナが前世の記憶を思い出したのは、彼女がはじめて魔法少女に変身した時である。
なぜ前世を思い出したのかは分からない。しかし記憶が蘇った時、レナはもう中学生で、リコという友達も出来ていた。
レナは転生直後、自分は異世界転生したのだという不思議な確信があった。しかしその一方で、レナという人格を男の自分が乗っ取ったのではという嫌な考えもあった。
真相は分からない。けどもしそうだったらという罪悪感に苛まれた彼女は、せめてもの償いとして、前世を思い出す前の
(安心してくれリコ、君の純潔は俺が
「……?」
ただまあ、そんなシリアスな経緯があるものの、端から見れば彼女の誓いは厄介
……レナがアホな誓いを立てた直後、
ふにっ
(あ?)
何者かが、レナのお尻に触れた。
ふにっ、ふにっ
(……オーケーオーケー、こりゃ痴漢で確定だな)
お尻を触られたレナだが、頭の中は冷静そのものだった。
当然だ。彼女が痴漢に遭ったのは、これで
レナも人に言えないぐらい、よく痴漢されていた。しかし彼女は元男。恐怖心に負けることなく、それら全てを撃退してきた熟練の猛者だ。尻に軽く触れられた程度で一々騒ぐはずがない。
(俺のテクでイかしてホテルまで連れてってやるぜとか思ってたかテメェゴラ! お前にはホテルじゃなくて牢屋がお似合いだよ痴漢野郎が!)
……いや、怒りだけはたっぷり持っているらしい。
(さっさとその汚らしい手を)
「───おっと、動くなよ魔法少女」
「……!?」
いつものように痴漢を成敗しようとしたレナだが、背後の痴漢男が放った言葉を聞いて、咄嗟に動きを止める。
(こ、こいつ……!)
「ヒヒヒ、驚いたか? 驚いたか魔法少女よ?」
レナの動揺に気づいたのか、痴漢男が愉快げに笑う。
「……憑依型の魔獣」
「ヒヒ、正解だ」
まるで正解のご褒美とでも言わんばかりに、痴漢男はレナのお尻をギュムっと思いっきりひと揉みする。
「……っ」(UZEEEE!!!)
内心、レナのストレスゲージはもうオーバーフローしそうなほど上がりまくっているが、それでも彼女は迂闊に動けなかった。
憑依型、それは人間に取り憑き悪さをするタイプの魔獣である。
能力は魔獣の中でも最弱だが、妖精の魔獣感知能力でも感知し辛く、群衆に紛れたり、取り憑いた人間を盾にしたりと、とにかく厄介極まりない。
「フヒヒヒ、変身を解く時はもっと注意することだなぁ」
憑依型の魔獣は、妖精の魔獣感知能力に引っ掛かりにくい。いつの時か分からないが、この魔獣はどこかでレナの戦っているところをこっそり見ていたらしい。
「そう、んっ……そういうこと、なのね」(あの無能淫獣あとでシメる!)
それを見逃したラッキーに対して、レナは軽く殺意を覚えた。
「この群衆の中じゃ変身できまい。したとて周りに人が居る中、被害を出さずに俺様を倒せるかな?」
「……なにが目的なの?」
レナの返事を聞いた魔獣は、一層汚らしい笑い声を漏らしながら答える。
「フヒヒヒ! なあに、ちょっとしたゲームに付き合ってくれればいいさ」
「ゲーム?」
「ああ、とても簡単なゲームだよ」
魔獣はクツクツと笑いを零す。簡単と言いながら、その声はレナの敗北を確信しているようだった。
「次の駅に着くまでに、お前が一度も俺様の痴漢でイかなければお前の勝ちだ。」
「なぁっ……!?」
「もしイったら、俺様は駅に降りてそのままおさらばしよう」
「ま、待ちなさいよ……! そんなふざけたゲーム、受けるわけ」
「おいおい、まさかお前に選択肢があるとでも思ったか?」
「……っ」
レナは言い返すことが出来ず、悔しさのあまり歯噛みする。
「……」
「さあ、どうする?」
「…………わ、分かったわ」
「……フヒ」
レナの背後で魔獣は下卑た笑みを浮かべる。これから行われる愉快なショーに思いを馳せているのだ。
もはや敗北は必至。彼女が魔獣の肉欲に蹂躙されるのも時間の問題。
……だが、そうはならなかった。
「うん?」
不意に、魔獣は奇妙な匂いを感じ取った。一体なんだと鼻をスンスンと鳴らしてみれば、自然と匂いの元にたどり着く。
「花?」
魔獣の足元には、いつの間にか一輪の花が咲いていた。
いや、魔獣の足元だけじゃない。花は他にも数ヵ所、壁や地面、網棚と、咲くはずのない場所にその花は咲いていた。
(なんだ? 一体なに……が……ッ!?)
異変はそれだけで終わらない。花の匂いを嗅ぐたび、魔獣は強烈な眠気に襲われた。
「こ、これは……!」
それは魔獣だけでなく周囲の乗客たちも同様で、彼らは既に半数が瞼を閉じて眠っていた。
「なにが、なにが起きて」
「───【安らぎの香り】」
「なぁ……!?」
レナの隣から、そうポツリと呟く声が聞こえた。魔獣は驚きながら声の主を見やる。
そこに居たのは、レナの友人リコに非ず。金髪翠眼、花の咲いた木の杖を持ち、緑色のファンシーな衣装を身に纏う、まごう事なき魔法少女。
魔法少女ノーブルフラワー。ピュアステラと同じ、人々から魔獣を守るヒロインである。
(もう一人の魔法少女だと! だ、だがいつ変身した? この距離で変身に気付かない訳がない!)
魔法少女は変身する時、強い光が放ってかなり目立つ。魔獣の言う通り、この至近距離で普通バレない筈が無かった。
(い、一体なにが起きてるんだ!?)
「【
混乱する魔獣をよそに、ノーブルフラワーは木の杖を一振りする。すると次の瞬間、乗客達の足元に大きな葉っぱを携えた草木が芽吹く。
立ったまま眠り、地面に倒れそうになった乗客達を、芽吹いた草木は大きな葉っぱでクッションのように優しく受け止めた。
「……乗客の皆さんは全員無事ですわ。レナさん、今のうちに」
「うん、ありがとうリコちゃん。あと今はピュアステラって呼んでね」
レナ……いや、ピュアステラは変身する。ピカっと強烈な光が放たれるが、乗客全員眠りに落ちている為、騒ぎにはならない。
「そ、そんなバカな」
「【ピュアリティソード】」
「ひっ」
ピュアステラがポシェットから光剣を取り出したのを見て、魔獣は小さな悲鳴を上げた。
「ま、待て! そんなので俺様を斬ったら、この人間もろとも死んじまうぞ!」
「残念だけど」
ザシュッ!
「……ぁぇ?」
「この剣は、魔獣だけを斬るの」
▼▼▼
「いやー、さっきはありがとねリコちゃん!」(本当は手足の先をみじん切りにしながら痛めつけたかったが、リコの居る前だったからな)
電車内で遭遇した憑依型の魔獣を退治したレナとリコは、駅を降りた帰り道でその時の事について話をした。
「ふふ、お役に立てれてよかったですわ」
「いや本当に助かったよ。私一人じゃどうなってたことか」
あの時、レナは隙を見てリコの体に触れて、彼女に背後の魔獣の存在に気づかせた。その結果、リコのファインプレーで乗客に被害を出さず、なおかつ正体もバレないまま事態を収めることが出来た。
「ですがあの状況を打破できたのは、レナさんのお陰ですわ」
「私の?」
「ええ、以前にレナさんが教えて下さった
静かに変身する方法、それは変身する際に長く、じっくりと時間をかけて姿を変えるよう意識する事である。そうすることで変身時の強い光は現れず、身バレ防止用の認識阻害によって変身中も周りからはアハ体験かのように変化に中々気づかれない。
「あ~……」(そういえばそんなこと教えてたなー)
なぜそんなやり方をレナが知っているのか? それは彼女がその術を編み出した第一人者だからである。
変身ヒロインもので最も警戒すべき事柄は身バレだ。
(身バレしたらそれをネタに脅迫は当たり前、下手したら家族にも手を出されて●●丼にされてしまう)
その対抗策の一つがこの「静かに変身する方法」というわけだった。
「やはりレナさんはとても頼りになりますわ」
「へ?」
リコはガシっとレナの手を両手で握りしめる。
「平時でも魔法少女活動の時にも、いっぱいいっぱい助けられていますし……わたくし、レナさんと出会えてよかったですわ」
「あ、あー……うん、私もリコちゃんと友達になれて嬉しいよ!」(過大評価されてる気もするけど、仲が良いのは悪いことじゃない……よな?)
毎度リコから向けられる尊敬の眼差しがより一層深まった気がして、レナはこの期待にこれから先も応えられるだろうかと若干不安になった。