[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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今日は2回行動します。短めなので


10.5

 駄目だ、それは違う。言ってはいけない。

 

その言葉は“呪い”になってしまう

 

 

 

 

「これは、厳密にいえば領域じゃない」

 

首だけになったまま、俺の方を見つめる月人に向けて語り掛ける。今行ったことで、この空間にはなにも変化は起きていない。

 

当然だ、今構築した結界は、地球を丸ごと囲む結界・・・・・・・・・・になっているはずだから。

 

「これは、ヤチヨをこの世界に定着させるための結界だ」

 

 もちろん、ただ結界を張るだけでは、地球全てを囲むことなんて出来はしない。だが、その為の“慣らし”は、100年ほど続けてきた。

 

 俺の放出した呪力で地球全てを薄く囲むのにそれだけの年月がかかってしまった。

 

「インターネットってのは便利だよな。どこにでもあって、どこにもない」

 

「そのネット上に存在する仮想空間ツクヨミをベースとして領域を構築することで、この地球全てをヤチヨが存在する証明とする」

 

 その為に、この月人にも最後まで付き合ってもらわねばならない。この開示を聞き、ここにヤチヨが存在すると認識した上で月からそれを観測し続けてもらわなければならないのだ。

 

 だが、それだけではもちろん足りない。

 

ここで、虎杖悠仁が結んだ縛りは4つ。

 

 一つ、巨大な結界を構築するために不足していた呪力出力を補うために、今後一切赤血操術の使用を不可能にすること。

 

 これにより、一時的に次元の違う呪力出力を確保、結界の構築に成功する。

 

 そして後の3つは———

 

 

 その男は、分かっていた。この世界には呪霊がいない。それどころか、自分以外に呪力を持つ存在だっていやしない。この世界は、自分の知る呪術廻戦の世界ではないと分かっていた。

 

 分かっていた。自分が虎杖悠仁の皮を被った偽物に過ぎないこと。この世界では異物でしかない自分は、この体にとっても異物であること。自分の存在そのものが、この世界においてはそぐわないものだということを。

 

 ずっと悩んでいた。自分の力は、何のためにあるのか。何のために人よりも強く生まれてきたのか。異物の分際で、自分は何が出来るのか。

 

そして、見つけた。

 

『悠仁!』

 

 自分の、命の意味を。

 

 

 

「俺は、この世界における異物だ。そんな、“存在してはいけないもの”が存在し続けていた、という事実。その証明である俺を捧げることで、因果の修正力に対する対抗とする」

 

 この命一つ捨てることで、君が笑って過ごせる未来を掴むことが出来るのなら、喜んでそれを捨てよう。

 

 大丈夫、君の傍には彩葉がいる。彼女なら君を見つけてくれる。彼女なら、君を笑顔にできる。彼女になら、託せる。

 

 

「そして、“不老”。俺の持つ“老いず、変わらず”の特性を捨てることで、この領域を不変のものとする。構築者の俺がいなくなった後も、残り続けるように」

 

 おかしいと思っていた。自分の身体は、寿命など無いようだった。何年歳を重ねても、全く変わりはしない。若々しいまま。君と生きることが出来るから都合がよかった。

 

君と生きる必要がないのなら、端から必要のないものだ。

 

でも、これのおかげで君を一人にしないで済んだ。

 

「最後に、隕石が地球に迫った時、この結界に使った全呪力、そして結界を維持する不変の特性を捨ててそれを阻止すること」

 

 そのために、御厨子を捧げる。

 

 隕石が来るまで数十年。それだけあれば、ヤチヨの存在は完全に世界に定着し、結界が消えても君の存在が消えることはない。

 

 それならば、もう結界は用済みだ。そのまま維持している意味もない。俺は、俺の存在を全て使って、君たちの未来を守り抜こう。

 

 

「悠仁、ゆうじ、何言ってるの?わかんないよ、全然」

 

「店長、なんですか?冗談でも、ささげるなんて、いわないで」

 

 大丈夫、泣かないで欲しい。君たちの未来は、きっと笑顔で満ちてるから。全部全部、俺が守るから。

 

「彩葉」

 

 こちらに手を伸ばしてかけてくる彩葉を見る。段々自分が消えていくのを感じる。笑顔が魅力的な娘だ。強くて、真っすぐで。ひたむきに努力出来る強さを持っていて。それでいてどこかに消えてしまいそうなほど儚くて。

 

 俺はずっと君に救われてきた。ずっと、君の事を魅力的な女の子だと思っていた。

 

俺は、ずっと

 

 きっと、君に惹かれていた。

 

 彩葉になら、任せられる

 

「あとは、頼んだぞ」

 

 最後に指を振り、見届け役として残っていた月人を両断した。

 

 

店長が消えた。ポリゴンの欠片も残らず、どこかに消えてしまった。私の伸ばした手は届かなくて。そんな、「後は頼む」なんて、言われても。

 

「悠仁、ゆうじ。まって、行かないで」

 

「わたし、悠仁のいない世界なんて知らないよ?ゆうじ、一緒に生きてくれるって」

 

「ねぇ、ゆうじ。嘘なんだよね。どこかにいるんだよね、全部嘘で、明日からもずっと、ずっと、一緒に居るって」

 

「へんじしてよ、ゆうじ。どこにいるの?」

 

「うそだよね、ゆうじ。なんで私じゃないの?なんで、なんで…」

 

 ヤチヨが、あのヤチヨが泣いている。何時だってニコニコ笑ってて、誰よりも魅力的で、世界中を虜にしているヤチヨが。感情を露にして、誰かの名前を呼んでいる。

 

私は店長の言っていたことが分からない。何一つ、具体的な内容としては分からなくて。でも、俺を捧げる、何て。それはまるで、生贄ではないか。

 

「店長…?」

 

 あぁ、分からない。分からないよ。でも、私よりもずっと店長の事を知っているはずのヤチヨを見れば、嫌でも分かって。

 

「店長、うそ」

 

「嘘だって、言ってください」

 

「まだ、なにも。言えてないのに。つたえられてないのに」

 

 店長が私たちのために何を捧げたかなんて、明白で。

 

「いやです、店長。わたしは」

 

「また、3人で」

 

 かぐやと、私。あと、店長もいなくちゃ。だめ。

 

「私が、弱いせいで、全部、ぜんぶ」

 

 背負わせてしまった。あの優しい人に。どうして、私の傍にいる優しい人ほどいなくなってしまうんだろうか。私は、また、大切な人を。

 

「待ってください、店長」

 

 最後に交わした言葉がごめんなさい、だなんて。

 

 何でもっと、ちゃんと話さなかったんだろう。何でもっと早く伝えようと思わなかったんだろう。なんで、なんで。

 

「わたし、店長と話したいことが、もっと」

 

 もっと、何でもない話をしたかった。もっと、褒めてほしかった。もっと、色んな所に一緒に行きたかった。来年は、もっと。かぐやと一緒に。

 

 まってください。そんな、店長は、ずっとあそこにいるって。ずっと、楽しそうに子供達と戯れて、燥いで転げまわるかぐやを楽しそうに見つめて、ずっと、私はその隣で笑ってて。

 

 そんな、未来じゃないと。

 

「だめです」

 

 あとからあとから零れ落ちる涙で前が見えなくなる。

 

「だめ、です…」

 

 いつの間にか視界は見覚えのある部屋に戻っていて、涙で零れ落ちたスマコンが床に転がっていた。

 

 

 

 隣には、呆然と宙を見つめるかぐやが立っていて。

 

「かぐや、かぐや」

 

 肩をゆすって名前を呼ぶと、目にはめ込まれたスマコンの輝きが収まり、かぐやの瞳が私の姿を捉える。

 

「彩葉…」

 

 思い出したかのようにその目が見開かれる。配信部屋の隅々を見回して、また私を正面から見て。

 

「彩葉、悠仁は?」

 

 ねぇ、悠仁は、どこに行ったの?なんで急に消えたの?

 

 そう不思議そうに首を傾げ、もう一度私を見る。

 

「彩葉、なんで泣いてるの?…ねぇ、悠仁、大丈夫なんだよね」

 

 きっとかぐやも分かっている。かぐやがいた場所からは聞こえてなくても、店長の言った言葉は聞こえなくても、きっと、ぜんぶ分かってて。

 

「ごめん、かぐや。ごめん…」

 

「3人でって、言ったのに」

 

「ごめん…」

 

 私は、約束の一つすら守ることが出来なかったことを謝ることしかできなくて。

 

「う、そ」

 

「だって、だって悠仁は、強くて、やさしくて」

 

「いつだって、私のわがままに応えてくれて」

 

「いつも、かぐやの事を撫でてくれて」

 

「私を、悠仁の1番にしてくれる、って」

 

 言ったのに、うそつき。許さない。もう一回、私の名前を呼んでくれなきゃ、ゆるさない。そんな、かぐやにとっては今までで一番軽いわがまま。本当だったら、すぐに優しい声で、かぐや、と大切な名前を呼んでもらえるはずだったのに。

 

「ゆうじ」

 

 その声の持ち主は、もうどこにもいなくて。それを本当に分かってしまったのか、かぐやの瞳にみるみるうちに雫が溢れる。

 

「なんで?わたしは、ゆうじ、がいないと」

 

「わたしの、せい?」

 

「わたしが、ライブをやりたいなんて、言ったから」

 

「わたし、が」

 

「っかぐや!」

 

 かぐやの足が震える。立っていられなくなったのか、力なく後ろに倒れこんで、尻もちをついた。私が、私がとうわ言のように繰り返して泣くかぐやに駆け寄って、力いっぱい抱きしめる。

 

「大丈夫、絶対、かぐやの所為じゃない。大丈夫、大丈夫…」

 

「彩葉ぁ、なんで」

 

 責めてくれても、いいのに。そんなことを言うかぐやの声は震えていた。そんなことできない。きっと、これは誰も悪くなくて。だからこそ、誰も責められなくて。

 

 自分のどこかに、間違えたところがあったんじゃないかと探してしまう。

 

 いっそ、誰かがお前の所為だと詰ってくれた方が気が楽だった。

 

 その日は、二人して泣いて、お互いに抱きしめて。お互いがいなくなっていないことを確かめるように並んで眠った。

 

 

 

 

 

 全く眠ることが出来なかった。頭の中はぐるぐると後悔が回って。店長との思い出が浮かんでは消えて。あの時ああすれば良かった。なんでもっと早く話さなかったんだろうという考えばかり。

 

 いつもなら私より早く起きて朝ご飯を作っているかぐやも、泣きつかれて今は布団にくるまっている。

 

「…酷い顔」

 

 目元が赤くなってしまっているかぐやの頭を撫でる。結局かぐやが月に連れて帰られるなんてことはなく、日付を超えることが出来た。

 

 よかった、と思う。店長と同時にかぐやまでいなくなってしまったら、私は平静を保てていたかわからない。

 

「よしっ」

 

 震えそうになる足を奮い立たせる。蹲ってしまいたくなる心を鼓舞する。かぐやは泣いててもいい。私は、私だけは、止まってはいけないんだ。

 

『あとは、頼んだぞ』

 

 私は、託されたんだから。止まってはいけないんだ。

 

「行ってきます」

 

 制服を着て、髪型を整えて、赤くなった目元を隠して。玄関でローファーを履く。行かなきゃ。きっと心配してる芦花と真実と話さないといけない。

 

「彩葉!」

 

「彩葉、大丈夫?」

 

 学校についた途端、芦花と真実が飛びついてきた。二人とも表情は心配一色で、そういえば、私は昨日スマコンが涙で外れて強制ログアウトになったんだったな、と思い出す。

 

「ごめんね、心配かけて」

 

「ううん、彩葉。何があったか私たちには分からないけど、ヤチヨと、彩葉の事を見れば、店長さんに何か良くないことがあったのは分かるよ」

 

「彩葉、無理しないで」

 

 携帯を見て見ると、二人からの着信がたまっているのに今更気が付いた。あの後、様子のおかしくなった私を随分気にしてくれていたらしい。

 

 思えば、いつの間にか二人とも店長と随分仲良くなっていた。二人にもきちんと伝えないといけないだろう。

 

「あのね、二人とも。店長が——」

 

 あれ、おかしいな。それ以降の言葉が出ない。何を言うのかはもう頭の中で決まってるのに、それ以上口が動いてくれない。

 

「てんちょう、が」

 

 あぁ、そうか。私は、まだ。認められてないのか。まだ決定的な一言を言葉にできていないから。この期に及んで、怖がっている。

 

 言葉にしたら、全てが終わってしまいそうで、怖い。

 

「て、てんちょう、が。し、しん、しんで」

 

「彩葉っ!」

 

 大丈夫、大丈夫。言わなくていい。ごめんね、と謝る二人。なんで、二人が謝るの?ダメなのは弱い私。店長に頼まれたのに、一人で立つことすら出来ない私なのに。

 

「ごめん」

 

「ごめん、なさい」

 

 ごめんなさい。弱くてごめんなさい。あなたの最後の頼みさえ、満足にこなせない私でごめんなさい。

 

「彩葉、もういいよ」

 

「泣かないで、大好きだよ」

 

 奮い立たせたと思っていた足が震える。でも、私は。やらなきゃいけないことがあって。

 

 私よりも泣いてる人が、きっといて。

 

 私は、託されたから。

 

「彩葉、休んで?」

 

「ちゃんと泣いて、ちゃんと悲しまないと」

 

 

 2人に抱きしめられた部分が熱を持つ。ここに至ってようやく、自分の体が震えていることに気がついた。

 

 あぁ、そうか。私は

 

 こんなに、悲しかったのか。

 

 声をあげて泣いたのはいつぶりだろうか。小さな子供のようなその姿を、冷静に俯瞰してそんな事を思う自分がいる。ずっと、ずっと一人で。人に頼ることなんて出来ないと思ってたのに。

 

 ねぇ店長、あなたのおかげなんですよ。店長。なんで、答えてくれないんですか?

 

 

「…ごめん、二人とも」

 

「良かった。彩葉がちゃんと泣いてくれて」

 

「死にそうな顔してたんだよ、分かってた?」

 

 そう言われて自分の顔を触る。ちゃんと隠してきたつもりだったのに。その仕草で考えたことを見透かされたのか、そうじゃないよ、と言われてしまった。

 

「表情、感情が全部抜け落ちたみたいな顔してた」

 

「そっ、か」

 

 すこしマシになったね。今日はもう帰った方が良いよ?と言ってくれる。今、ようやくわかった。私がどれだけ恵まれていたのか。二人が、私の事をどれだけ心配して、思いやってくれていたのか。

 

「ありがとう」

 

「ううん、私たちは彩葉が生きててくれるだけでいいから」

 

「…ありがとう」

 

 今すぐ二人に抱き着いてもっと感謝を伝えたい。でも、でも。やっぱり、今の私にはやらないといけないことがあって。

 

「行かなきゃ。ヤチヨが、泣いてる」

 

「…うん」

 

「行ってきな」

 

 




捕捉:気づく方もいるかとは思いますが、呪霊の発生理由は、虎杖が世界を覆うために少量ずつ放出していた呪力のロスによるものです。それを最小限に抑えるために、100年近くの時間がかかってしまったんですね。まぁ100年っていうか85年なんですが。
 
 呪術師から呪霊が生まれない理由は、意図的に呪力の放出を抑えられるからです。それを意図的にやったのならそりゃ生まれるよねという話で。

 本気でやればもっと早かったんですが、それをすると普通に二級、三級クラスの呪霊が生まれて一般人が死にます。
それを防ぐために最大限気を付けつつの作業だったため、呪霊は発生源である虎杖の近くで、四級にも満たない蠅頭しか生まれませんでした。それでも、呪力を持たないこの世界の人達の体調を多少崩すぐらいは出来たので、虎杖は滅茶苦茶罪悪感を抱いています。出来るだけ高頻度で掃除してますしね。








22:00にもう1話あがります。

ifの扱い

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