[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん] 作:夕暮れの家
先生には言っといてあげる、と言ってくれた声にお礼を言って走り出す。
スマコンを取って目につけて。
「ヤチヨ…っ!」
いつもニコニコ笑って、みんなに元気を振りまいていた歌姫は、あの時泣いていた。ヤチヨと店長は家族で、ヤチヨは店長の特別。
なら、店長だってきっとヤチヨの特別で。
今まで店長と話した事が頭をよぎる。そして、昨日の夜、店長が“開示だ”と言って話した内容も。ヤチヨが消えてしまうかもしれないということも。
それなら、でも。やっぱり、ヤチヨは。
『ヤチヨは最近ドジョウ掬いを練習してるんだー。すっごく面白い踊りだから紹介するねー。じゃ、いくよ。あ、それ♪ あ、よいしょ♪』
ツクヨミの中、大画面でヤチヨの配信が流されている。立ち止まってそれを見る人。笑う人。いつも通りの光景だ。
でも、ずっとヤチヨの活動を追ってきた私だから分かる。あれは、再放送だ。こんなことは今までなかった。今ヤチヨはどこにいるのだろう、何をしてるのだろうか。
「-あれっ?」
視界の端に白くて小さい生き物が走る。私に気が付いたようで一目散に逃げていくそれを追いかけて走る。あれは、
「待って、FUSHI!」
ヤチヨといつも一緒に居る、FUSHIだ。なんでマスコットのFUSHIが、ヤチヨ無しで一人で行動してるんだ。
「ヤチヨの居場所を教えて」
袋小路に追い詰めて、そう頼む。ヤチヨと一心同体のはずのFUSHIなら、ヤチヨの居場所を知っているはずだ。
でも、目の前のFUSHIは黙ったまま口を開かなくて。
「自分で探すよ」
仕方ない、答えてくれないならそうするしかないのだ。そう言って踵を返した私に向かってFUSHIが口を開いた。
「ばかたれ、どこを探すって?」
「必要なら、世界中」
私はやらないといけないのだ。そう意思を込めてFUSHIと目を合わせて数秒。あちらが先に根負けしたようでため息をついた。
「…目を開けてみろ」
「目?」
「リアルの視界に戻せって言ってるんだ」
そう言われてスマコンをつけたままAR機能をオンにする。すると、現実の私の視界に先ほど迄と変わらない様子のFUSHIが映りこむ。
「ついてこい」
疑問はたくさんあるが、今はそれどころではない。小さいのに、それなりの速度で進み始めたFUSHIを追って走り出した。
勝手知ったるがごとく現実の街をスイスイ進んでいくFUSHIについて行って、段々とその道が見覚えのある道になりつつあることに気が付く。
「ねぇ、これ…」
「ついたぞ」
振り向かずに、その建物の扉をすり抜けて中に入っていく。こういうところはARなんだな、と思いながらその建物を見上げた。
“八月”と書かれた看板が視界の大部分を埋める。
「…店長」
少し離れただけだったのに、随分懐かしいような気がする引き戸に手をかける。鍵がかかってると思ったのに、その考えに反してほとんど抵抗なく横に滑って開かれる。
全部、そのままだった。店長がいつも座っているカウンターも、並べられた数多のお菓子も。静かに時を刻む時計も。全部、変わらずそのままで。
ここで立っていたら、今にも奥の座敷から店長が「おぉ、来たか」と言いながら出てきてくれそうで。
「何してる、行くぞ」
立ち尽くして動けないでいると、戻ってきたFUSHIからお小言をもらってしまう。そうだ、私は。
FUSHIは、廊下の奥の階段を上り私の今まで入ったことの無い2階に上っていく。一つ息を吐き、そのまだ見ぬ空間に踏み込んだ。
じっとりと暑い空間だった。大量のPCとストレージ機器、そしてケーブル配線が乱雑に配置されたその空間の中心に。
「…タケノコ?」
ボコボコと気泡を上げ続ける水槽の中、多くのケーブルが繋がれたタケノコの様な物体が沈められていた。なんだ、これは。一瞬思考が止まる。
「それが、ヤチヨだ」
「…え?」
「ここからツクヨミに入れ」
言われるがまま目を閉じて、ツクヨミに再びログインする。ほんの少しの浮遊感、そして、次に目を開けた時、そこはどこかの知らない部屋で。
灯篭の光に照らされて、部屋全体が淡く光っている。外を見て見ればツクヨミの空がいつもよりも近く見えた。
その部屋の真ん中に、いつもは結んでいる髪の毛を後ろに流して、座っている少女が一人。
「ヤチヨ」
「…彩葉?」
こちらに振り返ったヤチヨは、やっぱり泣いていた。どこを見つめているのか分からない瞳で、綺麗な表情で。でも、ずっと流れ続ける涙だけは止まってなくて。
「彩葉、ごめん、ごめんね。わたしが、わたしがわるいのに」
そうやって自分ばかりを責める姿は、やっぱり私の知ってるあの子の姿だった。
「―かぐや」
そう名前を呼ぶと、ヤチヨの目が大きく見開かれる。やっぱり、そうだ。
「かぐや。店長と一緒に、8000年も私を探してくれたの?」
店長は、8000年生きれば私もこうなる、だなんて言っていた。あの時は、只の冗談にしか聞こえなかったけど。今なら。
「聞かせて、かぐやのこと。全部」
「わたし、わたしは」
何度も言葉に詰まりながら話すヤチヨ。ヤチヨは、やっぱりかぐやだった。
店長が介入せず、月人のお迎えにそのまま連れていかれたかぐや姫は、月で今まで通りバリバリ仕事をしていました。月の世界はやっぱりつまらなくて。
そんなかぐや姫のところにある歌が聞こえてきました。彩葉の歌を聞いたかぐや姫は、それならと奮起して頑張って仕事を引き継いで、彩葉達の下に戻ろうとしました。
でも、地球の時間では大遅刻。悠仁なら待っててくれるかもしれないけど、彩葉を待たせ過ぎちゃうから。月のテクノロジーで時間を超えて。
その途中で隕石に当たってしまいました。そのせいで8000年前の地球についちゃったかぐや姫は、砂浜に居た、なんだか知ってるのとは違う悠仁と一緒に、頑張って彩葉の元へとたどり着きましたとさ。
昔話風に言うならこんな感じ。やっぱり、店長は。ずっと、かぐやと一緒に。
「でも、悠仁がお迎えを止めて、そしたら、わたしは消えるはずなのに。私だけ、わたしだけ残って」
「みんなを、彩葉を、傷つけた私が消えるだけならいいのに。わたしだけ、のこって」
「彩葉に会えたのに、悠仁がいなくて」
「ずっと、いっしょって。いったのに」
「ごめん、彩葉、ごめんね」
「わたしは、彩葉から、大切な人を」
月に帰ってしまったかぐやと、連れ戻されることなく、ここに残ることのできたかぐや。きっと、ほんとは二人が今同時に存在する事なんてありえなくて。
それを解決するために、店長は。
「恨んで良い、おこっていい。彩葉は、わたしのこと嫌いになっていいんだよ?」
「嫌いになんて」
なるわけない。そう言って抱きしめた。かぐやの所為なんかじゃない。誰のせいでもない。きっと、少しずつみんなすれ違って、これはその結果で。
「ヤチヨ、一緒に居て?」
「私は、ヤチヨが泣いてるなんて嫌だ」
「…悠仁と同じようなこと、言うんだね」
そう言って笑うヤチヨ。ようやく笑ってくれた、と安堵して、その場に座りこむ。
「聞かせて。全部」
「私、ヤチヨと店長のこと、全部聞きたい」
「…全部。かぐやも待ってるでしょ?無理だよ」
「う、そうか…」
そうだ、かぐやを家に置いたままだ。あの子も、きっとそのままではだめで。
「…FUSHI。全部、ぜんぶ見せて」
「彩葉⁉だめ、人間じゃ耐えられるかわからないよっ!」
「ヤチヨ」
きっと、ヤチヨは。辛い部分、苦しい部分を隠してしまうから。最初からこうしておくべきだった。ヤチヨの話したがらないことも、全部、ぜんぶ。私は知らなきゃ。
「FUSHI?」
「ヤチヨ、良かった。笑ってくれて。」
FUSHIが、覚悟を決めた顔でこちらに向き直る。
「ダメそうなら、すぐに止めるからな」
「行くぞぉ!」
「彩葉、まって、まってっ!」
不思議な光景だった。世界が崩れ、周りで沢山の時間が流れていく。全部全部知らない記憶なのに、全部最初から知っていたかのように私の頭の中に入ってきて。
『ヤチヨ、どこにいるの?』
でも、蹲るあなたに手を差し伸べることは出来なくて。
『あれ、悠仁?悠仁だよねっ?』
だからこそ、安堵した。一人きりだったかぐやの隣に、店長がいてくれたから。私の知っているあなたとは違う髪色、少し荒い話し方。
でも、しっかりと相手と目線を合わせて話そうとするその姿勢は。節々に見せる相手への気遣いは、その優しさは。確かに私の知ってるもので。
ずっと、2人で。8000年もの間。
たくさんの人が死ぬところを見た。救えずに目の前で倒れる人がいた。
でも、店長は。ずっと、ずっと小さくて弱かったかぐやを、ずっと守ってて。だから、店長にとってのヤチヨは、特別で。
かぐやも、そんな店長の傍にずっといて。かぐやの中でも、やっぱり店長は特別で。一番大事な家族で。
かぐやは、ずっと私の事を忘れないでくれて、ずっと、会いたいと願ってくれて。私だけを。
…そっか、やっと分かった。店長は。
だからあなたは、ずっと。
「彩葉、いろは!」
目を覚ますと、知らない空間だった。目の前でヤチヨが泣いている。
「ばか、無理して。…壊れちゃうよ」
やっと笑ってくれたのに、また今にも泣きそうな顔をしたヤチヨがすぐそばにいる。
「ごめん、ずっと気づいてあげられなくて」
「わたし、わ、たし。もう、彩葉には、かぐやがいるのに」
「ううん、ヤチヨ」
“大切なメロディは、流れてるよ”。
「わたしは、ずっと、ずっとあなたに。あなたたちに救われてきたの」
ヤチヨは、どう?
「わた、しは」
“この一瞬を、最高のパーティーにしよう”
「ずっと、彩葉が前をてらしてくれた」
「どんなに長い時間も、彩葉を想って乗り換えられた」
「わたし、彩葉といたい」
ヤチヨの頬を涙が伝う。うん、私も、わたしもそうだよ。
「悠仁と一緒に、また、あの場所で」
「ゆうじも、いないと」
そうですよ、店長。あなたがいないと、ダメなんです。
だから。
「ヤチヨ、私が」
「彩葉…?」
「私が連れてくよ、ハッピーエンド」
品行方正、成績優秀、文武両道、眉目秀麗。非の打ちどころのない、隙のない完璧な女子高生。
「天才」
酒寄彩葉を知った凡夫は囁く。
だが、彼女の中で最も光る原石は。
——誰かを想って行動するときにこそ発揮される、その異常な思考力。
8000年の記憶をたどる中で、常にこの世で唯一呪いを扱う男の横で過ごした記憶を理解する中で、酒寄彩葉は理解を深めていた。
呪いのこと、術式のこと、そして、
“縛り”のこと。
今なら分かる。店長があの時言っていたこと。今なら分かる、店長が何をしようとしていたか。今なら分かる。店長が何を考えていたか。
今なら、分かる
——ハッピーエンドの、作り方。
なんとなくこの話は2つに分けるべきだと自分の中の誰かが言っていました。
本当は1話にまとまってたんですねぇこれが。良い阿鼻叫喚が見れました。
次が、最終話です。
ifの扱い
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このまま最後まで書く
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普通の後日談も交えつつ書く
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書かんでいいから後日談だけ書く