[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん] 作:夕暮れの家
虎杖悠仁が最後に結んだ縛りの話をしよう。
1つ、赤血操術の使用不可を代償にした、巨大な結界構築のための呪力出力の確保。
2つ、世界において“異物”である自分を代償とした、同じくこれから存在してはいけないものとなるヤチヨの存在の保護。
3つ、自らの“不老”の特性を代償とした結界の不変化。それによって術者なしでも存在し続ける結界の構築に成功する。
4つ、御厨子、そして、結界に利用した呪力、結界維持の不変の特性を代償とした隕石の排除。
実は、4つ目の縛りでは、望む結果に対する代償が釣り合っていなかった。支払うものが少なすぎたのだ。
そのため、隕石が飛来したときに、本来は残っているはずだった虎杖悠仁の身体が不足分の代償として支払われる
はずだった。
どうして身体と魂が、ただの“命”としてひとくくりにされずに分けられているのか。それは、虎杖悠仁の中の魂が虎杖悠仁のものではないから。そして、ツクヨミという現実とは乖離した空間であったからこそ起こりえた一種のバグ。
本来ならば、虎杖悠仁が2つ目の縛りに置いて、「自分を捧げる」と言った際、支払われる代償はその魂。順当にいけば、そうなるはずだった。
しかし、そうはならなかった。
何故か。
「きっと8000年後!そこまで生きたら彩葉にも会えて、悠仁もきっと楽しくなる!」
「だから、ちゃんと最後まで私と一緒に生きてね!悠仁!約束!」
「あぁ、約束だ。絶対に一人にしないよ」
「うん、悠仁も一緒にハッピーエンドに行くの、絶対だよ?」
「もちろんだ」
愛をこめて放った言葉は、どんな形であれ相手を縛る呪いとなる。
8000年間の間、かぐやに幾度となくかけられた言葉。そして、それに対して是と答え続けた虎杖悠仁。ここに呪いは成立した。
「ずっと、一緒」
そんな、幼稚で、純粋で、どこにでもあるような。そんな言葉が、男の魂を繋ぎとめる呪いとなった。
これが、ハッピーエンドに向かうための唯一にして最後の鍵。
結果的に、虎杖悠仁の身体が代わりに2つ目の縛りの代償として支払われ、男の魂は
「店長の魂は、きっとまだツクヨミにある」
驚くべきは、全てを理解したわけではなくとも、大した解説も無しにその可能性にたどり着いた酒寄彩葉の呪いへの理解の深さ。
「天才」人々は彼女の事をそう呼ぶ。
「ヤチヨの言葉が、店長を繋ぎとめてる」
今現在、領域「月久読命」内で保持され、縛りの代償として支払われるのを待つ状態にある。
そして、4つ目の縛りが履行されるときはじめて、辛うじてこの世に繋ぎ留められている男の魂は、縛りの代価として消滅することとなる。
「だから、私が見つける」
「私が、店長を連れ戻すんだ」
悠長に考えるのならば、タイムリミットは隕石の飛来迄。店長の魂が消えてしまうまでに、私が店長を見つけられたらハッピーエンド。それまで時間の猶予はある。
そう、かもしれない。
——だが。
「それは、凡人の思考」
「10年」
指を立てて、そう宣言する。
10年のうちに、魂だけの貴方を、人間にしてみせる。
「お手本は、すぐ近くにあるもんね」
ポカンと口を開けてこちらを見やるヤチヨとかぐや。どうにも理解が追い付いていないらしい。仕方がないか、正直本当に荒唐無稽な話だし。
でも。
「店長が、私たちを置いて消えるはず、無いんだよ」
そうでしょ?と問うと、二人共の目が輝いた。そうだ。優しいあの人が、躊躇いなく私たちを一人にするはず、無いんだ。
絶対にある。絶対に、店長の魂は、絶対に残ってる。
月人は情報思念体、ほとんど魂だけの存在だという。なら、かぐやとヤチヨもそうで。身体を持っていないヤチヨと、身体を持っているかぐや。二人が協力してくれるなら、きっと魂の観測も、その為の身体だって作れる。
そしたら、ヤチヨだって。
「それ、それ、本当?」
「うん、ヤチヨ。ヤチヨがずっと店長と一緒に居たいって言葉にしててくれたから」
「そっか、良かった。わたし、ほんの少しでも、悠仁の為になれたのかな」
そう言ってヤチヨが笑う。希望に満ちた顔で、ほっとしたというように静かに笑った。
うん、やっぱりヤチヨは、笑ってた方がいいね。
「私が役に立てるのなら、いくらでも協力するよ」
「かぐやも!かぐやも協力する!」
「うん、ありがとう」
疑っていたわけではなかったけど、その言葉に改めて、ほ、と息を吐いた。私は、これから人類の命題の一つに挑まなければいけない。魂の観測、きっとそれは、生半可なものではなくて。
「彩葉?」
でも、決して不可能ではないと、私は知っている。教えてもらったから、知っている。だから、私はここで。店長が与えてくれた時間で、決着をつけなければならない。私たち全員を巻きこんだ、
廻る因果に。
とりあえず、最初にやらなければならないことは母との会話だろう。
★10年後
研究室の中、私は自分のデスクの椅子に座りながら、今日来てもらったお客さんと話していた。
「だから、最後のブレイクスルーはもう目の前なの」
この10年で、東大の工学部を首席で卒業した私は研究者になり、あれよあれよという間に所長となっていた。それでも自由に使える研究費は潤沢とはいいがたい。
デスクに置いたコーヒーを取って、一口飲む。ちょっと冷めてしまった。
その横に置いてあるタブレットにはヤチヨが映っており、今日もニコニコ笑っている。うん、今日も可愛い。
「だから、お願い、出資して!」
私の対面に立つのは、ブラックオニキス。そのリアルの姿だ。帝アキラ改め、酒寄朝日、そしてそのチームメンバーの二人である駒沢乃衣さんと、駒沢雷さんだ。
「出資してって、お前なぁ。べつに俺は資産家じゃないんだぞ?」
なんだ、可愛い妹が手を合わせて頼んでるんだぞ。ポンと出さんかい。そんな理不尽な思考をしながら、片目を開けて兄の顔を盗み見る。頭を掻きながらも別に嫌そうな顔はしてない。よし、もう一押しだ。
「大丈夫!お兄ちゃんならできる!だって、強いもん!」
「…お前、ふてぶてしくなったな」
なんだと、としかめ面をしてみせると、それにつられるように兄は大口を開けて笑った。そもそも、研究者として学会で数多の古狸どもとやり合うには、ふてぶてしくいるくらいがちょうどいいのだ。
「いいぜ、出資してやる」
「ほんと?」
「あぁ、でも…」
やったぜとガッツポーズをしていると、妙に歯切れの悪い兄の声が耳に入ってくる。これは、またか。
「なに、また?」
「いや、兄としてな、俺は妹が男の身体を作るってのにまだちょっと抵抗あるんだが」
「まだ言ってるの…?」
またその話か。それについては散々説明して納得してもらったじゃないか。全然首を縦に振ってくれないから、最終手段としてFUSHIによる記憶再生を頭にぶち込んでやろうとしたらヤチヨに止められてしまったけど。
『そうですよ~、帝様。もう終わった話じゃないですか~!』
「ほら、ヤチヨもこう言ってる」
「そりゃ、ヤチヨちゃんはそう言うでしょうが」
「うん、出資ありがとね!お兄ちゃん」
「うん、うん?帰らせようとしてないか?」
「そんなことないよ」
顔をそらす。お互いいい大人の会話には見えなかったのか、それを見て雷さんが珍しく声を上げて笑った。
「俺も、少ないが出させてもらおう。乃依もな」
「えぇ~、俺もぉ?」
「いいだろ、お世話になってるんだ」
「まぁ、良いけど」
「ありがとうございます!」
よかった、これで唯一のネックである費用が片付いた。これなら、大きな一歩を踏み出すことが出来る。
『彩葉、嬉しそうだね』
「そりゃあ、10年ぶりですから」
ヤチヨも、もう少し待ってね、と声を掛ける。画面の中の彼女は、真っ先にツクヨミに来てね、と笑ってくれた。
「じゃ、俺らは行くから。頑張れよ」
「うん、ありがとね」
そう言って出ていくブラックオニキスの面々。今でも大人気プロゲーマーの彼らはいつも色んな所に引っ張りだこなのだ。忙しい中スケジュールを縫ってきてくれたことに、本当に感謝している。
「彩葉、今男の人とすれ違ったけど」
「うん、お兄ちゃん」
「え⁉ってことは、まさかあれって…!」
すれ違うように入ってきたのは芦花と真実の二人だ。芦花は元々美容系インフルエンサーだったことを活かしてモデルになってるし、真実は高校からの彼氏と結婚して今では2人の子供もちだ。
今でも仲良くしてくれる2人には感謝しかない。
「もう、すぐそこなんでしょ?」
「うん、そうだよ」
「私たちにも、すぐにあわせてね?」
文句の一つも言ってやらなきゃ!と笑う真実。そうだ、私も。話したいことがいっぱいあるんだ。
『ねぇ、まだなの?』
「うん、かぐやが来るのをまたなきゃ。かぐや無しでやったら、何を言われるかわからないからね」
『うーん、なんで今日に限って遅刻しちゃうかなぁ』
「うん、そうだね」
そう言いながら画面の中のヤチヨと顔を見合わせて笑う。本当に、こんな重要な時に遅刻するなんて。まったくかぐやらしい。
正直に言えば私ももう1秒だって待てないのだ。でもずっと約束してた。私たちは、全員揃わないと、ダメなんだ。
「ごめん!彩葉、ヤチヨ~!」
息せき切ってかぐやが研究室に飛び込んできたよっぽど急いでいたのか、最近は後ろで一つに結んで流していた髪の毛を、今日は結ばず下ろしたままだ。
「その方が、前と同じでいいんじゃない?」
「え、え~、あぁ!」
考えてなかったなぁと自分の髪の毛を触りつつそう呟く。真似したかったのにな、とぶー垂れているが、私としては今のままの方が良いと思う。
「私も、昔のままの方がよかったかな」
そう呟いて私も自分の髪の毛を触る。いつの間にか私の髪型は母に近いウルフカットになっている。
『大丈夫、彩葉は今が一番きれいだよ!』
「なら、いいけど」
でも、「誰だ」なんて言われたら立ち直れる気がしない。前と比べてちょっと変わった自覚はあるのだ。
なんか怖くなってきたな、とひとりでに震える手を見つめていると、その手を横からかぐやが握ってきた。
「大丈夫、一緒に、ね?」
「…うん」
「「『せーのっ』」」
台の上に寝かされていた一人の男の目が開く。困惑するように目だけを左右に動かして、次いで上体を起こして。その目が、私と。
合った。
「…彩葉?」
「店長っ!」
よかった、起きてくれた、やっぱり、店長だ。間違ってなかった、10年たっても、私に気が付いてくれた。
最初は向こうの方が混乱しているだろうから、落ち着いて話そうと言ったのはどこの誰だったか。懐かしい顔で、懐かしい声で、自分の名前を呼ばれた瞬間、そんなことは頭から吹き飛んでいた。
自分でも驚くような速度で店長に飛びついて、その胸に顔をうずめる。
「彩葉、俺は?いや、待てよ…、ダメだ」
「…店長?」
「俺の存在が残ると、隕石への対処ができない」
すぐに現状を把握したのか、そんなことを言う。全く雰囲気もなにもあったものじゃない。でも、店長ならそう言うと思ってた。
「大丈夫です」
「大丈夫です、店長。それは私たちが全員で背負うものです」
「…だが、俺を使えば簡単に」
「“使う”だなんて言わないでください。」
分かっていた。予想していた。店長ならもしかしてこんなことを言うかもね、と何度も3人で話した。でも、なんでこの人は、あんなに優しいのに。こうも自分に対しての好意に鈍感なんだ。
「店長、あなたがどんなことを考えてたのか、私には全部は分かりません」
でも、でも店長。分かってください。
「だから、簡単にあなたに生きてください、なんて言えなくて」
私たちは、ずっと。あなたがいなくなってから、ずっと。
「あなたがいないと、寂しいです。店長」
ずっとずっと、寂しかったんだ。寂しくて、悲しくて、死んでしまいそうに心が痛かった。
あなたが居ないから。あなたが居ないと、ダメなんです。
「…あぁ、そうか。俺は、間違えたのか」
ごめん、彩葉。ごめん、かぐや、ヤチヨ。そう言う店長の目からは涙がこぼれていた。初めて見る、店長の涙。
そうじゃないですよ、店長。あなたが私に、1番最初に教えてくれたことじゃないですか。
「店長」
「謝ってばっかりですね。お礼を言われた方が私は嬉しいです」
そんな顔しないでください。やっと、会えたんですから
「あぁ、そうだな。…ありがとう、彩葉」
「っ悠仁―!」
『悠仁っ!』
その言葉を待っていたかのようにかぐやが私と反対側から飛びつき、声だけで動くことのできないヤチヨは一際大きく声を張り上げた。
「悠仁、ゆうじ。ひさしぶりだねぇ。いっぱい撫でて、名前呼んで?あとね、あとね」
『悠仁、ありがとう。悠仁のおかげで、私は、でも、悠仁がいないと、寂しくて、悲しいよ、ゆうじ』
「…かぐや、ヤチヨ」
「俺も、3人と会えなくなることが、怖くて、恐ろしくて、たまらなかった。」
「おれも、さみしかった」
「ありがとう、本当に、ありがとうっ…!」
泣き声が響いて、涙がこぼれるのは10年前のあの夜と何も変わらなくて。でも、違うところがある。
私たちは、みんな揃っていて。
誰も、悲しくて泣いているわけじゃないこと。
「店長、おかえりなさい」
「…あぁ、ただいま」
「ゆうじー、撫でる手が止まってるよー」
『ヤチヨもっ!ヤチヨは話すことしかできないんだからっ!こっち向いて!』
★
10年前と何も変わらない、引き戸を開くといつもそんな感想が頭に浮かぶ。当然だ、そうなるように私とかぐやでずっと管理してたんだから。
店を開くことはしなかった。だって、ここは店長の店だから。一番大事な人がいないんだ。開けることなんて出来ない。それが総意だった。
でも、今日からは違う。
「悠仁、ゆうじ!これ、これ食べて良い⁉」
「うーん、俺が仕入れたわけじゃないからなぁ」
相も変わらずかぐやは店長にぴったりくっついて回っている。今は棚にならんだお菓子をねだっている様だ。それは私たちで仕入れておいたものでしょう、という突っ込みは声に出さないでおく。
きっと昔と同じやり取りがしたいだけだろうから。
「やっと、ここまでこれたね」
そう言って私の隣で笑うのは、ヤチヨだ。あの後すぐにヤチヨも体を得た。やっぱりみんなで最初に行くならここだろう、というのは誰からも反対意見は出ず。むしろ全員が推していた。
味覚こそまだだが、それ以外は人間とほとんど変わらない。よっぽど嬉しいのか、ヤチヨはいつも誰かしらにくっつきながら行動している。
「私もたべたい~!」
それでも、昔と同じやり取りを楽しみたいのはヤチヨも同じなのだろう。そんなことを言いながら店長の元に突撃していった。
「ほんと、昔と変わんないね」
そんなことを言いながら腰に手をあてる。10年たってもかぐやはほとんど見た目は変わってないし、ヤチヨも、店長も、当時のままの姿だ。こうやって見てると、エプロンをつけながら見ていた10年前に戻ってしまったのかと錯覚する。
いつの間にか店長そっちのけでベーゴマ対決で白熱し始めたかぐやとヤチヨを呆れた目で見やる。お菓子は良いのか、お菓子は。
「店長」
「ありがとう、彩葉。ここを残しておいてくれて」
巻き込まれそうになったのを、するりと抜けだして私の隣に立った店長は、勢いよく回る互いのコマを応援するのに夢中な二人を見て、ほほ笑んだ。
「ここからの景色が好きだったんだ」
「未来ある子どもたちが、俺の大切な人達が、皆楽しそうに笑ってる」
そんなことを言う店長の横顔を見つめる。最近の店長は良く笑うようになった。まるで憑き物が落ちたかのように。フードをかぶって隠すこともなくなったその顔は、前よりもずっと表情が分かりやすい。
す、と店長との距離を一歩詰める。10年前も、店長と並んで歩くことは幾度もあった。その時よりも、一歩。私の肩が、あなたに触れるくらい。
「悠仁さん」
名前を呼ぶ。昔は、ツクヨミの中でしか呼べなかった。あなたの名前。驚くように見開かれたその目を、絶対にそらさないようにと見つめ返す。
「貴方を追いかけて、10年経ちました」
もう一歩、近づく。そして、あなたの顔に手を伸ばす。
「見た目だけなら、私の方が年上かもですね」
驚いた顔をする頬をつまんで、引っ張る。私が作った、あなたの身体。何度も調整のために触れたけど。やっぱり。今が1番。
「ねぇ、悠仁さん。私、大人になりました」
言うんだ。あの時の続きを。もう二度と、口に出さないで後悔するのは嫌だから。
「だから、あなたの特別に、してください」
後ろから聞こえた騒がしい声は、聞こえないふりをした。
これが、私たちのハッピーエンド。
これで完結です。ありがとうございました。ハッピーエンドですね、間違いない。
これからは、ペースを落として後日談でも書けたらなと思っています。ただ、私は話のクリエイトが苦手なので、後日談の案については思いついたらになります。
または、こういうのは感想欄で募集するのはダメだったと思うので、活動報告の方に一つあげておくのでそちらに見たいエピソードでも書いていただければ書きたいと思います。
とりあえず、エタらせることなく走り切ることが出来て良かったです。読んでくださったみなさまに幸あれ。
隕石?それなら彩葉がなんやかんやして反らしたよ
ifの扱い
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このまま最後まで書く
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普通の後日談も交えつつ書く
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書かんでいいから後日談だけ書く