[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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「でさぁ、聞いて?彩葉がね?」

 

 >本 名 暴 露

 >今更やぞ

 >ネットリテラシーの欠片もない

 >なんでやろなぁ

 >なぜこれで燃えていないのか

 >いろPが許すからや

 >なんでやろなぁ…?

 

10年、引退ライブから10年が経過して、ようやく虎杖悠仁が目覚めた後。かぐやは配信活動を再開していた。本当はライブの後も地球に残ることが出来ていたため、配信をすること自体は可能だった。続けてもよかった。でも、かぐや本人が「悠仁もいないと楽しくない」と口にしたことで、その案はなかったこととなっていた。

 

 配信をやめたかぐやは、酒寄さんちの家事の一切を取り仕切る存在となり、元々掴んでいた彩葉の胃袋を、もはや両手でわしづかみ状態まで持っていくことに成功していた。そんな中、10年経ってようやく配信をやらない理由がなくなったことで活動復帰に至ったというわけだ。

 

かぐやの復帰は世間には比較的好意的に受け取られた。元々あの夏の2か月間、活動をしていたのは実際もう少し短いが、そんな限られた時間であそこ迄深い衝撃を皆に残していった存在だったのだ。忘れたくても忘れられない人がたくさんいたのだろう。そんな元からいたファンと、そして新しくファンになってくれた人たちを取り込んで、かぐや、いろPチャンネルは今も躍進を続けている。

 

 

 

>なんで引退したの?

 

 ゲームがひと段落して、コメントに目を向けた私の目にやはりというべきか、そんな質問が入ってきた。10年前の私の引退は、当人の私にしても唐突なものだった。それは応援してくれていた人たちにとってもそうだったのだろう。分かってる。配信復帰してからこれまでも何回か口にしてはいたが、ちゃんと腰を据えて説明はしてなかったな、と思い、椅子の上で姿勢を正した。

 

「ん~、私、実は家出してきてたの。やらなきゃいけない事ほっぽり出してきててさ。強制送還的な?帰らなきゃいけなかったんだ」

 

 仕方なかったんだ。いろんな人に迷惑かけてきちゃった。ごめんね?とこちらを向くカメラに向かって謝る。ここまでは、今までも話したことがある。

 

 >いつも言ってるやつだな

 >聞いたことある

 

 コメントを見ても、反応は概ねいつも通り。でも、今回は続きがある。言ってもいいかなと思ったから。

 

「でもね、私、本当は帰らなくてもよくなってたんだ」

 

 >え?

 >新情報だ

 >マジで?

 

「うん。私の大切な家族がね?代わりに自分をつれてけーっ、って、やってさ」

 

「私は、おかげで彩葉の傍に残れた」

 

 >ええ話や

 >家族?兄妹かな

 >知らない情報です

 

 今まで全く触れてこなかった話。コメントの流れが更に早くなるのが見て取れる。そのほとんどが驚きの反応を表すもので。でもその中の一つのコメントが私の目に留まる。

 

 >じゃあ、なんで引退したの?

 

「うん、気になるよね」

 

 腕を組んで、真っすぐ正面にあるカメラではなく天井を見上げる。あの引退ライブの日、私のいるところから見えた景色を思い出す。

 

「私の代わりになって連れていかれちゃった人は、ずっと遠いところに行っちゃって」

 

 瞼の裏に映るのは、何か覚悟を決めたように笑う悠仁に、悠仁に手を伸ばして涙を流すヤチヨ、そして、呆然と立ち尽くしてそちらを見つめる彩葉の姿。私の口から出る言葉が静かに部屋に響く。いつの間にかコメントの流れもそんな雰囲気に充てられたのか少し緩やかになっている。うん、それでいい。ちゃんと聞いてね?

 

「顔も見られなくて、声も聴けなくて」

 

「それまでずっと一緒に居たから、悲しくて、寂しくて。沢山泣いちゃった」

 

 だから、ずっと配信できなかったの。そう謝ると、色んな文字列が私の視界に流れ始めた。いろんな憶測、私への心配、納得など。でも、やっぱり一番多いのは私は初めて言及した家族の事で。

 

「ずっと一緒だったよ?いろPと裏方やってたの。知らなかったでしょ?」

 

 >そうなの?

 >知らんかった

 >男?女?

 >その行動、俺は兄と見たね

 >どけ!俺はお兄ちゃんだぞ!

 

「そうなの!私が配信出てって言っても、男が出て炎上したらいけないって言って出てくれないしさ!」

 

 >ちゃんとしとる

 >これは兄

 >似てないな…(目そらし)

 >できた家族だぁ

 

 ひどくない?と憤慨する私そっちのけで好き勝手言いたい放題で盛り上がるコメント達。しっかりしてるだの、似てないだの。なんだと、この野郎。わたしがしっかりしてないとでも言いたげだな。この家の家事の一切を受け持っているのは誰だと思っているんだ。彩葉は私の料理にメロメロなんだぞ。

 

「10年、会えなかったの」

 

「でも、やっと、会えた」

 

 ずっとずっと会いたかった。もっと名前を呼んで、もっと甘やかして。もっと一緒に居てくれなきゃダメなの。

 

「なのにさぁ!他は何でも言うこと聞くけど配信は出てくれないって!配信は出てくれないって!」

 

 >草

 >湿るか荒ぶるかどっちかにしてもろて

 >ようやっとる

 >ん?今なんでもって…?

 >大事なことなので2回言いました

 

「炎上するから駄目なんでしょ⁉皆、燃やさないよね?」

 

 >ええんやで

 >いろP(彼女)が出てるし今更やろ

 >かぐやさん!お兄さんを僕にください!

 

「あげない!悠仁はわたしの!…あっ」

 

 >あっ

 >あ

 >草

 >本 名 暴 露

 >伝 統 行 事

 >二人目の犠牲者

 >悠仁くんみってるー?

 >あっ、じゃないのよ

 

「と、とにかく!皆、私の家族に会いたいよね?」

 

 >あいたいー!

 >かぐやちゃんの家族ならどうせ美形

 >イケメンが来る…ってコト⁉

 

「そうなの!強くて、やさしくて、かっこいいんだから!…あっ、もう終わります!」

 

「次!悠仁連れてくるから!まっててっ!」

 

 >楽しみ

 >もはや名前呼びになんのためらいもない

 >お労しや兄上…

 >なんたる生き恥…!

 

 

 勢いで何とか乗り切って、配信画面を切る。そして、もう一度確認。よし、ちゃんと切れている。一度失敗して切り忘れをやらかした時には、悠仁と彩葉にこっぴどく叱られたのだ。もう二度とごめんだ。あの時程足と心が痛かったことなど私の記憶にはないのだから。

 

 とにかくこれで悠仁がいつも断る理由にしていた炎上という高い壁を排除することが出来た。快挙である。やってやったぜ、と両手を宙に突き上げた。

 

「やったー!」

 

 これで悠仁と一緒に配信が出来る。考えただけでうきうきである。後は悠仁にお願いするだけだ。そう考えながら意気揚々とリビングに向かって。

 

 仁王立ちしていた悠仁と彩葉に捕まった。なぜ

 

 不満そうな顔をしながら正座をする。やっぱりこの座り方は足が痛い。月に居た時の私はずっとこの姿勢で仕事をしていた気もするが、地球では絶対無理。窮屈だから。顔を上げると、怒った様子の彩葉と心配そうな顔をした悠仁が目に入った。

 

「危ないことしちゃだめって、言ったでしょ」

 

「ぶー、でもぉ」

 

「ぶー、じゃないっ」

 

 口を尖らせる。不満を身体全体で表現して見せたけど、実はそこまでこの状況は嫌じゃない。彩葉にこうやって叱られるなんて何時ぶりだろうか。会ったばっかりの時は日常茶飯事だったのにな。彩葉が頭を抱えながらこうやって私を叱って。隣で悠仁が静かに私をたしなめて、彩葉を落ち着かせて。そんな、日常の光景。

 

 久しぶりに見たな。嬉しいな。

 

 叱られるのは嫌だけど。正座は窮屈で嫌だけど、この景色がもう少し続くなら甘んじて受け入れようかな。

 

「かぐや」

 

「なぁに、悠仁」

 

 彩葉が一通り言いたいことを言った後、心配させないで、と腰に手を当てて呆れた顔をすると、悠仁が口を開いた。私の記憶にある通りの、静かな声。普段とは少し違う声のトーンだ。叱られてるのになんだか懐かしくて心が温かくなる。

 

「俺は、かぐやが傷つくところは見たくないよ」

 

「う“」

 

「危ないことは、やってほしくないんだ」

 

「う“ぅっ」

 

 善意100%。彩葉もそうだけど、やっぱりそう言われると弱い。少し危ないことをしたのは分かってるのだ。燃えなかったのは悠仁の事を家族だと言ったから。いや、家族だけど。皆が勝手に兄だと勘違いしてくれてるからだということは分かってる。

 

 でも、でも。

 

「ずるい」

 

 ずるいじゃないか。彩葉は研究所で悠仁と二人で一緒に居る時間がある。帰る時も、一緒に帰ってくるし。

 

「彩葉達ばっかりずるい!」

 

 ずるいじゃないか、ヤチヨはツクヨミで2人で過ごせる場所があって。昔っからあそこで2人でおしゃべりして。私だって、もっと悠仁といたい。

 

「私だって、悠仁と2人で何かしたい!」

 

 彩葉には店長と店員だったころのつながりがある。10年かけて悠仁を見つけて連れ戻したっていうつながりがある。

 

 ヤチヨには8000年間一緒に過ごした時間がある。ずっと、2人で生きてきた絆がある。そのことを羨ましいというわけじゃないけど。

 

「わたしだけ、なにもないもん」

 

 ずるい。私だって、悠仁とふたりだけのものがほしい。

 

「ねぇ、悠仁。だめ?」

 

「む」

 

「…店長?」

 

 私のおねだりに対して口ごもる悠仁。そんな悠仁に対してしらーっとした視線を送る彩葉。そんな様子に、こことは違うどこかの景色を幻視してしまう。彩葉は制服を着ていて、髪は後ろで一つに結んでいる。表情も今より少し余裕がなさそう。悠仁はフードは被ってないけど、見覚えのあるパーカーを着てて。場所は、やっぱりあの場所。いつかの夏の日の一幕。

 

「ふふっ」

 

 思わず、笑いがこぼれてしまった。彩葉だっていつの間にか悠仁の呼び方が昔に戻っている。こんなやり取りが懐かしいと思っているのはきっと、私だけじゃない。

 

「あは、あははっ!」

 

 正座で反省のポーズをとっているのに、そんなことを考えていたら笑いが止まらなくなってしまった。傍から見たら完全におかしな人だ。

 

「楽しいねぇ、彩葉、悠仁!」

 

 両手を伸ばして、2人の手を取る。私の右手に悠仁の手が、左手に彩葉の手が収まった。私の両の手が、どちらも私の大切な人で埋まるのなんて何時以来何だろうか。こんな小さな出来事でさえ、嬉しくて。

 

 大きくて、暖かくて。ぎゅっと握ると強く握り返してくれる、悠仁の手。私の手よりもちょっと硬くて、きっと今までの沢山の苦労を知ってる。それでもすごく優しい。私の大好きな手。

 

 やわらかくて、指も細くて。悠仁の手と比べるととても小さくて。でも芯の通った強さのある手。私の大好きな彩葉の手。

 

「かぐや、今叱られてるの。分かってる?」

 

「分かってる分かってる~、うぇへへ」

 

 手を取って、私の方にぐいと引き寄せてやれば、二人との距離が簡単に0になった。私の両隣から二人の体温を感じる。いつかの帰り道と同じ。あの時も、2人の真ん中で手を繋ぎながら帰ったな。どっちを向いてても楽しいから、どっちに向けばいいのかなんて迷って。そんな様子を見た彩葉と悠仁が私を挟んで笑ってたっけ。

 

 あの時はすごく暑かったな。今は、あの時よりもずっとその温度が心地よくて。

 

「あったかいねぇ。彩葉、悠仁」

 

 思わず視界が滲み始めてしまった。しまった、そんな感じじゃなかったじゃないか。よし、ごまかしてしまおう。そう決意して、すぐそばにあった悠仁の服に顔をうずめてみる。

 

「う゛―…」

 

「なんだ、甘えん坊だな」

 

「いつもの事ですよ、かぐやは」

 

 2つの手が私の頭の上に乗る。撫で方は全然違うけど、どちらも優しくて。止めようと思った涙は更に湧いてきて悠仁の服を濡らしてしまう。2人とも、私の大切な家族なんだ。

 

「ただいまー…。ず、ずるいっ!ヤッチョも!ヤッチョも混ざる!」

 

 そこで、お説教の気配を感じ取って外に緊急避難をしていたヤチヨが帰ってきた。ひと塊になっている私たちを見て、勢いよく突っ込んできて、私たちの上から覆いかぶさるように抱き着いてきた。

 

 上に乗っかられたことで肺からすこし空気が押し出され、変な声が出てしまう。あまりの勢いに出ていた涙も引っ込んでしまった。思っていた形とは違うけど、まあ良しとしてやろうじゃないか。

 

「彩葉、彩葉」

 

  顔を上げて、彩葉と目を合わせる。

 

「やっと、みんな揃ったね」

 

「…そうだね」

 

 ずっと2人だけで住んでいた我が家は、いつの間にか人数が倍になってしまった。おかげで毎日騒がしい。2人だった時も楽しかったけど、今は、もっと

 

「かぐや」

 

「なぁに?」

 

 悠仁に名前を呼ばれる。彩葉が考えてくれた、私の名前。耳になじんだその響き。ずっと聞きたいと願っていたその声。今日だけでもう何回呼んでもらえただろうか。当たり前のように呼んでもらえる今が、何より大切。

 

「何か問題が起きそうだったら、やめるからな」

 

「…ほへ?」

 

 なんの話だっけ。ヤチヨと彩葉につぶされかけながら考える。そもそもなんで私は正座しているんだったか。首を捻って考える。そうだ、配信の事で彩葉達に怒られて、配、信…

 

「やった!やった、やった、やったー!」

 

「うわっ!あぶなっ!」

 

「かぐや、こんな状態から急に飛び上がったら危ないよ?」

 

 1番下でつぶされていた状態をはねのけて、華麗な脱出を決める。そしてそのままの勢いで両手を宙に突き上げて喜びの舞だ。なんだかんだで断られると思っていたのに。

 

 10年前、唯一頷いてくれなかったお願いだったから。勢いをつけて悠仁に飛びつく。昔と変わらず、悠仁はわたしの事をびくともせずに受け止めてくれた。

 

「悠仁、ありがと!」

 

 ずっと考えていた。やりたいことが沢山あるんだ。悠仁と一緒にやれたらいいなって考えていたことが、沢山。

 

 今やろう、すぐやろう、今すぐやろう!

 

「お、なんだ?もうやるのか?」

 

「すぐっ!すぐやろっ!」

 

「分かったわかった」

 

 悠仁の腕をぐいぐい引っ張って進む。いつも私が飛びついても、びくともしないけどこうやって引っ張れば簡単についてきてくれる。そういうところも好き。

 

 彩葉とヤチヨは、怒涛の展開にまだ認識が追い付いていないのかポカンと口を開けたままこちらを見上げている。ヤチヨに至っては最初の部分を聞いていないから本当に現状が分からないのだろう。彩葉に説明してもらうといい、私たちは今から忙しくなるからな!

 

 今から暫くは、私のなんだ

 

「悠仁、今からはわたしのお兄ちゃんね?」

 

「…妹よ?」

 

「かぐやって呼んで!私も悠仁って呼ぶから!」

 

「いつもと変わらない気がするんだが」

 

「いいの!」

 

 悠仁の腕を両手で抱えたまま、パソコンの前の椅子に座り、告知もせずに配信を開始。そんなだからあんまり人も集まらないかな、と思ったけど、終わり方から察している人も多かったのかすぐに人が結構な数集まり始めた。

 

「連れてきたよ!」

 

 >草

 >連れてきたよじゃないのよ

 >行動が早い!

 >両手で捕まえとるやん

 >腕しか映ってないんですがそれは

 

「腕しか映ってない?あ、本当だ。悠仁、もちょっとこっち来て?」

 

 指摘されて配信画面を見てみると、なるほど確かに誰かの腕を抱えた私の姿しか映っていない。これではどういう状態かわからないだろう。それではいけない、一緒の画面に映らないと意味がないのだ。

 

 ぐいと更に腕を引いて、カメラの画角内に引っ張り込む。悠仁がその上体を丸めるようにして私の配信画面内に映りこんだ。

 

 >お兄ちゃん顔出しきた!

 >白髪、筋肉質、イケメェン!

 >うほっ、いい男

 >妹さん!お兄さんを私にください!

 

 次々と悠仁を褒めるようなコメントが表れては消えていく。そうだろうそうだろう。いいだろ、悠仁はすごいんだ。私のだぞ。

 

「今日はねぇ、悠仁とやりたいことがあってねぇ。ちょっと待ってね…」

 

「かぐや」

 

 もう一秒だって待てない。そんな風に勢いで突っ走ろうとした私の事を悠仁の静かな声が制した。不思議に思ってそちらを見上げる。今私は何かまずいことをしただろうか。少し首を捻って考える。失敗したかとも思ったが、どうもそうではないらしい。なにかを話したいようだ。それならばと椅子を引いて画面の真ん中を譲った。

 

「初めまして、悠仁と言います」

 

 カメラに向かって頭を下げる。そういえば、悠仁が誰かに敬語を使っているところなんて初めて見たかもしれない。なんか新鮮な感じ。そんなことを思いながら椅子の上で膝を持ち上げて両手で抱えた。

 

「いつも、この娘と遊んでくれてありがとうございます」

 

 わ、撫でられた。何にもしてないのに。良いのかな、配信中だけど。普通に映っちゃってるけど。まぁ、悠仁が良いなら私も嬉しいし、いいかな。

 

「この娘は、危なっかしいところも多々あるけれど」

 

 なんだと。もう10年前の何も知らなかった頃のわたしじゃないんだ。十分、大人なんだぞ。抗議の意を込めて視線を送るも、ちょっと強めに頭の上で手を動かされることで封殺されてしまった。

 

「相手の事を慮れる、優しい娘で」

 

「いつだって、前を向いて歩ける、強い娘で」

 

「明るくて、きっと誰かの救いになれる、太陽みたいな娘で」

 

「自分の、大切な家族です」

 

 言葉が一度区切られるたび、自分の頬に熱が集まっていくのが分かる。なんで、急になんだ。悠仁はわたしの事をそんな風に思ってくれてたのか。

 

 椅子の上で抱えてた膝で顔を隠して、片手で悠仁の服をつまんで引く。もう勘弁して。嬉しくて、恥ずかしくて、死んじゃいそうだから。

 

 違うの、もっと撫でてほしいわけじゃないの。嬉しいけど、そうじゃないの。

 

「自分は、この娘にずっと笑っててほしい」

 

 馬鹿。そんなの、悠仁達がずっと一緒に居てくれるだけでいいのに。悠仁のいない間、私がどれだけさみしかったか。寂しくて、寂しくて。心は現実に追いつかないくせに、涙ばっかり溢れてきて。

 

 私の所為だって、何度も後悔して。

 

 いてくれるだけでいいの。悠仁、私の傍で、名前を呼んでくれるだけでいいの。

 

「配信をしている時のかぐやは、とても楽しそうにしていて」

 

なのに

 

「だから」

 

 なんで私は、二人だけのものそれ以上をほしいと思ってしまうんだろう。

 

「これからも、かぐやをよろしく頼みます」

 

 >良いお兄ちゃんだ

 >兄妹…、兄妹?

 >あまりにもしっかりしすぎている

 >ほ め 殺 し

 >真っ赤で草

 

「う゛―!!」

 

「お、なんだ。どうした」

 

 どうした、じゃないよ。悠仁の目には、私はそうやって映ってたんだね。悠仁はわたしに笑っていてほしいと、思ってくれてたんだね。

 

 なら、どうして

 

 10年前の夜の事を思い出す。皆が泣いていた。皆、悲しそうだった。私だって、そうだった。泣いて、泣いて。目を覚ましたらすぐに悠仁の事を探して。涙は枯れてでなくなっても胸はいつだって張り裂けそうなほどに痛くて。

 

 悠仁、私も一緒なの。悠仁にはいつも笑っててほしい。

 

私は悠仁がいないと、寂しいし、悲しいよ。

 

 悠仁、勝手にいなくなんてならないでよ。自分の命を使うなんて言わないでよ。それで、私たちが幸せになれるなんて、言わないでよ。

 

私たちの幸せには、悠仁も入ってるんだよ、分かってる?

 

 

分かってよ

 

 

「あぁもう、どうしたんだ急に。配信、やりたいことがあるんだろ?」

 

「ある…」

 

「かぐやのやりたいことをやろう。ほら、顔を上げてくれ」

 

 >めっちゃ甘やかすじゃん

 >これは兄の鑑

 >ちくわ大明神

 >いろP相手でもこうはならんぞ

 >さすおにさすおに

 >誰だ今の

 

 結局その後ちゃんと落ち着くのに数分の時間を要し、それからしばらくしてようやく配信にはいることが出来るようになった。

 

「かぐやっほーっ!月からやってきたかぐやだよー、みんな、元気ー?」

 

 >開始30分である

 >まだ挨拶してなかったっけ?

 >もう本編終わったって聞いたんですけど

 >悠仁を見せろ

 

「今日はっ!ホラゲーを!やりますっ!」

 

 >勢いよ

 >やっちゃー

 >流石にごまかされんぞ

 >もう切り抜きました

 >仕事が早い

 

 絶対に今日のアーカイブは残さない。今そう決めた。絶対残さないぞ。悠仁と初めての配信は残しておきたかったけど仕方ない。私だけが映像を持ってればそれでいいんだ。

 

 >ホラゲー苦手じゃなかったっけ

 

「苦手だよ?でも今日は悠仁いるし。怖かったら頼るから」

 

「やったことないぞ?」

 

「悠仁なら大丈夫でしょ?強いもん」

 

 >根拠のない信頼

 >まぁ怖がってるところが想像できない感じではある

 >前やった時ほとんど進めずにいろPに泣きついてなかった?

 >こやつ懲りない

 

 やろうやろうと思って用意していたホラーゲームを起動しながら、ふと気づく。そういえばこの部屋には椅子が一つだけだ。悠仁はここまでずっと立ったままじゃないか。

 

「ごめん、悠仁。えーっと、ここ座って!」

 

「お、いいのか?」

 

 自分が座っていた椅子を一旦譲って座ってもらう。そして、自分がどこに座るかを考えて、部屋を見渡す。最悪床でもいいかなとも思ったけど、それじゃあゲームがやりにくい。考えて、考えて。

 

「あ、そうだ」

 

「悠仁、のせて~!」

 

 ぽす、と悠仁の膝の上に座る。それで、悠仁の腕を私のお腹においてやれば完成だ。これでどんなホラーゲームが来ても怖くない、いけるぞ。

 

「…大きくなったなぁ」

 

 最初はこんなだったのに。しみじみそんなことを言ってる悠仁の声が頭の上から聞こえる。身長差で、ちょうど私の頭の上に悠仁の顔が来ているようだ。なんだか安心する。

 

「…ね、悠仁。昔言ったこと、覚えてる?」

 

 10年前、一緒に海に行ったこと。とても忙しかった彩葉がどうにか捻出した時間を使って行った唯一の遠出。あの2か月間の思い出の中でも、印象的なそれ。

 

 私は、あの時に悠仁に言ったのだ。

 

マイクが拾わないように、身体を捻って悠仁の耳元に口を近づける。

 

「今、配信中だよ?」

 

 

 

 

 

 

「今は私が悠仁の1番、でしょ?」

 

 




これで一旦整理というか、回収すべきところは回収できたと思います。つまり、ちゃんと後日談と言えるのはここから後ということですね。

もっと甘いのをよこせと色んな人に言われます。どうにも書いてると苦くなるんですよね。私はハピエン厨なんですが。なんででしょうね。

ifの扱い

  • このまま最後まで書く
  • 普通の後日談も交えつつ書く
  • 書かんでいいから後日談だけ書く
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