[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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??視点です


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 ずっと、あるお店の前を通ることが日課になっている。朝、学校に向かう途中でちらっと見て。変わらずシャッターが閉まったままなのを確認して落胆して。でも、まだ開店時間じゃないからと自分を奮い立たせる。

 

 やっぱり外に誰か出てないかな、なんてもう一度目を向けてみて。朝から店の前を掃除しているのをよく見かけたあの人影はそこにはないのをやっぱり分かってしまって。肩を落としてその先の道を歩く。

 

 

 あの店の扉が開かなくなってから1年経った。いつ行っても、いつ見ても灯りがついていて。引き戸を開ければ誰かかがそこにいたのに。今は、ずっと暗いまま。

 

 

 2年経った。一度、遅い時間に母と喧嘩をして家を飛び出して。行く当てもなくて泣きながら縋るような気持ちで行ったら灯りがついてて。

 

「君みたいなのが来るから、閉められないんだ」と笑いながら座敷に上げてくれて。私が泣き止むまで、ずっと話を聞いてくれた。でも、今は暗いまま。

 

 閉められないんじゃ、なかったんですか?

 

 

 

 5年経った。いつ見ても、人の出入りを拒むように固く閉ざされたままのシャッターはびくともしなくて。家の周りの小さな子たちは、もうあの場所の事を知らない子がほとんどだ。私は、何時まで経っても忘れられないのに。

 

 皆の遊び場だったあの場所が段々と皆の記憶から消えていく。あそこに入り浸っていた同級生にその話をしたら、そんな場所もあったな、というような顔をされた。貴方だって、あの場所が好きだったはずなのに。

 

 母だって、話題に出さなくなった。お世話になってる、頭が上がらないといつも言っていたのに。そんな簡単に、忘れられるものなんだろうか。

 

 

 

 8年経った。私も随分大きくなってしまった。小学校を卒業して、もう中学生活も半ばだ。無邪気で、疑うことを知らなかったころの私とはもう違って。あんな純真な子供では、もうない。昔みたいに、泣きながら家出して誰かに助けを求めることが許されるような年齢では、もうなくて。

 

 でも

 

「泣いたら、開けてくれるのかな」

 

 

 

 口をついて馬鹿な考えが零れ落ちる。ずっと、見ていた。あの人が、泣いている子供を放っておく姿なんて見たことが無くて。

 

 今日も変わらず私を拒み続けるシャッターを見上げる。背、伸びたな。昔なら手を思い切り伸ばしてみても届かなかった場所に、今は簡単にとどいてしまう。そんな事実一つとっても、私の中にある記憶との距離を感じてしまう。もう、随分遠いところに来てしまった。

 

 泣き虫だった私は、良く迷惑をかけてしまったことを憶えている。何度も、何度も。私の涙で服を汚してしまったことだって、よくよく思い返してみれば何度もあった。直ぐに泣く私を面白がってからかう男の子たちから庇うように間に入って。その時に見上げた大きな背中は、何時だって私の安心できる場所だった。今なら、その背中はどう見えるだろうか。

 

 私が泣いたら、傍にいるならいつも来てくれた。それはわたしに限ったことではなかったけれど、とても嬉しくて。

 

 だから、泣いたら来てくれるかもしれないと考えずに入られない。

 

 でも、もしそれであの人が来てくれなかったら。ここにはいないと決まってしまう気がして、それが怖くて。

 

 

 結局、今日も泣けなかった。

 

 

 

 

 10年経った。私は、もう高校生で。あの時大人だと見上げていた彩葉お姉ちゃんに並んで、もう越してしまったかもしれない。でも、未だにあの店は閉まったままだ。

 

 伸びてきた髪の毛を後ろ手一つにまとめる。記憶の中にあるのと、同じ髪型。

 

 昔、あの人にプレゼントした四葉の事をふと思い出す。元気が無いから、と子供ながらに心配して、頑張って探したあの日の事。泥で随分汚れてしまった手のまま、急いで見つけた喜びと共に渡しに走ったあの日の事。

 

 喜んでくれたんだったな、と鏡に映る自分の事をぼーっと眺めながら考える。あの時の私とは、かなり変わってしまったなと自分でも思う。

 

 身長が変わった。髪型が変わった。体つきが変わった。もう、子供じゃなくなった。

 

 遅刻するよと私を呼ぶ母の声でそんな思考の海からの復帰を果たす。こんなことしてる場合じゃないんだった。私の場合は少し早く出なきゃ間に合わないんだから。

 

 いつものように朝の通学路をたどり、シャッターの落ちた店の様子を確認して、少し落ち込んで。

 

 いつものように、真面目に授業を受けて、何時ものように部活にいそしむ同級生たちの様子を横目に自分は帰ろうとして、委員会の仕事を忘れていたことを思い出してしまった。ちくしょうめ。

 

 

「遅くなっちゃったなぁ」

 

 西日で橙色に染まり始めた空を眺めながら帰り道を歩く。最近暑くなってきたなと思う。日も長くなってきた。少し前だったらもうこの時間には完全に日も落ちて真っ暗だったのに、今は少し暗くなってきたなという程度だ。

 

 私一人分の足音が響く、いつもの帰り道。少し離れた車道を1台の車が勢いよく私の事を後ろから追い抜いて行った。

 

 本当は少し遠回りになる方向への曲がり角を曲がって、いつも通りあの店の方を確認して。目を、見開いた。

 

 

 灯りが、ついてる。

 

 

 シャッターが閉まっていない。遠くから見ても分かる。引き戸に掛けられてこちらを向く「営業中」の文字。

 

 

「開いて、る?」

 

 信じられない。この十年毎日見てたけど、1日だって開いてることはなかったのに。目をこすって もう一度見て見る。やっぱり、変わりはない。頬をつねってみてもう一度確認する。夢じゃない。

 

 弾かれるように駆けだした。自分では今風よりも速く走っているつもりなのに、私の足は遅々として進んでくれなくて。目的地との彼我の距離はなかなか縮まらない。運動音痴な自分の事を今日だけは呪ってもいいだろうか。最近はあきらめ気味でいたのに。どうにかたどり着いて、息を整えながら引き戸に手をかける。もう一度息を一つ吸って、ガラリと開け放った。

 

 記憶通りの場所が、そこにはあった。

 

 記憶よりもかなり高くなった視界から見ても、その空間を形作る要素の一つひとつが私の記憶の中のそれと一致する。今時信じられないくらい安いお菓子が並ぶ棚も、壁に掛けられた時計も。カウンターに座る男の人も。全部、ぜんぶ、私の記憶のまま。

 

「悠仁店長てんちょー…」

 

 少し驚いたように目を開いてこちらを見る店長の名前を呼ぶ。この名前を声に出すのは、何時以来だろうか。10年ぶりです、今までどこにいたんですか。なに、してたんですか。

 

 お久しぶりです。そう続けようとして、言葉に詰まる。そうだ、何年ぶりだと思っているんだ私は。私は、あの時からどれだけ変わった?向こうは変わってなくても、私は違う。

 

 私が覚えていても、向こうは違うんだ。気づけという方が無理だ。現にほら、驚いているじゃないか。知らない人が急に勢いよく店に入ってきたらそれは、驚く。落ち着いて、息を整えて、まずはーー

 

「ななちゃん」

 

「いらっしゃい」

 

 一番乗りだよ、と笑うその様子。子供だったころの私は、見上げることしかできなかったから、この高さから見るのは新鮮で。でも、泣いてしまうほどに懐かしかった。

 

「わ、かるんですか?」

 

「覚えて、るんですか?」

 

 

「もちろん、もらった四葉だってずっと持ってる」

 

 懐から出てきたのは、綺麗にしおりに加工された私がプレゼントした四葉で。大切にしてくれてたのが一目で分かる。久しぶりに名前を呼んでもらったな。私が、小さな子供が渡したものを、ちゃんと持っててくれたんだな。

 

 

 

 そっか、そっか。

 

 

 

「悠゛仁゛て゛ん゛ちょ゛~っ‼」

 

 

「なんだ、泣き虫は昔とかわらないなぁ」

 

 あぁ、やっと泣けた。

 

 よかった。悠仁店長が傍にいるときに泣くことが出来て。

 

 だって、あなたが来てくれる。

 

 

 

 

 

 辛抱強く話を聞いてくれる悠仁店長を相手に、支離滅裂なことを沢山喋った気がする。カウンターから出てきた店長が、あの頃よりも高くなった私の視線に合わせるようにかがんだことが懐かしくて、また泣いて。

 

 10年も何をしていたんだ、だとか。なんで全然変わらないんですか、だとか。

 

 戻ってきてくれて嬉しい、だとか。

 

 

 正直あんまり覚えていない。あんなに泣いたのは久しぶりだったから。泣き虫は卒業したつもりだったのに。ちゃんと覚えているのは、泣きはらした様子で帰ってきた私に驚いて心配する母の顔と、

 

 

 また来てね、と手を振る悠仁店長の姿だけ。

 

 今までずっと落ち込むだけだった私の日課は、これからは楽しい時間になりそうだ。

 

 

 

 

 

「呪具化、ですか?」

 

 聞きなれない言葉に首を傾げる。呪具、呪いの道具と書くのだろうか。店長を除けば私はこの世で1番呪いに詳しいという自信があるが、それはそれとして知らないことも多い。

 

 ただ、察するに何らかの要因で呪力を持った道具、と言ったところだろう。

 

「あぁ、そうだ。どうも進んでいるみたいでな」

 

 確かめるように自分の手を握っては開いてを繰り返している店長の様子を眺める。今日は休日で時間があるので、店を開けると言っていた店長の手伝いをしているところだ。10年前はいつもやっていた朝の店の前の掃除からやりたいらしく、今は店長が掃除道具をもって店の外に出ようとしている。

 

 

「そうなったらどうなるんですか」

 

「それは、あー、見てもらった方が早いか」

 

 そう言って店の外に落ちていた少し大きめの石を一つ拾い上げる。私の手の中にすっぽり収まるくらいだろうか。その石を店長の手の中に握りこんで、次の瞬間、粉々になったその残骸が手の中からぽろぽろと零れ落ちた。

 

「…は?」

 

 おかしいだろう。その体では人並みの身体能力しか出せないというのは、わたしが一番よく知っているはずだ。あまりにも出力を上げ過ぎると壊れてしまうから、今見たような光景は生み出されないはず。そんな思考が目の前で実際に起きたことを受け入れてくれない。どういうことだ一体。

 

 

「彩葉の作ってくれた体が、思った以上に人間と変わりなかったから、どうも今の俺は受肉しているのと変わらない状態らしい」

 

 

 魂に引っ張られて、身体の強度、出力も上がってる。そう言いながら今度はもう一つ拾い上げた石を手の中でみじん切りにして見せた。知識としては知っていても、実際には初めて見たその光景に目が点になる。ツクヨミで見せられるのとは違うのだ。現実味があまりにもなさすぎる。

 

 

「まって、待ってください」

 

 店長とヤチヨの身体の耐久度という点で少し不安があったのは事実。喜ぶべきことなのだろう。私が今気にすべきことはそこだ。でも、ちょっと考えを整理する時間がほしいな。

 

「ヤチヨの身体も、同じようにできますか?」

 

「出来はするが…」

 

 

 多分ヤチヨに適合しなくなるだろうな、という。それはそうだ。呪力は個人で違うのだったか、多分店長専用のようになってしまうのだろう。そう簡単にはいかないな、とため息をつく。

 

 

「店長、それ、ちゃんと片づけてくださいよ?」

 

「分かってる分かってる」

 

 とりあえず考えるのをやめた。この感じなら今も店長は地球上で最強の生物なのだろう。心配するだけ無駄だ。ただ、今研究所で店長の義体がたたき出すデータを計測したら、多分研究員が全員泡吹きながら倒れるんだろうな。

 

 塵取りで先ほど自分で増やしたごみを回収し、店先を掃除し始めた店長を眺める。ここでアルバイトをしていた時は、休日に入った時によく見ていたこの景色。カウンターに座ったら完璧だなと考えて座ってみる。

 

 あの時から私の身長は変わっていない。だから、ここに座れば全部あの時のままだ。

 

 

「あら、本当に開いてる」

 

 

 下を見ながら掃除をしていた店長の顔が上がる。どうも誰かが来たらしい。私としても見覚えのあるあの女性は、確か坂本さんだったか。何回かおすそ分けをしてもらったこともあって、お世話になった人だ。娘さんが良くここに来る常連さんだったことを憶えている。

 

 最初は、ここに来る子供たちの名前を全員分ちゃんと覚えている店長に少し引いていたのに、私も10年経ったのに覚えている物なんだな、と少し感動だ。

 

「娘がね、久しぶりに開いてるのを見たっていうから」

 

「えぇ、おかげさまで。お久しぶりですね」

 

 話が弾んでいる。高校生の時にお世話になった人だから、私も挨拶しておくべきだろう。そう思って席を立った。今の私は私服だから、変に思われないようにバイトの時につけていたエプロンもつけておこうか。

 

 引き戸に手をかけて、外に出る。こちらを見て目を見開く坂本さんにお久しぶりです、と頭を下げた。

 

「もしかして彩葉ちゃん?大人になっちゃって~!」

 

 勢いよく手を握られる。凄いな、実の母にだってこの勢いで来られたことないぞ。あの人がそんなことをするのは全く想像できないといわれればそうなのだが。

 

「隈もないわね、元気そうでよかった!」

 

「その節はご心配をおかけして…」

 

 高校の頃の限界だった私を知っている人だ。寝不足が祟って酷い顔でバイトに出てきていた私を見て、こんな娘を働かせるなんてと店長に怒り始めたのを必死で止めたのはいい思い出だ。店長は逆に私を休ませてくれてたんだから、怒られるのは筋違いもいいとこなので、言い訳してほしかったけど。

 

 店の外にでて、店長の隣に並ぶ。こうやってエプロンつけた状態で並ぶと、高校生の時みたいだ。髪型も合わせてみればよかったかな。

 

「あら?あらあら」

 

 坂本さんの視線が私と店長の間を行き来する。そう言えば当たり前のように出てきてしまったが、10年経っているのだ。当時の学生バイトが普通に出てくるのはおかしいのではないのか。

 

 これではまるで

 

 自分でしてしまった想像に勝手に頬が熱くなる。ちょっと待ってくれ。今の私はどう見えているんだ。

 

 

「もしかして…、そういうこと?」

 

 店長を見る。私の姿を見る。昔と同じ並び、同じ格好。でも、違うのはあれから10年経っているということで。私は、もう子供じゃない。

 

 元々触れそうなほど近くにあった店長の手を取る。昔だったら、絶対にできなかったこと。でも、いまなら

 

「そ、そういうこと、ですっ」

 

 具体的には何も言ってない。だから、良いはず。許されるはず。もっと自然な風に言うはずだったのに、声が少し上ずってしまった。坂本さんの目が再び見開かれる。でもいってしまったからにはもう戻れない。

 

 

「ね?悠仁さん」

 

 ここにいる間は、良いじゃないか。ずっと、ずっと。貴方と二人で静かに過ごす時間を夢見ていた。

 

 

 

 

 

 少しくらい、二人で、いいじゃないか。

 

 

 




家に帰ったら伝わります。
ななちゃんの脳は破壊されました。

ifの扱い

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  • 普通の後日談も交えつつ書く
  • 書かんでいいから後日談だけ書く
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