[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん] 作:夕暮れの家
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「店長、一緒に住みませんか?」
なんでもないようにそう切り出した。ずっと考えていたことだ。店長が元々住んでいた八月は私とかぐやで管理して10年前とほとんど同じ状態で残っている。
暮らそうと思えば今からでも暮らせるだろう。きっと店長もそうするものだと思っているのだろう。でも、でもだ。10年間もずっと会いたかったのだ。私も、かぐやも、ヤチヨも。皆店長と一緒に過ごす時間なんていくらあっても足りないのだ。
私は、研究者としての立場上今は店長と一緒に居る時間は長いが、いずれこんなに付きっきりで見る必要もなくなるのだ。そうなって、店長は店長に戻って。あの店で昔と同じように静かに座って。
その光景は嬉しい。ずっと望んでいたいつも通りだ。でも、研究者という立場を得てしまった私は10年前と同じように店長と並んで座ることは出来なくて。アルバイトという立場が無ければ一緒に居られる時間が減ってしまう。そんなの、悲しいではないか。
「俺も彩葉たちと一緒に居たいが、…いいのか?」
10年前なら絶対に言わなかったであろうそんな言葉を聞いて不覚にも頬が赤く染まる。どういう心境の変化か、起きてから店長はこんなことを真顔で言うようになった。勘弁してくれ。
当時高校生だった私は人づての褒め言葉でもいっぱいいっぱいだったのに。10年経った後でも直接だとこうなるのだ。でも、良かった。店長も私たちと一緒に居たいと思ってくれているのか。
「悠仁、一緒に住むよねぇ。その方が楽しいよ?」
「かぐやもこう言ってますし、私もその方が嬉しいです」
店長が起き上がってからべったりとくっついて離れないかぐやからの援護射撃もあった。その隣では画面上のヤチヨもうんうんと頷いている。4人で住めたら、どんなに楽しいだろうか。いまはかぐやと二人きり、一人で暮らしてた時よりも寂しくない、いつも家に自分以外の誰かの気配がある、というのは思っていたよりもいいものだ。それが自分の大切な人ならば、なおさら。
でも、かぐやが配信を引退して、店長と過ごす時間が無くなって。足りない、と思い始めた。ずっと、一人だったのに。一人だけの力で生きていこうと決めていたのに。私はいつの間にか欲張りになってしまっていた。店長が帰ってきてくれればそれでいいと思っていたのに、それ以上を求めてしまう。
「だから、一緒にかえりましょう?」
「そうだな、お邪魔させてもらうよ」
ありがとう、と店長が微笑む。それだけで飛び上がってしまうほどに嬉しい。現にかぐやも相当に燥いでいるのが分かる。でも動きが少ないのは店長の身体を気遣っての事なのだろう。店長が昔のままならばその場で飛び上がるくらいの事はしていただろう。私が一応注意していたこともあるが、かぐやも昔よりもそういうところが増えた。
でも店長、一つ間違えてますよ。
「お邪魔じゃないですよ?帰ったら、ただいまって言ってください」
「そうか、…そうだな」
よかった。一緒にやりたいことが沢山あるんだ。私も、かぐやも。勿論ヤチヨだって。朝起きてすぐにあなたに会えたらどれだけ楽しいだろうか。幸い私たちが今住んでいるところは家賃が高いだけあって広さにも勿論余裕がある。余ってる部屋だってあるので、そこを使えばあと2人なら全然問題ないはずだ。
実はもう店長とヤチヨの分の部屋は開けてあるのだ。私とかぐやの分の部屋のネームプレートは昔かぐやが書いたものが使われている。店長とヤチヨの分も書きたいと言っていたので、任せてみたらつい最近作っていた。出来上がったそれらを見て、そして自分たちの部屋にかかっているものと見比べて。字、上手くなったね、と笑ったのは記憶に新しい。
「じゃ、じゃあすぐ帰りましょう!」
「悠仁の部屋あるよ?一緒に住も?」
『ヤッチョも行くよ!画面越しだけどね~』
店長の手を引く。自分が造ったはずの物なのに、店長の物であると認識した途端握るのに少し躊躇してしまった。それくらいのことは10年前に…。
いや、まて。10年前の私は店長と手を繋いだことすらないな。手を取ったことはあっても、ない。そもそも何も伝えられてないのだ。店長の中での私は一体どういう立ち位置なんだろうか。只のバイト?それともそれなりに親しい間柄だった年下の子供?
ずっと考えずにいたことが店長が起きてくれた安堵とともにあふれ出す。それと共に先ほどの自分が何をしたのかが頭の中にフラッシュバックした。私は何をした?いくら勢いとは言え、店長に思い切り抱き着かなかったか。
急に店長の手を取った自分の手が熱をもつ。10年だぞ。自慢じゃないが拗らせている自覚がある。かぐやと手を繋ぐのとはまた違う、大人の男の人の手だ。
「えぁ、あ、ぁの…」
「どうした彩葉、顔が赤いぞ」
熱でもあるのか、と店長の逆の手が私の額に当てられる。熱はないようだと安心した表情を見せるその顔を見て、熱を感じるための機能は正常に機能してるみたい、という研究者としての私と、まだ何者でもなかった、高校生の頃の私の感情が同時に頭の中を駆け巡る。
かぐやは先ほどから店長にコアラのように引っ付いて全く離れようとしないし、ヤチヨは何かを察したようにこちらをニヤニヤしながら見ている。くそう、さてはこうなることを予想してたな?ヤチヨの義体が完成したら絶対に水と粉のパンケーキを食べさせてやる。私が本当に限界だったころに開発した画期的な水増し食品。ただし味の保証はしない。せいぜい苦しみながら食べてもらおう。
「だ、大丈夫ですっ!」
ぱ、と店長の手を離して跳び退る。全く考えてなかった。この10年間、あなたを探すことだけに集中してたから。ずっと、あなたに会いたいと思っていた。あなたが戻ってきてくれたらどうしようか、というのはかぐやとヤチヨと一緒にずっと話してて。
でも、頭からすっかり抜け落ちてた。店長は、わたしが店長の事をどう思っているかなんて知らなくて。私も、店長が私の事をどう思っているかは知らない。当たり前のように一緒に居るものだと考えていたから、そんな部分に考えが及んでいなかった。いいな、ヤチヨは。8000年も一緒に居たのだ。これからだってずっと一緒だと迷いなく言うことが出来る。
私は、何と言えばいいんだろう。10年前のあの時、かぐやに作った曲にのせて届けようとした思いは、まだ直接言葉にして発したことなんてなくて。迷うように口を開いては、閉じることを繰り返して。結局、私の中の気持ちが言葉という形をもって外に出てくることはなかった。
日和ったともいうだろう。
「彩葉、俺には分からないが、俺はすぐに外に出て大丈夫なのか?」
「あ、あー…」
至極当然の疑問だ、それを受けてやっと思考が冷え始める。浮かれ切った頭がようやく研究者としての思考に切り替わった。
「そう、ですね。色々確認しなきゃいけないことがあるので、数日は…」
「えー?悠仁帰れないの?」
「かぐやには説明したでしょ?」
私もかぐやの事は言えないな、と心の中で笑う。私もついさっきまでは同じような思考になってたし。それにヤチヨも何も言わなかった。ヤチヨに関してはあわよくばと考えていただけの様な気もするが。
「私も、その間は研究所にいますから」
「かぐやも泊まる!」
最初からそう決まってた筈だ。流石に店長を一人でここに残して帰るというのはどうなのだろう、という話になって、ここで所長をやっているので色々と融通の利く私がその間はここで泊まって、かぐやはヤチヨと一旦家に帰って、日中会いに来るという風に決まったのだ。しかし、土壇場になってかぐやは考えが変わったらしい。
「私も悠仁と一緒いるっ!」
「ほらでも、一応かぐやは部外者だし…」
「やーっ!」
「うーん…」
困った。確かにこの話が決まった時は嫌に素直に納得したな、とは思っていたんだ。確かに部外者であるブラックオニキスの3人や、芦花と真実も頻繁に出入りしていると言えばそうなのだが、一応彼らは出資者としての立場がある。それに泊っているわけではないのだ。それをふまえると、うーん、どうなのだろうか。
両手両足で店長にしがみついて絶対に離さないぞと徹底抗戦の構えを見せるかぐやに、どうにかならないかと視線で問いかけてくる店長。相変わらずかぐやには甘いままか。本当にこの人がかぐやのお願いを断ったところなんてほとんど見たことがないのだ。
ため息を一つつく。一応ここの研究所で一番偉い人なのだ。多少の無理は通るだろう。
「ただし、今日だけだよ?」
「えー?」
『じゃあヤッチョもこっちいるーっ!』
「ヤチヨは…、まぁ、大丈夫か」
タブレットの中から顔を出すヤチヨは、端末があればどこにでも顔を出すことが出来る。ヤチヨに関してはそこまで心配しなくてもいいだろう。そもそもいつもわたしの研究を手伝ってくれてるわけだし。
「じゃあ、店長。ちょっと立ってみてください」
かぐやが引っ付いたままだからいつまでも座ったままだった店長にそう促す。一旦かぐやには離れてもらわなければいけないだろう。気持ちは分かるが、こちらとしても確認したいことが多々あるのだ。
「ほら、かぐや。いったん離れて」
「やっ」
「やっ、じゃないのよ…」
このままじゃ何も進まない、どうにか引き剥がしてやろうと格闘する私と、絶対に離すまいと手に力を入れるかぐや。そして相変わらずかぐやに激甘な為に私に加勢することが出来ず、手持ち無沙汰になった手で取りあえずとでも言いたげにかぐやの頭を撫で始めた店長という全く生産的でない三すくみによる戦いが始まった。
というか店長、それは逆効果ですから今すぐやめてください。かぐやが満足げな顔して逆に離れづらくなってますから。
結局この仁義なき戦いは、かぐやを引き剥がすことなくそのまま立ち上がった店長によって収束することとなった。店長曰く違和感と言えば、身体が少し重いということくらいらしい。
「店長人とは思えない身体能力してましたもんね…、すみません、そこまで再現は出来ず」
「いや、あれは…。ま、大丈夫だ」
何時の間にか背中に移動しておんぶの形になって満足げな表情を浮かべるかぐやを眺める。10年前でもそうだったが、良く少しのためらいもなくそこまで密着できるものだ。私に対してもそうなのだが、かぐやは距離感がバグりがちなところがある。流石にここまでなのは私と店長にだけのようだが。それに私ではあそこ迄軽々とかぐやの事を支えられないので、簡単に自分の事を持ち上げてくれる店長に体重を預けに行くのだろう。
それはそれとして少し羨ましい。私には出来ないことだ。先ほど思い出しただけでも頬が熱くなるのを自覚できるほどだったのに、かぐやと同じことをしたら自分でもどうなるのか。それに、店長だって困惑するだろう。
「じゃあすみません、色々と確認させてください」
「あぁ、かぐやは…」
「かぐや~?」
「満足するまで動きませ~ん」
「だ、そうだ」
「『だ、そうだ』じゃないんですよ…」
店長としてはかぐやが自分から降りてくれない限り下ろすという選択肢はないようだ。店長が良いならもうそれでいいんだけど、ヤチヨも先ほどから羨ましそうにかぐやの事を見ているのだ。ヤチヨの義体ももうすぐに出来る。あと数日と言ったところだろうか。そしたら店長はヤチヨとかぐやの対応にかかりきりなりそうだな、と笑って。
少し胸に走った痛みに自分でも驚いた。私は、私の望みは4人全員でそろって昔みたいにいつも通りに過ごすこと。店長を独り占めしたいわけでは、もちろんなくて。かぐやとヤチヨだって同じくらい大切。
でも、でも。
ずるい。私だけ、関係は10年前のまま。
少しくらい欲張っても、良いのだろうか。
★
今日やろうと思っていた検査はつつがなく終わり、あとは次の日にということになった。結果はオールグリーン。びっくりするほどなんの問題もなかった。むしろ、一部で予想していたよりも少し高い数値が出て驚いたことくらい。全く問題ではないのだが、それが身体能力の部分に偏っていたのはすこし気になるところ。かぐやを軽々と抱えたまま何でもないように動いていたのでなんとなくそんな気はしてたのだが。
「悠仁ー、ゲームやろー?」
『ヤッチョもまざる~』
「いいぞ。…なんだこのハード、知らん、怖…」
「10年もたってるんですから、それはそうですよ」
研究所の宿直室は実のところかなり生活しやすい空間となっている。流石に3人ともなると少し手狭にはなるが。
業界きってのホワイト職場として知られる我が研究所だが、私としてはやむにやまれず泊まることも一回や二回ではなくて。それを嫌がったかぐやとヤチヨとの落としどころとしてせめて滅茶苦茶快適な場所で寝てくれ、とのことがあったからこうなっている。私としてはソファでそのまま寝てもよかったのだが、それを言うとかぐやが見たこと無いような顔をしていたのですぐにその意見はひっこめた。
10年の内に急速に進化したゲームハードの操作に四苦八苦する店長と、それを見て楽しそうに笑うかぐやとヤチヨ。ツクヨミに入ればヤチヨも同じようにゲームが出来るのだが、目と脳関係の検査はまだなのだ、申し訳ないが一応スマコンの装着は出来ないということになっている。万が一があったらいけない。
とりあえずまだ操作がおぼつかない店長をぼこぼこにするのは止めてあげたほうがいいと思うんだ。かぐやも、ヤチヨも。楽しくてブレーキが効かなくなってしまっているようだ。
考えてみればこうやって並んでゲームする何て初めての事だな、と横目で画面に集中する店長の事を見やる。ずっと一緒に居た気がしてたけど、私は店長がゲームをやっているところなんて見たことがないな。
拳一つ分あった店長との距離を少し詰める。胡坐をかいた店長の膝と触れてしまいそうな距離。かぐやなら簡単に踏み越えていけるような、そんな距離。
「お、教えましょうか…?」
「いいのか、助かるよ」
そう言った店長が少しこちらに体を傾ける。私が少し寄っていたのも合わせて彼我の距離が0になる。私の肩と店長の肩が触れる。その瞬間、私の頬が少し熱を持つ。10年もたったのに、私は全く成長していないのか。店長を見ても、あまり気にしていない様子だ。いつもかぐやに引っ付かれてますもんね。こんなに気にしているのは私だけなんだろう。
「む、わたしも混ぜてっ!」
後ろから私と店長を同時に抱きしめるように両手を広げて引っ付いてきたかぐやの所為で、私と店長の距離が先ほどとは比べ物にならないほどに近くなる。当然、触れるのも肩の一部だけではなくて。
「~~ッ!!」
瞬間、全く予想だにしなかった密着に私の心臓が跳ね上がる。声が出てなくて本当に良かったと思う。きっと顔も見せられないほどに赤くなってて。どうにか俯いて隠すことしかできなかった。
『…ずるい、ヤッチョは混ざれないのに』
「や、ヤチヨの義体もすぐに出来るから…!」
ヤチヨの不満そうな声を聴いて、かぐやがぱっと離れて、焦りながらヤチヨに謝っている。それはそうだ。数日と待たずできるようになるとは思うが、それでもあまり面白くはないのだろう。
すぐにツクヨミにログイン出来るようになれば大丈夫だったのにな、と関連する検査を前倒しすることを考えながら息を落ち着ける。店長に操作を教えなければいけないんだった。危なく全部頭から飛ぶところだったぞ。
「大丈夫そうですか?店長」
少し教えればすぐに、店長はかぐやに一方的にぼこぼこにされることはなくなるくらいには上手くなっていた。かぐやだってかなりうまい方だと思うのだが。
「ありがとう、助かったよ」
そう言って笑う店長。本人としては何気なく言った言葉なのだろう。でも、私にとってはそうではなくて。『お疲れ。今日もありがとう、助かったよ』いつもバイトを終えて帰る私に店長がかけてくれた言葉。
色んな人に言われたことはあっても、あなたに貰うその言葉は、いつも何か違くて。
そんな言葉で、今更ながらに本当に帰ってきたんだと自覚した。
「あ、れ?」
涙が零れる。おかしいな、こんな、何でもないことで。
手を伸ばす。店長の腕に触れる。もう一度触って確かめる。店長だ、ここにいる。夢じゃないんだ。確かにここにいて、昔みたいに、あなたの言葉は特別で。
「彩葉?」
あぁ、やっぱり。私が泣いたら心配してこちらを見てくれるのも変わらなくて。視点が違うのに少しかがんで目を合わせてくれるのも、昔のまま。店長だ。店長がいる。
「あたま、なでてください」
そう言いながらも私の両手は店長の腕から離れてくれなくて。だから、私の頭に乗った店長の手はそれとは反対の手だ。ゲームは良いんだろうか、かぐやの相手は。そんなこと考えが浮かんでは消える。店長の片手を抑えてるのは、私なのに。
優しくて、大きな手だ。変わらない。胸の奥に温かい火が灯る。ずっと恋しかった、あなたの手も、言葉も、あなたの瞳も。それが全部、昔と変わらずここにあって。
でも、自分からねだったのはこれが初めて。
かぐやなら、簡単に言っちゃうんだろうな。でも、今の私には、これが精一杯で。
でも、嬉しいな。店長だ。店長がいる。
にへらと力の抜けた笑みを浮かべる。ねぇ店長、今の私には勇気が足りなくて、口に出せなくて。こんなことでいっぱいいっぱい。
でも、口に出せたら。ちゃんと聞いてくださいね。
私は、あなたの特別になりたいです。
最終回の告白の裏で、何かしらの葛藤があればいいなと考えたわけですよ。そもそも10年間はそんなこと考える余裕はなかったでしょうし。つまり、店長に対してはそこら辺の情緒が10年前からあまり変わってないと楽しいですね。
ifの扱い
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このまま最後まで書く
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普通の後日談も交えつつ書く
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書かんでいいから後日談だけ書く