[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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 全然関係が進展しないので初投稿です


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「ねぇ、彩葉」

 

 学生時代は毎日のように顔を合わせていたのに、今ではもう1月に1、2回会うことができればいい方、となってしまった友人二人。まぁ、周囲を見渡せば、高校時代の友人と今でも続いている大人なんて数えるほどしかいない。きっと私は恵まれているのだろう。

 

「彩葉ってば」

 

「なぁ~にぃ~?」

 

 3人で集まれないときは大体私の予定が合わない時。うちの研究所の労働環境はホワイトだけど、やりたいこと、やるべきことは次から次に湧いて出てくるから。2人には随分迷惑を、心配をかけてしまったと思っている。

 

「酔いすぎだよ?珍しい…」

 

「ほら、お水飲んで」

 

 芦花から差し出された水を口に含んで飲み込む。喉の奥を詰めたい水が流れていく感覚と共に、少しだけ火照った頭が冷やされた。

 

「嬉しいのは分かるけど、飲みすぎるのは駄目だよ」

 

「そうだそうだ~」

 

「ご、ごめん…」

 

 先ほどまでの自分の様子を思い返し、自省する。呂律が怪しくなるまで酔ってしまったのなんて何時以来だろうか。

 

「それで、何時会わせてくれるの?」

 

「うん、二人の次の休みには」

 

「楽しみ~」

 

「久しぶりだね、店長さん」

 

 こうやって食事だけでも、という形でもよかったのだが、かぐやが「どうせなら1日使って派手にいこうっ!」とぶち上げたので、そういうこととなった。今日は、店長は二人に会うと言ったら快く送り出してくれた。

 

…別についてきてくれてもよかったのに

 

「一緒に住んでるんでしょ?ヤチヨもかぐやちゃんも」

 

「うん」

 

「よかったねぇ、報われたねぇ」

 

 花丸あげちゃう、と芦花の指が私の額をなぞる。高校生の時から変わらないな、その癖も。芦花には何回も花丸をもらってきたが、今回のが一番うれしい。

 

「芦花ぁ~」

 

「わわっ」

 

 隣に座っていた芦花に体重を預ける。ずっと傍に居てくれた。芦花も、真実も。あなたたちがいなかったら私はどこかで折れてしまってたかもしれない。

 

「ありがとね」

 

「…うん」

 

「わたし、間違ってなかったよ」

 

 私の周りには私の弱さを受け入れてくれる人がたくさんいる。本当に、恵まれてるな。何だろ、最近泣いてばかりだ。

 

 

 

 

「それで、恋人にはなれたの?」

 

「う゛」

 

 店長が私の事をすごく大切にしてくれてるのは分かる。何においても私を優先してくれているのはとても嬉しい。

 

 でも、やっぱり店長の中の私は子供のままな気がする。流石にかぐや程猫かわいがりされているわけではないが、それでもだ。10年経ったんだぞ。もっと大人扱いしてくれてもいいじゃないか。

 

「告白も、…してないねぇこれは」

 

「う゛ぅっ」

 

 違うし、まだヤチヨの義体の検査が全部終わってないからだし。咄嗟に頭の中に浮かんできた言い訳のレベルの低さに自分でも落ち込む。分かっているんだ、本当は。

 

「初心葉」

 

「初心葉だねぇ」

 

 可愛い可愛いと対面に座る真実が手を伸ばして私の頭を撫でる。やめてくれ、こちとらもうアラサーだぞ。

 

「だって」

 

「だって、怖い」

 

 店長が私の事をどう思ってくれているのかなんて、分からないんだから。かぐやくらい分かりやすくいてくれればいいのに。私は、かぐや程ストレートに想いを伝えられる勇気が無くて。ヤチヨみたいに店長と長い時間をかけて築いてきた絆もなくて。

 

 10年、想うことしかできなかった時間の長さに比例して、今まで考えまいとしていた事実が私の肩に重くのしかかってくる。

 

 言葉にするのが怖い。言ってしまったらすべてが終わってしまうのが怖い。そのままでいいかな、なんて弱気が常に私の思考を鈍らせていく。私は、臆病者だ。言葉にしたいな、でも、と何度も何度も繰り返して。世間に謳われる若き天才科学者が聞いて呆れる。

 

「研究者の時の顔はあんなに凛々しいのに」

 

「今はよわよわだね」

 

「う、うるさいな」

 

 私だってこんなことになるなんて思っていなかったんだ。少し前までは余裕が無くて。でも、未来に対しての疑いなんてなかった。今は、前が開けてしまったから、私はずっと道に迷ってばかり。

 

「実は手も繋いだことないんでしょ?」

 

「初心葉~」

 

「やめてよ、もう」

 

 からかわれ、背中を押されて。そんなやり取りを続ける中、放たれた真実の一言で場の空気は別方向に変化することとなる。

 

「でも、店長さんって女慣れしてるよね」

 

 確かに、と芦花が同調する。発言の意図を掴み切れていない私が首を傾げていると、二人にジト目を向けられてしまった。

 

「彩葉にはわかんないかな」

 

「店長さんしか知らないもんねぇ」

 

「わ、私だって男の人の知り合いくらいいるし」

 

「でも、興味ないでしょ?」

 

 ぐうの音も出ない。知り合いと言っても仕事で話すくらいだし、プライベートの話をしたことなんてない。それに、高校大学と共に何故か距離を置かれていた、というか遠巻きに眺められていた感じなので本当にほとんど異性との接点がないままここまで来てしまった。ずっと共学に通っていたのになぜ。

 

「男の人の視線ってね。こっちの顔から、胸、で足っていって、最後にまた顔に戻ってくるのがほとんどなの」

 

 どこ見てるのかなんてこっちには丸わかりなのにね、無遠慮なんだ。とモデルとして人前に出る仕事の多い芦花が言う。下心なんてもっと分かりやすい、と。

 

「でも店長さんって、絶対目を合わせて話してくれるでしょ?視線が下に行ったりしないの」

 

 びっくりだよね、こっちが照れちゃうくらい。そう言いながら2人で頷き合う。そうなのか。私と話す男の人は研究者で完全に視線が資料に落ちてこっちの話を聞いてるのか怪しい人たちや、何故か明後日の方向に視線がそれているかの2択だったので知らなかった。

 

「…彩葉も1回合コンにでも行ってみれば分かるよ」

 

 ピンと来てない様子の私に、芦花がかぐやを見るときの様な目を向けてきた。失礼な、2人程実感がこもっているわけではないが、思い出したことがあるぞ。下心を多分に含んだ視線のこと、店長に初めて会った時の事、それと前のバイト先で、何度かあったな。それらの事を思い出すと寒気と共に腕に大量の鳥肌が立ってしまった。

 

「下心ないの、凄いよ」

 

 腕をさすっていると、しみじみそう呟く芦花がいた。そんなにか、そんなになのか。

 

「でも、そうじゃなきゃ一緒に海になんていけないよ」

 

 水着に着替えるしねぇ、と再び顔を見合わせて笑う2人。全然考えが及んでいなかった。あの時二人が店長も呼んでいいと言ってくれたのはすごいことだったのか。当時を思い出して、店長を誘ったときの自分の所業を思い出して羞恥から撃沈してしまう。あんなことするから子供に見られてしまうんじゃないのか、当時の私よ。

 

「えぇと、何の話だっけ」

 

「店長さんが女慣れしてるよねって話」

 

「そうそう、かぐやちゃんみたいな美少女に四六時中引っ付かれてるのに何もないって、凄いことだよ?」

 

「む、確かに」

 

 かぐやは私に対してもあんな感じなので完全に感覚が麻痺してしまっていたようだ。でも言われてみれば確かにそうだ。

 

「だから、えぇと」

 

 三度、真実と芦花が顔を見合わせる。そして口ごもる。何だというんだ、こちらを気遣うようにチラチラ見て。そんなに言いにくいことなのか。

 

「えっと、店長さん、恋人がいたことがあるんじゃないかなぁ、なんて…」

 

「…えっ」

 

 私の手から滑り落ちたグラスがテーブルにぶつかって鈍い音を響かせる。中身が入ってなくてよかった、何て頭の片隅で考えて。他の全ての部分は今の言葉の意味をかみ砕くために必死だ。

 

「だ、だってほら。絶対モテるし、いない方がおかしいな、っていうか」

 

「こら、真実」

 

 考えたこともなかった、だって店長は、何時だって、私たちの傍にいたから。

 

 でも、そうだ。店長に私の知らないここに至るまでの長い長い道のりがあるんだ。…いや、待てよ。私は知っているはずだ。ヤチヨと店長の8000年の旅路を。こんな時に役に立つなんて予想外もいいところだ、と少し感動しながらFUSHIに見せてもらったそれらを1から思い返してみて。

 

 再びの轟沈、鍛錬と言ってヤチヨから離れる時間がそれなりに存在していた。ヤチヨの知らない店長だけの時間。そこで何があったか。誰かと会っていたのか。今の私の思考は悪い方向へ悪い方向へとどんどんと傾いていく。

 

「そっ、か」

 

 店長は長く生きてきたんだ。私の知らない恋愛の一つや二つ、そりゃああるよね。10年前だって、子供たちにあれだけモテてたんだ。ない方がおかしい。それに気が付いてなかった私が悪いんだ。

 

 ゆっくり飲め、と言われて少し離れたところに置いていたお酒をつかんで勢いよく煽る。分かってる、分かってるんだ。そっちの方が自然だって。でも、せめてこの場が終われば忘れられれば、どれだけいいか。

 

「そうだよね」

 

 大丈夫。今は私たちの傍にいてくれる。8000年間に、店長がどんな人と恋仲になっていたとしても、今、私たちの隣に居てくれたなら、それだけで。

 

 アルコールが回って思考力が鈍ったとしても私の思考は止まってくれることはなくて。私の知らない、綺麗な女性が店長の隣にいて、店長の視線がその人に釘付けになっている光景を。店長の優しさが、全部その人に注がれているその光景を鮮明に私の脳裏に映し出してしまった。

 

「…やだ」

 

 もう一口、お酒をあおる。願わくば脳裏に浮かんだ光景も全部、それで流れていってしまえと思いながら。でも、喉を焼くようなアルコールの味は、何故だか私の思考をクリアにする役目しか果たさない。

 

「そんなの、やだ」

 

 

 店長には私たちの事だけを見ててほしい。目線も、優しさも、全部私たちだけに向けてほしい。我儘だということなんか分かってる。店長が誰にでも優しい人だということも分かってる。でも、私は。

 

 気が付きたくなかったな、こんなこと。私が抱えてるのがこんな子供じみた独占欲だなんて。店長がかぐやの事を簡単に名前呼びし始めたことに嫉妬してしまったあの時からまるで成長していない。勝手に想像して、勝手に傷ついて。勝手に嫉妬して。馬鹿みたいだ。

 

 

 

 

 

 何様だ、私は。まだ店長のなにになれたわけでもないくせに。

 

 

 

 一歩踏み出す勇気だってないくせに。こんなこと思う資格なんてないのに。

 

 

 

 また一口、お酒を喉に流し込む。慌てたように謝る真実と、私の持つグラスを取り上げようと手を伸ばしてくる芦花の姿が、その日の最後の記憶となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「てんちょー、なんでいないの?」

 

「えぇ…」

 

「どうしようか、これ」

 

 完全に酔いつぶれてしまって呂律が回らないどころか少しだけ幼児退行している彩葉を前に、真実と顔を見合わせる。真実が余計なこと言ったからこうなったんだけど、と抗議の視線を送ると、まさかこんなになるとは思わないじゃん、とでも言いたげに勢いよく首を振られた。さもありなん。私もこんなになった彩葉の姿は初めて見た。いつもはお酒に強いから、酔ってしまった私を介抱する側なのに。

 

 そんなに店長さんが良いんだ、と少しの嫉妬。ずっと前に自分の中で折り合いをつけたはずの感情が顔を出す。特に店長さんが帰ってきてからの彩葉を見てると、どうにも自分の感情をコントロールできない時がある。

 

「ねぇ、てんちょーいない。どこいったの?」

 

 私の袖を引いて彩葉が首を傾げる。いつもの凛々しい彩葉を知っているからこの姿とのギャップが凄い。この様子を見せれば店長さんもいちころなんじゃないかな、と阿呆なことを考えて。

 

「…あ、店長さん呼ぼうか」

 

「えぇ?」

 

「迎えに来てもらおう」

 

 どっちにしろこんな状態の彩葉を一人で帰らす訳に行かないし。真実は子供がいるからあんまり遅くは帰れない。だから私が送って帰ることになるのだが、私も今日は結構飲んでしまった、足取りが怪しくなるほどではないが、それでもこんな状態の彩葉を抱えて歩くのは少しどころかかなりキツイ。

 

「かぐやちゃんに電話して、伝えてもらえばいいんじゃない?」

 

「あぁ~、確かに。でも久しぶりの会話がそれでいいの?」

 

「まぁ、この彩葉を一人でほっぽり出すよりは…」

 

 という訳でかぐやちゃんに電話。かぐやちゃんはお酒を飲めるかどうか分からない、ということでいつもお留守番だから、今は家にいるはず。予想通りだったようで、数コールもしないうちに元気な声が携帯から響いた。

 

『芦花だ!どったの?彩葉と飲んでるんじゃないの?』

 

「ご免ね、彩葉が完全に酔いつぶれちゃって。一人じゃ帰れそうにないから店長さんに迎えに来てもらえないかな」

 

『えぇ~?珍しいね。でも10年ぶりの再会がそれでいいの?私行くよ?』

 

「いやぁ…、多分今は店長さんの方が良いと思うから…」

 

『?よくわかんないけど分かったっ!伝えとくから!』

 

 最初から最後まで元気がよかった。私たちとしてもすこし不本意な再会の仕方ではあるけど、仕方ないだろう。横でてんちょーいない、といじけ始めてしまった彩葉にこれ以上お預けしろという方が無理な話だ。

 

「もうすぐ来るからねぇ」

 

「ほんとう?」

 

 そう言って頭を撫でてやればぱ、と表情を輝かせて顔を上げてくれた。可愛いなほんと。年々可愛くなってる。店長さんだって彩葉の事が嫌いなんてことはありえないのに、早くアタックすれば済む話だと私は思うな。

 

 

「彩葉ッ!!」

 

 彩葉の反応を見て楽しんでいたら、慌てた様子の店長さんが最大限周りに配慮して、それでも勢いよく私たちが飲んでいた座敷に入ってきた。早いな、まだ1分くらいしか経ってないんだけど。近くにいたのかな。

 

「彩葉が大変だってかぐやから聞いた、ん、だけど…」

 

 店長さんの視線がまず私と真実に向けられて、ついで顔が赤くなって完全に出来上がっている彩葉に向けられる。ポカンとした表情でそちらを眺める彩葉と目が合った。

 

「てんちょーだぁ」

 

 ふにゃりと彩葉の表情が和らぐ。力の抜けた、完全に相手を信じ切っている笑み。隣にいた私ですら頬が熱くなってしまうほどの破壊力を秘めたそれを、正面から食らった店長さんの衝撃はどれほどだったのか。

 

 反応を確かめもせずにふらつく足で立ち上がって店長さんに抱き着いた彩葉には分からなかっただろうな。

 

 

 

 

 

 

 あの表情を見たら、きっと色々悩んでたことなんて、全部吹き飛ぶのに。

 

 

 

 

 

 

 




彩葉は何も覚えてません。

ifの扱い

  • このまま最後まで書く
  • 普通の後日談も交えつつ書く
  • 書かんでいいから後日談だけ書く
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