[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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 それはかぐやの何気ない一言から始まった。何でもないある夜の我が家のリビングでの出来事。

 

「ねー悠仁、幽霊っていると思う?」

 

「幽霊ならいるぞ」

 

 事も無げに放たれた一言。それは、こわいものは苦手なのに性懲りもなく夏の夜には憑き物な心霊番組を見て案の定怖い怖いと誰彼構わずついて回っていたかぐやの恐怖心をオーバーフローさせるには十分な威力を備えていた。

 

 静まり変える我が家のリビング。タイミングよく大音量と共に心霊写真を大きく映し出すテレビ。それに驚いて飛び上がるかぐや。私の肩に顔をうずめてぷるぷるしている。そんなに怖いなら見なければいいのに。

 

「あれ、言ったことなかったか」

 

 ヤチヨを見る。首をぶんぶん横に振っている。当然、知らないようだ。ヤチヨの8000年分の記憶を余すことなく持っている私も知らないのだから、それはそうだろう。

 

「じゅ、じゅれいってやつじゃないの?」

 

「あれとは別口でなぁ、彩葉なら知ってると思ったが」

 

「知りませんよッ⁉」

 

 突然矛先を向けられて、裏返った声が出てしまった。ヤチヨは裏切ったのかとでも言いたげに目を見開いてこちらを見つめてくるし、かぐやに至っては私に抱き着いていたのに何時の間にか離れてヤチヨと手を取り合っている。怖がり同士引っ付いてもあんまり意味ないんじゃないかな。

 

「私、霊感何て昔からないですよ」

 

 なんてこと言うんですか、と抗議の目線を送ってみる。店長の所為で今私はヤチヨとかぐやからの信頼を失いそうだ。しかも全く身に覚えのない罪状と来た。たまったものではない。

 

「魂の観測技術を確立させたんだろ?」

 

「…はい」

 

「ツクヨミ内なら俺とヤチヨを上手く観測できるけど、現実ではノイズだらけで上手くいかないと言ってなかったか」

 

「そうですけど…」

 

「そのノイズ、幽霊」

 

「え゛」

 

 確かにツクヨミ内での観測ではクリアなのに、現実に持ってくると途端に多種多様なノイズだらけでまともに観測なんて出来たものじゃなかったけど。いやまさか、あれ全部?

 

「幽霊だらけじゃないですかっ!」

 

「そうなんだよなぁ」

 

 知らなかったら驚くよなとほけほけ笑っている店長。そんな軽い感じで明かされる真実じゃないと思うんですが。もっとこう、色んな苦難を乗り越えた先で判明するような類の情報な気がするのは私だけだろうか。見ろ、かぐやとヤチヨなんてさっきから震えあがってしまって借りてきた猫みたいに静かになってしまっている。

 

「え?えー、えぇ~?」

 

 魂の観測なんて地雷過ぎる技術外には出せないし、店長を見つけられればそれでよかったからそれ以上の深堀はしてなかったのが良かったのか。今の話が本当なら私はあと少しで死後の世界をのぞき込むことになっていたのか。恐ろしや。

 

 ツクヨミ内では綺麗にヤチヨを観測できたからと試しに周囲を観測してみた時のことを思い出す。あんまりにもノイズだらけだった上に原因もよくわからなかったからそれからは観測してなかったのだが。

 

「死んだ奴の魂は生きてるやつとは少し違うからな」

 

 それでノイズになったんだろ、と軽い感じで言う。あのノイズの原因が観測対象が幽霊で、しかも多すぎるからなんて思ってもみなかった。

 

 そこまで考えて頭に浮かんできた考えに全身が総毛だつ。あの時私が観測していたのは私の周囲ではなかったか。観測範囲はそう広くない、だからこそ店長を見つけるのにかなりの時間を要してしまったわけで。

 

 じゃあ、そんな範囲に沢山の幽霊がひしめき合っていたということにならないか、それは。

 

 ばっと後ろを振り返る。もしかしたら今も、近くにいるのかもしれないと思うと落ち着いていられなかった。

 

「彩葉、どうしたの?なんかいるの?」

 

「いや、えぇと…」

 

 かぐやは頻繁に研究室に足を運んできてくれている。あそこがそんな伏魔殿だということを知ったら二度と来てくれないどころか今までの事を思い出してトラウマになってしまうかもしれない。

 

「なに、なになにこわいっ!」

 

「かぐや…、首、しまって…っ!」

 

 変に言葉を濁した私が悪かった。だからヤチヨの首を絞めて殺しかけるのは止めてあげてほしいんだ。完全に極まっちゃってるから。さっきから離せ離せと腕をタップしてるから。

 

「店長、知りたくなかったです…」

 

「だ、大丈夫だから。俺の周りには近づかないから」

 

 学生時代、限界だったころもかくやという目の死に方を披露してみせると、当時の事をよく知っている店長は思い出してしまったのか少し慌てていた。

 

 そう言えばあの頃の私を知っているのはこの中では店長だけなのか。

 

「そうなの?悠仁」

 

 だから私、心霊現象とかにあったことないんだねぇ、とかぐやからどうにか脱出したヤチヨが店長の服の裾を引きながらにこにこしている。

 

「悠仁の近くにいれば安心だね」

 

 くっついとかなくちゃ、と腕を組んで幸せそうに笑う。やっぱり二人並ぶとお揃いの綺麗な白髪が映えるな。ヤチヨと二人で凄くこだわった甲斐があるというもの。

 

それにしても、羨ましい。挟まりたいな、あの間。なんと、おバカな五七五の完成である。語彙力をどこに置いてきてしまったんだ私は。

 

 とりあえずよかった。つまりここでは余計な心配はいらないということであっているのだろう。店長の近くというのがどれくらいの範囲かは分かんないけど。

 

「幽霊いない?いない?」

 

 店長の背中に引っ付いて周囲をきょろきょろと見回すかぐや。そもそも見えないんだから探しても意味ないと思うんだけどなぁ。結局怖いものは店長にくっつけば解決という結論に二人そろって達したらしい。それでも心霊番組は怖いらしく、結局顔をうずめて見ないようにしている。もう消せばいいのに。

 

 問題解決、と一息つこうとして、いや待てと思考を回す。何も解決なんてしてない。そもそも幽霊がいるという事実は何も変わってないし。それにここは大丈夫だとしても推定大量の幽霊が巣食う伏魔殿と化しているのは私の職場である。何も良くない。

 

「て、店長。明日から毎日私と一緒に職場に行ってくれませんか?」

 

 今まで何も問題が無かったからそれでいいという訳じゃないのだ。知ってしまったからには嫌なものは嫌だ。店長の空いた方の腕を引いて頼み込む。一緒に居れば大丈夫なら近くにいてもらえばいいのだ。

 

「ダメっ、悠仁は私と一緒にお料理するの」

 

「む、かぐやは一人でも凄く美味しい料理作れるじゃん」

 

「でも、私の方が幽霊怖い…」

 

 彩葉は怖いのとか大丈夫じゃんっ、と至極真っ当なことを言うかぐや。それもそのはずだろう。私が店長をつれていってしまったら家に残るかぐやの傍にはいないわけで、するとつまりかぐやにとっては幽霊におびえる時間の始まりだ。

 

「わ、私だって本物は怖いし…」

 

「私の方がこわいもん」

 

 私だ、わたしだと何とも幼稚な言い合いになってしまった、何時の間に店長の背中から降りたかぐやと不毛な争いを繰り広げる。なんとも、これはどうなったらどちらが勝ちとなるんだろうか。でも、店長の検査が終わってからは研究所に来てくれることは減った。当然だ、いなければいけない理由がないんだから。その間店長は家にいるか、八月で店番をしているかだ。かぐやとヤチヨはそれに時間を割いて一緒に行くことができるけど、私には出来ない。社会人だから。働かなければいけないから。

 

 私だって、寂しい。一緒に来てくれるなら嬉しい。このくらいの我儘言ってもいいじゃないか。

 

「私は彩葉のスマホに入ってついて行けるし、ずっと一緒だよ?」

 

 わーわーと言いあう私とかぐやを傍目に、ヤチヨが悠然とほほ笑む。組んでいた腕を離すと、ぱ、と両手を広げて店長に向き直る。それと共にヤチヨの身長が縮んで幼子の様な姿になった。

 

「抱っこ」

 

「はいはい」

 

 ひょいと抱き上げられたヤチヨが満足そうな顔をして店長に頬ずりをしている。ヤチヨの義体を作る時にどうしてもとヤチヨが我儘を言って付け加えた機能だ。付け加えるなんて生易しい難易度ではなかったのだが。ヤチヨの義体の完成が店長よりも遅れたのは主にこれが原因である。

 

「悠仁がどこに行っても着いてくから、置いてかないでね」

 

「…もう二度としないよ」

 

 短くなった腕を伸ばして、服を皺になりそうなほどに掴んでいるのが傍からでも分かる。その言葉にきっと嘘はないのだろう。店長がいなくなってしまった10年前のあの日、ヤチヨはそのままだとどこかに消えてしまいそうなほどに儚かったから。

 

 私の視線がそれたのに気が付いたのだろう。かぐやが店長とヤチヨの様子に気が付いて、ずるいと言って飛びついて行ってしまった。これで勝負はお流れだろう。始めたは良いけど正直終わりが見えなかったからちょっとほっとしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

「呪術とは、か」

 

「はい」

 

 食卓に向かい合って座る。私はヤチヨの記憶をなぞったことで、呪術というものについてそれなりに詳しく成れたとは思うのだが、一度ちゃんと整理しておきたいと思ったところだ。何ができて、何ができないのか。そして、どこまでできるのか。

 

 それが分からないことにはおちおち店長の事を心配もできない。

 

「どこまで分かってるんだ?」

 

「呪力の事、術式、後縛りのことくらいですかね…」

 

 すみません、と謝ると、むしろ説明もされてないのに何でそこまで分かってるんだと呆れた目を向けられた。失礼な、これくらい分からなかったら店長を連れ戻すことなんて出来なかったんだぞ。

 

「あと、店長の引退ライブでやってた大暴れですけど…」

 

 あれ、現実でもできるんですか。一番聞きたかったことだ、あの時は正直目の前でなんか燃えるし光るし黒い雷みたいのが飛び交うしでよくわからなかったんだけど、とんでもないことが行われているということだけは理解できた。そもそも私たちでは全く手も足も出なかった月人たちがゴミくずみたいに薙ぎ払われてたんだ、その戦闘力は察するに余りある。

 

「でき…る」

 

「やっぱりですか…」

 

 歩く核爆弾じゃないか、この人。第二次世界大戦で手を出さなかった理由はなんとなく察してるけど、この人が本気になってたら完全に神国大日本帝国ルートだ。世界が終わってしまう。店長に人の心があって本当に良かった。

 

「具体的にはどれくらいのことができますか…?」

 

「色々縛って無くしたからなぁ、大体…」

 

 日本全土を一分で更地にできるくらいか、という言葉に白目を向いた。核爆弾どころじゃなかった。私はとんでもないものを復活させてしまったらしい。これバレたらアメリカとかに消されないかな。その前にアメリカが地図からなくなりそうだけど。

 

「やめよう、やめましょうこの話」

 

 頭痛くなってきた。なにかこう、良い感じのできることはないんですかと自分でも無茶ぶりだと思う質問を一つ。正直何が出てきても私の胃痛が増えるだけの様な気がしてならないのだが。

 

「いい感じの事…、こんなのはどうだ」

 

 店長の手が伸ばされて、私の頭に乗せられる。すると唐突に全身から疲労が抜け、頭の痛みも最初からなかったかのようにどこかに消える。あまりにも急な体の変化に、目を見開いて店長を見上げると悪戯成功とでも言いたげに笑う顔と目があった。

 

「怪我を治せる、脳の疲労も消える。常に新鮮な脳をお届けだ」

 

「…店長っ!」

 

 やっぱり毎日一緒に来てください。そんな言葉が私の口から放たれたのは当然の事だったろう。当たり前だ、研究者は頭脳労働、肉体的疲労は少なくても何時だって脳は糖分を欲しているのだ。そこに、なんだ?店長は指先一本で私の脳の疲労を消し飛ばせると言ったか。絶対に一緒に来てもらおう。絶対に、これで永久機関の完成だ。ノーベル賞は私のものだな!

 

「どうも出力が強いと諸々過剰に治るみたいでな」

 

 もう一度店長の手が私に伸ばされ、一瞬後引き戻される。今度は何か変わった感じはしないな、と店長を見上げてみると、先ほどと同じように笑う顔が見えた。

 

「肌も滅茶苦茶綺麗になるんだが…、どうだ?」

 

「…えっ」

 

 傍に置いていたスマホで自分の顔を確認してみる。次いで触って確かめる、なんだか信じられないくらい肌が綺麗になって弾力に満ちている。赤ちゃんみたいなもちもち肌になっていた。なんだかもう信じられないな、店長をお出ししたらノーベル賞になるんじゃないか。

 

 呆然としている私の手がそっと握られた。突然の行動に、先ほど治してもらったばかりの私の脳が途端に沸騰する。なんだ、どうしたんだろう。

 

「彩葉、君が近くにいてくれたらどんな怪我をしても助けられる」

 

 そもそも怪我なんてさせないが、と続く。

 

「だから、俺の手の届かないところで危ないことは、しないでくれよ」

 

 心配だからな、と頬を撫でられた。今の私はどんな顔をしているのだろう、客観視できないほどに色んな考えがぐるぐる回る。添えられた手からほのかな熱が伝わってくる。

 

 

 短時間で大量に爆弾情報を流し込まれたこと、そして不意打ちで行われたそんな行為についに私の脳が限界を迎える音が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

「…むり」

 

 

 

 

 

 

机の上に突っ伏する。

 

 

 

 

 

 

 嬉しいな、大切に思われてる。嬉しいな、昔と変わらずちゃんと正面から心配だと言ってくれる。幸せだな、とゆだった頭で噛みしめた。

 

 

 

 

 

 

 




 リクエストしてもらった内容から書いたつもりなんですが、なんだか違うものに仕上がった気がしています、オーマジオウ最強信者さんありがとうございます。

ifの扱い

  • このまま最後まで書く
  • 普通の後日談も交えつつ書く
  • 書かんでいいから後日談だけ書く
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