[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん] 作:夕暮れの家
ばいばい、と大きく手を振る日向君と美月ちゃんに、また来いよと手を振り返している店長は、その姿が見えなくなるまで見送ってから引き戸を閉めた。
結構な時間芦花と真実につかまって自分がやったことがどれだけ大変なことなのか。迂闊に見せびらかしたらどうなるのかを滾々と説かれていた。最初は店長も律義にちゃんと聞いてたみたいだけど、話がループし始めたあたりから宇宙猫になっていた。かわいそうに。
最後は、ようやく再起動したヤチヨが店長に構えと絡んだことで終わりになったようだ。身体を小さくしたヤチヨが、私にも肩車してとせがむ姿に毒気を抜かれてしまったらしい。
結局、店長の肩の上で満足そうに笑みを浮かべるヤチヨと、それを見てずるいと連呼する双子、あとかぐや。なにやってるんだ、本当に。その4人で散々店長に遊んでもらっていた。
きっとあの2人もここによく来るようになるんだろうな、と思う。真実の家はここからそう遠くない。小学生にもなれば、自分たちだけでも来ることができるようになるだろう。いつかの子供達みたいに、遅い時間に泣きながらここの引き戸を開けたりするんだろうか。
真実が家庭ではどんなお母さんなのかはわからないけど、きっとそんなことも1回くらいはあるんだろうな。
「店長」
「ん?」
「何個、おまけしました?」
「…なんのことだか」
目を背ける店長。追いかける私。10年前に何度も繰り返されたそんなやり取り。その焼き直し。何もかもが懐かしく感じて、思わず吹き出してしまった。
今の私は高校生のアルバイトではないし、別にお金に困ってるわけでもない。本当は、こんなに気にする必要はないのだ。でも、口にしてしまう。必要でなくても、いるのだ、私たちには。
「悠仁店長、こんにちは…」
が予想でしかないのは、その子が制服ではなく私服だったから。今は夏休みだから、制服で過ごしている子が少ないのは事実。でも、私が気になったのはその子が只の駄菓子屋にくるにしては嫌に気合いの入った服装をしてたからで。
誰だろ、店長の名前を知ってるから昔来てくれてた子の中の一人だろうな。でも、10年前だ。小さかった子たちが大きく変わるには十分な時間。当然のごとく私にはその子が記憶の中にいる子たちの内の誰かは分からなかった。
「ななちゃん、いらっしゃい」
誰だったか、と頭を悩ませていた私を尻目に店長は当たり前のようにその娘の名前をよんだ。ななちゃん、ななちゃんか。そうだ、思い出したぞ。店長に四葉のクローバーをプレゼントしてた娘か。あんなに小さかったのに。時の流れってすごいな。
「悠仁店長!と、彩葉お姉ちゃん…」
懐かしい呼びかただな、と目を細める。そう言えば私はここに来る小さい子たちにはそう呼ばれていた。しかし、どうしたのか。ななちゃんは私にも店長にもよく懐いてくれていた娘で、結構仲が良かったと思うのだが。店長に比べて、どことなく距離を感じるし、目が合わない。ついさっきもこんなことがあったな。もしかして私は嫌われているのだろうか。
「ななちゃん、久しぶり。大きくなったねぇ」
「うん、彩葉お姉ちゃんも。…すごく、綺麗」
褒めてくれるのは嬉しい。嬉しいんだけど、台詞と表情があってない。それに視線が私の顔よりも下のほうでさ迷っている。私の方を見て、店長を見て、また私をみて、首をかしげた。
「店長、指輪、してないんですか?」
「指輪?」
「え?」
2人揃って首を傾げる。私もいまいち話の流れを汲みとれずに首を捻った。
「え、いや、だって」
私と店長を交互に見て、目をぐるぐるさせてる。目線が行ったり来たりして非常にせわしない。そんな中店長が何かを思い出したかのようにぽん、と手を打った。
「指輪、あれか?昔花で作ってくれたやつ。ごめんなぁ、大切に置いてたんだが、しおしおになってしまって」
「え、覚えて…。い、いや違うんですよ。あれー?」
店長の言葉に顔を輝かせて、また困惑したように首を傾げて。最後に勘違い?と小さく呟いた。せわしない娘だ。こんな子だったったけ。
「店長、指輪、って何のことですか?」
「いや、俺にもよく」
「ですか…」
店長に顔をよせてこそっと聞いてみる。店長も内緒話と察したのかこちらに顔を傾けてくれた。しかし、収穫無し。先ほどの話でもないとなると、いよいよもってなんの話をしているのか分からない。ふとななちゃんの方に目をやると、こっちの様子を見ながら泣きそうな顔をしてどっち…?と呟いている。何がだ。
「彩葉ー、持ってきたよー」
「よー」
店長とかぐやが好き勝手にお菓子を上げてしまうから、一部店頭の在庫が心もとなくなってしまった分を、取りに行ってくれていたかぐやとヤチヨが段ボールを抱えて戻ってきた。ヤチヨは大きなものを抱えているのにまだ小さい状態のままだ。腕一杯に段ボールを抱えて少し右に左によろめいて非常に危なっかしい。
「ヤチヨ、何してるんだ。あぶないぞ」
「わっ。…ふふっ、ありがと、悠仁」
はらはらしながらヤチヨの事を見守っていたら、じっとしてられなかったのか店長がひょいとその荷物を取り上げた。重さから解放された両手を揺らしながらヤチヨが嬉しそうに笑う。それが狙いか、ヤチヨ。策士だな。
「彩葉ぁ、これ重いー」
それを見ていたかぐやが、さっきまで全然大丈夫そうだったのに急に苦し気な声を出し始めた。嘘つけ、軽々と運んでたの見てたんだぞ、こっちは。ちらちらとわざとらしくこちらを見てくるかぐや。はいはい、と立ち上がって反対側を持ってあげる。嬉しそうにしちゃって、これだからかぐやのお願いはいつまでたっても断れないんだ。
「あれ?ななだ、ななじゃない?」
よいしょ、と棚の下のスペースに収納。立ち上がるとかぐやがななちゃんに絡んでいた。当たり前のように彼女が誰だかわかるらしい。10年で結構変わったと思うんだけど、私がおかしいのかな。
でも、彼女の視線は目の前で手を振るかぐやには向けられていなくて。
「?」
段ボールをおいた店長の腕の中に自然な動きで収まったヤチヨに釘付けだった。視線を感じたのか、首を傾げてヤチヨがひらひらと手を振る。とたん、弾かれたようにかぐやの方に振り返って、またヤチヨを見て、店長を見て、またかぐやを見る。さっきも見たな、似たような動き。
「…お」
「お?」
「おめでとうございますぅ…」
「何がッ⁉」
かぐやに向けて深々と頭を下げた。何だというんだ。ななちゃん以外のその場の全員の頭の上に疑問符が乱れ飛んだ。かぐやは困惑から叫んだ。そんな私たちの様子に構うことなく、ななちゃんは震える手で財布からお札を一枚取り出してかぐやに差しだす。
「ご祝儀ですぅ…」
「何のッ⁉」
再び困惑して叫ぶかぐや。先ほどのななちゃんの視線の動きをなぞるようにヤチヨを見て、かぐやを見て。そして、店長を見て見る。ヤチヨと店長のお揃いの髪色、同一人物だから印象は違えどヤチヨとそっくりなかぐや。そして店長の腕の中に納まる幼い見た目のヤチヨ。ははぁ、そういうことか。
「ヤチヨ、元に戻ってあげな」
「え?なんで~?」
「見てられないから」
「うーん、彩葉がそういうなら…」
ぴょい、と店長の腕の中から飛び降りてヤチヨが元のかぐやと同じくらいの背丈に戻る。ありがとね、悠仁と店長の腕をポンと叩いた。強引にお札を押し付けようとするななちゃんとそれに困惑して目を白黒させていたかぐやという状況だったのだが、その様子を見ていたのかななちゃんの動きがぴたりと止まった。
「や、ヤチヨ…?」
「うん、仮想空間ツクヨミ管理人、月見ヤチヨで~す。君は?」
「え、えと。悠仁店長とは、どんな」
「家族だよ、大事な」
「え?え?え?」
ななちゃんはヤチヨを見て、未だ困惑から抜けきってないかぐやをみて、混沌としてきた場に巻き込まれたくなくてカウンターでじっとしている私を見る。そして、首を傾げて、店長を見た。
「どういうことぉ…?」
あぁもう、仕方ないな。店長も首を傾げてよくわかっていない様子だし、段々とななちゃんがかわいそうになってきた。ジワリと大きな瞳の表面に涙が張ったのを見てようやく腰を上げた。
そういえば、この娘は泣き虫だったな、と思い出して懐かしくなってしまった。
★
「悠仁!」
「悠仁、帰ってきたなら言えよー」
「…えぇ、変わってねぇ。何歳だよ」
ななちゃんを店長と二人でなだめすかして落ち着かせ、どうにか色々と納得してもらった後。話せないことは多々あったが、それでも話せることもある。店長は昔から座敷に隠そうともせずにヤチヨのタペストリーを飾ってたし、それで店長がヤチヨのファンだと知ってる子も多かった。それもあって、まぁ大変だったけど、ようやくななちゃんの混乱が収まった後。
久しぶりに上がりたい、と我儘を言って座敷に上がったななちゃんは自分で買ったアイスをちびちびと食べている。店長は久しぶりだから割引してやる、と言っていたが、どうしても払わせろと固辞して財布から小銭を渡していってしまった。
その対面に座ったかぐやが矢継ぎ早に話題を提供してるから、居心地は悪くなさそうだ。10年ぶりだというのに、よくもまぁそんなに話すことがぽんぽんと湧いてくるもんだ、いや、10年ぶりだからこそなのかな。
それで、ようやく静かになった店にどやどやと高校生くらいの男の子たちが入ってきた。全員もれなく店長の名前を知っているおまけつきだ。よく見て見れば来ている学校のジャージが違ったりする。違う高校に進んだのにわざわざ集まってきてくれたのかな。
「優太に、ヒデか。久しぶりだなぁ、元気にしてたか?」
「こっちの台詞なんだよなぁ」
「ってか分かるのな」
当たり前だろ、と笑う店長。こちらは座っているからわからないけど、2人とも店長の肩以上の所に頭があるくらいに背が伸びている。きっと私よりも大きいんだろうな。記憶の中では私のお腹から胸辺りくらいの身長だったのに。大きくなったなぁ。
「何してたんだよ、今まで」
「寂しかったんだぞ?急に店閉めるし」
「家出したときどこに行けばよかったんだよー」
「なんだ、まだ家出してんのか?」
「流石にもうしないよ、何歳だと思ってんだ」
あっはっはっはと揃って笑う。そう言えば2人とも家出常習犯だったな。二人のお母さんが店長にいつもありがとうございます、と言って頭を何度も下げている光景は今でも鮮明に思い出せる。その癖子供本人は全く悪びれずにその後も何度も来るんだから始末が悪い。
店長の作るご飯は美味しいからな、仕方ないのかもしれないけど。それにしれっと好みを把握されてしょっちゅう好物を作ってくれるんだからもはや家出というよりは勝手に家を抜け出して遊びに来ているに近かったのかもしれない。親との多少の衝突を口実にここに来ていたようなものだ、そう考えると親御さんたちには本当に申し訳ないのはこちらの方だ。
「フード被んないのか?」
「もういらないからなぁ」
「ふーん、そっか。それでさぁ、悠仁とかぐやって兄妹だったっけ」
「よんだー?」
名前を呼ばれたのに気がついたのか、かぐやが座敷からひょこりと顔を出す。不思議そうに店長と並ぶ二人をしげしげと眺めた後、ぽん、と一つ手を打つ。
「あ、ヒデと優太か」
「えぇ…、やっぱり変わってねぇ」
「歳とらんのか?この店の住人は」
ななちゃんの時と対応が違いすぎる。10年ぶりだってのに反応が凄いタンパクだ。この二人とかぐやはこの店で買ったおもちゃで馬鹿やる悪友みたいな感じだったからしょうがないのかもしれないが。でも、もうちょっとこう、あるのではないか。
「配信見てさー、兄妹だって言ってたから。そうだったっけって」
「えー?私の配信見てくれてるの?」
ホラーゲームで泣いてたなぁ、煽られたかぐやがなんだとコラ、と両手を上げて威嚇する。狭い店内での追いかけっこが始まった。昔も似たようなことやってたけど、今の自分たちの身体の大きさを考えてほしい。昔と同じじゃないんだぞ、大きい図体3人が動き回るにはこの店内は狭すぎる。
「こら、やめなさい」
「う、ごめん。彩葉ねえちゃ、ん…?」
「え、ほんとだ」
「おい、なんで私を見て目を丸くする。私だけ変わってるからか?」
商品に影響が出る前に、と声を掛けると、昔の事を思い出したのか反射で3人の身体がぴたりと止まる。店長は子供に甘いからな、こういう微妙なラインの行為は何かが起こるギリギリまで見守ってしまう癖があるんだ。今考えてみれば何かが起こるタイミングにはどこからでも絶対に間に合うという自信があったからこその態度だったと思うのだが、当時の私にはそこまで察することができなかったからこそ、こういう役目は私の物だった。
「いや、そういう訳じゃないけど、なんでいるのさ」
「なんでって…」
楽しそうに一連の騒ぎを見守っていた店長と目を合わせる。
「ねぇ?」
「ねぇじゃないよ…、まぁいいや。勉強教えてくんない?」
「またぁ?」
「あれ、なんか人増えたねぇ」
騒がしくしてたのが気になったのか、ヤチヨとななちゃんも座敷から出てきた。こうなってくるともはやこの店では少し狭い。小さい子たちならこのくらいの人数集まっても騒がしいなぁくらいにしか思わないけど、もう皆子供と言えるほどの大きさではない。座敷につながる障子を完全に開け放ってもらってようやく一息付けた。
「え?ヤチヨ?なんで?」
「それさっき私もやったんだけど…」
「あれ、坂本じゃん。なんでいんの」
有名人であるヤチヨが顔を出したことでそちらに気を取られるヒデ君、それを尻目に優太君は通学鞄から宿題らしき参考書を取り出して開いて見せてきた。高校生の学習内容、忘れてるかとも思ったけどざっと見た感じ全然大丈夫そうだ。10年経ってもあんまりカリキュラムは変わらないもんなんだね。
「彩葉ねえちゃんに教えてもらって成績のびたのにさぁ、急にいなくなっちゃうからまた下がったんだよ」
でもこれからはまた教えてくれよ、と笑いながら。椅子を引っ張ってきて隣に座った。む、なんだか近いな。それにさっきから視線が私の顔ではなく少し下の方にちらちら向いている。気づかれてないと思ってるのかな、この子も思春期だし、仕方ないとは思うけど。
「それでここなんだけど…」
ずい、と上半身をこちらに乗り出してきて、参考書を指で指し示す。近いな、とは思ってたけどこれで更に近づいた。わざわざ隣に座ってきたことでいよいよ肩が触れそうだ。でも、子供のすることだしと思って私も指差した先に目をやろうとした瞬間。
「どれ」
私たちの間の狭い隙間に手が差し込まれてひょいと参考書を持ち上げていってしまった。振り返ってみるといつの間にか後ろに来ていた店長が参考書を見ている。
「優太、俺が教えてやろうか」
「悠仁、できんの?」
「もちろんだ、舐めるなよ」
そのまま引きずられるように座敷の方に連れていかれた優太君と、連れて行った店長をぽかんと見つめる。昔から店長は子供に勉強を教えるのは苦手だから、と全部私に任せきりだったのに。急にどうしたんだろ。
顔をつき合わせて一緒に悩み始めた二人を見ながら、首を捻る。そんなことを考えていたからか、こちらをじっと見ていたななちゃんの呟きには気が付くことはなかった。
「やっぱり…」
野原しんのすけさん、ありがとうございます。望んでいた形かは分かりませんがよろしければ。
そろそろ後日談の方が話数が多くなりそうです。
ifの扱い
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このまま最後まで書く
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普通の後日談も交えつつ書く
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書かんでいいから後日談だけ書く