[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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「悠仁、似合ってるよ!」

 

 ツクヨミ内で、いつもは後ろで一つ結びにして流している髪の結び目が高くなって、悠仁の背後で揺れる。約束したから、今日はツクヨミに入ってきてくれたところを捕まえてポニーテールにしてもらったんだ。

 

「じゃあ、私の髪もお願いね」

 

 指先の動き一つで、高いところで二つ結びになっていた私の髪の毛がほどけて流される。同時に手の中に出現させて櫛と髪ゴムを悠仁に差し出した。別にデータをいじれば動作一つで髪型を変えることくらい簡単だけど、それはしない。悠仁だってそれは分かってると思うけど、何も言わなかった。

 

 後ろを向いた私の髪にそっと櫛が入れられた。私の髪はすごく長いけれど、しっかりと手入れされたそれに櫛が引っかかることはない。滑らかに髪の間を櫛が滑り、手慣れた様子で悠仁が私の髪を後ろの高いところでまとめ上げた。

 

「上手いねぇ」

 

「そうだろ?」

 

 変にはねる髪の毛もなく、綺麗にまとまった髪を鏡で確認する。後ろにいる悠仁の心なしか得意そうな様子に笑みが漏れてしまった。一歩後ろに下がって並ぶと、お揃いの髪型にして垂らした髪の毛が静かに揺れた。

 

「お揃い、嬉しいね」

 

 ずっと私はウミウシだったから。悠仁の肩に乗って一緒に居ることしかできなかったから。こうやって隣に並んで立てることだけで嬉しい。後ろ手に手を組んで、横に立つ悠仁の顔を見上げると、悠仁も嬉しそうに笑ってくれた。

 

「現実でも出来たらなぁ…」

 

「ヤチヨと同じくらいの長さになるには時間がかかるな」

 

「そうだよね」

 

 残念、と腰ほどまで伸ばされた悠仁の髪の毛を触る。最初は現実の姿と違うと違和感が、と言ってあまり使ってくれなかったアバターだけど、私とお揃いだと気が付いてくれてからはいつもちゃんとこの姿でツクヨミに来てくれるようになった。

 

 こうやって並ぶと、着ている衣装までおなじ色合いだから、髪型を同じにするといよいよほとんど同じ格好だ。この世界の管理人として顔が売れてしまっている私は、流石にこのままで人がたくさんいるツクヨミ内を何も気にせずに歩き回ることはできないけれど。

 

「あっちでも、何かお揃い、欲しいな」

 

「む」

 

 彩葉のおかげでやっと私も皆と同じように現実でも人として歩き回ることができるようになった。やっと、現実で、悠仁と、彩葉と並んで歩くことができる。望外の事だった。

 

 もと光る竹が壊れてしまって、肉体を作り出すことができなくなったあの時から。彩葉の隣に立つことができる日が来るなんて、思ってもみなかったから。

 

 ツクヨミ内でないと出来ないと思っていたことが、沢山ある。一緒に歩幅を合わせて歩くことができるなら、やりたいと思っていたことが沢山ある。ずっと悠仁は私がやりたいといったことは出来る限りで叶えてくれていたけど、私のせいでできなかったことも、沢山。

 

 明日が楽しみだ。一人で暗い水面を見つめていた時から随分遠くに来た。現実で、彩葉と一緒に悠仁の手を取って、色んな所に行ってみたい。何時か、日本の外にだって。

 

 でも、まずは。

 

わたし月見ヤチヨとして、初めてあなたの手を取ることができたここで。10年前叶わなかった約束を、あなたと果たしたい。

 

「今度、何か買いに行こうか」

 

 一緒に行こう、と悠仁が私に手を伸ばす。約束だよ、と笑ってその小指と自分の小指を絡めた。楽しみだな、また未来の予約が一つ増えてしまった。

 

「うんっ。なにがいいかな」

 

 私と悠仁が並ぶとどこに行っても目立ってしまうから少し気を付ける必要がある。人目を気にすることなく色んな所に行っていたこれまでとは違うんだ。なにか問題があったら彩葉にも迷惑が掛かってしまう。

 

 でも、楽しみ。何がいいかな。普段から身に着けられるものが良いな。髪留め、ピアスもいいな。彩葉が作ってくれた体に穴を空けることになっちゃうけど。許可を取れれば大丈夫かな。

 

「ピアスはなぁ…」

 

 提案した私の言葉に難色を示す。珍しいな、自分の耳たぶを触りながら首を傾げている。この感じは、私と一緒にピアスをつけるのが嫌なんじゃなくて何か問題がある感じなのかな。

 

「ダメなの?」

 

「俺の耳に穴を空けられるピアッサーがあるか分からないから…」

 

「あぁ…」

 

 悠仁の身体は、彩葉が作った人工の物なのにいつの間にか元々の身体のように異常な耐久と身体能力を備えるようになってしまった。彩葉としても、悠仁としても全くの予想外なことだったみたいで、悠仁は申し訳なさそうな顔をしてたし、彩葉は頭を抱えてた。絶対に軽々しく検査結果を表に出せない、と青い顔で呟いていたのを覚えている。

 

 手を伸ばして触ってみる。自分の物と比べてみても、変わらずやわらかい。ツクヨミのデータ上では普通の人と同じような感じがするのにな、と首を傾げた。

 

「悠仁、なんか柔らかくなった?」

 

「お、分かるか」

 

 得意そうに口角を少し上げる。少し大きく開かれた目には、悪戯な光が微かに踊っている。彩葉達の前ではあんまりしない表情だな、と少し嬉しくなってしまう。

 

「ツクヨミの中なら魂の強度を抑えれば、常人と同じくらいになれる」

 

「そうなの?」

 

「おう」

 

 これで一緒に遊べるな、と笑う悠仁に目を瞬かせる。そうだ、10年前に1度だけ私の我儘で一緒にKASSENで遊んだことがあったなと思い出した。あの時は悠仁の身体能力があんまりにも隔絶しすぎてたからオンライン対戦はなんだか申し訳ない、となって結局PvEで遊んだんだっけ。

 

 時たま私の目にとらえきれない動きをする悠仁に少し呆れながらも、一緒に並んで何かが出来ることが嬉しくて、楽しかったから。あの一時も私にとって大事な思い出の一つ。

 

 別にそのままでも構わなかったのに、私と一緒に遊ぶために頭を悩ませてくれたのかな。悠仁も、あの日のこと覚えて気にしてくれてたんだ。

 

「そっか」

 

「じゃあ、それも、約束」

 

 一緒にやろうねぇ、と今度はこちらから手を伸ばしてみた。また今度な、と笑う悠仁がそれに答えて指を絡める。

 

 また今度。また、どこかで。ちゃんと決めなくても安心できるって良いな、と胸を包む温かい感覚に微笑む。彩葉と、かぐやも一緒に。皆で笑いながら遊べたら、楽しいだろうな。

 

「楽しみだね、悠仁」

 

「そうだな」

 

 そろそろ行こうか、と悠仁の手を取る。一緒に行きたい場所が沢山あるんだ。このツクヨミの中には、一般に開放してない場所だっていくつかある。私が人目を気にせずに過ごせる場所は、この場所だけじゃない。

 

 私の手の動きに合わせて、目の前に光り輝く扉が出現する。観音開きのそれを開いてやれば、最初の目的地だ。悠仁はツクヨミの事はヤチヨが一番知ってるから、と行き先は一任してくれたから、今日は私が悠仁の手を引いてあげられる。

 

 二人で顔を合わせて、一緒に扉の取っ手を握って。せーの、と一緒に扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

 扉を抜けた先は、雲の上だった。常夜の世界のツクヨミの空はいつも晴れているけど、ここでは厚い雲海が私たちの視界を遮っている。

 

 どこかの山の頂上だった。森林限界をもたやすく超えて、周囲には木々は存在しておらず幾つかのごろごろとした岩が転がっている。そんな場所。白く波打つように何層にも重なる白い雲の下には、たくさんの人が過ごすツクヨミがあるのだろう。

 

 誰かが見れば殺風景でつまらない光景、というかもしれない。でも、私にとってはそうではなくて。悠仁にとっても、そうだと良いな、とちらりと横目で盗み見た。

 

「ここは…」

 

 一歩、悠仁が前に踏み出す。その足に当たった小石が転がり、そのまま斜面を伝って下に下に落ちていく。「危ないから離れるなよ」と遠い日の誰かの言葉が聞こえたような気がした。

 

「そうか、あの場所か」

 

「やっぱり、覚えててくれた」

 

 

 

 

 あの場所。私たちが二人で悠仁のいた集落を飛び出して、初めて行ってみた場所。どこかの、今となってはもう名前も分からない高い高い山の頂上。

 

 出てみたは良いけど、行くあても、目的もなくて。とりあえずと悠仁が最初に口にした高い山に登ってみようということになって。どちらに山があるか分からないから、という理由で悠仁が唐突にした滅茶苦茶高いジャンプに私が驚いて、その様子に悠仁が笑って。

 

 見つけたから行ってみよう、と走り出しそうな悠仁を私がゆっくり行こうよ、と抑えながら一人と一匹でした、最初の旅。晴れの日はゆっくり歩きながら二人で何でもないことを話して。雨の日は悠仁が一瞬で切り出して見せた木材で作った小屋の中で雨が止むまで過ごして、また晴れたら進もうか、と笑った。

 

 色んな事を話した。私は私の知っている未来の事、彩葉の事。彩葉が作ってくれた私の為の曲の事。元気よく歌えば、悠仁は驚いた顔で私を見てくれて、次いで曲のリズムに揺れながら上手いな、と笑ってくれた。

 

 悠仁の話を聞いた。なんで悠仁だけこんな昔にいるのか、今までどうしていたのか。沢山、沢山話して。悠仁が覚えてる歌も、いくつか聞いた。何度も歌ってもらって、覚えて。一緒に歌えたらって。

 

『しょっちゅう唄を歌ったよ その時だけのメロディを』

 

 私と悠仁の声だけが、静かな山腹に響き渡る。高度が上がっていくほどに下がる気温に、悠仁の吐く息が白くなる。

 

『寂しくなんかなかったよ ちゃんと寂しくなれたから』

 

 声を合わせて。偶に私がパートを替えて歌ってみて。そんな私を横目に見た悠仁が器用だな、何て驚いて見せて。きっと悠仁なら一息に上り切れる山だけど、ゆっくり、一歩一歩上がっていく。寒いかな、と思っていたけど、悠仁が手をかざせばすぐにそんな心配はする必要ないと分かって。

 

『いつまでどこまでなんて 正常か異常かなんて』

 

 鬱蒼と生い茂っていた森を超えて、一気に前の視界が開ける。振り返ってみれば、私たちの歩いてきた道がくっきりと森の斜面に一本刻まれていた。頂上の景色を楽しみに暫く振り返るのをやめようか、何て二人で笑った。

 

『考える暇も 無いほど』

 

 一歩歩けば、悠仁の足に当たった小石が斜面を転がり落ちていく音が背後から聞こえてくる。もう一歩踏み出せば、あと少しで、頂上だ。

 

『歩くのは大変だ』

 

「ついたーっ!」

 

 目の前の景色をよく見ようとぴょんと肩の上で一つ跳ねる私に、「危ないから離れるなよ」と心配そうに悠仁が手をかざす。二人で見る視界の先に、雲の下からちょうど今、太陽が昇ってきていた。

 

「綺麗…」

 

「綺麗だ」

 

 二人して同じ言葉を同じように口にして、顔を見合わせる。これからの未来のことも、そこまでの長い道乗りのことも。一瞬、その一瞬だけは頭の中から消えていた気がした。

 

 楽しい方がずっといいよ、と呟けば、悠仁がごまかして笑っていくよ、と返す。

 

 そうだ、笑っていこうよ。そっちの方が良いよ。

 

「次、つぎ、どこに行こうか?」

 

「ついたばっかりなのに、もう次か?」

 

 もう少し堪能させてくれ、とその場に胡坐をかいた悠仁の頭にぴょんと飛び乗る。白い雲海に阻まれて見えない地上には、きっと私の知ってる場所はどこにもないけれど。

 

 大丈夫、きっと、消えないよ。

 

 悠仁の口ずさむ歌の続きが、私の背を押してくれてる気がした。

 

 

 

「悠仁、覚えてる?」

 

 常夜のツクヨミに、朝が来る。朝日が差し込んだ雲海が日の光に照らされて、まばゆく輝く。あの日のまま、あの時の記憶のまま。

 

 違うのは、私が悠仁の隣に立って、同じ目線で過ごせていること。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「ゆっくり行こう、じゃなかったか?」

 

 扉一枚でついたら、情緒ってもんがないだろとあの時のように地べたに胡坐をかいて座りながら、悠仁が笑う。その行動で、口にした言葉で。覚えているよ、とは言わなくても十全に意図は伝わってきて。

 

 悠仁が手で軽く叩いたすぐ隣に、私も座る。ツクヨミの中で初めて見る朝日は、あの日と同じく、とても、とても綺麗だった。

 

「まだ、他にもいきたいところが沢山あるからね」

 

 急がなくちゃ、と悠仁の肩をぽんと叩く。悠仁は、笑いながらもう少し堪能させてくれよ、と天を仰いでいた。

 

「次、どこに行こうか」

 

「そうだな、雪を見に行こうか」

 

 凍った滝なんて見れたら良いな、と言う悠仁。勿論、もちろん用意してあるよ。あれはどこにあった景色だったんだろうか。とりあえず北の方に行ってみようか、と二人で首を捻って。時間だけはあるんだからと笑ったっけ。

 

「じゃあ、雪だるま、作りたいな」

 

「大きい奴な」

 

 こんな雪だるまを作りたい、と言った私の為に、声援を送ることしかできない私を肩に乗せながら悠仁が作った特大の雪だるま。最終的には雪だるまというよりはもはや雪像みたいになってたけど、1日かけて作ったそれに、満足して暫く二人していいものが出来たな、何て頷き合ったことを覚えている。

 

 今思い返してみれば、それを当時の人が見たら怪物か何かだと思われたんじゃないだろうか。

 

 次は、次は。どこに行こうか。どこに行ったっけ。何を見たっけ。何をしたっけ。

 

 一つずつ思い返して、なぞって。

 

 楽しいことばかりじゃなかったけど。失敗ももちろんしたけれど。今となっては。

 

「ねぇ、悠仁」

 

「生きるの、どうですか?」

 

 

 

 

「最高だよ」

 

 

 

 やっと、こんなこともあったなって笑えるようになったよ。正しかったかどうかなんて、分からないけど。やっぱり、大丈夫。

 

 

 君がいるから、大丈夫。

 




 雰囲気に酔さん、第九の怒濤さん、リクエストありがとうございました。

GWは超かぐや姫だからね、連続行動しても仕方ないね。なので明日もあがります。

ifの扱い

  • このまま最後まで書く
  • 普通の後日談も交えつつ書く
  • 書かんでいいから後日談だけ書く
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