[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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「ヤチヨ、ヤチヨは店長と一緒に配信したいと思わないの?」

 

 配信するんだ、と店長の腕をとって連行していくかぐやの後ろ姿を眺めながら、ふと疑問に思っていたことを口にだした。もうすっかり店長はかぐやいろPチャンネルに定着しているし、なんなら最近はチャンネルの名前に入っている私よりも出演頻度が高い。リスナーも笑いながら受け入れてくれてるからいいけど、本当なら最初に店長が懸念していたような事態に陥ってもおかしくないような状況。

 

 そんなことになっていないのは、配信内での店長とかぐやは本当の兄弟のように見えるからだろうな、と思う。もともとかぐやは店長には全幅の信頼をおいて甘えていたけど、配信内ではそれは更に悪化してるような気がする。なまじ店長が戸惑う様子すら見せずに答えちゃうからそれが常態化されてるけど、あれは、うん、ちょっとやりすぎなようにも思えるのだ。

 

「したいよ?」

 

「あ、したいんだ」

 

 当然でしょ、というようにヤチヨが小首をかしげる。かぐやと店長が一緒に配信をしているときは配信時間をかぶせずにリビングで私と一緒にその配信をにこにこしながら見てるし、別に構わないのかと思っていた。前のホラーゲーム配信の時は色んな意味でダメージを喰らっていたけども。

 

「うん、でもさ。かぐやが楽しそうだし」

 

 悠仁もなんだかんだ嬉しそうだしさ、と頬杖を突きながら配信準備中、と表示されている動かない画面を見つめる。かぐやの無茶ぶりに応え、リスナーからの雑多な投げかけをゆっくりと捌く店長は、確かに楽しそうだった。

 

 きっと、店長の中でも10年前にかぐやにやってあげられなかったこととして心残りだったんだろうな。店長はずっと、炎上が怖いから、と言って断っていたけど。それが理由のすべてではなかったことを私は知っている。ヤチヨとしての記憶も持っている私は、知っている。

 

「ヤチヨ、後悔してるの?」

 

 何を指しているわけでもない、唐突な切り出し。そんな言葉に、じっと画面を見つめていたヤチヨの肩が少し跳ねた。ヤチヨが、自分の知っている未来にたどり着くために店長の行動を止めていたこと。そのことで、自分の事をどれだけ責めて、傷つけていたかを私は知っているから。きっとこの質問は確認にしかならない。

 

「後悔、してるよ」

 

 でも、私がしっているのはそこまでで。あれからの10年間、ヤチヨが何を考えていたかなんてわからない。でも、欠かさずに配信を見ているヤチヨの横顔が少し寂しそうなのも、それでも時折安堵したような表情を見せることも、私は見てきたから。

 

「悠仁は、悠仁はさ?気にしないっていってくれたけど」

 

 あの時、泣いてる娘を目の前に何もできなかった悠仁がどれだけ辛かったか、そう零す。

 

「私のせいで、みんな傷つけた」

 

 ただでさえ小柄なヤチヨの背中が丸められて、更に小さくなる。その肩は震えていて、俯いたその表情は私からは見えない。でも、僅かに見える何かをこらえる様に噛みしめられた唇だけで、ヤチヨがどれだけあの時の事を後悔しているかは十分に伝わってきて。

 

「ごめん。ごめん、彩葉」

 

 思い出すのは、ヤチヨとの初めてのコラボライブの後。月人の襲来、スクリーン一杯に映し出された9/12という日付。そして、ヤチヨに嘘をつかれたことへの衝撃。様々な出来事に打ちのめされていた私には、目の前につきつけられたヤチヨと店長の関係は余りにも大きかった。

 

 店長に自分の事を見てほしくて。店長の中に私だけの立ち位置が欲しかった私には、私が望んだ場所は既に無いということを叩きつけられたあの瞬間は、支えにしていた地面が消え去ってしまったかのような衝撃だった。綺麗だった、あの時並んでいた二人は、泣いてしまいそうになるほど綺麗で、今も私の脳裏に焼き付いている。

 

 でも、ヤチヨがやりたくてやったわけではないことも私は知っていて。私を傷つけることは知っていても、傷つけようとしてやったことではないということは、世界で私が一番よく分かっている。

 

「ヤチヨ」

 

 名前を呼ぶと、怯えるようにヤチヨの肩が跳ねる。責められるとでも思っているのだろうか。ヤチヨも、店長もだ。自分が私たちの事を想ってくれているように、私たちもヤチヨの事を想っているということを、全く分かっていない。かぐやくらい真っすぐに伝えてくれたらいいのに、回り道して、色々考えすぎる。店長に、私に。そっくりになっちゃって。

 

 口を開こうとして、ふと思いとどまる。気にしてないよ、という言葉は、それだけではあまりにも軽くて。ずっと自分で自分の事を傷つけ続けてしまうこの娘の手を止めるには力不足だ。

 

「ヤチヨ、ごめんね」

 

「ずっと近くに居てくれたのに、気づけなくて、ごめんね」

 

 

「そんなことないっ!」

 

 弾かれたように顔を上げたヤチヨの目が、私の姿を捉える。涙が薄く張ったその瞳は、今のヤチヨの心の内を表すように細かく揺れている。そうだよね、知ってるよ。ヤチヨがそうやって言ってくれること、私は知ってる。でも、あなたの事を知らない私のせいでずっとヤチヨが傷ついていたことも、知ってる。

 

「そんなことないよね」

 

「そんなこと、ないんだよ」

 

 大丈夫、そう言って華奢なその身体を抱きしめた。小さな頃も、初めてツクヨミにログインしたときも。ずっと貴方はすごく大きくて、綺麗で。世界中の誰よりも輝いて見えてたのに。隣にいるこの娘は、怖がりで、寂しがりな、一人の女の子だ。

 

「傷つけて、傷つけられて、お互い様でしょ?」

 

 私たちは家族なんだから。良いんだよ、お互いを想って、大切にして。大切だからすれ違って、お互い傷つけあって、謝りあって。そんなの悲しいじゃん。笑って許すよ、ヤチヨはどう?

 

「でも、わたしは」

 

「ヤチヨ」

 

 それでも下を向こうとするヤチヨの視線を私に繋ぎとめる。駄目だよ、ヤチヨ。店長とずっと一緒に居たんだから、知ってるはず。過ごした時間だったら、ヤチヨよりもずっと短い私が店長から教わった最初の事。謝らなくていいよ、悲しそうな顔、しないでよ。

 

「ありがとう、の方が嬉しいな」

 

「笑って、ね?」

 

 手を伸ばして、ヤチヨの両頬を優しく引っ張る。あなたの全てを見たいと言ったあの時から、歩いてきた道のりを彩る全ての笑顔も、悲しみも、後悔だって。一緒に背負うと決めている。

 

 私の指に伝わっていた抵抗が小さくなる。自責に揺れていたヤチヨの瞳が、私の事を真っすぐに見つめて、すぐに細く緩められた。

 

「うん。ありがとう、彩葉」

 

 かぐやの元気な挨拶が切り替わった画面から響く。見ると、その隣にはもはや勝手知ったるという感じで用意された椅子に座っている店長の姿もあった。最初の配信ではかぐやが店長用の椅子を用意してなかったからと言って一つの椅子を使っていたけど、流石にということでその後はちゃんと椅子が用意されている。あの配信はチョイスしたゲームがちょっと悪すぎたからあの体勢は結果的には正解だったのかもしれないけど、以降は駄目ということで決着した。かぐやはちょっと残念そうだったけど。

 

「いいなぁ…」

 

 そちらの方に視線を向けたヤチヨの口からぽろりと本音が零れ落ちる。当の本人にもそんなつもりはなかったのか、あるいは気の緩みからだったのか。言い終わった後に慌てたように両手で口を塞いでこちらを見た。

 

 それでも、気にはなるのか楽しそうに今日やりたいことを話しているかぐやと、それを微笑みながら見ている店長が映っている画面に視線が吸い寄せられてしまっている。

 

「彩葉、あのね」

 

「悠仁には、言わないでね」

 

 そんな様子を見ていた私が何かを言う前に、機先を制してヤチヨが言う。そのため、口から放とうとしていた言葉が喉の中ほどで詰まったように出てこなくなってしまった。私の楽観的な言葉は、ヤチヨの望むところではなくて。

 

「頼めば悠仁は、絶対頷いてくれる」

 

「でも、私は。私の我儘で今の楽しそうな悠仁を邪魔したくないの」

 

 そう言って寂しそうに笑うヤチヨに私が抱いた感情は、同情でも、悲しみでも、怒りでもなく。少しの呆れだった。確かに、今の店長がかぐやの身内として配信に出ている以上、唐突にヤチヨと一緒に配信するのはかなりの違和感だし、きっとそれに文句を言ってくる輩だって現れる。

 

 でも、時間を掛ければ不可能じゃない。私はヤチヨの配信それなりに出てるし、そのつながりだとでも何とでも言えるだろうに。変なところで怖がりなんだから。それにさ、ヤチヨ

 

「ヤチヨだって、ずっと前から店長と一緒にやりたかったんだよね?」

 

 ヤチヨが店長と一緒に配信を出来なかった理由は、自分が知っているヤチヨはそんなことしていなかったから。だから寂しいと思いながらもずっと一人で月見ヤチヨとして配信をしてきたんだ。ずっと一緒に居たから、傍にいてくれないのは寂しいともっとちゃんと言葉にすればいいのに。店長は、言ってくれてたよ。

 

「寂しいって、言っていいんだよ」

 

 何にも分かってない。邪魔なんて、迷惑だなんて思うはずがないのに。ヤチヨが店長の立場だったらどう思うの?自分の大事な人が、寂しいって、悲しいって言ってるのにそれを知ることも出来ないほうが、ずっと残酷だよ。

 

「でも」

 

 この期に及んで言い淀む。いつもはにこにこしてるのに、腹の中に沢山、持ち切れないほどに色んなものを抱え込んで。それを悟られないように笑って。私みたいになってしまって。そんな所、似なくていいのに。私はヤチヨに、店長に救ってもらって。かぐやに手を引いてもらったから今があるから、今度は私の番。

 

「ヤチヨ、覚えてないの?」

 

 あの時、最後にかぐやが店長に配信に出て欲しい、出て欲しいと強請った10年前での海でのこと。店長が何と言っていたか。店長が戻ってきてからヤチヨとどんな会話をしたのか、私は知らないけれど。ヤチヨは自分が店長にどれだけ大事にされているのか分かってない。ヤチヨはかぐやなんだから、自分が何を言ったのか。店長に何を言われたのか、知っているはずなのに。

 

「かぐやが店長との配信にこだわるのは、きっとあの時の言葉があったから」

 

 配信中は、自分が店長の1番。かぐやはそう言っていただろうか。それはあの時当然自分が1番だと疑うことをせずに店長に尋ねた時、店長が言い淀んだから。自分の他に1番がいると、その時知ったからだと、私は勝手に思ってる。

 

「1番、ヤチヨは、店長の1番なんだよ?」

 

「…え?」

 

 ぽかんと口を開けてこちらを見る。本当に覚えてなかったのか、自分の事だと気が付いていなかったのか。でも、あの時言っていた店長にとっての家族は、ヤチヨ以外にいるはずもなくて。店長が口にしていた特別も、1番も。全部ヤチヨのものだ。

 

「ぇ、あ、その」

 

 透き通るように白いヤチヨの頬に朱色がさす。あちこちに視線をさ迷わせて、口から意味をなさない言葉を落として。どうしていいのか分からなくなってしまった両手は所在なさげに宙を掴んだ後、赤くなってしまったところを冷やすように頬にあてられた。

 

「…ほんとう?」

 

 店長がヤチヨの事を何と言っていたか。ヤチヨの事を話すときどんな顔をしていたか。全部覚えている。忘れてないよ。あの時の私は、自分の手の届かない場所にあるその席を、そこに座る顔も知らない誰かをきっと羨ましいと思っていたから。

 

「1番は大事な家族だって。誰より優しくて、でも寂しがり屋な娘だって、言ってたでしょ」

 

「そっか…。そっか」

 

 私の事だったんだ、そう言ってヤチヨはふわりと笑った。その目の端にはほんの少し、光るものが見えて。10年越し、いや、8000年越しにやっと伝わってくれたことに安堵の息を吐く。

 

「嬉しいな、そっか」

 

「私、悠仁の1番なんだ」

 

 嬉しい、うれしいと何度も繰り返す。躇いなく聞くことができていたあの頃と違って、引くことを、遠慮することを覚えてしまったヤチヨにとってはきっと何より嬉しいこと。やっと分かってくれた、だからヤチヨは、ヤチヨだけ我慢することなんてないんだ。

 

「だから、ヤチヨは、ヤチヨの思うままにしていいんだよ」

 

「うんっ」

 

 笑いながらの肯定、そこにもう迷いはなかった。これでヤチヨも自分のやりたいことを言ってくれる。やれるようになるかな、と体の力を抜いて少し背もたれに体重を預けて。意識がヤチヨから少し離れた時、ふと服の裾がくいとひかれた。

 

「私、彩葉と悠仁と、3人で一緒に配信がしたいな」

 

「私も?」

 

「うん、一緒がいい」

 

 

 

 一緒じゃないといやだよ?そう言って小首をかしげて笑うヤチヨに、わがまま放題のお姫様の影を見た。

 

 

 

 




そんなつもりはなかったけど結果的にヤチヨ強化週間になってしまいました。

エンジャージールさんリクエストありがとうございました。

ifの扱い

  • このまま最後まで書く
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