[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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続きました


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 なんでぇな、という不満が爆発したような声が桜舞う閑静な住宅街に響き渡ったある朝のこと。庭の手入れをしていた一部の住人が、何事かとその声に顔を上げるも、聞こえてきた方角がいつものあの店がある方向だと分かると、誰もかれも納得したかのように頷いて自分の作業に戻る。京都にある静かな住宅街の、いつもの光景であった。

 

「なんでそないなこと言うん?悠仁くんのあほっ」

 

 目に薄く涙をためながら、目の前のカウンターに座る男を睨みつける。悠仁くんは、こまったなというように眉を少し下げて、後頭部に手をやっている。そんな様子にまた少し悲しくなって。

 

 分かってる、困らせているのは私のほう。我儘を言っているのも、私で。

 

「こら、彩葉」

 

 困らせたらあかん、といつの間にかついてきていた兄が私の事を咎めるような目線を向けてくる。そんなことは分かってるけど、きっと兄の狙いは違うところにある。後ろ手に持ったスマコンが隠しきれていないから、早く悠仁くんと一緒にゲームをしたいという欲望が漏れているぞ。わが兄ながら、とても分かりやすい。いいな、私もスマコン欲しいな。

 

 兄はコツコツと貯めた小遣いを使って買っていたけど、私はまだまだそんな額をためられていない。アルバイトが出来たらいいのに。10万は高いよ、小学生にはとても手が届かない。一度、スマコンの値段をまだわたしがちゃんと知らなかった頃。遊び始めると、文字通り兄と悠仁くんだけの世界になってしまい、私が置いてきぼりになってしまうことに大層拗ねて、羨ましがった時に悠仁くんが内緒で買ってくれそうになったことがあったけど。

 

 流石にと言うことでお母さんとお父さんの二人ともからストップがかかってしまった。「流石に彩葉に甘すぎや」とお母さんに怒られる店長と、それをやんわりとなだめながら、「お金の大切さが分からん大人には、なってほしゅうないんです。気持ちはほんま嬉しいんやけど」と頭を下げるお父さんに、その時ばかりは悠仁くんも苦笑いしながら反省していた。当時の私には10万、といわれてもあんまりその数字の凄さが分からなかったけど。今ならポンと出すような金額ではないということくらいは分かる。10万円ってすごいよ、この店の商品何個買えるのさ。あの時は、価値も知らずに強請った私も悪かった。

 

「お兄ちゃんは悠仁くんと遊びたいだけやん。邪魔せんといて」

 

「…お前もそうやろ」

 

「私はちゃうもん」

 

 兄はその手に持ったスマコンでゲームをやりたいんだと思うが、それでは視界が完全に切替わってしまうからお店の営業が出来なくなってしまうだろう。営業妨害というやつだ、常識がないぞ。私はそんなことしないもん、店番してる悠仁くんの隣に座ってお喋りしたいだけやもん。邪魔なんてせえへん。

 

 悠仁くんだって私が隣でにこにこ笑ってたらお客さんが喜ぶからって褒めてくれるんやから。いつも私が来たらすぐに座れるように私用の椅子も隣に用意してくれてるんだ。悠仁くんのすぐ隣に置いてある椅子に座って、両手を伸ばしてその腕を掴む。兄とも、父とも違う、太くてがっしりとした腕だった。

 

「なぁなぁ、お願いや」

 

「うーん、でもなぁ」

 

 いつもだったらすぐに頷いてくれるのに、と不満を分かりやすく示すように頬を大きく膨らませて。より一層力を込めて相手の体を揺すった。

 

「入学式、悠仁くんも来てぇな」

 

 行きたいけど、家族ってわけじゃないからなぁと悠仁くんが眉を下げる。何でそんな悲しいこと言うん。家族みたいなもんやんか。行きたいと思ってくれてるなら来ればいいのに。

 

「家族みたいなもんやんか、何が駄目なん?」

 

 相手の上体が振り子のように揺れる程に力を込めてゆすって。それでも首を縦に振ってくれないから、未だ立ったままで此方を半笑いで眺める兄に助けを求めようと視線をおくった。

 

「悠仁、もう諦めろよ」

 

 今日は目配せの意図が伝わったのか、珍しく兄からの援護射撃がとんでくる。いいぞ、もっと言ってやれと悠仁くんを揺すっていた手を止めて兄の方を見ると、兄も此方を見てにやりと笑った。

 

「卒業式に来てなかった時の彩葉の反応、忘れたわけじゃないだろ?」

 

 む、と目の前の悠仁くんが口ごもる。卒業してからまだ一月と経っていないのでまだ記憶に新しい小学校の卒業式。私は合唱曲の伴奏者を任されていた。お父さんと一緒に使ってるのはキーボードだけど、もちろんピアノだって弾ける。

 

 お父さんも、いつも忙しいお母さんも来てくれると言ってくれていたから気合いを入れて練習してたし、本番も今までで一番の出来だったと今でも思っている。それなのに、当然来ると思っていた悠仁くんは来てくれていなかったのだ。式が終わった後、両親の横に当然あると思っていた人の影が無いと気がついた時、私がどれだけ悲しかったか。

 

「悠仁くんは私の一番のファンやのに、なんで聞いてくれてへんかったん?」

 

「一番?一番は父さんだろ?」

 

「お父さんはお師匠さんや」

 

 結局録画されていた映像を見てもらったけど、そういうことじゃないんだ。ちゃんと、その場で一番に聞いて、感想を言ってほしかったのに。聞いてもらえたのは、幾重にも劣化してしまった電子音だけ。

 

「なんで来てくれへんかったん。私の音は最初に聞いてくれるって約束やったやん」

 

 嘘つき。思い出したら腹が立ってきたので腕を掴んだままでいた手に力を込めてもう一揺すり。いつになく大きく揺れた上半身につられるように、座っている椅子がガタンと音を立てた。その時も、家族じゃないから、と行く選択肢なんて最初から無かったような顔をして。

 

 何でそない悲しいこと言うん。寂しいこと言うん。私の作る曲も、私の演奏も大好きやって言ってくれたんに、嘘だったん?

 

「…悠仁くんの、あほ」

 

 その言葉と共に、下を向いた私の視界を塞ぐように溢れた雫で目がぼやける。腕をつかんでいた手を片方離して下におろして。瞬きすると一滴涙が下に落ちた。

 

「あほ、おたんこなす」

 

 拳を握って、でも力を込めて突き出すことなんて出来なくて。ぽす、と軽い音を立てて相手の二の腕に当たった私の拳がそのまま力なく下に落ちる。

 

「私だけなん…?」

 

 悠仁くんのこと、ちゃんと家族だと思ってるのに。私が演奏をするんだから、当然来てくれると思ってたのに。幾ら探してもあなたの姿はそこにはなくて。

 

 あほ、嫌いや、なんて。思ってもない言葉が私の口から漏れ出していく。私だけなのかな。悠仁くんの中では、私は只の他人で、この店に来る他の子どもたちと、おんなじで。

 

 想像してしまった。私がこの店に行かなくなったら、悠仁くんの方からは私の所に来てはくれなくて。段々と関係が薄れていく、そんな未来。普段ならそんなのありえないと簡単に笑い飛ばせるようなそれも、今の私にはとても辛く、現実味があるように見えて。ぽろぽろと溢れる涙が止まらなくなってしまった。

 

「…彩葉」

 

「俺はスーツを持ってないから、一緒に買いに行ってもらえないか?」

 

 ごめん、嫌いにならないでくれ、と続いた言葉。上手く回らない頭で、精いっぱいその言葉の意味を考えて。嫌いとは、私がさっき言ってしまったのだとやっと思い出した。

 

「嫌いなんて」

 

「嫌いなんて、思うてへん…ッ」

 

 ごめん、と先ほどとは反対に私が小さい声で謝罪をする。喧嘩でも、相手を傷つける言葉なんて言ってはダメだったのに。まして、今回はただ私の我儘で困らせていただけなのに、泣いて更に困らせて、挙句の果てにそんな言葉を吐いて。最低だ、と俯く私の前に大きな手が差し出された。

 

「じゃ、仲直りだな」

 

「…うんっ」

 

 差し出された手を両手で握る。何度も、何度もそのまま小さく振って、仲直り、と口にして。ようやく笑うことが出来た。

 

「あんな、嫌いなんて思うてへんからな、信じてな」

 

「分かってるよ」

 

 疑ってなんかない、という言葉に胸が暖かくなる。そのまま両手で握ったままだった手を軽く揺らしながらほわほわしていると、悠仁くんの視線が兄の方に向いた。

 

「朝日、俺って入学式に入って大丈夫なのか?」

 

「母さんたちと一緒に居れば大丈夫だろ。伯父とでも言えばいいんじゃないか?」

 

「そんなもんか」

 

 意外とゆるいんだなぁと笑う悠仁くんの手を少し力を込めて引っ張る。今は、私と話してたのに。他の方を向いてほしくない。

 

「あんな、悠仁くん。私、新入生代表に選ばれてん」

 

「そうなのか、凄いなぁ」

 

 いつ言おうか、とずっと温めていた話で悠仁くんの視線をまたこちらに引き戻す。目を見開いて、凄いなと褒めてくれる悠仁くんの瞳の中に映っているのが自分の姿だけなのを確認して、兄に向ってどや顔をした。

 

「代表で挨拶することになってん。前に立つんやから、悠仁くんも私のこと見つけやすぅなるやろ?」

 

 嬉しい?と小首をかしげると、今度こそ悠仁くんも笑って嬉しいと言ってくれた。頑張った甲斐があったというものだ。入学式では、伴奏をする機会はないからそれは残念だけど。

 

「何かご褒美が無いといけないな、それなら」

 

 なにがいい?と言われたから、ちょっとの間その言葉の意味を頭の中でかみ砕いて、目を丸くした。悠仁くんは今まで沢山色んな事をしてくれたけど、それらがご褒美などと明言されたことはなかった。つまり、これは“なんでもひとつお願いを聞くよ”ということだ。一瞬の迷いもなく口を開く。お願いしたいことなど、とっくに決まっていたからだ。

 

「悠仁くん、約束してな」

 

 小指を差し出して、笑う。

 

「これからの私の入学式と卒業式、全部ちゃんと来てな?」

 

 差し出した指に、私のそれよりも大きな小指が絡められたのを見て、約束な、ともう一度声に出した。指切りげんまん、と声に出して約束して、指を切る前に、私から切ることはせずに少し、椅子を動かして悠仁くんの方に近づく。

 

「私、この店ようけ来るから。私のこと忘れたら嫌やよ」

 

 中学に入ったら、小学生の時みたいに早く帰れなくなるから。この店に来ることが出来る頻度も、時間もきっと減ってしまう。それでも、さっきの想像みたいにそれで段々関係が薄れていくなんて嫌だから。沢山来るよ、だから、悠仁くんももっと私のこと見て?

 

 悠仁くんからも、私の所に来てくれたら嬉しいのに。本当はお願い、こっちの方がよかったかなとほんの少し後悔しながらも、これからの私の中学、高校、果ては大学まで、一緒に居てくれる約束を取り付けることが出来たことに今回は満足して、ほんの少し笑った。

 

 

 

 

 

 

 

「虎杖君、男前やなぁ。よう似おうとるわ」

 

 朝に彩葉の顔見いひんでもよかったん?と笑う長身の男性。彩葉と朝日の父である酒寄朝久である。流石に朝からお邪魔するのは申し訳ないので、遠慮しての事だったのだが、「今日は僕の弟なんやろ?ほな家族やさかい遠慮はなしや」と言ってからからと更に笑っていた。伯父というのは朝日の冗談だと思っていたのだが、どうも本当にそういう設定で行くらしい。

 

「朝久さんの弟なら私の義弟にもなるんや。もうちょっとしゃんとせぇ」

 

 その声と共に横から伸びてきた手によって、ネクタイが更に強く締められる。着なれないスーツ姿、朝にヤチヨに見てもらった時には似合ってると太鼓判を押してもらったのだが、この人にとっては不十分だったらしい。

 

「ありがとう、紅葉さん」

 

「あんたがちゃんとせぇへんのは勝手やけど、今日はそれで恥かくんは彩葉なんやから。ちゃんとしてもらわな」

 

「こら、紅葉さん。彩葉の我儘で来てもらってるんやから、そない言うたらあかん」

 

 わざわざそれ、買ってくれたんやろ?彩葉の為にありがとなぁ、という朝久さんに首を振る。確かに安い買い物ではなかったが、一緒に選びについてきてくれた彩葉がとても楽しそうだったからそれで充分、と身にまとうスーツの襟を軽く引っ張った。

 

「彩葉に甘すぎやわ、あんたも朝久さんも。そないやからいつまでたっても甘ちゃんのままやんか」

 

「それが彩葉のいいところやん」

 

「得難い長所だろ?」

 

 答えが被った、と朝久さんと顔を見合わせてにやりと笑う。あの娘の優しすぎるところは自分にとってはとても眩しくて。真っすぐなところも、あれで決めたら絶対に譲らない意志が強いところも。全部全部、彼女の長所。紅葉さんは彩葉の事を“甘ちゃん”なんて言うけれど、それでいいではないか。子供がそうあれるようにしてやるのが、大人の役目というものだ。

 

「これだからうちの男衆は…」

 

 額に手をあてて、ため息をつく、それでもそれ以上には何も言ってこないということは、彼女としても何もそこまで問題視しているわけではないようだ。

 

 今年の桜は咲き始めが遅かったから、4月に入っても大量の花びらを下に落として桜色の絨毯を形作りながらも未だその枝に淡い彩りを乗せている。彩葉の新しい環境への門出を祝ってくれているようだ、と手で日光を遮りながらその景色を見上げて。3人で並んで『入学式』という大きな看板が飾られている校門をくぐった。

 

 もはや何年ぶりかも定かでない、学校の体育館をぐるりと首を回して見回して。こんな感じだったかな、と首を傾けた。通された先でパイプ椅子に座って。早めに来たかいがあったのか前の方のよく見える席である。これなら彩葉からも見やすいかな、と安心して少し深く椅子に座りこむと、隣から何かを持った手が差し出された。

 

「これ、お願いな」

 

 見てみるとそれはビデオカメラである。差し出してきたのは紅葉さんだった。どうにも見覚えのあるそれは、彩葉が盛大に拗ねながら自分の卒業式の時の伴奏を見せてくれた時のカメラと同じものである。つまり、あの卒業式を撮っていたのも紅葉さんだったということか。

 

 差し出されたそれを受け取って、軽く構えてみる。使うのは初めてだな、と思いつつ小さな画面をのぞき込んでいると、揺らしたらあかんよ、と叱責の声が隣から更に飛んできた。

 

「画面ばっかり見て、彩葉のこと見ぃひんのはあかんよ。後でどれだけ拗ねるか分かったもんやない」

 

「そりゃあ勿論」

 

 なら良し、と満足したように背筋を伸ばして前を見る。本当にそれが言いたかっただけのようだ。そんなに言うなら自分で持てばいいようなものだが、多分自分もカメラを持たずにちゃんと見たいのだろう。新入生の入場です、というアナウンスと共に開かれた後ろのドアの方にカメラを向けつつ、彩葉の姿を探して無駄によく見える目を凝らしてみた。

 

 

 

 

 入学式はつつがなく終わった。彩葉による新入生代表挨拶も問題なく行われ、隣の紅葉さんの表情を見るに満足だったらしいその出来は、自分から見ても素晴らしいものだった。ただ、ステージに上がる際にこちらを見つけたのか小さく手を振ってしまったことについては、今まさに目の前で怒られてしゅんとしている彩葉がいる。先ほどの凛々しい姿とは随分違うな、と内心で微笑ましく思っていると、同じことの繰り返しになりそうになったあたりで朝久さんによるストップが入って、ようやく解放された彩葉がこちらに走ってくる。

 

「悠仁くん、みてた?」

 

「見てたぞ、格好良かったなぁ」

 

 そやろ?と胸を張る。代表挨拶の時は随分顔に力を入れていたようだが今は緊張がほぐれたのか表情筋がゆるゆるである。ひとしきり笑って気が済んだのか、今度は何かを思いついたのか腕をつかんで引っ張っていく。

 

「写真とろ!」

 

「最初が俺でいいのか?」

 

 悠仁くんがええんよ、とまた笑って。その様子をいつの間にか微笑ましそうに眺めていた朝久さんの手によって、二人で『入学式』と書かれた看板の前で並んで取った写真を小さな画面をのぞき込むように見て。こちらにピースを向けた彩葉の笑顔を、いい表情だなと零す。

 

 自分がこんな経験が出来るなんて思ってもいなかった。こんな、普通の家族みたいな光景。小さかった頃から成長を見守っていた娘の節目となる式典に一緒に行って、並んで写真を撮って。記念だねと言って笑って。

 

 自分の様な人間がそんな人並みの幸せを味わうことが出来るなんて。本当に望外の事で、感謝しかない。朝久さんも、紅葉さんも。そして、彩葉も。こちらに向けてくる視線は、長い間ずっと向けられていたそれとはまったく違うもので。

 

 柄にもなくほんの少し涙が零れそうになってしまったのを目に手をかざすことで堪えて、ご飯を食べに行こうとこちらに手を振る彩葉に手を振り返した。

 

 

 

 

 

 

 




なんで中学生から始めちゃったかな。真面目に掻くなら原作に届くまでに何話かかるのさ。

どこまで書くかは分かりません。続かないかも
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