[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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お久しぶりです


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「じゃ、撮るよー!」

 

 カメラをもって片手を上げるかぐやの合図に合わせて、3人でせーの、という掛け声とともにポーズをとる。高校の校門の前で、手に卒業証書の入れられた筒をもって。誰が言い出したか、3人でそれぞれ並んだら線対称となるように決められたポーズは写真として見返してみるとなんだか珍妙で。

 

 かぐやが差し出してきたカメラの画面を見て、思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

 

「ねー、彩葉。SNSにあげてもいーい?」

 

「んー、顔映ってないし、いいよ。でもちゃんと隠してね」

 

 分かってるよー、と言いつつかぐやからデータを受け取る約束を取り付ける真実。かぐやが引退した後も、芦花と真実はインフルエンサーとしての活動を続けている。

 

 目標を完全に定めた私の来月から進む先は、日本の最高学府、東大だ。

 

 八月というバイト先を失ってしまった私は、今まで持っていたこだわりを捨てることに決めた。高校2年生の夏を過ぎてからの理転。しかも目指すは東大。時間はいくらあっても十分だとは言えず。更に先を見据えて受験勉強以外の勉強も行っておきたかった私にとっては、今までの様な“縛りプレイ”を継続する余裕などどこにもなかったから。

 

 今まで意地で手を付けていなかった祖父母からの仕送りを初めて自分の為に使った。使う前に電話をかけて、今まで「使っている、ありがとう」と嘘をついていたことを謝ったら、「知っていたよ、助けになれなくてごめんね」と泣かれてしまった。

 

 電話越しだったのに、ばれていたらしい。分かっていたけど、私とお母さんの確執もなんとなく察していて自分たちにできることが無いとずっと気をもんでいたと。随分と心配をかけてしまったようだ。本当に申し訳ない。

 

 ちゃんと自分で稼げるようになったら恩返しするから長生きしてね、と言ったら更に泣かれてしまった。何故。

 

 かぐやにも頼らせてもらった。かぐやは今は活動していないものの、たった2か月で信じられないほどの額の稼ぎを叩き出したし、今までの動画は消したわけでは無いので前ほどとはいかないけど今でも再生数は増えていっている。

 

 というか、あのタワーマンションに住み続けようと思ったらかぐやを頼らざるを得ないわけで。只の高校生の私には月35万の家賃を払うのは無理だ。干からびてしまう。

 

 アパートに戻ることも考えなかったわけではないけど、かぐやがとても残念そうな顔で部屋の中を見回していたのと、その為だけにお兄ちゃんにまた保証人を頼むのもなんだかなと思ったのでそのままだ。

 

 お願いしたときかぐやは目を見開いて驚いて見せた後、「かぐやちゃんに任せんしゃいっ!」と胸を叩いて笑っていた。

 

 ヤチヨも、というかヤチヨは私が全部養ってあげる、何て極端なことを言ってかぐやと喧嘩してたけど。流石にそれは気が引けるので毎月少しずつ支援してもらっている。個人としてのお金は溜まっていく一方だったから助かる、何て笑っていたけど。

 

 代わりに、と全部のライブの最前チケットを押し付けてこようとするのは違うと思うんだ。私は自分のリアルラックで取りたいの。関係者席に座りたいわけじゃないの。

 

 おかげでここ1年半くらい、私の立場は言ってしまえばほとんどでヒモある。どうなんだこれと思わなかったと言えば嘘になってしまうけど。

 

 それでも、私の変なこだわりを捨てることで目標により早く近づくことが出来るのなら、きっとそれが一番。今の私には、母と同じ道をたどることよりも大事なことがあるのだから。それに、大学は給付の奨学金がとれたから今よりもずっとましになる、ハズ。

 

 自身もいつもと髪型を変えて、マスクをつけて変装をしたかぐやが辺りを見回して、誰にも注目されていないことを確認してから首に掛けていたスマホの画面をつける。すると、片手で持てるほどの小さな画面の中にツクヨミの歌姫の姿が映しだされた。

 

『彩葉~、卒業おめでとう!大きくなったねぇ。ヤッチョは嬉しいのです…!』

 

「何目線なの?それ」

 

『もちろん、彩葉の成長をずっと見守ってたお母さんの代わりとしてーー「ヤチヨ」

 

「気にしないで、いいよ?」

 

 ヤチヨの言葉を遮って笑う。ここにいるのは、私、芦花、真実の3人とかぐやとヤチヨの2人を入れた5人だけだ。これ以外の私たちの関係者はいない。私の母は、やはりこの卒業式に来ていなかった。ちゃんと東大に受かってもこれなのだから、前の私の願いなんて叶い様がなかったんだろうな、と内心でため息。表には出さないように気を付けて。

 

 気まずそうな顔をするかぐやとヤチヨに、本当に気にしなくていいのに、ともう一度笑う。今の私はもう2人と出会った時の私じゃないんだ。私の大事な人が皆ここにいるだけで十分。お兄ちゃんはギリギリまで予定を開けられないか奮闘していたみたいで、前日に土下座せんばかりの勢いで電話して謝ってくれたから気にしていない。

 

 強いて言えば、そう。贅沢を言ってもいいのなら。店長もいてくれたらいいのに、と考えずにはいられないけど。それは私のこれからの頑張り次第だ。

 

 今日の動画はかぐやがとってくれていたから、何時か見てもらおう。卒業生代表として前であいさつする私を見た店長が何を言ってくれるか今から楽しみだ。

 

「3人一緒の学校なのも、今日が最後だね」

 

 学校への行き帰りが全部一緒だったわけではないけど。学校ではずっと傍に居てくれた。大事な大事な私の親友たち。来月からは、3人とも皆バラバラの学校に進む。

 

 きっとこれまでのように一緒にはいられなくなる。卒業式の間は何ともなかったのに。受け取った卒業証書をもって、校門をくぐって、今更そんな実感が胸に去来した。

 

「寂しく、なるね」

 

 心の支えが一つ外れてしまったような気がして、ほんの少し目線が下がる。そんな私の顔に、伸びてきた手が当てられた。

 

「彩葉、そんな顔しないで」

 

 いつの間にかすぐそばに来ていた芦花が私の方に手を伸ばしてきていた。

 

「彩葉も涙もろくなったねぇ~」

 

 と少し離れたところでは真実が笑っている。

 

「好きだよ。大好き、ずっとだから」

 

 安心して?と芦花が笑う。頬に触れていた手が離れ、背後に回される。気が付くと芦花に抱きしめられていた。

 

「芦花、っ真実」

 

 完璧な女子高生が聞いて呆れる。私はずっと、ずっと二人に心配をかけてばかり。もしも二人がいなかったら。もしも友達になれなかったら、何て考えたくもない。

 

 ずっと、ずっと支えてもらっていた。「ガチのエリートは遊びもおろそかにしない」なんてうそぶいてどうにか捻出した時間だって、いつも2人とのものだった。いつの間にか、私の心の支えはヤチヨだけではなくなっていて。2人と何気ない話をしている時間が、何よりの救いになっていたから。

 

「ありがとう、私も大好きだよぉ…」

 

 あぁ、もっともっと。言葉を尽くしてこの感謝をあなた達に伝えたいのに。頭の中には2人と過ごした3年間の沢山の思い出が次々浮かんでは消えていっているのに。口から出るのはシンプルな2つの言葉だけ。何のためにあんなに沢山勉強したのか分からなくなってしまう。

 

 頭の中の引き出しをどれだけひっくり返しても、それだけしか出てこなくて。せめてもの抵抗にもう一度だけ同じ言葉を繰り返す。

 

「ほら、泣かないで」

 

「明日も会うでしょ~?」

 

 近づいてきた真実のハンカチに涙を拭かれる。芦花は今のままの家だけど、真実は少し遠いところに引っ越してしまう。今のように気軽に会えるのはあと少しで。その間に私たちはこれでもかというほど予定を詰め込んでいた。ずっと余裕が無くてなかなか時間を作れなかった私も、今だけはと自分に言い訳してから遊ぶ予定を楽しみにしている。きっと、店長だって「行ってきな」というだろうし。

 

 明日も、明後日も、その次も。私たちは同じように会うけれど。高校生としては、今日が最後。どうにも離れがたくて、その後も二人の手を握って離せずにいる。

 

「おーい、彩葉さーん?」

 

「…もうちょっと」

 

「甘えん坊だねぇ」

 

 二人の家族が待っているのが遠目に見える。この後、二人はそれぞれ家族との時間があるのに。もう少し、もう少しと言い訳してこの時間を引き延ばしてしまう。結局二人の手を離すことが出来たのはそれから10分ほどたった後だった。

 

 また明日、と二人の視線がこちらから切れるまで手を振って。その間ずっと待ててくれたかぐやとヤチヨの方に向き直ると、「行こっか」と静かに笑ってくれた。

 

「彩葉、いろは。私はずっと一緒にいるからね!」

 

「ヤッチョも~」

 

「かぐや達は…、そりゃそうでしょ」

 

「えぇ~⁉さっきと反応違う~!」

 

 

 

 

 がばっと布団の上で上体を起こして。額から冷や汗を一滴垂らす。窓から差し込む陽の光がいつもより明るい気がしてならないのだ。やってしまったか?と時計を見るとやはりいつも起きる時間よりも大幅に遅い。約束の時間目前の時刻が表示されていて、心臓が大きく跳ねた。

 

 まずい、卒業式の昨日の今日で気が抜けすぎだ。こんなことで大学生活大丈夫なのか。大急ぎで布団を片付けて、取るものもとりあえず近くにあったバッグをひっつかんで部屋を飛び出した。

 

「かぐや!朝ごはんいらないっ、ごめんねっ!」

 

「え?何?彩葉どこいくのー?」

 

 キッチンに立っていたかぐやに謝りながら玄関まで一直線。大急ぎでドアを開けて外に飛び出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「彩葉、どこ行ったんだろ。今日予定ないって言ってなかったっけ。ねぇ?」

 

「随分慌ててたしなぁ。珍しく起きる時間過ぎてもぐっすりだったから寝かせてあげようと思ったんだが…。失敗だったか?」

 

「うーん、そんなことないと思うんだけど…」

 

 折角作ったのに、と食べられることの無かった彩葉の為の朝食の乗ったトレーを悲しそうに見つめるかぐやの頭を撫でて。あとで自分が頂こうか?と悠仁が問う。それに首を振って「ヤチヨの分にするから」とラップをかけた。

 

「まだ寝てるんでしょ?」

 

「あぁ。…人としての睡眠が気持ちいいらしくてな。どうにもベッドから離れられないらしい。許してやってくれ」

 

 少し眉を下げる悠仁に対して「いいよー」と鷹揚に頷いて。かぐやはもう一度彩葉が何であんなに急いでいたんだろうか、と疑問を口にした。

 

「なんか予定あるなら私が知らないはずないのにー」

 

「電話してみようか?」

 

「んー。急いでたし出ないんじゃない?」

 

「とりあえず、だ」

 

 そう言いながらスマホを耳に充てた瞬間、少し離れたところからなる着信音。二人の視線がリビングに置いてあるソファに向けられる。着信音はそこに無造作に置かれた一台のスマホから鳴っていた。

 

「「忘れてるな(じゃん)…」」

 

 

 

 

「はぁ、はぁ…。体力、落ちた…?」

 

 受験勉強のためにずっと座っていた所為か集合場所まで走っただけなのに思った以上に息が上がって辛い。確かに元々あまり運動をする方ではなかったが、体力は人並み以上にあったはずなのに。鍛えなおさないといけないかな、なんて考えながら肝心の集合場所の方に目線を向けてみる。

 

「あれ?いない…」

 

 約束の時間丁度位なのに、その場所には芦花と真実はおらず。見知らぬ雑踏が目に入るのみ。

 

「場所間違えた…?」

 

 二人とも遅刻するような子ではない。ごくまれにトラブルとかで片方遅れるとかはあるかもしれないが、二人同時なんてことは考えられない。なら、のこる選択肢は私が場所か時間を間違えていた、ということなのだが。頑張って記憶を探ってみてもとても間違えているとは思えない。

 

 とりあえず少し待ってみるかなと首に手をあてたところで、違和感に気づく。

 

「髪、こんな短かったっけ」

 

 時間が無かったので結んでいない髪の毛は、今手がある場所よりももっと低い位置まで伸びているはずなのに。どうにも首辺りまでしかないように感じる。切った覚えもないのに。かぐやかな、とも思ったけど、そんなことする訳がないし。

 

 何かがおかしいな、と首を捻っていると、もう予定の時間からは数分が過ぎていた。流石に一度電話をしてみようか、とバッグの中に手を入れたからだが固まる。

 

「…スマホ、忘れた?」

 

 困った。これでは連絡も取れない。そうなると途端になんだか心細くなってきてしまって。もう一度見知った姿を探して辺りを見回すも、誰も居なくて。その代わりに私の目は幾つかの違和感を拾ってきた。遅刻という行為に慌てていた私の脳が少しずつ冷えてくる。テナントに入っている店が記憶のそれと違う。工事中だった場所で、工事が行われていない。逆に、工事何て行われていなかった場所が明らかに随分長くやってます見たいな現場が出来ている。他にも、いくつか。

 

 何か、何か変だ。きょろきょろとあたりを見回して。違和感が降り積もっていく。もう少しで明確に言葉になりそう、というときに。横から声がかけられた。

 

「お姉さん。そんなにきょろきょろしてどうしたの?迷子?」

 

「…あ、私ですか?」

 

 馴れ馴れしかったので自分に声がかけられていると思わずに反応が遅れてしまった。そちらに視線を向けると、いかにも言うような格好の大学生くらいの男が3人程こちらをじろじろ眺めている。

 

「もしかしてここら辺初めて?俺ら詳しいからさぁ。案内しようか」

 

「いえ、良く来るので。大丈夫です」

 

 ナンパか、と内心でため息をつきながらすげなく断る。こういうのは変に柔らかい対応をするといつまでもついてくるから面倒なのだ。最近は一人でこんな目に合うことは無くなってたのになぁ、と遠い目になってしまう。

 

「そんなこといわないでさ~」

 

「一緒に遊ぼ?」

 

 踵を返した私の前に二人が回り込み、それを見て足が止まってしまった私の腕を後ろから一人がとる。こうも露骨なのは珍しいな、となんだか店長と出会った時のことを思い出してしまう。そんなことを考えている場合ではない、ということは分かっているのだが。

 

 周りに人も多いし何とかなるかな、と思いつつ「やめてください」と声をワントーン落として不機嫌さをアピールする。これでも引かないなら大声を出すことも検討だ、と。相手を見やると、軽薄そうな笑みを浮かべてなにがしか言い募ろうとしていたその男の身体が文字通り“跳ねた”。

 

 比喩でも何でもない。アニメとかで何か硬いものを殴った時に拳から全身に振動が伝わっていくような表現があるだろう。まさにそんな感じで爪先から縮み上がって、最後に全身総毛だって飛び上がったのだ。

 

「???」

 

 そんなに怖かっただろうか、と少し凹みながら良く分からないことを言いながらどこかに走っていく男たちの背中を見送っていると、後ろからまた声がかけられた。

 

「彩葉、スマホ忘れてたぞ」

 

「…え?」

 

 聞き間違えるはずがない。背後からの声、顔は見えないけれど。私が名前を呼んでくれるその声を間違えるはずもなくて。でも、信じられない。絶対に聞き間違えだ、だって、だって。私は目の前で見たんだから。

 

 でも、確かに私の名前を呼んでくれてて。

 

「…店長?」

 

 恐る恐る振り返った私の目に映ったのは、こちらに手に持ったスマホを差し出しながら首を傾げている店長の姿で。

 

 なんで、どうして。そんな疑問が頭の中を駆け巡る。なんで当たり前みたいな顔をしてここにいるのか。なんで私のだと言って見覚えのないスマホを持っているのか。そもそも今までどこにいたのか。ぐるぐる色んな事を考えて。最終的に一つの結論にたどり着く。

 

「そっか、夢か」

 

 夢ならなんだか色々違和感が凄いのも納得だ。こんなに鮮明な夢なんて初めてだけど。店長が出てきてくれるなら嬉しいな。

 

「夢なら、いいよね」

 

 一歩近づいて、差し出してきたスマホではなく店長の手を両手で握る。初めてだ、この人の手を取ったのは。頭の上に乗せられたことは何度もあったけど、こうしてみるとやっぱり大きいな、何て。

 

「店長だぁ…」

 

 あったかいな、夢なのに本当にここにいるみたい。現実、だったらいいのにな。動揺したのか手に握られていたスマホが下に落ちる。何故か空中で静止したけど、夢ならそういう事もあるよね。

 

 もう一歩近づいて、握った手を頬にあててみた。ほんの少し、1年。離れただけだったのに。いつあの店に行っても店長がいないとことが、私にはやっぱり辛くて。

 

「さみし、かったです」

 

「覚めないでくれたらいいのに…」

 

 弱音なんて吐くつもりなかったのに、なんだか自然に口からでてきてしまった。夢だし、誰が聞いてるわけでもない。ここでなら、いいかな。

 

「もういなくならないで…」

 

 夢だから、何時かは覚めてしまう。なんだか段々薄れてきた意識を繋ぎとめようともう一度握った手に力を込めた。

 

 

 

「…で、どういう状況?」

 

「俺にもさっぱりでな…」

 

 帰ってきた悠仁の腕にピッタリと彩葉が離れまいとでもいうように引っ付いている。彩葉なかなか外でそういう事をしようとしないから、ついにかと思ってテンションを上げかけたのに。当の悠仁がなんだかすごい顔をしてたから一瞬で引っ込んでしまった。

 

 

「とりあえず起きるまで待ってみる?」

 

「…そうしよう」

 




記憶喪失彩葉、夏凛さんリクエストありがとうございます。

なんか書いてたら続きが掛けそうな引きになってしまったので後編として書くかもしれないですね。

ifの扱い

  • このまま最後まで書く
  • 普通の後日談も交えつつ書く
  • 書かんでいいから後日談だけ書く
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