[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん] 作:夕暮れの家
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「悠仁ってさぁ、怒らないよね」
一人、部屋から出てこなかったことで夕飯の時間が遅れてしまった彩葉が自分の作った夕飯を頬張るところを頬杖を突きながらじぃっと見ながら、ふと思ったことを口にしてみた。今まで私が何かして悠仁に叱られたことは数あれど、怒られたことはない。他の人に対して怒ったところも見たことないな。
「…確かに」
口に入れた料理を飲み込んで、一通り記憶をなぞってみたのだろう。彩葉が初めて気が付いた、と言うような顔をしてソファに座ってこちらに背を向けている悠仁の方をちらりと見た。先ほど、近くに来られると未だ彩葉が挙動不審になることが判明したので少し距離を開けているところである。
距離を開けているとは言っても3ⅿ足らずの近場なんだけどね。そもそも同じ部屋の中にいるんだから距離の云々なんてそんなに関係あるのかな、と思うけど、先ほどよりも多少落ち着いた様子で食べ進める彩葉を見ていると、彩葉にとっては大事なのかなと何故か納得できてしまった。
「ヤチヨも見たことないのかな」
「えぇっとね」
そう言いながら更に頭を捻る彩葉。しばらくして、ないねぇと少し残念そうにつぶやいた。怒ってるところ、見てみたかったのかな。
悠仁が怒ったらどんな感じなのかな、と想像してみる。普段怒らない人ほど怒ったら怖いっていうのは良く言うから、きっとすごく怖いんだろうな。でも、いつも静かで穏やかだから。どうにも具体的に思い浮かべることが出来なくて直ぐに断念してしまった。
「全然想像つかない、どんな感じなんだろ」
「…見てみたいの?」
「まさかぁ」
怒るところが想像できないっていう事は、本当に怒る時の原因はそれはもう大変なものになりそうだから。わざわざ見てみたいとは思わない。そもそも怒られるのは嫌だし。
「…彩葉、見てみたいと思ってる?」
「い、いやまさか」
歯切れの悪い。これは心のどこかでちょっと見てみたいと思ってるな、とジト目で見てやると、ふいと視線を逸らされる。そもそも彩葉は悠仁に叱られたこともなさそう、いつも悠仁は彩葉に甘いし。
「多分滅茶苦茶怖いよねぇ」
「え、そうかな」
「え?」
彩葉が予想外とでも言いたげな顔でこちらを見る。目が合って、二人して首を捻る。怖いと思うんだけどなぁ、と私が言うと、彩葉は静かに怒るんじゃないかな、ともう一口食べてから言っていた。
「うーん、でも確かに声荒げてるところとかは想像つかない」
「そうだねぇ。でも、いいことじゃないの?」
「そうなの?」
怒らないことっていいことなのかな。確かに、いつも怒ってる人は嫌だけど。でも、私は結構怒るよ?ゲームですんごい理不尽な負け方したときとか。悠仁はそんなことしてる姿は想像つかないな。
「うん、大罪だからね」
「…なにそれ」
「知らない?ほら、七つの大罪って良く言うじゃん。ゲームとかで見たことない?」
「あーっ!えっとなんだっけ」
憤怒、怠惰、色欲、傲慢、暴食、嫉妬、強欲ね。かぐやは欲深怪獣だから強欲かなぁ、と笑う彩葉に対してなんだとぅ!と威嚇して。もう一度指折りしながら確認してみる。
「えぇっと、これ全部だめなの?」
「ダメって訳じゃあないと思うけどね」
やりすぎはダメってことでしょ?と言った彩葉がご馳走様、と手を合わせる。美味しかったよ、ありがとうと言って食器を洗い場に運んでいく彩葉の背中を眺めながら考える。
憤怒、怒ったところ見たことない。怠惰、ゆっくりしてるところは見るけどやるべきことはちゃんとやってるし、そんな感じはしない。暴食、普通じゃないかな。強欲、あんまり何かを欲しがってるところ見たことない。私はいつも欲しい物一杯あるけど。色欲、よくわかんない。嫉妬、…どうなんだろ。
「…傲慢」
思い返すのは、私の卒業ライブの時のこと。私はステージに立って歌ってたから、全部が聞こえていた訳ではないけど。すぐそこまで近づいてきていた月人たちが一瞬で薙ぎ払われて、その後は悠仁が色んな所に現れては消えてを繰り返していたことを覚えている。
あの時の悠仁は、今まで見たことない表情をしていたな。楽しそうって訳ではなかったけど、口元に薄く笑みを湛えて。ずっと、そう。ずっと余裕がありそうな感じの表情をしていた。
「ねぇ、彩葉」
「んー?」
「卒業ライブの時さぁ」
「う、うん。なに?」
一瞬、彩葉の反応が鈍くなる。しまった、と思った。彩葉にとっては今もあの夜のことは心のどこかに引っかかっていて。
私が目の前で連れて行かれそうになってしまったことへの無力さと、悠仁が乱入したことへの安堵感と、そしてその後のあったことへの後悔で思い出すと感情がぐちゃぐちゃになってしまうことがたまにある。迂闊だったかな
、と少し様子を伺ってみると、今はそんな様子なくこちらを見て首を傾げている。
「悠仁、なんかいつもと様子違ったじゃん。あれって傲慢ってやつ?」
「え?あー…」
どうなんだろ、と二人して首を傾げる。その時の彩葉の脳内では、持てる力を全て使って月人を薙ぎ払っていた当時の店長の姿が思い浮かんでおり。余裕がなかったから全然考えたことなかったけど確かに全然様子違うなぁなんてことを考えていた。
「で、何の話してたんだっけ」
「え?卒業ライブの時のことじゃないの?」
「違う違う、その前よ」
そうだった、と思考を一つ前の話題に戻してみる。確か、私が悠仁が怒ったところを見たことないと思ったのが初めだったか。でも、それは結局私たち二人とも見たことがないという結論にならなかったっけ。
「なんか思い出したの?」
「そういう訳じゃないけど」
「えーっ?なんかあるでしょー、もう一回思い出してみて、もういっかい!」
「えぇ?何回やっても変わらないと思うけど…」
戻ってきた彩葉の隣に座りなおして、肩をゆすってみると渋々という様子を見せながらももう一回考え始めてくれた。なんかあるかなぁと上体を揺らしながら、ふとヤチヨと悠仁の様子を横目で見てみる。視界の端では、ヤチヨがテレビを指差して大きくリアクションを取り、それを見て悠仁が穏やかに笑っている。
あっちも楽しそうだなぁなんて考えていると、目の前の彩葉から「…あ」という声が聞こえてきた。
「なにっ⁉なんか思い出したっ?」
「え、あ、あの…」
「?なにさ」
勢い込んで振り返ってみるが、どうにも彩葉の反応が鈍い。それに、こちらに視線を合わせてくれずに悠仁とヤチヨの方をちらちらと見ている。なんなんだもう。
「ねぇ、どうしたの?」
「…なんでもない」
「何でもないことないでしょ」
「なんでもないのっ!」
強引に会話を打ち切ろうとして顔を背けた彩葉のことを追いかけて回り込んでみる。こちらの視線から隠れるように両手を上げて顔を隠す彩葉だったけど、隠し切れない隙間から紅潮した頬がのぞいている。これは確実に何か思い出したな、とにやりと笑う。
「ねぇーえー、教えてよう」
「何も思い出してないってっ!」
「嘘だっ!」
顔を逸らして逃げようとする彩葉に対して、更に回り込む私。教えて教えてとはがれた腕の隙間の下から上目遣いで頼んで見ると、彩葉がう、と顔を引く。しめた、あと一押し。
「お願い、ねぇ彩葉~」
「わ、分かった、分かったから!」
勝利、と片手を軽くあげて観念した彩葉から離れる。対する彩葉は何故断れない…!と食卓に力なく上体を崩れ落ちさせている。
「んで、何思い出したの?」
「…こっち」
ちょいちょい、と彩葉が軽く私に手招きをする。どうしたんだろ、と思いながら近づいてみると、悠仁の方を気にしながら耳貸して、と小声で言われる。
「昨日?かな。私があんな感じだった時にさ」
「うん」
「私、外で男の人に絡まれたんだけど…」
「まって、聞いてない」
「そりゃ言ってませんから」
昨日と言うと、彩葉が記憶喪失になってた時のことか。私からしたら直近の出来事だけど、彩葉にとってはもう何年も前の記憶ということになっているらしい。原理は全く分からないけど。
「その時ね、その人たちがなんか急に総毛だって飛び跳ねて」
「とびはねた」
「うん、それから凄い怖い物でも見たみたいな感じで逃げてったの。私、そんなに怖い顔してたかなって思ってたんだけど…」
「うん」
「その後すぐに店長が来たから、もしかして」
そこまで言って言葉を切る。昨日帰ってきた時の悠仁の様子がちょっとおかしかったのはそれが原因かぁと呆れた顔をしながら聞いていた私は、耳だけ彩葉に近づけていたところを彩葉に向き直ってみる。
「私のために、怒ってくれてたのかな、って…」
勘違いかな、ともう一度ちらりと視線を送る。私は良く知らないけど、人が驚いて飛び跳ねるなんてことそうないと思うんだ。それこそ、相当恐ろしい何かに威嚇されない限りは。
相当お冠だったんだろうなぁ、という納得と、悠仁は彩葉の為なら怒るんだな、というなんだか複雑な感情が胸に去来する。私は、そんな所見たことないけど。
「…悠仁も怒るんだねぇ」
「やっぱり、そうかな?」
「聞いてみる?」
勘違いだったら恥ずかしいからやめてっ、と結構本気の顔で引き留めてくる彩葉。絶対勘違いじゃないと思うんだけどなぁ。普通に聞いてみればいいのに。そう言ってみても、かなりの勢いで首を振っている。何がそんなに不安なんだろう。私から見たら納得しかない悠仁が怒る理由なんだけど。
「とにかく、ダメ」
「はぁ~い」
本当に分かってるのかな、と不満そうな表情を見せる彩葉から一歩離れて。そろそろちゃんと話してあげな、と悠仁の方に押し出すように肩を叩いた。何時までも近づくたびに挙動不審になられては悠仁が可哀そうではないか。
数年ぶりに彩葉に面と向かって推しを前にした挙動不審になられていたヤチヨみたいに盛大に拗ねたりはしないだろうけど、それはそれとしてちょっと寂しそうな顔をしているのを私は知ってるんだぞ。
「え、でも」
「ほぉら、いいから」
事ここに至ってまだ足踏みをしようとする彩葉の背中をもう一押しして、一仕事したと額を拭う仕草をしてみる。視線を斜め上にずらして、ちょっと考えて。口元に笑みを浮かべてみた。
「配信しようかなぁ」
そう言えば昨日やるっていっていたのにバタバタしてたから中止にしてたんだったな、ということを急に思い出したから。
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「よぉっしっ!三連勝っ!」
>うぉぉぉ最強!
>開幕三タテ
>これは最速記録あるか
>配信が短くなっちゃう…
>いろP超えた?
>いろPはプロ相手に三タテ出来るアマだぞ
>えぇ…、なにそれ、こわ…
「どんどんこいやー!」
手に馴染んだ竹を組み合わせたような大型のハンマーを振りかざして気炎を上げる。思い付きのまま配信を開いた私は、なんとなくという理由で来てくれたリスナーを相手にしてSETSUNAを始めていた。配信タイトルは10連勝するまで終われないっ!!だ。理由はなんとなく。
配信はしてなかったけど、彩葉と一緒にずっと遊んでいた私を舐めないでもらいたい。嫌でも上手くなるって、彩葉と一緒にやってたら。特にSETSUNA何てこっちが気を抜いたらすぐに即死コンボ決めてくるんだから。100Hitとかするんだよ信じられる?
そんなことをしていた甲斐もあって、私一人でも軽快に立ちはだかるリスナーをまた一人ハンマーで粉砕して、一息つく。思い返してみればあんまり配信でこうやって参加型でSETSUNAとかやったことなかったな。
まえは、そう。私が、彩葉に勝ったら結婚な、何て言って、彩葉が勝手なことを言った私に対して怒りながらも集まった全員を鮮やかに倒して見せたんだったなぁ。もう一回やるって言ったら彩葉、怒るかな。
ハンマーを肩に担いでそんなことを考えていると、次の挑戦者が電子音と共に現れる。頭に狸の耳を生やした、群青色の着物を着たアバターの男性だった。私のことを見てぱぁっと表情を輝かせる。ここまでは、参加しているのは皆私のファンなんだからおかしなことはないけど。次に続く一言が問題だった。
「いつも応援してます!自分のおすすめしたゲームもやってくれたみたいで嬉しいですっ!」
「ゲーム?」
「はいっ!『棺』なんですけど…。あれ?やってくれたんですよね、実はまだアーカイブ見れてなくて…」
「え゛」
>おいおいコイツかい
>パッケージ詐欺のホラゲーをホラゲー苦手な人にお勧めするな定期
>凄い顔してて草
>ぺちゃんこにしたれ!
>積年の恨み
棺、棺か。ちょっとトラウマになりかけたから良く覚えている。悠仁がいなかったら酷いことになっていただろうなぁと思うとともに、そもそもいなかったらホラゲーをやるという選択肢すらないのでその前提は成り立たなくて…。まぁそれはいいや。
問題は、あの可愛いパッケージからは想像も出来ない内容の怖さで。正直あの後目いっぱい甘やかしてもらえたからよかったけどそれが無かったら本当に恨んでいたかもしれない。今はそこまで恨んでいるわけではないけど、態々前に出てきてくれたんだから、いいよね?
物騒な思考と共にハンマーを構えなおして。ぺちゃんこにしたる、と意気込んでハンマーを構えたところで私の横で誰かのログインを知らせる音が鳴る。
急になんだ、ここにはフレンドしか入ってこれない筈なんだけどなと思いながら視線を滑らすと、ツクヨミ用のアバターの姿の悠仁がそこに立っていた。
>急にどうした
>おいおいおい
>死んだわアイツ
>アーカイブ見てないなら知らんのか
>見てみろよ、呑気そうな顔してるだろ…。死ぬんだぜ、これから
>逃げて、超逃げて
「かぐや、急にごめんな」
「ううん、でもどうしたの?配信乗ってるよ?大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。でもちょっと俺も混ぜてもらってもいいか?」
「え、うん。いいけど…」
よし、と言って肩を回しながら私に背を向けて相手に向き直った悠仁の雰囲気が変わる。言葉にして説明はしづらいけど、なんだかいつも纏っている安心できる柔らかい空気が、剣呑な棘のあるものに。
「あ、あの。自分なんかしましたか…?」
「あぁ、見てないんだったか。…まぁ、でも関係ないな」
構えろ、と悠仁が一言言うと二人の真ん中の空間にカウントダウンの数字が表示される。未だ飲み込めてない様子の相手の人がわたわたしながら武器である刀を腰だめに構えて。カウントダウンが0になった瞬間、悠仁の姿が掻き消えて相手が吹っ飛んだ。
>はっっっっやっなにあれ
>チートじゃないですか?え?警告出てない?…ほな違うか…
>人に許された速度ですか今の
>目で追えなかったんだけど
>始まった瞬間ぶっ飛ばされてて草
>怒る兄は強い
やることもないので横目でコメントを追っていた私の目に、一つのコメントが止まる。それを見た私は首を傾げてカメラに向かって話しかけた。
「“怒る兄”って、悠仁怒ってるの?」
>どう見てもキレてるでしょうが
>覚えてろよって言った相手が目の前に来たんだから仕方ない
>バチギレだと思いますが?
>あの配信見てた時ひゅんっってなったの思い出した
>見なよ、あの惨状。怒ってない人間の所業かあれが
見ると、吹っ飛ばした相手のアバターの先に更に回り込んで空中コンボを決めている悠仁の姿が目に入る。なんであれでKOになってないのか分からないんだけど。どうなってるんだろ。
「ふぅん、そっかそっか」
そうこうしている間に、結局空中コンボを切らすことなく最後は地面への叩きつけでフィニッシュした悠仁がなんだか申し訳なさそうな顔をしながら戻ってきた。
「…すまん、かぐや。配信の邪魔してしまって。見てくれてる方にも申し訳ない」
>ええんやで
>妥当
>もう一回逝っとくか?
>それよりあの挙動どうなってるんですか?
「皆気にしてないみたい!…それよりもさ、悠仁」
そうなのか?とちょっと驚いたような顔をしている悠仁に一歩近づいて、真下から見上げてみる。アバターの悠仁は髪がとても長いから、近くによれば手を伸ばさなくてもその一つに結んで流された毛先に手が届くから、ちょっと悪戯心のままに触ってみた。
「私の為に、怒ってくれたの?」
「…すまん、私情を持ち込むつもりはなかったんだが」
悪いことをした、と相手のアバターが爆散した後を見ながら眉尻を下げる。珍しいな、悠仁が考え無しに動くなんて。でも、それが
「ふぅん?へー?」
どうしたんだ?と不思議そうにこちらを見る悠仁の後ろに回って、その背中に飛びついておんぶの体勢になる。驚きながらもすぐに受け止めて支えてくれることに笑いが零れてしまった。
「んふふ、なんでもないっ!」
じゃあここからはタッグ戦ね、と拳を高く突き上げてみた。
週一回投稿するとは言いましたが、2回以上投稿しないとは言ってませんのでね。
かぐやのお誕生日、めでたい。
…ヤチヨの誕生日は違うんですか?
ifの扱い
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このまま最後まで書く
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普通の後日談も交えつつ書く
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書かんでいいから後日談だけ書く