[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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感想でドブカス語録が大量発生してるんですが。そんなにお母さんの台詞がドブカスに見えるのか、と思って読んでみたらその通りだった。これからドブカス紅葉を名乗れ。


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 ●

目の前に虹色に光り輝くゲーミング電柱とでも言うべき摩訶不思議物体が鎮座している。一息に幻覚と言い切るにはあまりに明瞭に、そしてあまりに突飛過ぎた。

 

 理解を超えた現象を前にして、じりじりと後ずさりしながら自分の目を確認。やはりスマコンはつけていない。いや、つけていたとしてもゲーミング電柱何て意味の分からないものはツクヨミ内や他のAR空間でも見たことなどないが。

 

「なんだっていうのよ…」

 

 とりあえず、人は自分の認知の限界を超えた現象を目の前にすると数秒間思考が停止するという知見を得ることが出来た。明日の朝には綺麗になくなっていることを祈る、とりあえず未だビカビカと自己主張の激しい電柱に対して合掌を一つ。どうか消えていてください。

 

 ただでさえ今日は何故か集団で押し寄せてきた小さなお客さんの対応に追われててんやわんやだったのだ。結構疲れたのだから早く寝たい。そして明日からの3連休に待っているであろう勉強漬けに備えたいのだ。

 

 そんな私の願いをあざ笑うかのように電柱からぷしゅー、と気の抜けた音と共に煙が排出される。なんだこの昔話に出てきそうな古風な模様の煙は、ふざけているのか。そして。それに連動するように何時の間にか竹の取っ手が出現していた電柱が開こうとしてーー。

 

「いや勘弁してください」

 

 本当に、厄介事は勘弁である。押さえつけるようにその取っ手ごと押さえつけてみるも、抵抗むなしくその扉は開かれる。

 

 これまたちょっと古風なメロディを奏でるメリーゴーラウンドのおもちゃ、その下のベビーベッドには小さくてまんまるな赤ちゃんがいて。

 

「ふぇ……、ふぇ……」

 

「ん????」

 

 本日2度目、理解を超えた現象によって思考が停止する音がした。7色に光り輝くゲーミング電柱が急に観音開きに開いて、その中から赤ん坊が出てきた。冷静に頭の中で整理しようとしても頭がおかしくなりそうだ。

 

「本当に、いや本当に勘弁してください…」

 

 これも本日2度目、両手を合わせて合掌して1礼。回れ右をしてみなかったことにしようとした、その時。ふと思い浮かんだ考えがその足を止めさせた。

 

 店長なら、放っておくだろうか。

 

 考えて、考えるまでもなくその結論が出ていることに気が付いた。絶対に、迷いなく電柱から拾って抱き上げるだろう。簡単に想像できる。

 

 店長に散々助けられている私が、見捨てる真似なんてしてもいいのだろうか。そんな疑問を抱いて立ち止まってしまった時点で答えは決まっているのも同然だった。

 

「どーしてこうなっちゃったかなぁ…」

 

 電柱の中のベビーベッドから赤ん坊を取り上げた次の瞬間、嘘のように光っていた電柱は光を失って普通の電柱に戻ってしまった。先ほどまでは全然お呼びでなかったのに、こうなると俄然ゲーミング電柱が恋しい。カムバック七色。

 

 そんな阿呆なことを考えるくらいに混乱しながら、腕の中の赤ん坊を見下ろす。なんだか上機嫌に笑いながら制服の襟の部分を口に含んでいる。

 

「あんたは何にも悩みがなさそうでいいねぇ」

 

 とりあえずそのままここにいるわけにもいかないので、足早に部屋に戻って、とりあえず布団を敷いて、そこに赤ん坊を寝かせることにやっとこさ成功する。ここに至るまでに突然泣き出した赤ん坊の声にイラついたのか、お隣さんから初の壁ドンを頂戴してしまったり、どうにか泣き止ませようと子守唄を歌ってみたり、などもあったがそれはそれ。

 

 いまの悩みはこの子をどうするか、である。警察に電話したとしても何て説明しろというのだ。7色に光り輝くゲーミング電柱から赤ん坊を拾いましたか?薬でもやってるのかと心配されるのがオチだ。

 

 どうしようどうしようと頭をひねっていたとき、ごく最近のある情景が頭の中を駆け巡った。

 

何か変なことがあったら連絡するといい、とそう言って芦花と真実に電話番号を書いた紙を渡す店長の姿。

 

「そうだ、店長!」

 

 これは紛れもなく“変なこと”であろう。だとしたら頼るのは店長で間違いないはずだ。思い付きのまま勢いよくスマホを握り、ちょっと待てとまた横に置く。詳しくは結局聞いていないものの、店長の言う“変なこと”とはいわゆる心霊現象的なあれの事なのではないのか?

 

 布団の上ですやすやと天使の様な寝顔を晒しながら眠る赤ん坊を見やる。幽霊、には見えないな。普通に触れてるし。そして再び頭をひねる。間違いなく変なこと、でもこんな時間に店長に迷惑をかけるのもとても申し訳ない気もするし、と。

 

 うんうん唸りながら考えた末に出した結論。きっと店長なら真面目に聞いてくれるだろうと、そう考えて電話することに決めた。数回のコールの果てに、もしもしという落ち着いた声が聞こえ、ぐるぐると回っていた思考が少し整理されるのを感じる。

 

「あ、あの店長?家の前の電柱がゲーミング電柱でですね、そこから赤ん坊が出てきて、いま目の前にいるんですけどどうしたら」

 

「まて、落ち着け。どういうことだ」

 

 あ、ダメだこれ、と。店長の声を聴いて少し安心してしまった自分の口から出た支離滅裂な説明に白目をむいた。頭の中が整理されたと思ったのはどうも幻覚だったようだ。

 

 

 カーテンを揺らして室内に吹き込む朝の風、何かの足しになればとばかりに首を振って風を吹き出す扇風機。いつも通りのそれらの光景と共に、朝っぱらからなった玄関のチャイムによって目を覚ますことになった。

 

 まだぼやけている頭を振りながら起き上がり、眠い目をこする。灯りのついていないこの部屋は、カーテンを閉めたままなので朝でも少し薄暗い。眠気の残る頭を軽く振ると、隣ですやすやと寝息を立てる赤ん坊が目に入った。

 

 …赤ん坊??

 

 瞬間、昨夜の記憶が一気によみがえる。ゲーミング電柱、出てきた赤ん坊、初めての壁ドン、白目をむく私。夢じゃなかった、と崩れ落ちる。何かこの子昨日よりも大きい気さえするし。

 

そうだ、私は昨日そのまま店長にSOSの電話をして、そして。安心と精神的疲労の温度差で気絶するように寝てしまったんだったか。まて、店長はその電話先で何と言っていたか。

 

「今日は夜も遅いから、明日の朝に様子を見に行かせてもらってもいいか?」

 

 そして先ほど、私はチャイムの音で目が覚めなかったか。そこまで考えて、恐る恐る玄関の方向を向く。そんな静まり返った室内に、無慈悲にももう一度チャイムの音が響くこととなった。

 

「店長ー!すいません、ちょっとだけ待ってもらってもいいですかっ⁉」

 

 昨日の夜に引き続き、今日の朝もかなり騒がしい始まり方となるのだった。

 

 

 

「この子が?」

 

「そうです…。」

 

 大急ぎで身支度をして、玄関の前で待たせてしまっていた店長に上がってもらって。ようやく一息ついて、赤ん坊を眺める店長を横目に見る。相も変わらずパーカーを目深に被った店長の表情は良く見えなかったけど、口角が少し緩んでいる気がする。

 

「そうか。」

 

 手を伸ばし、ゆっくり、やさしく赤ん坊の顔を撫でる。割れ物に触るように、とても愛情のこもった触り方だった。そして、まだすやすやと寝る赤ん坊をひょいと抱き上げる。

 

「お、濡れてるな。」

 

 そんな言葉と共に一緒に持っていた大きいビニール袋からオムツと小さな服を取り出して、てきぱきと着替えさせて、オムツも替えていく。

 

 前から思ってたけどこの人家事能力は高いんだな、と思いながらその光景を見つめて。そうじゃない、と思い直した。

 

「店長。もしかしてその袋の中身って…」

 

「オムツ、服、抱っこ紐、ミルクその他もろもろだな」

 

 さっき買ってきた、と事も無げに言って見せる店長。よくよく見なくてもその袋はかなりパンパンで。それらを買いそろえるには幾らかかるか経験のない私にはわからないけれど。

 

「は、払います!幾らですか?」

 

「俺が勝手にやったことだからな、気にしないでいい。」

 

「そんなわけには…。」

 

 私が勝手に巻き込んだことでこれ以上の迷惑を掛けたくない、となおも言い募ると、店長もそれに、と言葉を繋げた。

 

「レシートがもうないからな、幾らかは分からないぞ。」

 

「…なんですかそれ。」

 

 嘘だ、誰だって分かるだろう。少しおどけてそういう店長に笑いがこぼれてしまう。こういう会話になった結果、店長がお金を受け取ってくれたことは今まで一度もないのだ。出会ってからずっと、こんな形で恩ばかりが積みあがっている。

 

「店長、疑わないんですね。あんな話」

 

 昨日も思いましたけど、と付け足す。昨日の夜も支離滅裂な説明を繰り返す私の説明を根気強く聞いてくれ、そして最後には“分かった”という一言で納得してくれた。実際に見た私ですらまだ少し疑っているというのに。

 

「酒寄が言うなら本当のことだろ」

 

「あ、りがとうございます」

 

 よし、やっぱりお礼の方がいいな。と何時の間にか取り出した抱っこ紐で赤ん坊を抱えて、空いた手で私の頭を軽く触る。本当に全く疑ってなさそうな声音でそれを言うんだから困るのだ。信頼してくれるのは本当にうれしいのだが。

 

「じゃ、行こうか。」

 

 もやもやとした気持ちを抱えながら店長の事を睨むと、全く意に介してなさそうな店長がそんなことを言った。頭の上に疑問符が浮かぶ。どこかに行くなんて言う話をしていただろうか。

 

 そんな疑問が顔に出ていたのだろう。赤ん坊を抱え、両手にビニール袋を持って玄関に向かおうとしていた店長が更に言葉を繋げる。

 

「うちの店。広くて人手もあったほうがいいだろ」

 

「…手伝ってくれるんですか?」

 

 思わず零れ落ちた言葉に、店長が振り返って、本当に何を言っているんだとでも言いたげな顔をした。当たり前だ、とそう言って、両手に持ったビニール袋を持ち上げて見せる。

 

「でも、店長の言ってた“変なこと”じゃないですよね、これは」

 

 私が最初に店長に助けを求めるのを渋った理由。光り輝く電柱何てもう影も形もないし、この赤ん坊も普通の子にしか見えない。店長がこんなに骨を折ってくれる理由なんてどこにもないのだ。

 

 私の言葉を受けた店長は、少し首を傾げて。そんなこと気にしてたのか。と言った。

 

「頼ってくれて嬉しかったよ、酒寄」

 

 そういうものだろ、と。なんでもないように放たれたその言葉に、なんだか救われた気がして。

 

「ありがとうございます」

 

「よし」

 

 それでいい、と笑って見せる店長の後を追って、玄関をくぐった。赤ん坊くらいは私に任せてください。と両手に重そうな袋を持ったままの店長の後ろ姿に声を掛けて。

 

 

 

「店長、こんな暑いのにまたフード被って。なにかに躓いたら危ないので取りますよ?」

 

 道すがら、どう見ても暑そうな格好の店長に声を掛け、少し手を伸ばしてフードを取り払う。そこから出てきたのは、いつも通りの店長の顔と。

 

 なぜか頭に乗っている店長の髪の毛と同じ色のウミウシで。

 

「…???」

 

 予想だにしない組み合わせに、少しの間思考が停止し、ついでに足も止まる。そんな私の様子に気がついたのか、私を見て、そして自分の頭の上を見て。

 

「ぬいぐるみだ」

 

「え、あ、はい」

 

「FUSHIのぬいぐるみだ」

 

「はい…?」

 

確かによく見て見ればヤチヨのマスコットであるFUSHIである。なんで普通に歩いているのに落ちないのか、そもそも何で頭にのせているのか。様々な疑問が頭の中を駆け巡るも、目下それよりも不可思議な存在である自分の胸ですやすやと眠る赤ん坊の事を思い出して、一旦考えないこととした。人間、諦めも時には必要なのだ。

 

 

 

 

 そこからの時間は一瞬だった。店の前に臨時休業の紙を迷いなく張り付けた店長にこちらが慌てたり、びっくりするほど手際がいい店長に教わりながら赤ん坊のオムツを替えたり、「勉強の時間があるだろ」と言って自分が面倒を見る時間を長く設定しようとする店長と話し合いによって半々に設定させたり。

 

 さらに、流石に年頃の女の子を家に泊めたり、泊まったりするのは出来ないと言った店長に対して、別に泊まってもらう分には構わないという私との間でまた話合いが発生したり。朝起きてなんかまたデカくなってるな、と赤ん坊を見て二人して顔を見合わせたり。

 

 嵐のような時間ではあったものの、店長のおかげで最低限は自分の時間を取れたと思っている。ただ、気になるのは店長がこの子に少し甘いのではないかということだ。

 

 いや、店長が子供に甘いのは今に始まったことではないけど。なんだかいつものそれとは様子が違う気がするのだ。この子の頭を優しくなでるときも、揺らして寝かしつけているときも、店長の髪の毛に興味を持ったこの子に触らせてあげていた時だって。

 

 どうにもその目に込められた熱量が違う気がするのだ。私の気のせいかもしれないけども。それに、私が最初に子守唄にヤチヨの曲を歌ったら泣き止んだ、と言ったら迷いなく店長も歌ってあげていたのだ。びっくりした。ヤチヨの歌とはまた違う、男声の低い響きがとても心地よかったのを憶えている。頼んだらまた歌ってくれるだろうか。

 

 なぜこんなに長々と現実逃避をしているかと言うと、全ては目の前で勢いよく私が深夜にコンビニダッシュして買ってきたオムライスを頬張る10歳くらいの少女が原因である。成長が早いとは思っていたが3日でこんなんになるとは思ってもみなかった。

 

「あなた、どこから来たの?」

 

「ん~、月?」

 

「えぇ…?」

 

 なんだそれは、かぐや姫じゃあるまいし。かぐや姫のお話を知ってバッドエンドは嫌だとわめいて床を転がる様子を眺めながら天を仰いだ。

 

「ね~、あの綺麗な髪の人は?」

 

「ん、店長のこと?」

 

「てんちょー?」

 

 不思議そうに聞き返してくる。どうも店長、という言葉の意味も分かってなさそうな顔だ。店長を名前だと覚えられるのは、それはそれでまずいかな、と少し考えて口を開く。

 

「そ、虎杖悠仁店長」

 

「ゆーじ、悠仁!なんでいないの?」

 

 悠仁どこ?と部屋の中をきょろきょろと探す。何を言っているのか、と疑問に思うも、本当に疑問に思っているようだ。逆になぜ店長がわたしの家にいると思っているのだろうか。

 

「店長は店長の家にいるの」

 

「なんで?ずっと一緒じゃないの?」

 

 なんで、なんでと繰り返してこちらを見つめてくる娘の額を軽く弾いて、今日はもうおしまい。と言って再び布団に潜り込んだ。もう今日は寝かせてくれ。店長とはまた明日会えるから。

 

 

 

 

 

「この子が?」

 

「はい…」

 

 デジャヴ、数日前もそんなやり取りをした気がする。その時と違うのは間にいる娘が随分と大きくなっているということだ。学校に行く前に、と元々預かってもらう予定だった店長の店に連れていくと、店から出てきた店長の姿を見たこの娘は、「悠仁~!」と勢いよく飛びついて行ってしまった。

 

 それを危なげなく受け止めた店長は自然な流れでくっついている子供の頭を撫でながら私の方を向いて確認、そんな流れだ。

 

「すみません、急に大きくなってしまって」

 

「いや、大丈夫だ。でも、そうか…」

 

 おおきくなったなぁ、と店長が声を掛けると、得意そうに息を吐きながら目を細める。本当に傍から見たら美少女だなとその様子を見つめていると、急に店長の腕を取っていた方とは反対の手で私の腕をつかみ、ぐいと引き寄せられる。

 

「これで一緒!だよね?」

 

 上目遣いでそう言われ、少したじろぐ。ただ、私はこの後学校なのですぐにこの場を離れなければならないのだ。

 

「店長、詳しいことはまた後で話しますから。後お願いします」

 

「分かった」

 

 そんな会話をして、鞄を持ち直すとなんとなく置いて行かれることを予想できたのか勢いよく縋りつかれ、彩葉も一緒いて!と言われてしまった。朝とは言えこんな夏場に引っ付かれると流石に暑い。店長は良く平気だったな。

 

 流石に学校に行かないわけにはいかない、と引き剥がして店長に向かってパス。今日は店長が一緒に居てくれるから、というとぶー、と唇を尖らせながらまた店長にぴったりとくっついてしまった。

 

 また暑そうな、とジト目でその様子を見ていると、店長が口を開いた。

 

「酒寄、この娘の事は何てよべばいい?」

 

 そう言われて思う。そういえばずっと心の中でもこの娘呼びだったな、と。店長の横からの凄い期待を込めたキラキラとした視線をビシバシ感じながら1分ほど悩む。

 

「じゃあ、かぐや」

 

 出てきたのはかぐや姫になぞらえた安直な物。流石に単純すぎたか?と心配になったが、目を煌めかせている様子を見ればそれは杞憂だったようだ。

 

「かぐや?かぐや、かぐやかぁ~!」

 

 悠仁!かぐやってよんで!と隣に向かって元気よく宣言しているかぐやの様子を尻目に、今度こそ学校に向かうことにした。店長はいい名前をもらったな、なんて言いながらまたかぐやの頭を撫でている。

 

「いい、店長に迷惑かけないこと、それに店の外に出ないこと、いい?」

 

「えぇ~⁉」

 

「それと、早く帰る方法を見つけること!いいね?」

 

 嫌そうな顔をするな。家に一人で残していく羽目にならなくて本当に良かった。と安堵の息を吐いてようやく学校へと歩を進めることとなった。

 

「悠仁!これ、これなに?」

 

「お菓子だ。食べてみるか?」

 

「いいのっ⁉…美味しいっ!もういっこちょうだい?」

 

「いいぞ、ほら」

 

 店長なら安心だ、とそう思っていたのに背後から聞こえてきたそんな会話に言いようもなく不安を覚えてしまった。やはり店長はあの子に対して甘すぎではないのか。そのあげているお菓子はもしかしなくても売り物なのではないか。

 

 結局心配事は尽きないな、とため息をまた一つつくこととなった。本当に大丈夫なんだろうか、と。

 

 

 私は今怒っているのだ、という意思を込めて店長を見つめるも、ふいと顔をそらすことで躱されてしまった。店から出ないようにと言っていたはずなのになぜこのカフェにかぐやをつれてきてしまっているのか。しかもよりにもよって芦花と真実が一緒に来ているこの場所に。

 

「えぇ~、可愛い。お名前は?」

 

「かぐやはねぇ、かぐやだよ!」

 

 私のパンケーキを腕を伸ばして取ろうとしたかぐやは、それよりも早く動いた店長に掴まれてインターセプトされていた。それでも滅茶苦茶物欲しそうにしている様子が見ていられなくて、1枚ならとあげてしまう自分が恨めしい。ただ、本当に美味しそうにそれを頬張るかぐやの姿を見ると、どうにも許してあげたくなるのが怖いところだ。

 

「店長さんの妹さんですか?」

 

 そう言われてみると、仲がよさそうに並ぶかぐやと店長はどちらも髪の色素が薄いのもあってそう見えてしまうことに気が付いた。流石に娘には見えないが。

 

「俺の親戚でな、仲良くしてやってくれ」

 

 そう言ってかぐやの頭を下げさせて、自分も頭を下げる店長。大人に頭を下げられてしまったことで芦花も真実も恐縮していた。でも立川一の美容ガールである芦花はかぐやの見目麗しさに興味津々のようだし、真実もすごく面倒見がいい娘だ。それにかぐやのものおじのしなさが合わさればきっとすぐに仲良くなるのだろう。そう思って、宇宙人に生活圏を侵略されている現状を認識して胃が痛くなる。

 

 結局物欲しそうに私たちのパンケーキをじっと見つめていたかぐやは、買ってやるから他の人のを取ろうとするのはやめなさい、という言葉と共に店長に他の席に連れていかれて、3つほど頼んで美味しそうに食べていた。先ほどあげた私のパンケーキを返してほしい、切実に。

 

「なんか妹っていうよりも娘みたいだねぇ」

 

「ね、たくさんたべてて可愛い~」

 

「店長さんは食べないのかな」

 

 あの二人が並んでるとなんだか絵になるね、とちらちらと様子を伺いながらそういう二人。実際には美味しそうに食べているかぐやの様子を店長が静かに、でも嬉しそうに眺めていると言った状況なのだが、身長差も合わせて本当に何だか絵になる。

 

 しかし、かぐやがお金を持っているはずもないのであのパンケーキ代は全部店長が出していることになる。その額は、と頭の中で一瞬算盤をはじきかけて、やめた。考えれば考えるだけ怖くなるからだ。

 

 しっかりと残りのパンケーキを食べきって、芦花と真実と別れた後。勢いよくかぐやが後ろから引っ付いてきた。

 

「彩葉~!」

 

 そのかぐやを捕まえて指をさす。お説教だ。

 

「なんで外に出てきてるの?店の中に居てって言ったよね?それに店長にあんなにおごってもらっちゃって…。迷惑かけないでって言ったのに!」

 

「…でも悠仁が良いって」

 

「店長!」

 

「いいだろ、可愛いわがままだ」

 

「甘やかしすぎです!」

 

 自分に向いていた矢印が店長に移ったことを察したのか、もう既に反省した様子を見せなくなったかぐやがわたしの服を引っ張る。

 

「ねー、これの使い方教えて?」

 

 その言葉と共に差し出されたのはスマコン、コンタクトレンズ型PCデバイス、そのケースだ。震える手でそれを指差す。

 

「それ、どうしたの?」

 

「悠仁が買ってくれた!」

 

「え゛」

 

 やたら綺麗だな、と思ったんだ。危惧していた通りやはり新品だった。それになんだ?買ってもらった?新品のスマコンは確か10万は下らない高級品なんですけど?

 

「店長…?」

 

「…なんのことだか」

 

「流石にそれは無理ですよ」

 

 顔をそらす店長。やはり流石に甘やかしすぎだという自覚があるのだろうか。それにしてもねだられたからと言って10万越えのものをポンと買ってやるのはどうかと思うのだが。まぁねだる方もねだる方だが。

 

「それに、お店はどうしたんですか。こんな時間に」

 

「閉めてきた」

 

 今更だろ、と言う店長に頭が痛くなる。確かに3連休はかぐやのお世話のためにお店を閉めさせてしまったが、それに加えて今日もとなると話が違う。

 

「お金、払いますから…!」

 

「そういうわけにはいかない」

 

「なんでですかっ!」

 

「ね、帰ろー?」

 

 こちらはかぐやの事で争っているというのに、当の本人はもうそのやり取りに興味をなくしてしまったようで、私と店長の間に入って両方の手を取った。

 

「一緒、ね?」

 

 私と店長の手を交互に持ち上げて無邪気に笑うその顔に、なんだか毒気を抜かれてしまって矛先を下げてしまう。そんな私の様子を見てかぐやはにへらと笑った。

 

「かぐや、夕ご飯作ったの!彩葉に食べてほしいな」

 

 機嫌よく繋いだ手を振りながらそんなことを言うかぐや。横目で店長を見ると、大丈夫だとでもいうように無言で頷いていた。ちゃんと監督してくれていたようだ。ただ、気になることが一つある。

 

「その、食材費は?」

 

「気にするな」

 

「やっぱり…!店長!」

 

 甘やかしすぎないでください!という本日何度目かのお叱りの言葉が、帰り道に響き渡ることとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「悠仁は、昔の私の方が可愛いんだ」

 

 ツクヨミ内に、そんな拗ねたような声が静かに響く。そんなことを言われている当の本人は目の前に困ったように笑いながら座っている。分かっている、この言い分は私の只の言いがかりだっていうこと。

 

「ごめん、君はあんな姿をしていたんだな、と思うと」

 

 嬉しくなってしまって。と笑う悠仁の姿を見て、その台詞に私もすこし嬉しくなってしまい、演技が崩れそうになるも、すんでのところで持ちこたえた。

 

「そんなこと言って。あんなに甘やかしてさ?」

 

「ヤチヨもわかってたことじゃないのか?」

 

 昔のヤチヨだろう、と不思議そうな顔をする悠仁に、痛いところを突かれたと思う。確かに私は覚えていたし、それをとても大切な記憶としてずっと忘れずに胸の奥のタカラバコにしまってもいる。でも、それはそれ、これはこれなのだ。

 

「でも、かぐやばっかりずるいよ」

 

 私だって悠仁と一緒に手を繋いで帰りたいし、頭を撫でてほしいし。一緒にご飯を食べて美味しいねってわらいたい。そんな、この8000年の間にもう何度考えたかもわからないことを考えて。

 

 俯いてしまっていると、突然ひょい、と抱えあげられて悠仁の膝の間に座らされた。

 

「悠仁…?」

 

「ちがったのか?」

 

 赤ん坊に対してずるい、というからてっきり。といって至近距離で笑う悠仁の顔を見上げて、目を合わせる。この姿じゃすっぽり収まらないな、と思ってちょっと小さい姿になってみると、不思議ととても落ち着く。

 

「悠仁、子守唄歌ってくれたよね」

 

「そうだな」

 

「ね、今歌って?」

 

 もともとヤチヨの曲だろうに、と言って苦笑いを見せる。でも、私にとっては彩葉と悠仁が、何度も歌ってくれた大切な曲大切なメロディーなの。

 

 お願い、とじっとしたから見つめると、観念したのか歌いだしてくれた。私とは違う、低く落ち着いた声。ずっと昔に聞いたそれとまったく同じその歌声を聞きながら背後に体重をかける。

 

「悠仁、私と一緒に居る時間が減って寂しかったの?」

 

「ちょっと前に、一人の店番は寂しいって言ってたよね」

 

 体の向きを変えて、正面から悠仁の背中に腕を回す。この小さい体では私の頭は胸元までしか届かないが、だからこそ。耳を当てて、悠仁の心音を確かめるように目を閉じた。

 

「私も、一人でいるのは寂しいよ」

 

 しばらくは、かぐやにかかりきりになっちゃうのは分かってる。私がそうだったって覚えてるから。その記憶は大切なもので、変えたくないものだから。仕方ないって分かってる。

 

 でも、私もひとりは、寂しい。

 

 いつの間にか歌は終わって、私の耳には規則正しく打ち鳴らされる悠仁の心音だけが響いている。

 

「私もかまって」

 

「もちろん」

 

  言葉と共に頭にのせられた大きな手のひらと一緒に、胸板に頬ずりする。

 

「少なくとも、私が眠るまで一緒に居て」

 

「おおせの通りに」

 

 

 

 

 

「…ヤチヨ」

 

「なに?」

 

「無理、するなよ」

 

「…ありがと」

 

 

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  • 普通の後日談も交えつつ書く
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