[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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Q.
 どう足掻いてもあと一月と一緒にいられないのに、「隣にいたい」だなんて言われた覚悟ガンギマリ虎杖君(部品メンタル)は、どうするでしょうか。

 ただし、そのずっと子どもだと思っていた大事な女の子は大きく成長していて、隣にはその子をちゃんと支えてくれる太陽みたいな女子がいるものとする。






if-α-17

『それでね、その時ね、彩葉が──』

  

 思い出す。その少女との記憶を心底楽しそうに語って聞かせてくれた君の姿を、自分のために作ってくれたんだ、と何度も何度も歌を歌ってくれた君のことを。

  

 また、一緒に。ただそれだけを願って。長い長い時で記憶が薄れてしまうことに怯えながら。それでも笑って前を向く姿に、何度救われたことか。

  

 ただ笑っていてほしい。大切な人の隣で幸せそうにしてくていたら、それで。それだけで。

  

「あぁ……」

  

 ライブ会場に白い人影が舞う。きっと彼らが月人なんだろう。ならば、もうすぐ。もうすぐお迎えだ。かぐや姫は、月に帰ってしまう。

  

 視界の先で腕をつかまれた幼い君の体が、力を失ってへたり込む。反射的に動きそうになる右手を反対の手で押さえつけて。そんな自分の姿を見て、少し笑った。

  

「幸せな、夢だったよ」

  

 もう、やるべきことは定まっている。騒めく観客の中に紛れるように、指を一つ振る。耳の奥に響いた、自分の名前を呼ぶ幼い子供の声は、聞こえないふりをした。

  

  

  

「ねぇ、ヤチヨ」

  

「なんだいなんだい?」

  

 ほんの数分前まではライブの熱気に充てられて自分でもそうと自覚できるほどに高くなっていたテンションはもう風船のように萎んでしまっている。こんな時でもいつも明るく笑ってくれるかぐやは、まだ虚ろな目をして私の背の上にいる。

  

 かぐやは大丈夫なの、も。なんでさっき、あいつらのこと知らないって嘘ついたの、も。何も言葉を続けることが出来ない私に変わるように、ヤチヨがぱちんと手を叩いた。

  

「ところで、誰かここに呼んで話したい人は居ないのかな? 今ならヤッチョがすぅぐ連れてきてあげちゃうよ?」

  

「え? う、うーん……」

  

 芦花も真実も、遠かったけど観客席にいてくれたのは見たし。それに、二人にはすぐ会える。それより、今は様子のおかしいかぐやのことが心配だから。

  

「ううん、大丈夫。ヤチヨ、ありがとう」

  

「……うん。そっか」

  

 楽しかったよ、と手を振るヤチヨに手を振り返して。ログアウトしてすぐ、隣にいるはずのかぐやに目を向けた。座り込んでしまっているけど、どこかぶつけたり怪我している様子はない。よかった、と息をつく。

  

「かぐや、かぐや」

  

「……あれ、彩葉。ライブは?」

  

「終わったよ。もう」

  

 目に光が宿る。元気よく立ち上がったかぐやは、ライブがいつの間にか終わってしまったことに気が付くと、大げさに不満そうな声を上げた。

  

「ねぇ、大丈夫なの?」

  

「大丈夫大丈夫! なんともないからっ」

  

 むん、と腕を曲げて力こぶを浮かべて見せる。私と同じようにほとんど筋肉が浮かんでこないその二の腕を自慢げにこちらに向けるかぐやの姿がなんだかおかしくて。

  

 聞けなかった。あの白い人型が来た時に急にモニターに映し出された月のことも。その後に表示された日付のことも。なにも。

  

「お風呂はいってきまー」

  

 元気に片手をあげたかぐやがぱたぱたと遠ざかっていく足音がする。灯りが消えた暗い部屋の中でスマホを取り出す。検索欄に打ち込むのは、9/12、あの日付。

  

「次の、満月……」

  

 その日は、満月だった。きっと、どこからでも月が良く見える。

  

  

 ✿

  

 夢を見ていた。お父さんがいなくなってしまう夢だった。夢の中の私はなんだかとても小さくて。泣くことしかできなくて。喪服を着て背筋を伸ばす母と兄に挟まれて、ただ一人何を言葉にすることもできず泣いてばかりだ。

  

 お経を朗々と読み上げるお坊さんの背中を見つめる。結局、最後まで何を言っているのかは分からなかった。

  

「お父さんにお別れせな」

  

 お母さんが表情の読めない顔で言う。お別れって何? なんで、そんなことしなきゃいけないの? 動かない足を手を引かれるまま無理矢理進めて。

  

 お花に囲まれたお父さんは、目を閉じていた。ただ眠っているだけみたいで、むしろ、いつもベッドにいるときよりもずっと気持ちよさそうで。私が声をかけたら、すぐにでも目を開けてくれそうで。

  

 でも、信じられないくらい、冷たかった。

  

「あんたには、まだ分からん」

  

 知らないお母さんの表情だった。あんたも、いつまでも泣いとらんで。そう言って私を慰めるでもなくただハンカチを差し出したお母さんは、切り替えるんやで、とだけ言ってどこかに歩いて行ってしまった。

  

 切り替えるって、なに。忘れろってことなん? 無理だよ、そんなの。なんでそんなこと言うん? お母さんだって、お父さんの事すきやないん。なんでそんな平気な顔できるん。

  

 悲しいのも、寂しいのも、私だけなん? 

  

 かわいそうにね、と名前も知らない誰かがささやく。交通事故だったらしい。運転席が潰れて、即死だったって。あんなに綺麗に残ってるのは、奇跡なんやって。

  

『彩葉』

  

 交通事故、昔、そんなことがあったな。あの時は。

  

『彩葉、大丈夫やで。ほら、お父さんこぉんな元気や。なんともないんやから。泣かんといて』

  

 ぐにゃり、と情景がゆれる。そこで初めて、これが夢だということを思い出した。そうだ、お父さんは死んでなんかいない。こんなこと、現実じゃない。

  

 でも、最後に聞こえてきた交通事故。昔、そんなことがあった。ちょうど私がさっきくらいの大きさの頃のことだった。そう、丁度、これくらいの背丈の頃。こんな静かな夜のことだった。

  

「お父さんたち遅いなぁ」

  

 コントローラーを握る手を落としたお兄ちゃんが、すっかり夜闇に覆われた窓の外を見てそんなことをつぶやいた。連敗を喫して頬を膨らませている私も、その言葉つられておんなじ様に窓の外を見る。

  

 予定の時間を30分ほど過ぎてなお、外にお父さんたちが乗った車の光は見えてこない。ちり、と首の後ろを焼き付くような感覚が襲う。反射的に抑えてみても、そこには何もなくて。首を傾げる私に、視線を戻したお兄ちゃんがじゃあもう一回やるか、と声をかけた。

  

 次こそ勝ったる、そう気合を入れて座りなおした私の耳に、玄関の鍵が周り音が届いて、思わずお兄ちゃんと顔を見合わせた。車で出かけたのに、外を見ても車が止まっているようには見えない。

  

 でも、玄関から響いてきた声は確かにお父さんの声だった。

  

「ただいまぁ」

  

 それからは、そう。血にまみれた服を着ているのにほけほけ笑っているお父さんを見て私が大泣きして、お兄ちゃんは血相を変えて。それなのにお父さんはどこも怪我してなくて。大丈夫、だなんて言うから。

  

 あの赤黒いのは後に大破した車のオイルが付いたものだって、納得させられたけど。今ならわかる。あれは絶対オイルなんかじゃなかった。

 

 それに、あの時は気が付いていなかったけど、あの時のお母さんは。何も言わずに父の服の袖を、ずっとつかんでいた。何時もなら、母も一緒になって私たちを宥めるはずなのに、なにも。

  

 後から大破した車を見たというお兄ちゃんに聞いた。運転席側が完全につぶれてたって。なんであれで助かったか分からないって。奇跡だって。

  

 違和感、今更になってそれが積もっていく。ねぇ、お父さん、何があったの? なんで、あの時お母さんはあんな顔をしてたの? 私、知らないことばかりだ。

 

  

「神さんのご加護があったんやねぇ」

  

「……そんなもんやない、あれは」

  

 はよ離れんと、引っ越しせな。お母さんが手が白くなるほどに力を込めてお父さんの腕を握る。私も、お兄ちゃんも。疲れて眠ってしまった後、私の知らない記憶だ。

  

「何があるか分からん。あんた、命を救ってもらったんやで。それで何も求めんなんて、あるわけないんや」

  

「考えすぎや、あんないいお人やったのに」

  

「人やないっ」

  

 なんやの、あれは。頭痛をこらえるように頭を押さえる。

  

「聞いたことあらへん、あんなの」

  

「なら、隠してはるんやろなぁ」

  

 口元にいつもと変わらない笑みをたたえた父が言う。

  

「隠してるもん、咄嗟に使うて僕の事助けてくれた。ほんまえぇお人や」

 

「そんな……」

 

「僕は待つで」

 

 お礼が言いたい。それで、一杯呑めたら最高やな。そう言って、父は微笑んだ。

 

 

 

 

 ✿

 

 ピピピ、となるアラームの音で目が覚める。カーテンの隙間からは、明け方の日差しが差し込んできている。どうやら今日は晴れらしい。

 

 いつもならこの時間は私に引っ付いて布団の中にいるかぐやの姿は、珍しくそこには無くて。頭が覚醒するにつれて、段々とそれを理解して。

 

 それから、心臓が氷を差し込まれたような感触とともに嫌な跳ね方をした。

 

「かぐやっ!」

 

 よろけながらドアを開けて、リビングを見下ろす。そこには、エプロンを着けたかぐやがキッチンに立っていて。呑気な笑顔で私の方を見て手を振っていた。

 

「彩葉、おはよ〜」

 

「お、おはよう」

 

 随分早いね。寝れなかったの? 少し前だったら、ちょっとでも様子が変だったら、直ぐに分かったのに。

 

 隠すの、上手くなったね。そんなところは、まだまだ子どもで良いのに。

 

「彩葉、今日学校行くんでしょ?」

 

「うん」

 

 かぐやは私に、寄りかかっても良いよって言ってくれたけど。かぐやだって、私に寄りかかるのをやめなくて、良いのに。

 

「いてら〜」

 

「行ってきます」

 

 元気に手を振るかぐやの姿をドアが閉まるその瞬間まで見送って。その後も何秒か動けずにいた。

 

「……行かなきゃ」

 

 顔を上げる。引っ越して暫くたったタワーマンションの廊下から見える景色。やっぱりまだ慣れなくて。

 

 かぐやが何も言ってくれないことも、そうだけど。言葉にされたら、それが急に目の前に現れてしまうようで怖かった。

 

 ふと、手にひんやりとした感覚が宿る。それと同時に、今日見た夢の内容が蘇ってきて。

 

「お父さん……っ」

 

 いても立ってもいられなくなった。携帯を取り出して、震える指で父に電話をかける。悠久の時間にも思えたコール時間の後、電話口の向こうから落ち着いた低い声が聞こえてきた。

 

『彩葉? どうしたん、珍しいなぁ』

 

「お父さん? あんな、聞きたい事があってん」

 

『聞きたいこと?』

 

 静かな廊下に、自分の足音だけが響く。変に響いていたそれは、私が立ち止まるとピタリとやんで。耳に入るのは、時折聞こえてくる鳥の声だけ。

 

「昔、交通事故したことあったやろ? その時……」

 

『……あぁ、その話なぁ』

 

 なんと言えば良いか。言葉に詰まる私が適した言い方を見つけるよりも早く、父は察したようだ。

 

 言いにくいな、と迷っていた私が拍子抜けしてしまうくらいに簡単に、からりと笑って。

 

『お父さんな、あの時神様に助けてもろうたんや』

 

「神様?」

 

『あぁ、白ぉい神様でな。なんや寂しそうな顔しとったから、友達になってん』

 

「……えぇ」

 

 信じてないな? 笑いを含んだ声で父が言う。そりゃあそうだろう。私は結構真面目な話を切り出したつもりだったのに。

 

『でも、本当のことや。彩葉もよく知っとる人やで?』

 

「……誰なん? その神様」

 

『虎杖くんや。どうしとる? そっちでも元気にやっとるかな』

 

 あんまり連絡してこんからな、そう言った父の言葉に嘘は一切無くて。だからこそ、腑に落ちなかった。その疑問を抱えたまま、一瞬置いて口を開く。

 

「お父さん────

 

 

 

 

 

 

 虎(・)杖(・)さ(・)ん(・)っ(・)て(・)、誰(・)?」

 

 

 

 

 




 この小説を書いていて、自分は超かぐや姫!が好きなのもそうですが、虎杖がとても主人公として好きなことをようやっと自覚しました。

 人類の守護者としての責務を全うして、大勢に囲まれて死ねた虎杖が、今度は平和な世界で若人の成長を幸せそうに見守ってるお話見たいなぁ。誰か書いてくれないかな。ウマ娘とかでいいよ。

ifの扱い

  • このまま最後まで書く
  • 普通の後日談も交えつつ書く
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