[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん] 作:夕暮れの家
あと3、4話かなぁ
「彩葉、僕がそっち行くから。それまでは新しいバイト先決めたらあかんで」
「え? う、うん。でもなんで?」
「なんでもや。ええな? 後悔しとうなかったらそうするんやで」
「…分かった。お父さんがそう言うなら」
いつ来るか、とは言ってなかったなと電話が切れてからようやく気がつく。まぁお父さんもこのところは忙しいから、そんなにすぐには予定を空けられないだろう。
それはそうとして、今日の予定の一つが早速無くなってしまった。かぐやは今は配信しているし、勉強しようにもいざ外に出ようと支度し終わった状態では、なんだか。
「どうしよ…」
いつもはどうしてただろうか。こんな急に時間が空いた時。今まで、そんなことに困った覚えはないのに。
ちょうど今、空いてしまったこの時間に何を詰め込むか、全く思いつかない。
「なにか…、なんだろ」
何かを忘れているような、何かが足りないような。そんな感覚が何処までもつきまとってくる。それがなんなのか、考えても考えても全くわからなくて。
寧ろどんどん遠ざかっている気さえして。そんな感覚を振り払うように一つ首を振った。
「…作曲の続き、しよ」
かぐやが卒業ライブで歌いたいと言った新しい曲。これがいい、と名指しで選んだその曲は、何故か一つだけ未完成で。そのファイルは、『悠仁くんに!』と読めないタイトルがつけられていて。
ワンコーラスにも満たない未完成のその曲は、聞けば聞くほど稚拙で、未完成で。でも何故か聞いていると涙が出そうになって。
続きを作ろうとしても、全く手が動かなかった。作り方を忘れた訳じゃない。他の曲なら、すぐにでも続きを作り始められるのに、この曲だけ。
いくらやっても、指が自分のもので無くなってしまったかのように動かなくなってしまう。それは、もう一度決意してキーボードと向き合った今も同じだった。
「無理だぁ〜。なんで?」
かぐやがこの曲を歌いたいと言ってるのに。最後になるかも、しれないのに。なんでそんな小さなお願いさえ、叶えてあげられないんだろう。
未完成の曲。お父さんと一緒に作っていた曲。お父さんなら、なにか分かるだろうか。この動かない指の原因も、なにか足りない寂寥感の正体も。
「白い神様、虎杖さん、だっけ?」
お父さんを助けてくれた人、人? お父さんはそう言ってたけど。お友だちになったって、言ってたけど。なら
「なんで私は、会ったことないんやろ…」
キーボードから指を離して、天井を見上げる。明かりをつけず、外から差し込む日光に照らされた部屋の中で、少し暗い天井が何だか違和感で。
なのに、窓の外に浮かぶ入道雲の明るさと並べると変に映えていた。
✿
「悠仁、死のうとしてるぞ」
「…FUSHI、冗談でも、怒るよ」
「冗談じゃない」
冗談じゃ、ないんだ、と繰り返して言う。嘘じゃない、そんなこと、その顔を見ればよく分かって。だって。
だって、強がって怒ったような表情を作るFUSHIも、泣いていたから。
「なんで、悠仁がそんなことするの」
悠仁には、彩葉がいるじゃん。ずぅっと一緒にいて、彩葉だって、きっとこれからも悠仁と居たいと思っていて。
悠仁だって、彩葉のことを誰よりも大切にしてるのに。なんで。
「彩葉は悠仁に関わる記憶は、もう、無い」
「…は?」
ずっと見てきた。幼い彩葉が、悠仁に初めて出会った時のことも。彼の隣で幸せそうに笑う彼女の姿も、その瞳に宿る温度も、全部。
彩葉にとっても、悠仁にとっても大事で仕方が無いはずのそれが、ない?
「どういうこと、FUSHI」
記憶を弄るなんてこと、FUSHIにしか出来ないはず。それなら、その原因は。
目の前にいたFUSHIを捕まえて、目の前まで持ってくる。潰さないように気をつけながら、それでも抑えきれない感情が手に籠もる力となって出てきてしまっている。
「彩葉に、何したの」
「し、仕方なかったんだっ」
ぎゅ、と潰されそうになった手の中からするりと抜け出したFUSHIがぴょんと跳ねる。
「悠仁が“縁を切る”って言ったんだ。彩葉との接点が完全になくなるってことだ。分かるだろ?」
記憶が残ったままだったら。彩葉にとっては、やっと一歩近づけたと思ったら、急に何をしても悠仁に会えなくなるということ。
「分かるよ。分かる、けど」
ダメだよ、それは。悠仁と彩葉は、一緒にいてくれないと。だめ。
「私は、2人が幸せになってくれれば、いいの」
それだけでいいの。大好きな2人が笑っててくれれば、それで。なのに、なんで。
「“縁”は切れたら、結び直せば良い」
「…どうやって?」
ほら、とFUSHIが宙に浮かべたもの。それぞれ色の違う光り輝く光の玉。それらはふわふわと数秒間宙を漂ったあと、ふ、と消えた。
「消えた記憶、全部だ」
これを戻せば良い。こともなげにそう言った。
「悠仁と約束した内容は、相手から消すだけ。俺が残しておくなとは言われてないんだ」
「じゃあ直ぐに戻してっ」
「…ダメだ」
勝手に戻りそうになった縁が、片っ端から切られてる。そう言って顔を伏せる。
「記憶が戻っても、縁が戻らないんじゃ…」
どうしようもない、手詰まりだった。きっと彩葉の生活の中に根ざした悠仁という大きな存在が消えたことの違和感で、再び繋がりそうになった縁が、片っ端から切られている。悠仁本人の手で。
ねぇ悠仁、なんでそんなことするの? 悠仁は彩葉と幸せになってくれて良いのに。私のことなんて、気にしないで、いいのに。
「悠仁はさ」
ぽつり、と呟く。
「悠仁はさ、私が何回同じ話しても、笑って聞いてくれるし」
何回も何回も、彩葉の事を話した。未来であった楽しい出来事の話をした。やってみたいことも、あの時やり残したことも、全部。何度も、何度も。
絶対に遮ったりせずに、笑って聞いてくれた。私が楽しかった話は一緒に笑ってくれて、悲しかったことは一緒に悲しんでくれて。
「私のこと、見つけてくれてさ」
あの砂浜で、あの時、出会わなかったら。私はきっと、ずっと一人ぼっちで。長い長い時間を、彩葉に会える確証も無いまま過ごしていた。
「助ける義理なんて、無いはずなのに」
私はあなたを知ってたけど、あなたは私のことを知らなくて。喋るウミウシなんて奇怪な生き物のこと、見捨てたって何の罰も当たらないのに。
ずっとずぅっと、私の知ってる悠仁であり続けてくれた。どれだけ私が嬉しかったか、どれだけ救われたか。
ずっと悠仁が私の道標だった。あなたがいたから、彩葉のいる時間にたどり着けるって信じられた。
「彩葉と一緒に、私の光でいてくれたから」
幸せそうな彩葉を見れた。お父さんは亡くならず、お母さんとの確執はなく。楽しそうに幼少期を過ごして、周囲を甘えさせてくれる人に囲まれて。
幸せいっぱいな彩葉の姿が見れて。一緒にライブまで出来て。だから。
だから、もう、十分。
「今度はね、悠仁には、自分の幸せを考えてほしいの」
ねぇ、FUSHI。黙って聞いていたFUSHIが顔を上げる。あなただって、そう思うでしょ?
「悠仁、笑ってた?」
返答なんて聞かずとも分かっていた。よかった、これからは未来に怯えながらその時を待つだけだった私に、やらなくちゃいけないことが出来たよ。
「がんばら、なくちゃ」
そう言って、一つ笑ってみせた。
✿
「お父さん、これ、出来たん? すごい?」
「あぁ、凄いなぁ。初めてとは思えん」
父親と思しき男性の隣に座ってキーボードを叩いていた少女が、時間を掛けて、苦労しながら打ち込んだ曲が再生されるのを聞いて、目を輝かせた。
「悠仁くんに聞かせてくるっ!」
「え、まだ半分やでー? …行ってもた」
繋いだパソコンとキーボードをひっつかんで家を飛び出して行ってしまった娘の後ろ姿を見送った男は、まぁええか、と言って少し笑った。
「忙しないなぁ。誰に似たんやろ」
「…私や言いたいん?」
「悪い意味やないで?」
紅葉さんのこれって、決めたらすぅぐ動けてまうとこ、凄い思てんねん。さらりと言われたその言葉を受けて、ほんの少し頬を染めた紅葉と呼ばれた女性は、照れ隠しをするように顔を背けた。
「…彩葉のあれは向こう見ず言うんや。朝久さんに似たんやろ」
「そうかもなぁ」
また虎杖くんに迷惑かけるなぁと男性がほわほわ笑い、女性は何も返さないが、薄く微笑んで手元の本に目を落とす。いつも通りの酒寄家の光景だった。
「悠仁くん、これ、これ凄い?」
「凄いな、彩葉が作ったのか?」
凄い凄い、と頭を撫でられて得意そうに胸を張る少女。もう一度最初から披露して、ちゃんと聞いてくれていることを確かめて、嬉しそうに笑った。
「じゃあ、悠仁くんはもう私のファンな!」
これからも新しい曲出来たら、一番に聞かせたげる! そう言って笑う。約束、と言って差し出された小指は、しっかりと結んで何度か振ってからゆっくりと離れた。
「これもな、もっともっと凄い曲になるんやから」
「もっとか?」
「うんっ、だから私が一人でちゃんと作れるようになって、この曲完成させたら、悠仁くんにあげるっ!」
大事にしてな? そう言って小首を傾める少女の様子を目を細めて見ていた白髪の男は、楽しみだなぁ、と。噛みしめるようにそう言ってほんのり笑った。
分かったよ、書くよ!ウマ娘とのクロスオーバーで良いんだなっ!
ifの扱い
-
このまま最後まで書く
-
普通の後日談も交えつつ書く
-
書かんでいいから後日談だけ書く