[悲報]虎杖成り代わり、縄文時代に立つ[言葉が分からん]   作:夕暮れの家

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終わりに近づいてまいりました。


8

 

『逆転——!決まってしまった———!勝者は、ブラックオニキス———!』

 

 爆音を背に片手をあげて歓声にこたえる帝アキラの姿を見て、その姿を呆然と見つめているかぐやの姿を見て。

 

負けたなぁ、とため息をついた。

 

「負けたぁ゛あぁぁぁ!悔じい゛ぃぃぃ————!」

 

 とりあえず、思い出したように転げまわって悔しがっているかぐやをなだめるところから始めようか。

 

 

 

始まりは、何故か唐突に送られてきたブラックオニキスからの挑戦状。かぐやと帝のKASSENで竹取合戦だなんてしゃれた言い回しで書かれたそれを見て、私が思い切り顔をしかめたことだった。兄には私のツクヨミでのアバターはバレていないと思っていたが、昔父と作っていた曲をアレンジしているとは言えあれだけ派手に出していたのだ。ばれるのも今思えばそれはそうとしか言いようがない。

 

 兄はプロゲーマーだ。中途半端にやってきた私とは違って、それだけをずっとやってきて、その分野で1番になった人。私じゃ、私だけじゃとても敵わない。

 

「だが、勝つ!」

 

「彩葉と、勝ちたいから!」

 

 でも、隣でそんなことを言いながら明るく笑うかぐやの事を見ていると。なんだか、自分でもできる気がして。

 

「やりゃできんじゃん」

 

 やさしい顔でポリゴンとなって消えていく兄の顔は、私の知っている優しいお兄ちゃんのままだった。あんなにこっちを煽るようなことを言ってたのに。やっぱり。そんな笑顔は昔の記憶のままで。

 

 

「ヤチヨカップの優勝者は~~!かぐやいろP————!!」

 

「え⁉負けたのに?やった、やった、やったぁ——————————!!」

 

 唐突に勝負を申し込んできたのも、全部、私たちの為だった。最後の最後にすさまじい伸びを見せて、トップに躍り出た自分たちの名前を見て。それを見て今までで一番うれしそうな顔で笑うかぐやの顔を見て、やったね、と心の底から笑った。

 

「彩葉、やったよ!」

 

 うん、やったね、すごいね。やっぱりかぐやはすごいや。

 

 

 

 

「うおぉ…、最強になった気分。」

 

 ベランダで吹きつける風と、見事な景観を楽しみながらかぐやがそんなことを呟いている。ヤチヨカップの優勝が決まってから私たちの生活は大きく変わった。前に不動産屋で見たあのタワーマンションに引っ越してきたのだ。

 

 かぐやは高いところから見る景色がお気に入りなのか、風になびく髪の毛も気にせずに笑っている。

 

引っ越しはつつがなく終了し、少し前からは信じられないような高い家賃のここに住むことになってしまった。あの狭い部屋に二人暮らし、片方が配信者で時間も気にせず配信しまくるかぐやだなんていう生活は、まぁ無理だということはもともと分かってはいたのだが。

 

目を輝かせて高層階ならでは贅沢な眺めを満喫しているかぐやの事を見て、嬉しそうでよかったな、とそう思った。

 

 広いキッチンで、かぐやがどうしても食べたいというからパスタを麺から作って。製麺機を回していたら自分もやりたいと飛びついてきて。危ないなと笑いながらどうにか夕飯を作って。

 

「はいっ!一番、かぐやっ!ここ十年で最高~!」

 

 広くなった食卓で、2人で並んで座って一緒に作ったご飯を食べて。美味しいと目を輝かせて、変なことを言うかぐやを見て馬鹿みたいに2人で笑って。こんな別世界みたいな場所でも、かぐやとなら楽しくて。それまでの生活とは一変したその生活に、そしてその上に間近に迫ったヤチヨとのコラボライブの練習に追われていた私は、きっと浮かれてしまっていた。

 

「練習もあるだろうし、新しい環境に慣れる時間も必要だろうから、コラボライブまでの間はバイトを休むといい」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 だから、店長からそんなことを言われても、少しありがたいなとしか思わなかった。むしろ、あの海に行った時に店長がかぐやを見る目を見てから、店長の顔を見ると胸の奥がざわざわしてまともに顔が見れないからちょうどいいかも。すこし気持ちを整理したいかも、なんて思って。

 

 だから、気が付かなかった。あんなにかぐやの事を可愛がっていた店長が、ヤチヨカップの優勝の際にも、お祝いのメッセージ一通しか送ってこなかったことへの違和感も。

 

 かぐやがそれに対して文句を言っていても、また会いに行けばいいでしょ、すぐに会えるんだから、と軽く考えて。

 

 もっと、もっと早く、もっとちゃんと店長と話をしておけばよかったなんて後悔したのは、きっと手遅れになった時で。10年後の私があの時の私を見たら、何をしているんだと詰ってくるだろう。

 

 

 

 

 

 

「ヤバいヤバい、怖い怖い怖い」

 

 ライブ直前、緊張で震える手を抑えながら私はそんなことを言っていた。口に出さないと、自分の心臓の鼓動の音に押しつぶされてしまうんじゃないかと思うほど緊張していたから。

 

「だららららららら、蟹!だららららららら、兎!」

 

 そんな私を尻目に、かぐやは私の前で謎の動物ルーレットを繰り返している。はいはいかわいいかわいい。

 

「よくそんな普通でいられるねぇ」

 

「すごいでしょ!」

 

「うーん、すごいすごい」

 

 こんな緊張しているときに、自分以外のものの面倒なんか見ていられるか。勘弁してくれ。こちとら心臓が口から出てきそうなんだ。

 

「ねー、悠仁、今日来てくれるよね?」

 

「うん、終わったら控室で待っててくれるって言ってたけど…」

 

「そうだよね!よかった!」

 

 それは良いのだが、店長は関係者限定のこの空間にどうやって入るつもりなのだろうか。一応チャンネル関係者ではあるものの、それを知る人間は私とかぐや以外にはいないのだが。終わったらパンケーキ食べよー、などともう終わった後の事を考えているかぐやを見ながら考える。凄いな、私はそもそもライブの事で頭がいっぱいで終わった後の事なんて頭の片隅にもなかったのに。

 

「だらららららら、どじょう!」

 

 そんなことを考えていると、どこからともなくヤチヨが現れた。しかも、さっきまでかぐやがやってた謎ルーレット付きだ。

 

「なになに~?関係者なら入れるようにヤッチョがしてあげよっか?」

 

「あ、ありがとうございます!」

 

 よかった、これで店長が不法侵入をする必要はなくなった。そもそもツクヨミ内で不法侵入が成立するのかは確かではないが。

 

「パンケーキ良いな~、ヤチヨも食べたいな~」

 

「いっしょ食べる?」

 

 本日2回目、かぐやにこいつすごいな、という視線を送る。よくまぁこのツクヨミのトップライバーに向かって迷いなくため口をきけるものだ。私には絶対に無理。

 

「よよよ、ヤチヨは電子の海の歌姫なので食べられないのです…」

 

「えぇ~、それ、何て拷問?私には絶対無理だなぁ」

 

 気の抜けるようなそんな会話を聞いていると、少しずつうるさいくらい鳴り響いていた心臓の音が少し落ち着いてきた。これならいけるかな、と深呼吸をしてみるが、その瞬間にここまで届く大歓声が聞こえてきて、それに驚いた心臓がまたも大きくはねた。

 

恨めし気にステージ方向の天井を見やる。そろそろ時間のようだ。

 

「ねぇ、ヤチヨ」

 

「なんだいなんだい?」

 

 ステージに向かうヤチヨの後ろ姿に声を掛ける。本当は握手券付のチケットが当たった時、聞きたかったこと。かぐやのおかげで舞い込んできた望外の機会、きっと今聞けなければずっと聞けないままだろう。

 

「ヤチヨのデビュー曲って、もう歌わないの?」

 

 私の事をずっと支えてくれた曲。その歌詞の通り、“大切なメロディ”はずっと、今も私の中で流れている。この曲と、ヤチヨの存在に何度救われてきたかわからない。

 

「あの曲はねぇ、もう届いたからお役目かんりょ~~~!」

 

「それって、どういう…」

 

 もう届いた?誰かに届けたかった曲だったのだろうか。その言葉の真意を私が聞き返すよりも早く、ステージの幕が上がる。

 

 私はいつも観客席側だったけど、ステージに立つと分かる。この圧力。演者の目には入っていないと思っていた観客の一人一人の顔がものすごい鮮明に見えて、いつも言ってくれていた皆のこと、ちゃんと見えているという話は本当だったんだな、と熱に浮かされた頭でそんなことを思った。

 

 

 

 

 

 いまだ冷めぬ興奮の元、観衆から様々な声が投げかけられる。ライブは大盛況のまま全ての曲を歌い切り、私も最初は緊張して余裕がなかったものの、途中からは全力で楽しむことが出来た。

 

「彩葉」

 

 隣で私と同じように肩で息をしているかぐやが、興奮に頬を赤く染めてこちらを見やる。

 

「め———っちゃ、楽しかった!」

 

「ん、そうだね」

 

「悠仁も、楽しんでくれたよね!」

 

 観客席を見回す。流石にこの数の中から見つけることはできなかったが、きっと楽しんでくれたに違いない。この後感想を聞くのが楽しみだ。最近ちゃんと話せていなかったが、今なら目を見てちゃんと話せる自信がある。

 

「ね、彩葉。好き」

 

「え?私?」

 

 唐突にそんなことを言ってくるかぐやの顔を見つめる。完全な予想外な言葉に、息は整ってきたのに頭は冷えるどころかまた熱を持ち始めた。

 

「店長じゃないの?」

 

「悠仁も好き!でも彩葉、結婚して?」

 

「はぁぁあ?」

 

 何なんだ、段階をいくつも飛び越えてるぞ。そもそもあんた戸籍とか、法律とかどうなんだ。色々問題だらけだろう。そんな断りにくい顔で言われても困るぞ。

 

「ま、まぁ。生活費折半してくれるなら、一緒に居るくらいは、いいけど」

 

「ほんとッ⁉やったぁ!」

 

 嬉しそうに飛び跳ねるかぐや。今の会話は大歓声にかき消されて周りには聞こえていなかったようだ。本当に良かった。周りに聞こえかねないような場所でそんなことを言うのは止めてほしい。炎上して困るのはそっちなんだぞ。

 

 ふ、と視界の端を違和感が走る。観客の一部でノイズが走っている気がする。そちらを向くと、投げかけられる声の一部が通信障害が起こったように一部途切れ始める。

 

「何?これ」

 

 

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 スクリーンに満月が一瞬映し出されたのち、そんな数字が永遠と流れ続ける。そんな理解不能な現象に会場もざわめき始める。

 

「ヤチヨ?なに、これ…」

 

 ツクヨミの事なら何でも把握しているであろうヤチヨに、これを確認しようと声を掛ける。あわよくばライブの演出であれ、と。そんな私の横を灯篭型の頭を持った白い人型が通り過ぎ。

 

 かぐやの、手をがしりと握った。

 

「あれ————?」

 

 その瞬間、かぐやの目から光が消え、がくんと膝から崩れ落ちる。

 

「かぐやから、離れろ!」

 

 咄嗟に手に持っていたキーボードを武器形態に変化させて、かぐやを掴んている腕を薙いだ。肘から先が切り離され、ぼとりと床に落ちる。

 

 おかしい、ツクヨミの中ではダメージは赤いポリゴンで表現されるはずなのに、切断面からは暗い色の液体がぼとぼとと流れ落ちている。明らかに、おかしい。

 

「かぐやに近づかないで…!」

 

 武器を向け、いつの間にか四方を囲んでいた人型に対して牽制する。かぐやはいまだ虚空を見つめたままだ。なにかされたのか、いつも頼んでも馬鹿みたいにうるさいかぐやが、声を掛けても全く返事を返さない。

 

 と、その人型が一つ、また一つと不可視の衝撃によって吹き飛んでいった。

 

「おいたは駄目だよ~?」

 

 ヤチヨが指を振ると、それに連動して1体の人型が吹き飛んでいく。最後の一体になった時、それは跪いて「モウシワケゴザイマセン」と機械的に呟いて、煙のように消えていった。

 

「なに、今の」

 

 そんな不気味な後味を残し、消えていった人型のいた場所を見つめる。かぐやは未だに焦点の合わない瞳でどこかを見つめている、

 

「や、ヤチヨ…」

 

「今のはいったい?何が起こっているんだー⁉続報を待て!」

 

 ヤチヨが放ったそんな言葉できっと、このライブを見ていた人たちの困惑はおさまったけど、私の心は波打ったままで。ライトが落ちたことを確認して、かぐやに肩を貸して立ち上がらせる。

 

 ヤチヨが、これは全部演出だって、心配ないって、言ってくれたならよかった。でも、そうじゃなくて。それに、

 

「う~ん、バグじゃなさそうだし、やんちゃっこの悪戯かにゃぁ?調べてみるよ!」

 

 なんで、嘘ついたの?ヤチヨ。あれは、何なの?なんで、モニターに月が映ってたの?かぐや、なんで起きないの?

 

 

 

 下がっていくステージ、そこには開始時に同じ場所にいた時の様な高揚感はなく、代わりに言い様もない不安感だけが心に泥のようにひたひたとたまっていく。だめだ、これでは。

 

 そうだ、このまま控室に戻れば店長が待っててくれるはずだ。店長に会えばかぐやもきっと元気になってくれるはず。大丈夫だ、大丈夫。私だって、店長と話せればきっと、落ち着くはずだ。落ち着いて、それで、かぐやも元気になって、隣で店長も笑ってて、うんきっと、全部大丈夫。

 

 そう言い聞かせながらステージが下がり切るのを今か今かと待ち、ついに下降が止まり、目の前がまた照明の光で明るくなる。ライブ前に過ごしていた控室には、店長が当たり前みたいに立っていて。その姿を見て、少しほっとするのを自覚する。

 

「彩葉、かぐやは———」

 

 私に肩を貸されて歩く、焦点のあってないかぐやの姿を見て、店長が心配そうに声を上げる。そんな思っていた通りの反応に、久しぶりに呼んでもらった名前に、途端に心が静まっていくのを感じながら、返事をしようと口を開けかけた瞬間。

 

 私の横を、白い人影が通り過ぎた。

 

「悠仁ッ!」

 

「!…おっと」

 

 ヤチヨ・・・だった。ヤチヨが店長の名前を呼んで、店長に飛びついて、首からぶら下がっている。

 

「悠仁、ライブ見てたよね?どうだった?」

 

「最高だったよ、ヤチヨ、良いのか?こんなことして」

 

 親しそうに店長の名前を呼ぶヤチヨ。それに当たり前のように答える店長。それを見て、ある一つの可能性が脳内を駆け巡る。

 

 おそろいの髪色

 

 店長のアバターの服装の色使い

 

 店長の、家族

 

 あぁ、なんだ。そういうことだったんだ。気が付いてしまえば簡単だった。今まで幾らでも気が付くためのヒントはあった。店長が家族の事を詳しく話さなかったのはこういうことで。でも、そっか。

 

「あ、あの。すみません。かぐやもこんなですし」

 

「彩葉?」

 

「わ、わたし、かえりますね。ごめんなさい、また」

 

「彩葉!」

 

 自分でも何を言っているのか分からないまま、言葉をまくしたててツクヨミからログアウトする。最後に目に映った店長は、こちらに手を伸ばしてくれていただろうか。

 

 目に飛び込んできた現実の世界は、照明のついていない暗い部屋で。そのまま壁に背をついて、力なくずり落ちて膝を抱える。

 

『俺の1番は、大切な家族だよ』

 

『そしたら、泣く娘がいるから』

 

 今日の私たちの髪型。サイドテールは、ふしぎといつものヤチヨの髪型よりも、店長のアバターの髪型にとてもよく似ていて。二人が並ぶと、とても、とても、そのことがよくわかって。二人並んで光に揺れるその白髪は、泣きそうになってしまうほど綺麗で。

 

 1番。ヤチヨが、店長の、1番。店長の、特別。

 

「わたし、は…」

 

「…彩葉?」

 

 焦点のあっていない目でどこかを見つめていたかぐやが、その目に光を再び湛えてこちらを見る。その瞳に映る私は、今どんな顔をしているのだろうか。

 

「彩葉、どうしたの?泣いてるの?」

 

 そう言われて初めて、自分が泣いていることに気が付いた。

 

「かぐや」

 

 正体不明の人型、様子のおかしくなってしまったかぐや。ヤチヨの嘘、そして、店長の、特別の事。ライブ中はとても楽しかったのに、どうしてこんなことになっているんだろうと考えて。

 

「ごめん、今日は、もう寝るね」

 

「うん…」

 

 2030/9/12、スクリーンにいくつも映し出されたあの日付。あれは何だったのか、とか。店長は、どうして言ってくれなかったのか、とか。

 

「彩葉、大好きだよ?」

 

「うん」

 

 所詮他人だし、なんて。心の中で考えて。また、その言葉で自分を傷つけて。

 

「次の、満月…」

 

 様子のおかしいかぐや、迎えが来るかもしれないし、と言っていた少し前の事を思い起こす。まさか、と最悪な考えが頭をよぎる。

 

「わたし、は」

 

 どうしたら、どうしたらいい。どれだけ考えても、答えてくれる相手はいなくて。

 

——助けて?そないなこと気軽に言えるのが私の娘なんて、ほんま驚きやわ。この世で頼れるんは自分一人やゆうたよな?もう忘れてしもたん?そやったらーー

 

「うるさい」

 

 頭の中で母が言う。分かってるんだ、助けて、何て。今の私にはその言葉が届く相手さえいなくて。

 

「うる、さい…」

 

 その日は、眠れなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次の日の朝、結局眠れないまま明るくなってしまった外の景色を見て、申し訳程度にかぶっていた布団から出て。いつも通りのリビングにいるかぐやは、いつも通り。昨日のことなんかなかったように振舞ってて。

 

「なにしてるの?」

 

「魚捌いてる。白甘鯛」

 

 料理配信でつかうんだー、と言いながら手際よく包丁を煌めかせるかぐやは、やっぱり変なところはなくて。

 

「じゃあ、私行くね」

 

「いてらー」

 

 なんでもない言葉のキャッチボールをして、少し笑った後。私は何も言い出せずに玄関まで来てしまった。

 

ねぇ、かぐや

 

 急に振り返った私を不思議そうに見つめるかぐや。その瞳と、手に付けたブレスレットが不気味に光る。また焦点が合わなくなったその瞳は、私の方を向いてるのに、私を見てなくて。

 

「かぐやッ!」

 

「え?なにー?」

 

 いってらっしゃい、と手を振って笑う姿に、やっぱり何も言うことが出来ずに、ドアを開ける。閉まっていく扉の、僅かな隙間から中を見ても、かぐやはやっぱりこちらに手を振っていた。

 

 かぐや、どうして、何も言ってくれないの?

 

 

 

 

 

 

 

「彩葉!」

 

 様子のおかしくなってしまった彩葉に手を伸ばす悠仁を抱き着いて止める。私は、私の大切な人達を、こんなに傷つけて。

 

「ヤチヨ、放してくれ。彩葉が心配だ」

 

「…ごめんなさい」

 

 彩葉、ごめん。あんな顔させるつもりじゃなかったのに。分かってたつもりだった。でも、あの時の私は、支えてもらっていただけで。あの時の彩葉の顔なんて、分かってなくて。

 

 彩葉が、あんなに、何もかも奪われたような顔をするなんて。知らなくて。でも、月見ヤチヨは、確かにやっていたことで。

 

「ごめん、彩葉。悠仁、ごめん、ごめん…」

 

 ただ謝っても、悠仁を困らせることになるだけなんて分かってるのに。でも、意味のない謝罪は口から零れ落ち続けて。

 

「ヤチヨ」

 

 結局、悠仁を私の下に縛り付けることに成功してしまう。彩葉の事を心配して走り出そうとしていた悠仁が、私の方を向いて、私の心配をしていることに仄暗い喜びを感じてしまう私が嫌で、もっと大きな罪悪感に押しつぶされて、死んでしまいそうになる。

 

「ヤチヨ、教えてくれ」

 

「これは、必要なことか?」

 

 こちらに目を合わせ、そう問う悠仁。その問いの意味は、何度も私が一人で問い続けたこと。私の知る未来にたどり着くために必要なことなのか。

 

「…うん、そうだよ」

 

「そうか…。分かった。……分かった!!」

 

 音が出るほど拳を握りしめて、辛そうな顔でそう言った。私の知っている未来、それは、このまま彩葉と悠仁の間に微妙な距離が出来たまま、わたしかぐやの卒業ライブが行われる未来。

 

 彩葉達がお迎えと戦った、あの場所に。悠仁はいなかった・・・・・・・・

 

 知らされていなかったのか、それとも私が止めたのか。悠仁はヤチヨと同じく私をとどめようとは動いてくれなかった。

 

悠仁なら、あんな状態の彩葉を放っておくはずがない。だから、きっとそれを止めていたのも私で。

 

 私は、その後の未来を知らない。彩葉と悠仁が元に戻れたかも、分からない。それでも、私の知っている未来をなぞることしかできない臆病な私を。

 

 許さないでほしいどうか、許してください

 

「悠仁、私のこと、嫌いになった?」

 

「そんなこと、あるわけない」

 

 彩葉の事が心配でたまらないはずなのに、即座にそう言ってくれることが嬉しくて。言わせてしまったその言葉に、また自分の心に一つ棘が刺さることを自覚した。

 

 

 

 

 

 




もう滅茶苦茶だよ。

 原作でも、ヤチヨは未来を知っていたからこそ、彩葉が傷つくのを分かっていても嘘をつかざるを得なかったし、月人との戦いにも参加することはできなかったんですよね。多分ツクヨミの中だったら勝てますし。それを選択できない苦しさだったり、とらなければいけない行動で大切な人を傷つけてしまう苦しさっていうのは描かれていないだけできっとあって。

 それがもっときつくなるとこうなるわけですね。ここまでなる予定はなかったんですけどね。なっちゃったんだからしょうがないね。

 虎杖の月人戦闘への参戦については、色々感想欄で考えてくださっている人もいました。ありがたいことです。

本来の世界線ではどうなっていたか。その人たちに言いたいのは一言です。

2話の、悠仁が初めて御厨子を使った時のかぐやの反応を確認してみてください。以上です。

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