『TS転生した俺の姿がどう見てもピンク髪のぼっちですが、ダンジョンで現代ロックを弾き語ったら伝説のギターヒーローになってしまった件』 作:meiTo
気がつくと、俺は薄暗い洞窟の中に倒れていた。
冷たい岩肌の感触に飛び起きる。
「っ!? ここ、どこ……!?」
自分の声に違和感を覚えた。
低かったはずの男の声が鈴を転がすような、それでいて少し震えているような高めの少女の声になっている。
慌てて自分の体を見下ろすとそこには見慣れないピンク色のジャージ。
そして、肩まで伸びた鮮やかなピンク色の髪の毛。
落ちていた水たまりに顔を映すと、そこにはアニメで見たことのあるような極度のコミュ障オーラを漂わせた美少女の顔があった。
「え、あ、う、嘘でしょ……!? 男だった俺が、美少女に……いや、これ完全に『後藤ひとり』じゃん! なんで!? 著作権とか大丈夫なの!?」
パニックになり、あわあわと両手を振り回していると背中に硬い感触があった。
見慣れた黒いギグバッグ。
中を開けると、漆黒のボディが美しいレスポール・カスタムが鈍く光っていた。
『ピコンッ』
突然、脳内に無機質な機械音が響いた。
《ユニークスキル【現代音楽庫】および【英雄の旋律】を獲得しました》
《ダンジョン・第1層からの脱出クエストを開始します》
「ダ、ダンジョン!? スキル!? え、無理無理無理! 部屋から出るのも嫌だったのに、モンスターと戦うなんて絶対無理ですぅぅぅ!!」
頭を抱えてしゃがみこんだその時、洞窟の奥から地響きのような足音が近づいてきた。
現れたのは、身の丈3メートルはあろうかという巨大なゴブリンだった。
その手には錆びた巨大な棍棒が握られている。
「ひっ……!」
巨大なゴブリンがこちらに気づき、咆哮を上げて突進してくる。
(逃げなきゃ!?でも、足がすくんで動けない!)
極度の恐怖と緊張で、息が詰まる。
その時、体が勝手に動いた。
いや、前世からずっと現実逃避したい時にいつもやっていた癖だ。
逃げ場のない現実から目を背けるために
俺は震える手でギターを構え
ピックを握りしめた。
「あ、あああ、ああああっ……!」
半ばヤケクソで、ピックを振り下ろす。
――ギャァァァァァンッ!!
深いディストーションがかかった、鼓膜を震わせる爆音がダンジョンに響き渡った。
アンプもないのにギターそのものから轟音が鳴り響いている。
前世で何度も何度も弾き込んだ、疾走感あふれるロックナンバーのイントロ。
《スキル【英雄の旋律】発動。楽曲:アジカン『〇〇〇〇』――対象に音圧による物理破壊属性を付与します》
「えっ?」
俺が鳴らしたコードの音波が、目に見えるほどの衝撃波となって巨大ゴブリンに直撃した。
「グギャァァァ!?」
ゴブリンは悲鳴を上げる間もなく凄まじい音圧の壁に吹き飛ばされ、洞窟の壁に激突して光の粒子となって消滅した。
静寂が戻った洞窟の中で、ジャーンと最後のコードの余韻だけが響いている。
「…………え?」
信じられない光景に、俺はギターを抱えたまま固まった。
ただコードをかき鳴らしただけで、モンスターが消し飛んだ。
もしや、この世界で現代のロックを弾くととんでもない魔法の攻撃になる……?
「あ、あの……これって、もしかして……」
ピンク髪の少女(元・成人男性)は、薄暗いダンジョンの底でブルブルと震えながら呟いた。
「私、ギター弾いてないと死んじゃう系のアクションRPGの主人公になっちゃったんですか……!?」
こうして、極度のコミュ障で陰キャな俺(私)の
現代音楽で異世界の常識をぶち壊していく伝説のギターヒーロー伝説が幕を開けたのだった。