『TS転生した俺の姿がどう見てもピンク髪のぼっちですが、ダンジョンで現代ロックを弾き語ったら伝説のギターヒーローになってしまった件』   作:meiTo

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第1話『承認欲求モンスターと化した私、うっかり全世界配信デビューする』

 

 

 

 

 

「ひぃぃぃ……暗い、怖い、帰りたい……おうちの押し入れに帰りたいですぅ……」

 

 

 

 

巨大ゴブリンを轟音で消し飛ばしてから数十分。

 

私、後藤音(ピンク髪ジャージ姿)は、薄暗いダンジョンの通路を壁伝いに這うように進んでいた。

 

背中には相棒のレスポール・カスタム。

これさえ鳴らせばモンスターを倒せると分かったものの、そもそもエンカウントすること自体が心臓に悪すぎる。

 

 

 

「なんで私ばっかりこんな目に……前世でも今世でも、目立たずひっそり生きていきたいだけなのに……」

 

 

 

ぶつぶつと愚痴をこぼしながら角を曲がった、その時だった。

 

 

 

 

『――きゃあああああっ!!』

 

 

前方の開けた空間から、少女の悲鳴が響いた。

 

 

 

 

ビクッとして壁の陰からそっと覗き込むと、そこには傷だらけの剣士と魔法使いの少女2人組が群れをなす巨大な狼型モンスター(ダイアウルフとかいうやつだろうか)十数匹に囲まれていた。

 

 

「だ、ダメ、もう魔力が……っ!」

 

「諦めないで! 配信を見てるみんなが助けを呼んでくれてるはずだから……!」

 

 

 

彼女たちの頭上には、ふよふよと浮遊する謎の水晶玉のようなものがあった。

 

あれがカメラの役割を果たしているのか、「配信」という単語が聞こえた。

 

 

(は、配信!? ってことは、あれインターネットに繋がってるの!?)

 

(どうしよう。助けなきゃ。でも、知らない人に話しかけるのとか絶対無理。しかもカメラ回ってるし。ネットの海に私のジャージ姿が永遠に残るなんてある意味モンスターより恐ろしい。)

 

 

 

「あ、あわわわわ……」

 

逡巡している間にも、ダイアウルフの群れが少女たちに飛びかかろうと牙を剥く。

 

 

 

――ああもう! コミュ症でネットに動画を上げて承認欲求みたしてた前世の俺! 今こそ、その中途半端なヒロイズムを見せる時だろ!

 

 

私は震える手でギグバッグからギターを引きずり出すと、目をギュッと瞑って空間のど真ん中へと飛び出した。

 

 

 

 

 

「あ、あっ、あの……っ!」

 

 

 

 

 

唐突に現れたピンク髪ジャージの不審者に、少女たちもウルフたちも一瞬動きを止めた。

 

浮遊する水晶玉(カメラ)が、私をバッチリと捉える。

 

 

 

「……え? 誰?」

 

少女の困惑した声。

 

 

無理。見ないで。注目されると死んじゃう。

 

私は顔を伏せたままギターを握りしめ、前世で一番弾き込んだ、

 

あの大ヒットアニメの劇中歌――文化祭のステージで、憂鬱な少女が魂を爆発させたあの超絶疾走ロックチューンのイントロを、全力のピッキングでかき鳴らした。

 

『ジャジャジャジャーン!! ギュイィィィィン!!』

《スキル【英雄の旋律】発動。楽曲:超有名アニソン――対象に『疾走する熱狂(スピードアップ)』および『音圧障壁(ノイズバリア)』を付与します》

 

 

「えっ!?」

「なにこれ、体が、軽い……!?」

 

ギターを弾き始めた瞬間、私の指先から眩い光の波紋が広がり傷ついていた少女たちを包み込んだ。

 

同時に、私の周りに不可視の音圧のドームが展開される。

 

 

(い、いける! これなら!)

私は目を瞑ったまま、激しいカッティングとチョーキングを織り交ぜながら、一心不乱にギターを弾き倒した。

 

怖い。恥ずかしい。でも、ギターを弾いているこの瞬間だけは私は無敵になれるんだ!

 

ギャンギャンと唸るオーバードライブの音色が、ダンジョンの空気を震わせる。

 

飛びかかってきたダイアウルフたちは私が鳴らす「音の壁」に激突し、次々と弾き飛ばされていく。

 

バフを受けた少女の剣撃は目にも留まらぬ速さとなり、魔法使いの炎はライブステージの特効火柱のように燃え上がった。

 

「す、すごい……この曲、聞いたことないけど、魂が熱くなる……!」

 

「君はいったい……!?」

 

 

 

数分後。

最後のコードを鳴らし終えると、そこにはウルフたちの光の粒子だけが舞っていた。

 

 

 

静寂。

 

 

そして、熱狂の余韻。

 

 

「あ、あの、助けていただいて、本当に……!」

 

 

少女たちが目を輝かせてこちらに駆け寄ってくる。

 

そして頭上のカメラ水晶も私をドアップで映そうと近づいてきた。

 

 

(…………あっ)

 

 

ここで私は、致命的な事実に気がついた。

 

助けたはいいものの、この後のコミュニケーションの取り方を全く考えていなかったのだ。

 

 

「あ、う、えっと、その、あっ……!」

 

 

水晶玉の中のカメラのレンズ(らしきもの)と目が合う。

 

画面の向こうにいる何千、何万という視聴者の視線を幻視した瞬間、私のHP(メンタル)はゼロになった。

 

 

 

「ひぃぃぃぃぃぃっ!! み、見ないでぇぇぇぇっ!!」

 

 

私はギターを抱えたまま脱兎のごとく踵を返し、ダンジョンの奥へとダッシュで逃亡した。

 

 

 

「えっ!? あ、待って! お名前だけでも……!」

 

 

背後から声が聞こえたが、振り返る余裕なんてない。

 

やばいやばいやばい! 完全に変なやつだと思われた! 前世の自分の性格もあるけど、後藤ひとりの性格に寄せられているのか穴があったら入りたい! いやここ洞窟だから全部穴だけど!

 

 

――こうして私は、命からがら逃げ出した。

自分が助けた配信者たちのコメント欄がこの直後から

 

 

 

『おい今のピンク髪誰だ!?』

『ジャージ姿で謎の弦楽器弾いてたぞ!?』

『曲が神すぎたんだが!!?』

『バフの倍率おかしいだろチートかよ!』

『伝説の誕生を見た……』

『あの女の子可愛い!』

 

 

 

と、異世界ネット掲示板の歴史に残る大炎上(バズり)を起こしていることなど、押し入れの暗闇を求めて全力疾走する私には知る由もなかったのである。

 

 

 

 

 

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