二階堂ヒロの事件簿   作:赤葉忍

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二度目の『死に戻り』

 気が付けば、私は真っ白な空間の中に立っていた。慌てて胸に手を置けば、撃たれた傷は塞がっている。つまり、ここは病院などではない。私はまた死んだのだ。

 

 そして、この空間に来るのはこれで二度目だ。私は、この場所に居るはずの少女の名前を呼んだ。

 

「ユキ!! 居るんだろう? 姿を見せてくれ!!」

 

 その声が届いたのか、どこからかユキが姿を現す。困ったような表情を浮かべながら、ユキは私の前に立った。

 

「ヒロ、また来てしまったんですね。ここにはあまり来るものではありませんよ?」

 

「不可抗力だ。死ぬつもりは無かった。ところでユキ、君は人造魔女因子を盗んだ犯人に関して何か知らないのか?」

 

「すみません。今の私は、現世にほんの僅かしか関与できないんです。メルルの人格をスマホに送ったことと、エマの魔法。これで精いっぱい。本当はもっと力になってあげたかったのですが、世の中うまくいかないことばかりですね」

 

「⋯⋯いや、それだけでも十分だ。ありがとう」

 

 私が礼を言うと、ユキは頬に手を当ててふっと小さく笑みを浮かべる。その姿に、一瞬だけノイズが走った。

 

(今のはいったい⋯⋯?)

 

 しかし、違和感はほんの一瞬。すぐに視界は正常に戻った。それと同時に、身体がふわりと浮かび上がる。どうやら、『死に戻り』の時間が来たようだ。そんな私を、ユキは以前と同じように手を振って見送ってくれる。

 

「⋯⋯どうやら、君と長話は出来ないみたいだな」

 

「それが当たり前ですよ、ヒロ。あなたはまだこっちに来てはいけません。今度こそ、根今生の別れになることを祈っておきます。⋯⋯でも、もし。またここに来るようなことがあれば、その時はお菓子でも用意しておきますね」

 

 三度目となる、ユキとの別れ。今回は、涙は流さなかった。でも、これが今生の別れになってもいいように、最後まで私はユキの顔を見つめ続けた。

 

 

 

 

 ぱちり、とベッドの上で目を覚ます。上体を起こし、カレンダーを確認すれば、日付はレイアの高校の文化祭一日目。そして時間は朝。『死に戻り』は発動し、今日の朝へと戻っていた。

 

「メルル、聞こえているか?」

 

『は、はい! 今の私は睡眠が必要ありませんから、24時間応答可能です。 なにか、御用でしょうか?』

 

 机の上に置いていたスマホに話しかけると、起動音と共にメルルの声が聞こえてくる。普段私から話しかけることはあまりないので知らなかったが、このスマホに搭載されたAIメルルは、カスタマーセンターもびっくりの即時対応のようだ。それならば話が早い。私とレイアの死という正しくない未来を回避するために、メルルには働いてもらうことにしよう。

 

「メルル、私はさっき『死に戻り』を発動させた。死んだ場所は今日の午後、レイアの高校だ。あまり時間がない。急いで対策をする必要がある」

 

『!! わ、分かりました。えっと、私は何をすればいいでしょうか⋯⋯?』

 

「そうだな⋯⋯。まずは犯人の特定が必要だ。これからレイアの高校に行き、犯人が現れそうなポイントにカメラを設置したい。このスマホのカメラにはどのような機能が搭載されている? 可能ならば、赤外線カメラも設置しておきたい」

 

『元々は通常のカメラ機能しか搭載されていません。で、ですが、私が今から赤外線カメラ機能をインストールすれば、午前中までには使用可能になるはずです』

 

「そうか。ならばインストールを頼む」

 

『分かりました⋯⋯!!』

 

 メルルと会話しながら、私は着替えなどの用意を進めていく。メルルに赤外線カメラ機能のインストールを頼んだのは、私が死ぬ前に見た舞台裏の情報からの考察だ。あの時、あの場には誰も居ないように見えた。だが、私とレイアの撃たれた位置的に、狙撃ポイントはあの場所が一番怪しい。何故誰も居なかったのか。考えられる原因はいくつかある。

 

 1つ目は、魔法で姿を消していた。2つ目は、魔法で曲芸のような狙撃を可能にし、狙撃ポイントをずらした。それか、魔法など使わず単純な技量のみで困難な射殺を可能にしたかだ。

 

 できれば、1番目の原因であってほしい。狙撃ポイントをずらしたり狙撃の技量が優れていたなどの理由だと、犯人の特定が困難だ。メルルに赤外線カメラ機能をインストールするように頼んだのは、もし魔法で姿を消していたとしても、赤外線カメラなら姿を捉えられるのではないかと考えたからである。

 

 着替えなどの準備を終え、私はメルルの搭載されたスマホと、私用のスマホの2つを持ち、家を出る。『死に戻り』前と比べてかなり早いが、カメラ以外にも対策が必要だ。私は、エマを迎えに行く傍ら、レイアに対してチャットでメッセージを送る。

 

『早めにそちらの高校に向かう。校門で待っていてくれ』

 

 すると、すぐにスタンプが返ってきた。レイア本人の画像で、ぐっと親指を立てたものだ。そういえば、この前スタンプを発売したなどと言っていた気がする。どうせなら購入するかと思いショップを見ると、無駄に金額が高い。その理由は明らかで、662種ほどのバリエーションが用意されていた。

 

「いや、多すぎるだろ」

 

 目立ちたがり屋もここまでくれば尊敬できる。私はスタンプの購入を諦め、足早にエマの家へと向かったのであった。

 

 

寝ぼけ眼のエマを、部屋に上がり込んで叩き起こし、私とエマはレイアの高校へと急ぐ。隣のエマはまだ眠そうに目を擦っているが、今は何よりも時間が大切だ。そのため、まだエマには何も説明はしていない。

 

「やあ、ヒロくん! エマくん! ようこそ、私の学校に!!」

 

「ああ、レイア。出迎えご苦労。いきなりで悪いが、君の相方のジュリエットは熱で来られなくなる。代役で私が劇に出るから、準備をしてくれ」

 

「ひ、ヒロくん!? いきなり何を言ってるんだい!?」

 

「え!? ヒロちゃん劇に出るの!?」

 

 会って早々に私が要件をぶちまけたことで、レイアとエマは揃って目を丸くしている。⋯⋯流石にいきなり過ぎたか。しかし、こうして話している時間も惜しい。私は簡潔に大事なことだけを伝えることにした。

 

「驚くのも無理はない。だが、事実だ。私は、『死に戻り』の魔法でそのことを知っている」

 

「!! ヒロくん、それはつまり⋯⋯」

 

「ああ、私は一度死んでいる。そしてレイア、君もだ。この後襲い来る『死』を回避するためにも、準備が必要だ。協力してくれ」

 

 私が頼むと、レイアも真剣な表情になって頷く。普段は目立ちたがり屋なところが目立つレイアだが、こうなったらかなり頼れる。こうして事前に共有しておけば、対処もしやすくなるだろう。

 

「分かったよ。私は何をすればいいかな?」

 

「舞台装置にスモークはあるか? もしあればロミオとジュリエットの別れのシーンでスモークを焚くようにしてくれ。あとはアドリブで乗り切る」

 

「え? ひ、ヒロちゃん、劇は止めないの? 一回殺されたんだよね? 劇そのものを中止した方がいいんじゃないの⋯⋯?」

 

 エマの心配はもっともだ。だが、私は首を横に振った。

 

「確かに、それが一番安全だ。しかし、劇を中止してしまえば、犯人の特定も困難になってしまう。そうなってしまうと、次またいつ狙われるか分からず、対処が困難だ。それならば、襲われることが確定している今日対処し、犯人の特定と、可能ならば確保まで行いたい。それに⋯⋯」

 

 私はちらりとレイアに視線を向ける。レイアは、この劇のために努力してきたはずだ。それなのに、どこの誰とも分からぬ殺人犯のせいで劇を中止させられるのは正しくない。しかし、それを本人の前で言うのは少しだけ気恥ずかしかった。

 

「いや、なんでもない。兎に角、私たちの力で今日の死を乗り越えてみせよう」

 

「ああ、そうだね。私たちなら必ずできるさ!」

 

「ぼ、ボクも手伝うからね!」

 

『私も、カメラの設置、ちゃんとしておきますね!』

 

 メルルも含め、私たちの心は1つだ。必ず、今日の死を乗り越え、犯人を特定してみせる。

 

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