文化祭2日目。下手人の襲撃を防ぐため、準備を進めなければならない。私は今、そのために昨日呼び掛けた助っ人の到着を校門前で一人待っている途中だった。腕時計をちらりと確認すると、集合時間は過ぎている。自然と、苛立ちからかかとで地面を踏み鳴らしていた。
「遅い。時間を守れないとは正しくないな⋯⋯」
一定のリズムで、人差し指で腕時計の表面を叩く。集合時間から10分ほどたって、ようやく見知った顔が現れ、私は開口一番 りつけた。
「遅いぞ! ココ、アリサ!」
「文句なら沢渡に言えよ、二階堂。こいつが寝坊したせいでウチがわざわざ迎えに行く羽目になったんだぞ」
「ふわぁあ。だってぇ、最近昼夜逆転続いとったし。それに、10分くらいなら遅刻じゃなくね?」
「遅刻は遅刻だ。まったくもって正しくない。だいたい君は夜更かしが多すぎるんだ。正しい生活リズムは正しい人格を産む。私を見習って規則正しい生活をしろ」
「うげぇ、相変わらず五月蠅いなぁ。あんたはあてぃしの保護者かっつーの! てか、文化祭始まってんでしょ? レイアっちの劇があるまで、普通に遊んでていーい?」
遅刻したにも関わらず、反省の態度を見せず、スマホをいじりながらおそらく文化祭のスケジュールを確認しているであろうココと、そんなココの隣で呆れた表情を浮かべるアリサ。今日都合があったのはこの2人だけだった。他のメンバーは学校やら家の用事やら、そもそも距離的に一日で来るには困難だったりで今日来ることは出来なかった。そんな中わざわざ来てくれたことはありがたいのだが、もう少し緊張感をもってほしいものだ。
「時間は確かにあるが、遊んでいる暇はない。相手は拳銃を持っているんだ。対策を打たなければ、一方的に射殺されてしまう」
「しゃ、射殺って。怖いこと言うなよヒロっち。拳銃にはちょっと嫌な思い出が⋯⋯」
「⋯⋯チャットの話だと、二階堂と蓮見が撃たれたんだったか? ウチの魔法じゃどこぞの魔術師みたいに銃弾を炎で焼き払うことはできねーぞ」
「魔術師? なんの話だ」
「え、ヒロっちジョジョ読んだことねえの? あてぃしの家に漫画あるから今度貸そっか?」
「なんだ、漫画の話か。生憎だが、漫画はあまり読まないんだ。それに、アリサの魔法は人が多い場所で使うには危険だ。使うとしても、場所と使い方を考える必要がある」
「もしかしてヒロっち、漫画はお子様が読むものとか偏見持ってる感じ? いやいや、漫画もスゲーからな? ジョジョだって、絵柄は癖があるけれど読んだらすげーおもれーし。ちなみにあてぃしの好きなキャラはジョセフな。アリサは誰好きだったっけ?」
「ウチはアヴドゥルかな⋯⋯。やっぱ魔法で親近感湧くし」
「やっぱ3部はいいよな~。あ、ちなみにヒロっちみたいなやつも出てくんよ。悪役だけど」
「私に似たキャラが悪役というのは聞き捨てならないが、興味は出てきたな。今度借りてみるとしよう。⋯⋯無駄話をし過ぎた。人も多くなってきたし、校内に入ろうか」
話を切り上げ、私が先導して校門の中に入る。後ろに続く2人は、相変わらず漫画の話で盛り上がっていた。牢屋敷に居る間はそこまで仲が良いようには見えなかったが、今は同じ学校に通っているのもあってだいぶ仲がよさそうに見える。以前聞いた話では、お互いの家にもちょくちょく遊びに行っているようだった。
「⋯⋯そういえば、桜羽はいねえのか? あいつも来てるんだろ?」
「エマなら今レイアの手伝いをしている。劇が行われる講堂の構造をこの中で最も理解しているのはレイアだからな。射線が通りそうな場所を教えてもらって、そこにカメラやトラップを仕掛けているはずだ」
「エマっちこき使われてんなぁ~。カメラは分かるけれどさ、トラップって何仕掛けてるわけ?」
きょとんと首を傾げるココに対して、私は笑みを返した。否が応でも、ココはトラップの正体を知ることになる。
「ココ、君が来てくれることが分かったから仕掛けることを決めたトラップだ。遅刻した分、しっかり働いてくれよ」
「うげ。てことはまたあの時みたいな写真貼ってんのかよ! 下手人以外が見る可能性もあんだろ!? 絶対疲れるやつじゃん!!」
「二階堂、おめえ、遅刻したことに対して相当キレてんな⋯⋯。笑顔が逆にこえーぞ」
当然だ。遅刻は正しくない。それが多人数が関わる予定での遅刻なら、なおさらだ。また同じ過ちを犯さないようにするためにも、ここで厳しくしつけておく必要がある。せいぜいしっかり反省し、馬車馬のように働いて罪を償ってほしい。
「⋯⋯ヒロっちと待ち合わせするときは絶対遅刻せんようにしよ」
「私との待ち合わせ以外でも遅刻するなよ? 特にミリアなんかは甘いからな。もしココが遅刻することがあれば私に報告するように釘を刺しておかなければ⋯⋯」
「いやいや、ミリアはやめろよ! あてぃしが一時間遅刻しても許してくれるオアシスなんだからさぁ!!」
「⋯⋯おめぇ、佐伯にそんな迷惑かけてたのかよ。一時間遅刻されて怒らねぇ佐伯もあれだけれど、やめとけよな」
アリサは若干引き気味になり、ココから少し距離を取った。見た目こそ相変わらず不良っぽいが、やはり根は真面目なのがアリサだ。実際、彼女が待ち合わせに遅れることは今まで無かった。
「ふ、二人してなんだよその視線はぁ!! 分かった、分かりましたよぉ!! また『千里眼』使ってココちゃん大活躍すればいいんだろぉ!? とっととレイアとエマっちのとこ行こ!!」
2対1の状況になり分が悪いと判断したのか、ココは降参のポーズを取ってレイアたちとの合流を急かした。まあ、これ以上詰めても得はないことだし、合流を急ぐのは正しいことだ。私たちは、文化祭の様々な出し物を素通りし、一直線で講堂へと向かうのであった。
「ココくん! アリサくん! 来てくれてありがとう!! 私の主演の舞台、是非目に焼き付けてくれたまえ!!」
「うっさ」
「会って早々テンションたけぇな、蓮見⋯⋯」
講堂で私たちを出迎えたレイアのテンションの高さに、ココとアリサが引き気味で反応する。そんな2人にもめげることなく、レイアは次に私に視線を向けてきた。
「おはよう、ヒロくん。こっちの準備は既に粗方終えたよ。今日も一緒に頑張ろう!」
「ああ、そうだな。なんとしても下手人を捕まえよう」
当然、私は犯人を捕まえることに関して頑張ろうと言われたのだと思ったが、私の反応を見たレイアは、わざとらしく大げさにため息をついてみせた。
「はぁ⋯⋯。違うよ、ヒロくん。私が言いたいのは、劇のことさ。昨日は、それどころじゃなくて満足なパフォーマンスが出来なかった。だから今日こそ、最高の舞台を披露したいんだ」
「⋯⋯気持ちはわかるが、相手は拳銃を持った危険人物だ。確保が最優先、それは譲れない。そうでなければ、君や私、他の皆の命が危ないんだ」
「私もそのことは承知しているさ。でも、そのうえで私は観客を楽しませたい。それがプロとして、私のやるべきことだと思っているし、そうしたいと思うからね。その観客には、ココくんやアリサくん、エマくん、ヒロくんも当然含まれている。それに⋯⋯私は、犯人にだって、劇を楽しんでほしいんだ」
そう語るレイアの表情は、真剣そのものだった。本心から、そのように言っていることが伝わってくる。体験したのは私だけとはいえ、一度自分を殺した相手にそのようなことを言えるなんて、やはりレイアは普通ではない。⋯⋯まあ、その普通ではないところも、レイアの魅力なのだろう。
「⋯⋯安全第一、それは譲れない。ただ、劇は君がやりたいようにやればいい。そのサポートは全力でさせてもらうよ」
「!! ありがとう、ヒロくん!!」
これは、作戦をまた細かく練り直す必要がありそうだ。額に手を当て、犯人確保の策を考え直していると、遠くからエマがぶんぶんと手を振りながらこちらに近づいてくるのが見えた。
「ヒロちゃーん! ココちゃーん! アリサちゃーん! 皆来てたんだね!!」
「エマっちお疲れ~。なあなあ、まだ劇まで時間あんだろ? その感じだと準備はある程度終わったっぽいし、あてぃしらと一緒にちょっと他の出し物見て回らん?」
「え!? ボクは行きたいけれど⋯⋯いいのかな?」
エマはこちらに視線を向けてくる。本来なら止めたいところだ。だが、エマは朝早くから来て準備を頑張っていたし、ココたちにも作戦実行時には負担をかけることになる。それならば、ある程度リラックスする時間は必要かもしれない。
「⋯⋯まあ、いいだろう。ただし、劇の始まる30分前には戻ってこい」
「よっしゃあ! ヒロっちのお墨付き頂きました~!! んじゃ、いこーぜ。アリサ、エマっち!」
「はあ!? ウチも行くのかよ!!」
「え? アリサちゃん、行かないの?」
「⋯⋯別に、行かねーとは言ってねーよ」
「それじゃあ決まりな~。しゅっぱーつ!!」
ウキウキのココを先頭に、エマとアリサもその後ろを追いかけて講堂を出ていく。その様子をレイアと2人で見送ってから、私は犯人にも劇を楽しんでほしいというレイアの無茶ぶりを叶えるべく、レイアとスマホの中のメルルも合わせた3人で作戦会議を行うのであった。