二階堂ヒロの事件簿   作:赤葉忍

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番外編:魔法少女ノ魔女演奏~その2~

「さあ、次のバンドメンバーの登場だ!! スイートロリータな衣装に身を包んだ4人組!! キュートさならば誰にも負けないぞ!! 皆、拍手で迎え入れろ~!!」

 

 司会の新田サラサがマイクを握り、熱のこもった様子で次のメンバーの入場を促す。マイクを持っていない方の手で指示した方向から最初に現れたのは、スキップ混じりのノアだった。

 

「きゃー!! ノアちゃーん!!」

 

「今日も可愛い~!! こっち見て~!!」

 

 観客の声援に対し、無邪気な笑みを浮かべて手を振るノア。その姿に、ますます歓声が沸き上がる。

 

 そして、ノアの手に引っ張られてステージに現れたアンアンの姿に、歓声はさらに大きくなる。アンアンは、一瞬五月蠅そうに手で耳を塞いだが、いまだに手を振り続けるノアを見て、真似するかのように小さく手を振った。

 

「アンアンちゃあああああん!! お手手ちっちゃい!!!!!!」

 

「ノアちゃんと一緒にカレーセット頼んでぇぇぇぇ!!!」

 

 マーゴもそうだが、ノアとアンアンは牢屋敷で生活している分、少女たちからの人気も高い。その幼い見た目と言動も相まって、皆から妹のように愛されていた。

 

「ほらほら~、なに突っ立ってんのさ。早く行くよ!!」

 

「ちょ、ちょっとココちゃん押さないで⋯⋯! おじさんまだ心の準備が⋯⋯!!」

 

 ノアとアンアンに続いて出てきた2人の声を、サラサのマイクが拾う。ココに背中を押されたミリアがわたわたしながらステージ上に現れ、その後ろに悪戯っぽい笑みを浮かべたココが続いた。

 

「⋯⋯ミリアちゃん! 今日もなんと可愛らしい⋯⋯。文句なし、10点です」

 

「はいそこ!! まだ演奏も始まっていないのに点数つけない!!」

 

 ミリアの登場に感極まった様子で泣きながら点数の書かれた札を上げる雲母ミラに、サラサがツッコミを入れる。その間も、観客の声援は絶えず届いていた。

 

「ミリアちゃーん!! 大好きだ~!!」

 

「ココちゃんの笑顔、プライスレス。ミリアちゃんとの絡みもいい⋯⋯」

 

「ココちゃんになら悪戯されたい!! ずっと見てるからね~!!」

 

 そんな声援も、4人がステージ上に立ち、演奏の準備を始めたことで次第に小さくなっていく。サラサは、4人の準備が整ったことを確認すると、レイアたちのバンドの時と同様に全員に意気込みを聞くべく、マイクを持って近づいていった。

 

「ボーカルはアンアンちゃんがやるんですよね? 曲を披露する前に、意気込みと、あとバンド名を教えてください!!」

 

「⋯⋯わがはいたちの歌で、皆を昇天させてやる。覚悟しておけ。そして、バンド名は⋯⋯『アンアンと下僕たち』、だ」

 

 得意げに胸を張りながらバンド名を口にしたアンアン。しかし、その直後に左右から非難の声が飛んでくる。

 

「えー、ちがうよ? バンド名は、『のあとゆかいな仲間たち』じゃなかったの?」

 

「いやいや、ふざけんなしヒッキー!! バンド名は『ココちゃんだいすきクラブ』に決まってんだろ~!?」

 

「な!? わ、わがはいがこのバンドのボーカル、つまりリーダーだ! 命名権もわがはいのものに決まっている⋯⋯!!」

 

 どうやら、バンド名に関してバンド内で意見の相違があったらしい。ステージ上でギャーギャーと口論を始めてしまった。そんな3人を、慌てた様子でミリアがなだめようとする。

 

「ま、まあまあ皆落ち着いて! 観客席の皆も演奏を待ってるよ? バンド名はこの際なんだっていいんじゃないかな?」

 

「はあ!? そんなん言うならミリアが決めろし!!」

 

「えええ!? お、おじさんが決めていいの?」

 

「なんだっていいと言うからには、ミリアにはわがはい達よりも優れた案があるのだろう。期待しているぞ」

 

「のあも、いい感じのバンド名なら納得する~」

 

「えええ⋯⋯」

 

 なだめようとしたつもりが、3人から一斉にバンド名を決めろと詰められ、困ったように頬をかくミリア。しばらくうーんと唸りこんで考えた後、おずおずとバンド名を口にした。

 

「ええっと⋯⋯『からふる』とかどうかな? ほら、皆個性豊かだし、お絵かきが好きなノアちゃんもいるからいいかなって思うんだけれど⋯⋯どうだい?」

 

「⋯⋯うむ。悪くはない」

 

「のあは気に入った~」

 

「ミリアにしてはなかなかセンスいいんじゃね? あてぃし的には『ココちゃんだいすきクラブ』も捨てがたいけれど」

 

 どうやら、ミリアの提案したバンド名は他の3人も受け入れてくれたようだ。ほっと胸を撫でおろしたミリアを見て、サラサがすかさずマイクを差し出した。

 

「流石ミリアちゃん! このバンドメンバーを支える縁の下の力持ちといったところでしょうか! 本当は他の皆さんにも聞きたいのですが、時間が押してきていますので、演奏前に最後に意気込みをお願いします!」

 

「え、おじさんが言うの!? え、えーっと⋯⋯皆で一生懸命練習したから、応援してくれると嬉しい⋯⋯かな?」

 

「勿論、言われずとも私たち観客は精一杯歓声を送らせていただきます! それではアンアンさん、演奏する曲の紹介をどうぞ!!」

 

「⋯⋯わがはいたちが演奏する曲は、愛と勇気を歌った名曲。『アンパンマンのマーチ』だ!! 皆の衆、わがはいたちの演奏を⋯⋯【聴け】!!」

 

 あまりにも有名すぎる児童アニメの曲。それをバンドで演奏すると宣言したことで観客席にざわめきが一瞬走ったが、そのざわめきもドラムとベースの入りで静まり返る。バンド演奏用にアレンジされた若干激しめのメロディーが流れ、ざわめきはすぐに熱狂へと変化した。

 

「⋯⋯なんのために生まれて なにをして生きるのか こたえられないなんて そんなのはいやだ!」

 

 アンアンがその小さな身体でマイクを握りしめ熱唱する。そして、そんなアンアンの歌唱を支えるように、隣に立つノアが楽し気にギターを掻き鳴らした。

 

「「「ああ アンアンちゃん やさしい君は いけ! みんなの夢まもるため~♪」」」

 

 そして、アンアン以外の3人が声を揃えて歌う。歌詞の一部をアンアンに変えたサプライズに、アンアンも嬉しそうに頬を赤らめていた。

 

「素晴らしい演奏でした~!! バンド名を決める際にもめた時はどうなることやらと心配していましたが、そんな心配を吹き飛ばすような仲の良さを見せつけてくれましたね!! では、私を含めた審査員の皆さんは点数発表をお願いします!!」

 

 演奏が終わると同時に、大きな拍手が観客席から贈られる。その音が小さくなったのを見計らって、サラサが司会として点数発表を審査員に促した。

 

 点数発表まで数分の思考時間の後、発表された点数は右から順に9点、9点、10点。奇しくも先ほどの『アルカナ』と同じ合計点数28点となった。

 

「いや~、歌詞をアンアンちゃんの名前に変えるアレンジ、素敵でしたね~!! さっきも言いましたが、仲の良さが伝わってきてキュンでした!!」

 

「みんな可愛かったよ~! でもナノちゃんには負けるかな!!」

 

「ミリアちゃん、最高でした。この世に産まれてきたことに、感謝を⋯⋯」

 

 審査員から発表された点数を聞き、『からふる』の4人は満足げにお互いの顔を見合っている。全員ほとんど音楽経験がない中、練習結果をしっかり見せつけることができた。最後に全員で揃ってお辞儀をし、この日一番の拍手を背に受け、仲良く手を繋いでステージを後にしていった。

 

「さあ、続いてはいよいよ最後のバンドです!! ゴシックロリータな衣装に身を包んだ4人バンド!! 仲の良さならピカイチだ!! 皆、拍手で迎え入れろ~!!」

 

 サラサが興奮しながらブンブンと腕を振り回し、入場を宣言する。最初にステージに現れたのは、エマだ。観客の多さに少し緊張気味な様子ながらも、チャームポイントの八重歯を見せてにっこりと微笑み、笑顔でファンサを振りまく。

 

「うっ⋯⋯!! エマちゃん⋯⋯!! 可愛すぎるっ!! ふーっ、ふーっ!!」

 

「太ももを見せつけて私たちを興奮させる気か!! その手には乗るぞ!!」

 

 エマの登場でも盛り上がっていた会場だが、続いて出てきた2人の登場でさらに盛り上がる。じゃれあうように2人一緒に出てきたのは、シェリーとハンナだった。シェリーがハンナに後ろから抱き着き、鬱陶しそうにしながらも払いのけることはしないハンナ。そんな2人を見て、一部の観客は涙まで流していた。

 

「シェリハン、神が定めた運命の2人⋯⋯。ふふふ、尊い」

 

「シェリーちゃん可愛い大好き、偉いね凄いね天才!!」

 

「ハンナお姉さま、素敵ですわ~!!」

 

 勿論、2人それぞれにもファンがついている上に、この2人の組み合わせを推している存在も多いので、なかなかにファンが多い。会場がますます熱気に包まれる中、ギターを持ったアリサの登場で一気に黄色い悲鳴が爆増した。

 

「アリサさま~!!!! こっち向いて~~~!!!」

 

「んぎゃあああ!? マスク外しにうさ耳フード!! やばすぎるぅぅ!!」

 

 そんな黄色い悲鳴を受けて若干引き気味なアリサだったが、吹っ切れたように中指を立てて舌を出してみせると、より一層黄色い悲鳴が沸き上がった。

 

「いや、なんでだよ」

 

「さっすがアリサさん! ファンサもばっちりですね~!!」

 

「ボクもアリサちゃんの真似した方がいいのかな⋯⋯?」

 

「エマさんはそのままでいてくださいまし!!」

 

 インタビューを受ける前からわちゃわちゃと盛り上がっているのは流石というべきか。サラサは頬を赤らめながら、マイクを持って近づく。その視線は、アリサの方へと向けられていた。

 

「いやー、アリサさんの大ファンの私としてはこんな間近でマスク無しのアリサさんのご尊顔を拝めるなんてほんと、嬉しすぎて気絶しそうです。このまま独占インタビューしちゃってもいいですかね?」

 

「ちょっと~? あの子私たちにさんざん贔屓だなんだと言っておいて自分が一番おいしい空気吸ってない~?」

 

「⋯⋯許しがたい、蛮行ですね。あの人から司会のマイクを、奪いましょう」

 

「はいそこ~! 審査員2人五月蠅いで~す!! ⋯⋯とはいえ、流石に私がここでアリサさんを独占してしまうと観客席からもブーイングが来そうなので、真面目に司会の仕事をしましょう。エマさん、バンド名と意気込みを教えてください!!」

 

 サラサは審査員席からのブーイングを軽く流し、エマへとマイクを向ける。エマはまだ緊張した様子だったが、隣に立つハンナとシェリーの励ましを受け、一度深呼吸をした後、しっかりとマイクに向けて話し始めた。

 

「ボクたちのバンド名は、『EMERGENCY(エマージェンシー)』だよ! この名前、ボクはちょっと恥ずかしかったけれど、皆がこれがいいって言うからこれにしたんだ。皆で一生懸命練習した成果、精一杯出してみせるよ!」

 

「はいはーい! このバンド名の案を出したシェリーちゃんです! やはりこのバンド、エマさんがボーカルということで、名前に『エマ』が入る方がいいと思ったんですよね~! いやー、我ながら天才的なネーミングセンスですね!!」

 

「そういうことは自分で言うもんじゃありませんわよ!! ⋯⋯でも、いいバンド名なのは否定しませんわ。演奏で皆をあっと驚かせてみせますわよ!」

 

「桜羽はこのバンドの中心だからな。ウチも、足引っ張らねぇくらいには練習してきた。今日はそれをぶつけるだけだ」

 

 各々が意気込みを語ったところで、演奏の準備を始める。しかし、ステージの上に誰も演奏する人が居ないキーボードが置いてあるのを見つけ、サラサは不思議そうに首を傾げた。

 

「あれ⋯⋯? あのキーボードは何故置いてあるんでしょうか?」

 

「あ、あれは⋯⋯えーっと、雰囲気づくりのため、かな?」

 

 どう答えるべきか迷ったエマは、しどろもどろになり視線を泳がす。それを疑問に思ったサラサが追求しようとマイクを持ったままエマに近づいたが、その間にアリサが割り込んだ。

 

「⋯⋯細かいことは別にいーだろ。そろそろ演奏が始まるんだ。お前は審査員席に戻っとけ」

 

「ひゃ、ひゃい⋯⋯!!」

 

 最も推しているアリサに間近で囁かれたことで、顔を真っ赤にして審査員席に戻るサラサ。そんなサラサを見てほっと胸を撫でおろしたエマは、ポケットでこっそりとスマホを操作する。

 

(メルルちゃん、キーボードよろしくね!)

 

(はい、任せてください⋯⋯!!)

 

 今回演奏するにあたって、メルルに何もやらせないのはかわいそうだと思ったエマが、機械操作しやすいキーボードの演奏をメルルに頼むことを思いついたのだ。しかし、観客席に座る少女たちのほとんどは、過去メルルによってなれはてにされた経験を持つ。その存在を明かすのはよくないだろうという配慮で、こっそり演奏に参加することになっていた。

 

「それじゃあ聞いてね。ボク達が演奏する曲は⋯⋯『LaVI-Bavellabion』!!」

 

 エマの開始の合図と共に、キーボードがひとりでに鳴り始める。そのことに一瞬どよめく観客席だったが、そのどよめきはドラムとベースに掻き消される。シェリーとハンナ、2人の息の合ったリズム隊の演奏に、アリサとメルルがギターとキーボードで旋律を奏で、そしてエマが全力で歌う。

 

「ラービーラービー トゥーヤーヤー♪ メイフエノショウルーフ クレタヴァニタ♪」

 

 フィクスマージ語と呼ばれる独自言語による歌唱。この言語は元々牢屋敷にあった書物にも使われていた言語で、マーゴの趣味で言語の教育も授業に加わっているため、理解できる少女も複数存在する。そしてこの曲もまた、牢屋敷内にあった楽譜に残されていたもの⋯⋯エマたちがこの曲を演奏しようと決めたのは、外の世界をまだあまり知らない少女たちにとって親しみのある曲を演奏したいと思ったからであった。

 

「「「ラウテルアイズ トゥビィラヴィ シューティン!!」」」

 

 エマたちの演奏は、いつの間にか、観客も巻き込んでの大合唱となっていた。そして、演奏が終わると、一斉に大きな拍手が巻き起こる。その拍手を受け、汗だくになりながらもエマたちはやり切った表情を浮かべていた。

 

「これまた素晴らしい演奏でしたね! フィクスマージ語の曲の演奏とは驚きでした! 観客の心もばっちり掴んだ、『EMERGENCY』の演奏、私も含めた審査員は点数発表をお願いします!!」

 

 司会のサラサが告げ、待つこと数分。右から順に発表された点数は、10点、9点、9点。合計点数は20点。なんと、3組のバンドの点数がまったく一緒という結果になってしまった。

 

「素晴らしい演奏でした!! 特にアリサさん!! 最高にかっこよかったです~!!」

 

「私はまだフィクスマージ語勉強中だから歌詞の意味は分からなかったけれど、皆凄い頑張っててよかったよ~!」

 

「⋯⋯牢屋敷と密接に関わりのある楽曲。トリを務めるにふさわしいものでした」

 

 審査員3人からのコメントを受け、ステージ上でエマたちは満面の笑みを浮かべる。本来ならばこの後優勝したバンドに対し景品が贈られる予定だったが、3組のバンド全てが同じ得点ということで、全員が優勝として表彰台に立つことになった。メルルを除いた12人が、ステージ上に即興で作られた表彰台に登り、観客席から盛大な拍手が贈られる。全員が、やり切った清々しい笑みを浮かべていた。

 

「優勝者は全員!! ということで、バンド対決はこれにて終幕となります!! 次のイベントも是非私を司会に呼んでくださいね!! それでは、今日はこの辺りでお開きとなります!! 皆さま、素晴らしい演奏をありがとうございました~!!」

 

 サラサの締めの挨拶で、バンド対決は幕引きとなった。この日の出来事は、ヒロ達12人の少女のみならず、牢屋敷に住まう少女たちにとっても忘れられない素敵な思い出になったのであった。

 




次回から本編:第二章開始です
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