二階堂ヒロの事件簿   作:赤葉忍

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第二章スタートです


第二章:『傾国』の魔法少女
名探偵シェリーちゃんによる不審者目撃情報


 緑野メイの事件から1週間が経過した。メイに関しては、魔女化で怪我こそ治ったものの経過を要観察ということで、政府お抱えの病院で入院することになった。一度エマとレイアと一緒にお見舞いに行ったが、普通に話せるくらいには回復していた。

 

 そして、メイと同様に魔女因子が消え去ったココだが⋯⋯こちらに関しては、特に問題はなかった。むしろ、魔法がなくなって取得する情報量が減った分、睡眠をとりやすくなったと前よりも五月蠅くなったくらいだ。正直、ココの『千里眼』の魔法は人造魔女因子を与えられた人物の捜索に便利だったので無くしたのは痛手だが、ココばかりに負担を強いるのも良くない。これまで働いてもらった分休暇を取ってもらっている。今頃は、私が渡した旅行券で祖父と温泉巡りをしているはずだ。

 

「ヒロちゃん、こっちだよ!!」

 

 この場に居ないココのことについて考えを巡らせていた私を、一足先を歩くエマが大きく手を振りながら呼ぶ。今日、私とエマは2人でとある人物の通う高校に来ていた。

 

「エマ、何故君が私を案内できるんだ? 君もここに来るのは初めてだろう?」

 

「えへへ。実は、前にシェリーちゃんに招待されて遊びに来たことがあるんだよね」

 

「君たちは本当に仲が良いな⋯⋯」

 

 照れくさそうに頬を掻くエマが口にした通り、ここはシェリーの通う高校だ。私たち2人がここに来たのは、シェリーから、「私の高校に人造魔女因子を持っていそうな怪しい人が居るんです!」というタレコミを聞いたからであった。

 

 エマの案内でたどり着いたのは、なんの変哲もないドアの前だった。この中にシェリーが居るのだろうか。私は、到着を知らせるためにコンコンとドアを中指の関節を使ってノックした。

 

「は~い! どうぞおはいりくださ~い!!」

 

 中から元気なシェリーの声が聞こえてきたので、「失礼する」と一言断りを入れてドアを開ける。すると、入り口の正面に机に両肘をついた姿勢で得意げな笑みを浮かべるシェリーがいた。⋯⋯そして何故か、部屋の中央のソファに腰かけて優雅に紅茶を飲むハンナまでいる。

 

「ようこそ! 探偵部の部室へ!! さあさあ、そのソファに座っちゃってください~!」

 

 そう言ってずびしとシェリーが指し示すのは、ハンナが座るソファとはテーブルを挟んで反対側にあるソファだった。そこで、私とエマの来訪に気づいたハンナが、カップをテーブルに置いてこちらに顔を向けた。

 

「あら、ごきげんようですわ。エマさん、ヒロさん」

 

「うん、久しぶりだね! シェリーちゃん、ハンナちゃん!」

 

 エマは、シェリーとハンナと会えたことが純粋に嬉しいのだろう。ニコニコ笑いながら何の疑問も持たずに指定されたソファに座る。しかし、私は座る前にこの状況に突っ込まずにはいられなかった。

 

「ちょっと待った。探偵部とは一体なんだ? そんな部活、存在しないだろう」

 

「いやだな~、ヒロさん。探偵部は、探偵活動をする部活ですよ? まあ現状、部員は私一人だけですが!」

 

「それは部活とは呼べないと思うが⋯⋯まあいい。このことについて長々と話しても時間の無駄だ。ならば次だ。何故ハンナがここに居る? ハンナと君は違う高校のはずだろう?」

 

 まさか、自分の思い違いだっただろうか。確認の意味も込めて尋ねてみると、ハンナは驚愕の表情を浮かべてこちらを見つめてきた。

 

「そ、そうですわ。わたくし、何故違う高校のシェリーさんの部室に入り浸っているのかしら⋯⋯?」

 

「自覚がなかったのか!? 入り浸るという表現をするくらいだ。結構な頻度で来ているのは予想できるが、君はどれくらいの頻度でここに居るんだ?」

 

「ハンナさんは今日も含めると今週は毎日来てくれてますね~。暇なんですか?」

 

「貴女が来てほしいって言うから来てあげているんでしょう!? そんなことを言うならもう来ませんわよ!!」

 

「えー! いじわる言わないでくださーい!」

 

「シェリーちゃんとハンナちゃんは相変わらず仲が良いね!」

 

 シェリーとハンナがぎゃーぎゃーと騒いでいる様子を、エマはほほえまし気に眺めている。レイアの高校に行った時の面子もなかなかに騒がしかったが、この2人も大概だ。このまま放っておいては話が進まない気がしたので、一度テーブルの上に置いてあったカップの紅茶を口に含み、合間を縫って本題を差し込んだ。

 

「それで? 君が見つけたという人造魔女因子の持ち主は一体どこに居るんだ?」

 

「ああ、そういえばその件で呼んだんでした。もー、ハンナさんのせいで忘れるところだったじゃないですか~!」

 

「なんで! わたくしの! せいなんですの!!」

 

「シェリー、ハンナを揶揄うのをやめてくれ。話が進まないだろう」

 

「は~い」

 

 ハンナはまだ不満げな顔をしていたが、シェリーは私に注意されたことでいったんきりりと顔を引き締め、机の引き出しからがさごそと何やら資料のようなものを取り出してみせた。

 

「探偵部の活動の一環で、生徒に聞き込み調査を日課にしてまして~。その聞き込み調査で数日前から、不審な人物の目撃証言が出ているんですよ!!」

 

「一番不審なのは探偵のまねごとをして聞き込み調査を行う君のような気もするがな」

 

「いやだな~、ヒロさん。私に関する証言は省いているに決まっているじゃないですか~!!」

 

「つまり、貴女も不審者だとは思われているということですのね⋯⋯」

 

「ちなみに、ハンナさんも不審者と思われているみたいですよ! なんでも、明らかに他校の制服を着たお嬢様口調の生徒を見かけたと!!」

 

「わたくしは不審者じゃありませんわ~!?」

 

「ま、まあまあ。ハンナちゃん、落ち着いて」

 

 心外といった様子で声を荒げるハンナに、エマがフォローを入れる。ハンナのことはエマに任せることにして、私はシェリーに先を促した。

 

「で? 君でもハンナでもない、その不審者とはいったいどんな人物なんだ?」

 

「それがですね~。どうやら、その人物は主に中庭で見かけられているようです。身体的特徴としては、白髪に赤い瞳。そして、腰に日本刀を帯刀しており、「大日本帝国万歳!」とメガホンを持って叫んでいるとか」

 

「後半の情報量が多すぎるな。それを聞いただけだと、やたら思想の偏った危険人物なだけに思えるが、その不審者が人造魔女因子を持っているという確証はあるのか?」

 

「確証はありません。でも、こんなヤバそうな人なら、もっと前から目撃情報があってもいいと思うんですよ。それなのに、この方の目撃情報はここ数日で急に出てきたものです。タイミング的に、人造魔女因子が関わっている可能性は高そうじゃないですか?」

 

「確かに、一理あるかもしれないな⋯⋯」

 

 シェリーの集めた目撃証言が確かならば、そんな思想の強い人物が急に現れるのは違和感がある。なんにせよ、一度この眼で見て確かめる必要があるだろう。

 

「よし、分かった。それならば、今からその不審者に会いに行こう。だが、目撃証言によれば相手は武装している。なにか、この部室に防具になりそうなものはあるか?」

 

「はい! ヒロさんならそう言ってくれると思いまして、メルルさんに頼んで人数分の防防刃チョッキは用意して貰いました!!」

 

『皆さんのお仕事に関する物品は経費で落ちますので⋯⋯どうぞ気にせず、じゃんじゃん使ってくださいね!』

 

「これ、政府の方々が払っているということですのよね⋯⋯? なんか、考えたらお腹が痛くなってきましたわ⋯⋯」

 

 シェリーが向けてくるスマホの中のメルルは、眉を下げながらも柔らかく微笑んでいる。だが、そのメルルの微笑みはハンナの心労を無くすには至らなかったようだ。

 

「すごいね! ボク、防刃チョッキなんて初めて見たよ」

 

「これは少し着るのに手間がかかるな⋯⋯。エマ、こちらに背を向けて立ってくれ。私が着るのを手伝おう」

 

 背中にファスナーがあるタイプだったため、エマに背を向けてもらい、私がファスナーを閉める。ちらりと横に視線を向けると、シェリーはハンナに防刃チョッキを着るのを手伝ってもらっていた。

 

「私がこういう系着ようとすると最悪破っちゃう危険があるので⋯⋯ハンナさん、お願いします!」

 

「まったく、貴女は本当に手がかかりますわね⋯⋯」

 

 口ではそう言いつつも、ハンナは手際よくシェリーが防刃チョッキを着るのを手伝ってあげていた。全員がチョッキを着たところで、シェリーを先頭にして部室を後にする。

 

「うう、なんだか緊張してきた。ホントに日本刀を持った危ない人がいるのかなぁ⋯⋯?」

 

「わたくしはデマだと思っていますわ。現代にそんなコテコテのヤバいお方、居るわけありませんもの」

 

 そういうハンナもコテコテのお嬢様口調だが、それを本人に指摘すると怒るのでやめておく。それはそれとして、私も目撃証言はかなり大げさに言っているのではないかと疑っていた。いくら何でも、そんな危険人物がいれば学校がすぐ対処するだろう。おそらく、実態はもっとマイルドな変人なのではないか。

 

 

 そんな甘い考えは、中庭に到着した瞬間に一瞬で消え失せた。中庭の中央、日光に照らされたその場所に、噂通りの外見をした少女が、腰に日本刀を携え、仁王立ちで立っていたのだ。

 

「ふはははははは!!! 小生が居る限り、この国は敗北しない! 日ノ本の旗に集いし若人たちよ!! 小生についてくるであります!!」

 

 メガホンを片手に、大声で叫ぶ少女は、あまりにも目撃証言そのままだ。そのあまりに異様な姿に、誰も何も言えず、茫然と立ち尽くしたまま見つめることしかできない。すると、少女の方が私たちに気づき、その目を大きく見開いた。

 

「おや? おやおやおや? そこに見えるは⋯⋯うむ!! 師に聞いた、小生の力を奪おうとする下手人であるな? だが、そうはさせぬぞ!! この『傾国』の魔女、護国(ごこく)ケイの辞書に、敗北は存在しないであります!!」

 

 こちらに向かって不敵な笑みを浮かべ、剣を抜くケイ。口ぶりからして、明らかに私たちのことを認識している。そのうえで、明確に敵意を向けてきていた。私は、咄嗟にエマを庇うように前に出る。同時に、シェリーもハンナを隠すように前に出ていた。

 

「⋯⋯シェリー、私たちで奴を抑えるぞ」

 

「了解しました~!」

 

 隣に立つシェリーは、ファイティングポーズでやる気満々だ。私も、先ほど部室で用意した警棒を構える。これまでとは異なり、正面から堂々と姿を現した人造魔女因子を持った少女。今回の相手も、一筋縄ではいかなそうだ。

 

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