二階堂ヒロの事件簿   作:赤葉忍

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VS『傾国』の魔法少女

 真剣か模擬刀かは定かでないが、明らかに凶器となり得る武器を持っている護国ケイ。それに対し、こちらは私が警棒で武装しているがシェリーは素手だ。まずは、私がケイの武器を奪い、無力化させる。その隙にシェリーに動いてもらうのが一番安全だろう。

 

「はああ!!」

 

 声で威嚇しつつ、警棒をケイ目掛け振り下ろす。ケイは余裕の表情で警棒を刀で受け止め、すかさず反撃を加えてきた。その反撃を後ろ飛びでかわし、一度距離を取る。

 

「ふむ! 貴殿、なかなかやるでありますな! 武術の経験でも?」

 

「一般的な武術は一通り経験済みだ! かじった程度だがな!」

 

 隙の無い立ち姿、そして刀を振る際のぶれの無さといい、相手はおそらく剣道の経験者。私も剣道を嗜んだことはあるが、実家の習い事で軽く基礎を学んだくらいだ。正面からの打ち合いでは太刀打ちできない。

 

「とりゃー!!」

 

 気の抜けるような掛け声と共に、シェリーが動く。刀を持った相手に無策に突っ込むつもりかと制止しようとしたが、シェリーの手元を見て彼女の狙いが分かった。掛け声と共にシェリーが投げたのは、拳大の石。投擲は古来から人間が用いる戦法の中でも非常に優れたものだ。それが、シェリーの『怪力』も加われば銃弾にも匹敵する速度と破壊力を持つ。

 

「むっ!! これはマズイ!!」

 

 しかし、シェリーの投げた石はケイには当たらなかった。ケイが空中に手をかざすと、何か不可思議な力が加わったかのように、石の軌道が逸れ、ケイの横をすり抜けていく。あれが彼女の魔法なのだろうか。

 

「貴殿の力は相当厄介そうでありますな! そちらから成敗するであります!!」

 

「わわっ! 私の方に来ちゃう感じですか~!?」

 

 先ほどの投擲を見てシェリーを脅威だと判断したケイが、刀を抜いたままシェリー目掛け走る。シェリーは驚きつつも、逃げる様子はない。迎え撃つつもりだろうが、リスクが大きすぎる。

 

「させるか!」

 

 咄嗟にシェリーとケイの間に割り入ろうと駆け寄る。しかし、その途中で、ケイが一度ちらりとこちらに視線を向け、地面をタン!と力強く踏みしめた。

 

「なっ!?」

 

 その直後、足元の地面が不自然に傾いた。これまで水平だった足場が傾いたことでバランスを崩し、転倒してしまう。その間に、ケイはシェリーの間近にまで迫っていた。

 

「成敗っ!!」

 

「なんのー!!」

 

 しかし、シェリーは集中していた。その怪力でもって、振り下ろされた刀をぱしんと両の掌で受け止める。まさに真剣白刃取りを一発で成功してみせたのだった。

 

「真剣白刃取りですと!? 漫画じゃあるまいし、普通できないでありますよ!?」

 

「魔法が使える私たちに普通は通用しませんよ! えいやー!!」

 

 シェリーは刀を手に挟み込んだまま、思いっきり腕を横に振りぬく。ばきんっ!という金属音と共に、刀が折れた。当初の計画とはずいぶんずれたが、これで無力化には成功した。

 

「でかしたシェリー! あとは2人で畳みかけるぞ!」

 

「任せてください!」

 

 武器を折られ、茫然としていたケイが、私たちの声を聞いてはっと正気に戻る。そして、迫りくる私たちを前にして、再び地面をタン!と踏みしめた。

 

「おっとっと!?」

 

 ケイの魔法の効果を受けたことが無かったシェリーは、足元の地面が傾いたことでバランスを崩し、転んでしまう。しかし、私にとってこれは2度目だ。ケイが地面を踏みしめる動作を見て咄嗟に宙に飛び跳ねていた。

 

「はあっ!!」

 

「くっ!?」

 

 私が跳びながら振るった警棒は、ケイの手元から折れた刀を遠くへ吹き飛ばした。これで、ケイは抵抗する手段を失った。

 

 ざわざわと、周囲の喧騒が大きくなってくる。中庭での私たちの一連の戦いを見て、やじ馬が集まってきたらしい。劇の稽古か何かと思っているのか、呑気に写真を撮っているような者までいる。そんなやじ馬を掻き分け、こちらに駆け寄ってきたのはエマとハンナであった。

 

「ヒロちゃん、シェリーちゃん、だいじょうぶ!?」

 

「かなりヤバい事態だと思いましたので、近場にいた先生を連れてきましたわ!!」

 

 そんな2人の後ろから姿を現したのは、白衣を着た大人の女性であった。しかしながら、校内だというのに煙草を吸っており、目元には大きな隈がある。いかにも不健康そうな見た目をしていた。そんな見た目にそぐわぬ気だるげな態度でこちらを一瞥したその女性は、面倒くさそうにシェリーの名前を呼んだ。

 

「橘ぁ。また面倒ごと起こしているのかぁ? いくらお偉いさんから支援受けてるとは言え、教頭の禿に頭下げるのはごめんだぜ?」

 

「違いますよ~、ワカバ先生~! 今回面倒ごとを起こしているのは私じゃなくて彼女です!」

 

 そう言ってずびしと指さす先は、勿論ケイだ。シェリーにワカバと呼ばれた先生は、ケイの姿を見てすぅっと目を細めた。

 

「護国ぅ!! てめぇ、また中庭で騒いでたのか!! お前、なんで最近になって急にそんな変なことやり始めたんだ? 反抗期かぁ?」

 

「ぬぬっ! これは煙山(けぶりやま)女史!! いくら貴殿が先生とはいえ、小生の想いは止められぬであります!! だっていつでも思考は右斜め45度!! 傾いている方が美しい!! そんなわけで説教は御免であります! さらば~!!」

 

「おい、待て!!」

 

 慌てて止めようとしたが、ケイは物凄い逃げ足でこの場を立ち去ってしまった。これでまた武装されてしまえば次に同じ手が通用するか分からない。すぐにでも追いかけるべきだ。

 

「追いかけるぞ、シェリー!」

 

「はい!!」

 

 シェリーに声をかけ、追いかけようと走り出す。しかし、その肩を掴まれ、動きを止められてしまった。

 

「おいおいちょっと待った。いったんお前らの話を聞きたい。ケイならいつでも捕まえられるし、一度部室に戻って⋯⋯って、橘お前力つええよ! 止まれ止まれぇ!!」

 

 私たちを止めたのはワカバだったらしい。しかし、シェリーの怪力は止められず、引きずられてしまっている。本来なら彼女の制止を無視して追いかけたいところだが、こんななりでも彼女はこの学校の先生らしいし、何より先ほどケイのことを知っているような口ぶりであった。いつでも捕まえられるという彼女の言い分を信じ、一度話を聞いてみるのもいいかもしれない。

 

「シェリー、先生が困っている。止まってやってくれ」

 

「あ、なんか肩に手が置かれていると思ったらワカバ先生だったんですね! 失礼しました~!!」

 

 私が声をかけるとようやくシェリーは足を止めた。そんなシェリーに恨みがましい目線を向けるワカバに、私は改めて向き直る。

 

「はじめまして。私は二階堂ヒロというものです。こちらの橘シェリーとは友人です」

 

「私は橘シェリーでーす!」

 

「橘は知ってるよ⋯⋯。お前の部活の顧問に無理やりさせられたし」

 

 成程、シェリーとは顧問と生徒の関係だったのか。その苦々しい表情からこれまでの苦労を察し、少し同情的な気持ちになった。

 

「先生、顧問だったんですの!? どおりで、よくあの部室で見かけると思ってましたわ~」

 

「遠野、お前は他校の生徒なのに部室に来すぎな?」

 

 そして、ハンナはワカバが探偵部の顧問であることを知らなかったらしい。ただ、既知の間柄ではあったみたいで、だからこそ見かけたワカバをこの場に呼んできたのだろう。わちゃわちゃと会話している間に、中庭に集まっていた野次馬の数は減ってきた。しかし、まだちらほらと残った数人が、こちらに好奇の目線を投げかけている。その視線を鬱陶し気に手で払いのけ、ワカバは部室がある方に親指を向けた。

 

「あー、ここで立ち話もなんだ。さっきも言った通り、一度部室に戻んぞ。そこで詳しい話をしようぜ」

 

「はい、分かりました」

 

 素直に従い、先導するワカバの後ろを歩く。すると、ハンナが物珍し気な視線をこちらに向けつつ近寄ってきた。

 

「ヒロさんって、他人に敬語で話すことあるんですわね?」

 

「君はいったい私をどんな奴だと思っているんだ?」

 

 あまりにも心外な評価だ。目上の人に敬意を払うのは正しいことだ。私だって場と相手をわきまえて口調を変えるくらいのことは当然にする。

 

「そうだよ、ハンナちゃん! ヒロちゃんは先生にはちゃんと敬語で話すんだ!!」

 

「⋯⋯そんなことを誇らしげに語られてもな」

 

 エマも大げさすぎて若干反応に困る。これは、逆に私を馬鹿にしていないだろうか? いや、エマに関してはそんな意図はないだろう。これがココやマーゴならば話は別だが。

 

「一度、私に対する皆の認識を確認する必要があるな⋯⋯」

 

 私はぼそっとひとり呟いた。今度牢屋敷に行くときには絶対に確認しよう。そう心に留めておくのであった。

 

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