二階堂ヒロの事件簿   作:赤葉忍

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耳と心を傾けて

 部室に付いた私たちは、先ほどと同じようにソファに座る。今度はシェリーもハンナの隣に座っていた。ワカバが私の正面に座ったタイミングで、早速話を切り出すことにした。

 

「では、教えてください。護国ケイ⋯⋯彼女は一体何者なんですか?」

 

「ケイはうちの高校の3年生だ。2年の時にあいつのクラスの担任だったから、性格はよく知っている。確かにその時から愛国心は強かったし変わったところは多々あったが、中庭であんなことをし始めたのはつい最近だ」

 

 そうなると、ケイが目立つ行動をし始めたのは人造魔女因子が与えられたのが原因の可能性が高い。私は、ケイに会った時最初に言われた言葉を思い返していた。

 

()に聞いた、小生の力を奪おうとする下手人であるな?』

 

 もし、ケイが師と呼ぶ人物が人造魔女因子を盗んだ張本人であるのならば、彼女を捕まえることができれば事件の解決に大きく近づくことが出来る。問題は本人が口を割ってくれるかどうかだが、それは捕まえてから考えればいいだろう。

 

「ちょっと待って! ケイちゃんって、いつも中庭であんなことしてるんだよね? どうして誰も注意したり止めたりしないのかな?」

 

「一応毎回注意はしてるんだよ。そして、注意したらその日はもうやらない。だが、次の日はまたやってんだ。実際、五月蠅いくらいで直接的な被害は今までなかったしな。今では生徒たちの間でも一種の名物扱いさ」

 

 エマの投げかけた純粋な問いかけに答えたワカバの顔は、かなり疲れた様子だった。どうやら、ケイの対処にはかなり苦労しているらしい。

 

「でも、今日はヒロさんとシェリーさんが刀で斬りかかられましたわよ!? 直接的な被害が出ちゃってますわ!!」

 

「私はそんなに気にしていませんけれどね。一回やってみたかった真剣白刃取りができましたし!」

 

「シェリーはこう言っているが、彼女の暴挙はすぐにでも止めるべきだ。ワカバ先生、貴女はケイをいつでも捕まえられると言っていました。その言葉、信じていいんですか?」

 

 私が真正面からぶつけた言葉に、ワカバは隈が目立つ目をすっと細めて頷いた。

 

「⋯⋯橘の友達ってことはお前たちも過去に色々あった口だろうし、あたしみたいな見た目の教師は頼りねぇかもしれねぇがな。ま、信じてくれや。ここは学校で奴が生徒である限り、先生は基本負けねぇ。それに、奴を呼び出す理由はたーっぷりあるしなぁ」

 

 そう言ってにやつきながらワカバが取り出したのは、反省文とデカデカ書かれた原稿用紙だった。

 

 

〇〇〇〇〇

 

 数時間後、こんな放送が校内で流された。

 

『護国ケイさん、煙山ワカバ先生がお呼びです。今すぐ、生徒指導室に向かってください』

 

 その放送が流されてから数分後。生徒指導室へと普通にやって来たケイは、そこに待ち構えていた私たちの姿を見て、大きく目を見開いた。

 

「は、謀ったでありますな煙山女史!! 生徒をこんな罠にかけるなど、先生の風上にもおけないであります!!」

 

「ぐははは! 何とでも言え! お前が反省文書かなきゃいけないようなことするから悪りぃんだよ!!」

 

 邪悪に笑うその姿は人を教え導く教師とはとても思えない表情だが、ケイを捕獲したい私たちにとっては頼りになる大人だ。慌てて入ってきたドアから逃げようとするケイだったが、ドアは先回りして既にシェリーとハンナが塞いでいた。それを見て逃げられないと悟ったのか、ケイはおとなしく両手を上げて降参のポーズを取った。

 

「⋯⋯なかなかやるでありますな。で、小生を捕まえてどうするつもりでありますか?」

 

「いくつか聞きたいことがある。ああ、立ちっぱなしはお互いにしんどいだろう。そこに座ってくれ」

 

 手を椅子に向けて着席を促すと、ケイは素直に従って座る。それを見たハンナとシェリーはケイを挟むように座った。本来ならば先にエマの『魔女殺し』の魔法で無力化させてから尋問といきたいところだが、この場には無関係のワカバも居る。生徒指導室を借りたり放送を行うのにワカバの助力が必要だったため仕方のないことではあるが、あまり外部の人間に魔法を使う姿を見せるのは得策ではない。本来ならこれから聞く内容もあまり知られたくはないが、そこは口止めすれば大丈夫だろう。なので、ここは手早く終わらせ、後ほどエマに『魔女殺し』の魔法を使ってもらう。そう決めてから早速一番知りたいことを尋ねることにした。

 

「君にその力を与えた人物の名前を教えてくれ。可能ならば、どこに居るのかも一緒に」

 

「小生はそんなにやすやすと師の情報は売らぬであります! 仁義を違えばそれ人にあらず。小生はたとえ拷問されたとて口を割らないでありますよ!!」

 

 この解答はある程度予想できた。強引に口を割らせてもいいが、おそらく時間がかかるだろう。それならば、先に他の内容を尋ねる方がいい。

 

「分かった。では、他のことから尋ねよう。君が中庭で使った魔法の詳細を教えてくれ」

 

「それくらいならば構わぬであります。小生の魔法は、『傾国』。触れた箇所を中心とした一定範囲を自由に傾けることができる魔法であります」

 

「な、なかなかにヤベー魔法ですわね⋯⋯」

 

 思わずといった感じでハンナが声を漏らす。確かに、中庭で戦った時は地面が不自然に傾いていた。それと、シェリーが投げた石を回避したのはおそらく、触れた空気の壁を傾けることで軌道を逸らしていたのだろう。魔法が強力なだけではなく、使い方も手慣れている。あまり真正面からやりあいたくはない相手だ。

 

「随分と親切だな。君が優れた魔法の使い手であることは分かった。だが、『傾国』と呼ぶにはだいぶ大仰ではないか?」

 

「母なる大地、すなわち日ノ本の地盤を傾ける小生の魔法、国そのものを傾けることと同義。何も嘘はついていないでありますよ」

 

「屁理屈をこねるのが上手だな。傾きすぎていて筋が通っているとは全く思えない暴論だ。そもそも、国を守るなどと言っておきながら魔法で傾けていては意味がない。君の行動は矛盾している。全くもって馬鹿馬鹿しい」

 

「小生を愚弄するでありますか!!」

 

 怒りを露わに、ケイが立ち上がる。あえて怒らせるように挑発してみせた。どうやらうまく挑発に乗ってくれたようだ。ケイは魔法を行使するために床を踏みしめようとしたが、その足が床に着く前に、隣に座るシェリーによって羽交い絞めにされ動きを止められた。

 

「おっとっと。暴れないでくださいねぇ」

 

「くっ!? なんでありますかこの怪力は!! 貴殿はゴリラか何かか!?」

 

「もぉ~、ゴリラって呼ばないでください。妖精さんって言ってくださいよ~」

 

 こうなることも見越して、シェリーとハンナにはケイの隣に座ってもらった。仮にケイが魔法を使って床を傾けたとしても、ハンナなら浮遊の魔法でバランスを崩すことなくケイを取り押さえることが出来る。最も、ハンナに任せるには力が不安なので、基本的にはシェリーにこうして抑え込んでもらうことを想定しての配置だった。

 

「やれやれ。そう暴れられてはまともに会話もできないじゃないか。私としては、必要な情報を早く君の口から聞きだしたいんだ。余計な手間を増やさないでくれ」

 

「⋯⋯貴殿、性格が悪いとかよく言われないでありますか?」

 

「何を言う。こんな善良な女子を前にして⋯⋯」

 

「ひ、ヒロちゃん! 顔と台詞が合っていないよ!」

 

 どうやら、無意識に威圧するようなオーラが出てしまっていたらしい。エマに指摘されて咄嗟に笑顔に切り替えると、何故か私の顔を見たハンナに悲鳴をあげられてしまった。解せない。

 

「さて、話を戻そうか。君に聞きたいことはまだある。君は何故、中庭であんな目立つことをしていたんだ?」

 

「それは、小生の思想を皆に伝えるために⋯⋯」

 

「先ほどワカバ先生に尋ねたが、君の思想は昔かららしいではないか。それなのに、君が中庭であのような行為を始めたのは最近⋯⋯つまり、魔法が使えるようになってからだ。だが、君の魔法の詳細を聞く限り、それがきっかけであのような行動に出るとは考えにくい。何か他に理由があるのではないか?」

 

 この疑問は、先ほどケイから魔法について聞く前からあったが、魔法の詳細を知ってより強くなったものであった。ケイの人となりに関してはまだ深く知らないが、ここまで思想の強い人物が意味のない行為をするとは考えにくかった。私の疑問に対し、ケイは感心したような態度をみせる。

 

「ほおほお。貴殿は頭がいいでありますな。確かに、小生が魔法を使えるようになってから中庭での演説を始めたのには理由があるであります。実は、小生の『傾国』の魔法は、その言葉にも多少の効力があるのであります。こうして普通に会話する分には特に影響を及ぼすことはないのでありますが、中庭でやっていたように大音量で行うと他人の心を傾けることだってできるのでありますよ。⋯⋯ほら、このように」

 

 はっと気づいた時には既に遅かった。ワカバが立ち上がり、エマの首にカッターの刃を押し当てていた。迂闊だった。まさか、エマを人質に取られてしまうなんて。怒りを隠さずワカバを睨みつけると、ワカバは申し訳なさそうに眉を下げた。

 

「すまねぇなぁ。あたしのこと信じてくれたのによ。でも、大人ってもんはずるいし嘘をつくもんなんだ。許してくれや」

 

 謝ったところで許せるものではないし、この状況はどうしようもない。先ほどまでケイを追い詰めていたはずなのに、今度はこちらが追い詰められてしまった。今思えば、ケイがあっさり降参したのも、ワカバを最初から自分の仲間に『傾けて』いたからかもしれない。

 

「さて、形勢逆転したところで、お話しの続きであります。もしその少女を傷つけられたくなければ、こちらの願いを聞いてくれであります」

 

「願い⋯⋯? それは一体なんだ」

 

 エマを人質に取られ身動きが取れない私たちにケイが提示したのは、『お願い』という名の交渉カードであった。ケイは、真剣なまなざしで、私にその『願い』の内容を告げた。

 

「小生の友達の夢を、叶えてあげて欲しい。それが、小生の願いであります」

 

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