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「さあ、説明してもらおうか。君たちの目的を」
アイドルオーディションの面接などというわけのわからないものにろくな説明もなしに参加させられたその日の午後、私たちは全員で集まってファミレスに来ていた。夕食を取りつつ、改めて目的を話してもらう約束だった。
「うーん、いっぱいあって迷うね~。アンアンちゃん、何頼む~?」
『ノアと同じものでいい』
「じゃあのあ、カレーセットにしようかな~」
ノアとアンアンは呑気にメニュー表を眺めているが、それ以外のメンバーは私に注目している。私の正面に座るのは、ケイとワカバ、それにキララ。キララは恐縮した様子で肩を強張らせているが、ケイはこんな状況でもかなりリラックスした様子だ。
「まあ、約束でありますからな。アンアン殿の魔法のお陰で面接は全員突破できましたし、ちゃんと話すでありますよ。⋯⋯その前に、注文してもいいでありますか? そこそこ長い話になりそう故に」
確かに、ファミレスに入店しておいて何も注文せずただ席に座って話すのは正しくない。一度皆で注文を決めておくことにする。
「私はそこまで空腹ではない。パスタでも頼もうか」
「ボクはオムライスがいいかな!」
「私はピザにします! ハンナさん、味違いのもの頼んでシェアしましょう!」
「勝手に決めやがらねーでくれます? ま、まあ? 別に構いませんけれど?」
「私はドリアにしようかしら。ノアちゃんとアンアンちゃんはどうする?」
「のあとアンアンちゃんはカレーセットを2つ~」
『わがはいもそれで』
「ふむ! じゃあ小生が注文しておくでありますね! キララは何がいいでありますか?」
「お、おれはハンバーグ!」
「了解であります! 煙山女史、会計はよろしく頼むでありますよ~」
「いや、あたしに奢らせんのかよ。今月結構ピンチなんだけどなぁ⋯⋯」
ワカバは財布を覗いてからちらりとこちらに視線を向けてきたが、フォローを入れるつもりはない。ケイの魔法を受けたとはいえ、私たちを裏切ってエマにカッターを突き付けたことは忘れてはいない。年上に対する敬意はとっくに失われていた。
「注文した品が届くまでの間に、まず小生たちの目的を教えるでありますね。一番目的はキララのアイドルになりたいという夢を叶えるため、であります」
「それは一度聞いている。しかし、それならば私たちの協力がなくとも十分可能だろう。何故私たちまで一緒にオーディションを受ける必要があったんだ?」
「それに関しては⋯⋯キララの家庭の事情が関係しているのであります」
ケイは一度水を飲んで喉を潤すと、隣に座るキララに視線を向けた。詳しいことは自分で話せということなのだろう。その意志を感じ取ったであろうキララは一度ゴクリと唾を飲み込み、自分の過去について語り始めた。
〇〇〇〇〇
おれの家は、先祖を遡ると武家の家系だったらしい。なかなかに立派な広い屋敷で、おれは両親から厳しくしつけられてきた。
色々な習い事を受けさせられた。書道や剣道、合気道に柔道⋯⋯礼儀作法なんかも教わった。でも、どんな習い事をしても、おれは心の底から楽しむことは出来ずにいた。
何故なら、おれは常に男の恰好をさせられていたからだ。髪を短く切ることを強制され、学校にも男子の制服を着ることを強いられた。伝統のある家には、昔からの決まりというものが存在する。おれの家では、家を継ぐのは男だけだと決まっていた。そして、おれの両親が結婚して産んだのは、おれしかいなかった。
もし、本家の嫡子が男ではなかった場合、その親族や分家の男子が家を継ぐことになるという決まりはあった。しかし、おれの両親は自分の子が家を継ぐことが出来ないことを認めたくはなかったらしい。おれが産まれた時、医者に金を積ませて診断書を偽装させ、おれの性別を男だという風に偽った。
幸い、おれは運動神経はそこそこ良かった。背も女子にしては高めだったし、胸もそこまで大きくはない。男と偽って生活していても、気づかれることは無かった。
それでも、やっぱり自分の性別を偽り続けると、自分の中での違和感はどんどん大きく膨らんでいった。サラシで胸を締め付け、男子と混じって習い事を受ける。物理的にも心情的にも、常に息が詰まるようだった。
そんな鬱屈とした日々を送っていたある日のことだ。おれは、運命に出会った。学友と一緒に買い物に行った時、偶然見かけたテレビの画面に、それは映っていた。輝かしいステージで、可愛い衣装を着てキラキラとした笑みを浮かべる、アイドルの姿が。
それを見た瞬間、まるで雷に撃たれたかのような衝撃が走った。目が離せなくなり、頬に熱が集まる。様子がおかしくなったおれを心配して、友達が話しかけてくるのにも反応することが出来なかった。
それ以来、おれは習い事の隙間にこっそりとアイドルを追いかけるようになった。寝る前に布団の中でアイドルのライブ映像を再生したり、おつかいに行ったついでにアイドルの握手会に行ったこともあった。アイドルの歌を聞くたび、心が躍った。ダンスを見るたび、目を輝かせた。
最初は単純にアイドルの姿を見たり、歌を聞いたりするだけで満足だった。しかし、自分の胸の中に産まれた熱は次第にどんどん膨れ上がっていき、いつからかおれは学校の音楽室でこっそりと歌の練習をするようになっていた。
歌の練習は、誰にも聞かれないように昼休みなどの空いた時間にこっそり行っていた。でもある日のこと、歌っているところを見つかってしまった。そこで出会ったのが、護国ケイだった。
『今の歌声、貴殿が歌っていたのでありますか? というかその声、もしかして女⋯⋯?』
『こ、このことは誰にも⋯⋯!!』
おれは顔を青くして、必死に懇願した。もし女子であることがバレたら、両親になんて言われるか分からない。だから、口封じをしようとした。しかし、それは、目をキラキラと輝かせてずいと迫ってきたケイによって実行は叶わなかった。
『素晴らしい歌声であります!! 是非是非、もっと聞かせてほしいであります!!』
初めて、他人に自分の歌を褒められた。その言葉があまりにも真っすぐで。嘘ではないことはすぐに分かった。この日をきっかけに、ケイとおれは友人となった。自分の中で秘めていた夢⋯⋯両親にも言っていない、『アイドルになりたい』という夢も、ケイには明かした。ケイは、おれの夢を応援すると背中を押してくれた。
でも⋯⋯夢はあくまでも夢に過ぎない。伝統を守ることを第一に考える両親が、アイドルになる夢なんて絶対に認めてくれるはずはないし、そもそも、こんないつも男の恰好をしているような変な奴が、アイドルになんかなれるはずはない。ケイと一緒に夢を語るのは楽しかったが、おれは心のどこかでいつも諦めていた。しかし、諦めていたのはおれだけだったらしい。
少し前に、ケイが手渡してくれたものがあった。ビー玉のようにも見える丸い物体。ケイは、それを飲んでほしいと言ってきた。飴玉かなにかと思ったおれは、特に警戒することもなくそれを受け取り、飲み込んだ。その日からおれは、少し特別な力を使えるようになったのだった。
〇〇〇〇〇
「⋯⋯なに? 特別な力、ということは、君も魔法を使えるのか?」
話はまだ途中だったが、聞き捨てならない単語が聞こえたので、私は思わず口を開いていた。私の問いかけに、キララはおずおずと頷く。
「う、うん。おれが使えるのは、『キラキラ』の魔法。身体に、キラキラしたオーラみたいなものを纏わせることが出来るんだ」
そう言って、キララは自分の身体の周囲にキラキラした粒子を一瞬だけばら撒いてみせた。確かに、これは魔法だ。芸能人は特有のオーラがあるという話はよく聞くが、アイドル志望のキララにとっては自分を輝かせることのできるこの魔法はかなり相性がいいのかもしれない。
「た、確かに凄い魔法ですわね。でも、これって何の役に立つんですの?」
「えっと⋯⋯一応、このキラキラを吸うとちょっと好感度が上がる効能があるみたい」
「思ったよりも実用的な効能がありましたわ~!!」
成程、軽く精神に作用する効果もあるのか。それならば、ますますアイドルにはふさわしい魔法なのかもしれない。ただ、話を聞いて少し気になったことがある。ケイがキララに手渡したという飴玉のようなもの⋯⋯それがもし人造魔女因子だった場合、ケイはそれをどこから手に入れたのかという点だ。
ケイに視線を向けてみるが、素知らぬ顔で一足先に届いた料理を口に運んでいた。
「もぐもぐ⋯⋯。んで、話の続きでありますが、キララの両親は絶対にアイドルになることに反対するので、両親の許可が無くても参加できるアイドルオーディションに応募する必要があったのであります。しかしそれは、バンド演奏もアイドルグループのオーディションだったので、複数人で応募した方が合格する可能性も上がると考えて、協力者を探していたのでありますよ」
「なるほどねぇ。それで、エマちゃんを人質に取って私たちに協力して貰うことを考えたので。随分と身勝手な話だわ」
マーゴは薄く笑みを浮かべているが、付き合いが長い私は分かる。これはかなり怒っている時のマーゴだ。その空気を感じ取ったのか、キララの顔は少し引きつっていた。
「ご、ごめんなさい。でも、おれもどうしても夢を叶えたくて⋯⋯」
「キララが謝る必要はないであります。小生が勝手にやったこと故! 恨むなら小生だけにしてください!」
「申し訳なく思うというなら、エマの首輪を外してくれないか?」
「それは出来ないでありますな!」
ばっさりと言い切られ、つい舌打ちしそうになる。どうやら、目的を果たすまではエマを解放するつもりはないようだ。
「おっと! 皆さんの料理も来ましたよ! 料理が冷めてもあれですし、一旦食事にしましょう!!」
「そ、そうだね! ボクもお腹ぺこぺこ」
険悪になりかけた空気を察したのか、シェリーが料理に注目を向け、エマも空腹を訴えた。もう少しケイたちのことを詰めておきたい気持ちはあったが、料理が冷めてしまうのは確かに正しくない。私もパスタを食べようとフォークを手に取ったところで、ノアとアンアンが届いた料理を見て顔を青ざめさせているのを見た。
「な、なんでカレーが2つも届いているのだ⋯⋯? わがはいはこんなに食べられない⋯⋯」
「のあも食べられない⋯⋯」
確か、注文したのはケイだったはずだ。こちらに対する嫌がらせのつもりだろうか。フォークを置いてきっと睨みつけてやると、ケイはきょとんとした表情で首を傾げていた。
「むむ? 注文はカレーセット2つでありましたよね? だからお2人にそれぞれ2つずつ頼んだのですが⋯⋯」
「いやいや、普通分かるだろう。これは責任を持って君が食べろ」
「えー!? 無理でありますよ!! ⋯⋯あ、煙山女史。大人なら胃袋も大きいでありますよね? 手伝ってほしいであります」
「いやいや、なんでそうなるんだよ!!」
ケイとワカバはどちらも嫌がっていたが、私が睨みつけてやるとしぶしぶといった様子でカレーを口に運んだ。なんとか食べ終わる頃には、2人とも満腹で苦しそうに呻いており、その様子を見て少しばかり留飲を下げたのであった。