3章は少し間を空けての開始になるかもしれませんが、今後ともよろしくお願いします。
護国ケイの両親は、身内から見ても頭が悪かった。
「我が国は敗北していない!! 集え同志よ!! 共に遂行な理想を掲げ、古き良き時代を取り戻そう!!」
「そうだ! 日ノ本の旗の下に我らは1つ! 一国玉砕、信念のために死ぬなら本望であります!!」
ケイは幼いころから、狂ったように叫ぶ両親の声を聞いてきた。それがケイにとっての当たり前であったので特に疑問を抱いたことは無かったが、その思想が偏っていることを知ったのは小学生になった時であった。
どうにも、周りの子と話題が合わない。両親から聞かされた話をしてみたら、皆怪訝な目をしてケイから去っていく。どうしてだろうかと疑問に思ったケイは先生に相談し、そこで今まで自分が育ってきた環境、蓄えてきた知識が大いに偏っていることを知った。
思想を抱くことは自由だ。しかしその思想を他人に強要させ、押し付けることは周りから敬遠されることに繋がるということを、ケイは小学生にして理解した。同時に、小学生の自分でも理解できたことを理解しようとしないまま大人になってしまった自分の両親は、あまり頭が良くないのだろうとも思った。
だが、そんな頭の悪い大人でも、ケイにとっては大事な家族だ。直接その思想を否定する勇気はなく、家族の前では同じようにふるまった。本当ならば一番落ち着けるはずの我が家は、ケイにとっては常に嘘をつき続けなければならない心苦しい場所になった。
ある日のこと、ケイの両親はテロ行為を行って捕まった。いつかそんな日が来るだろうと思っていたので、予想していたよりもショックはなかった。だが、その日からケイは心にぽっかりと大きな穴が空いたように感じていた。あんな両親でも、血を分けた家族なのだ。家族と引き離されたケイは、満たされることの無い孤独な日々を生きていた。
そんな日々を過ごし、心が徐々に摩耗していく中、ケイはある日、“光”に出会った。音楽室で偶然出会ったキララ。その歌声を聞いた瞬間、稲妻に撃たれたかのような衝撃が走った。夏の屋台のスーパーボールのように弾む声が、心の中の琴線に触れ、ひとりでにメロディーを奏でだす。重苦しい靄が晴れ、一気に視界が晴れ渡る。雲の向こう側には、太陽のように輝くキララの笑顔があった。
この笑顔を、この声を。もっとキラキラと輝かせたい。キララは語った。アイドルになりたいという夢があると。ならば、それはもうケイにとっての夢でもある。このキラキラを与えてくれた彼女に報いるためなら、ケイはなんだって出来そうだった。両親が命よりも大切にしている国のことだって、キララのためなら、“傾ける”ことが出来そうだと思った。
ケイは、キララの夢を叶える方法は何かないかと調べ、最近近辺で噂になっている魔法のような力を使う少女のことを知った。ケイは昼夜問わず駆けずりまわり、ようやくフタバを見つけ出した。そして、彼女を通して魔法の力を手に入れることが出来たのだった。
だが、今思えばこの行為が間違っていたのかもしれない。キララは、魔法の力なんてなくても、少しの勇気があればアイドルになれたかもしれない。その勇気を与えることが出来たのは、ケイだったはずなのに。ケイが魔法なんてものに頼ろうとしたせいで、キララは撃たれてしまった。やはり、蛙の子は蛙というべきか。こんなことも予想できないなんて、自分はとんでもない大馬鹿者だ。
フタバに撃たれ、薄れゆく意識の中で、ケイはワカバ先生と交わした会話を思い返す。自分にもしものことがあれば、キララのことは任せたと頭を下げて頼み込んだ。あの先生は雰囲気こそあれだが、生徒想いのいい先生だ。ケイの『傾国』の魔法で精神を傾けてしまったことに、ずっと罪悪感を抱いていた。そのことを謝りたいが、伝える時間はもう残されていないのかもしれない。
「ヒロさん、こっちです! 応急処置はして救急車も呼びましたが、血が止まらなくて⋯⋯!」
「なに!? 誰にやられたんだ?」
「私が駆けつけた時に黒いローブを着た人が居たので、たぶんその人です。ただ、私が来てすぐ逃げちゃったので、顔は見ていないです」
橘シェリーと、二階堂ヒロの声が聞こえてくる。彼女たちには申し訳ないことをしてしまった。せめて、謝らなければ。
「申し訳、な⋯⋯。貴殿たちには、迷惑を、かけ、て⋯⋯」
「無理に話すな。キララは無事だ。アンアンたちとエマのお陰で一命を取り留めた。だから、君も死ぬんじゃない。友達なんだろう? 無事を祝ってやれ」
キララが生きている。そのことを知れて安心した。ふっと、口元に笑みが漏れる。二階堂ヒロ達には散々嫌な思いをさせたというのに、キララのことを救ってくれた。どれだけお人好しなのだろう、彼女たちは。この恩義には、応えなければ。
「二階堂、ヒロ。小生、を撃った少女の名前は、松谷フタバ。『銃器制作』、の、魔法の、持ち主。彼女は、貴殿たちの命を⋯⋯特に、二階堂ヒロ。貴殿の命を、狙っている⋯⋯」
「どういうことだ⋯⋯? 何故私の命を狙う」
「それは、分からない⋯⋯。でも、フタバ、は、“先生”と呼ぶ存在のために、動いている⋯⋯。だから、おそらく、貴殿を狙っているのも、その“先生”な、はず。忠告、するでありますよ、二階堂ヒロ。『死に戻り』の魔法を、これ以上使わない方が、いい。確証はないでありますが、きっと奴らの狙いは、『死に戻り』を発動させる、こと⋯⋯」
ケイもフタバ達がどんな狙いで二階堂ヒロの命を狙っているのか、詳細は聞いていない。だが、二階堂ヒロの魔法に関しては教えられていた。つまり、フタバ達は二階堂ヒロの魔法を知ったうえで、殺そうとしているのだ。ならば、狙いは殺すことというよりは、『死に戻り』を発動させることの方なのではないか。これが正しいかは分からないが、散々迷惑をかけたヒロには、情報を残しておきたかった。これで、少しは罪滅ぼしが出来ただろうか。
「────!!!!」
二階堂ヒロが何かを言っているが、もうその声を認識することが出来ない。視界が暗転する寸前、ケイの頬にそっと誰かの手が触れる。あり得ないことだが、これがキララだったらいいな。そんな思いを抱きながら、ケイは静かに目を閉じた。
〇〇〇〇〇
「ケイ! おい、しっかりしろ!! 目を開けるんだ!!」
声をかけても、ケイはぴくりとも反応しない。確かに、彼女は間違ったことをした。エマを人質に取られ、怒りも抱いた。だが、こんなところで死ぬなんて間違っている。正しくない。これ以上、目の前で誰かが死ぬのを見たくはない。
私が再びケイに呼び掛けようとしたその時、私とケイの間にすっと何者かが割って入り、ケイの頬にそっと触れた。その人物は、ケイの『傾国』の魔法にかかりケイの命令に従っていた、ワカバであった。ワカバは真剣な表情で、懐から何かを取り出す。それは、医療器具のように見えた。
「⋯⋯心配になって様子を見に来たら、まさかこんなことになっているなんてな。大丈夫だ、あたしが何とかしてみせる」
「⋯⋯その言葉、信頼してもいいんですか?」
「ああ、お前たちには散々迷惑かけちまったがな。これでも先生なんだ。生徒のことは全力で守ってみせる。それに、あたしは医療の知識もあるんだ。救急車が来るまでに何とか命を繋いでみせるさ」
ワカバは、私と会話しながらも手は止めず、応急処置と蘇生活動を始めている。その手慣れた手つきは、信頼に値しそうだ。私たちが何かをするよりは、彼女に任せた方がいいだろう。
やがて、やって来た救急車にケイはワカバと一緒に運ばれていった。私とシェリーは、2人でただ救急車を見送ることしかできなかった。
オーディションに関しては、当然ながら中止となった。そして、ステージ上で倒れたキララに関しては魔女化によって怪我こそ治ったものの、経過観察のために政府の人間によって連行されていった。他の少女たちと同様、しばらく監視下に置かれることとなるのだろう。
また、アンアンに関してはしばらく意識を失っていたが、怪我などは特になかった。アンアンもまた経過観察の後、再び牢屋敷へと戻ってくることが出来るだろう。
「ふぅ。一時はどうなることかと思ったけれど、皆無事で何よりだわ。ケイちゃんのことはまだ心配だけれど⋯⋯」
マーゴやノア、エマとハンナとも合流し、私たちはひとまず最寄りのファミレスでワカバから連絡が来るのを待っていた。マーゴの言う通り、心配なのはケイの容態だ。もしケイが死んだ時、私は『死に戻り』の魔法を使うべきだろうか。そんな思考も浮かんでくるが、その考えをケイから告げられた忠告が否定する。
(『死に戻り』の魔法を使うべきではない、か。何の目的で、私の『死に戻り』の魔法を狙っているのだろうか⋯⋯)
考えても、今は答えは出てこない。それよりも、今はケイの身を案じるべきだ。
「ケイちゃんが無事に助かるように、のあ、お絵かきでお守り描いたんだ」
「おー! それはいい考えですね! 私たちも描きましょう!!」
「わたくし、絵を描くよりお裁縫の方が得意なんですけれど⋯⋯」
「ボクもいい考えだと思う! 皆でお祈りすれば、きっとケイちゃんも助かるよ!」
「うふふ。案外こういう祈りって通じるものよね。私も協力させてもらうわ。ヒロちゃんも一緒にやりましょう?」
「⋯⋯そうだな」
今ここには居ないアンアンのスケッチブックに、皆でケイの身を案じ、絵を描いていく。こんな行為がどこまで意味があるのかは分からない。だが、何かしていないと落ち着かないのは事実だった。
果たして、この祈りが届いたのかどうか。それは定かでない。しかし、1時間後、私のスマホにワカバからケイが一命を取り留めたことを伝える連絡が届き、その知らせに皆歓声をあげたのであった。
〇〇〇〇〇
「『キラキラ』と『洗脳』。2つの魔女因子を入手できたのは幸運でしたが、『死に戻り』の発動はならず、ですか⋯⋯。次は私も動いた方がいいかもしれませんね」
その呟きは、誰にも聞かれることなくポツリと漏らされる。次なる悪意が、ヒロ達の身に迫ろうとしていた。