今回は閑話的な内容になってしまいましたが、一応この話から3章スタートです。
雪合戦in牢屋敷
護国ケイと吉良キララ。2人の魔女因子を持つ少女と関わったあの事件から、数か月が経過していた。その間、特に目立った事件も無く、各々平和に過ごしている。吐き出した息が白い。季節はすっかり冬に差し迫っていた。
「ごめんなさいね。まだ冷暖房の設備は整いきっていないのよ。この屋敷、無駄に広いから時間がかかってるの」
「君が謝ることはないだろう、マーゴ。だが、住環境が充分でないのは心配だな。体調を崩したりする者はいないのか?」
「居住スペースには優先して取り付けているから大丈夫よ。このアトリエにも早くエアコンを取り付けたいんだけれど、ノアちゃんがいらないって言って他の場所を優先させたのよね」
「あはは。ノアちゃんは優しいね」
アトリエには、私とマーゴ、そしてミリアの3人が居る。他にこの牢屋敷にいるのは、私と一緒にやって来たエマと、元々ここに住んでいるノアとアンアン、そして偶然来るタイミングが被ったナノカだ。全員が集まるタイミングはなかなか無いので、今日はそこそこ人数がいる方だろう。
「そういえば、ケイの容態はどうなっているんだ? この前連絡があったと聞いたが」
「ココちゃんが聞いた話の又聞きになってしまうけれど、まだ意識は戻っていないらしいわ。心配よね」
「おじさんはそのケイちゃんって子に会ってはないけれど、もう2か月くらいは経っているんだよね? 大丈夫なのかな⋯⋯」
以前の事件で魔法が使えなくなったココは、今は政府の人間との連絡係をやっている。本人はめんどくさそうにしているが、同じく魔法を失ったアンアンが他人との会話があまり得意ではないので、消去法でココの役割となった。悪態を吐きながらもなんだかんだうまくやってくれている。
「ケイのことは心配だが、私としてはあれ以来この一連の事件の黒幕と呼ぶべき人間が全く動きを見せていないことも気がかりだ。何か、よからぬことを企んでいる可能性が高いだろう」
「そうねぇ。フタバちゃんっていう存在に、彼女が“先生”と呼ぶ元凶。なかなか尻尾を掴ませてくれないのは厄介ね。目的もまだはっきりしていないし、何をしてくるか分からないのも、不気味だわ」
「フタバちゃんって子は、銃を使うんだよね? 怖いなぁ⋯⋯。おじさん、皆が傷つくところは見たくないよ」
敵が凶器を持って動いているというのは、それだけでかなりの脅威だ。同じように銃を扱うことが出来るのは、私たちの中ではナノカしかいない。そのナノカの声が中庭から聞こえてきたので、私はマーゴとミリアに一言断ってからベランダへと足を運んだ。
「城ケ崎ノア。夏目アンアン。私の射線に入ったのが貴女たちの運の尽きよ⋯⋯!」
「うわぁ! ナノカちゃん、雪合戦強いねぇ」
「なんでわがはいがこんなことを⋯⋯。うう、寒い。早く屋敷に戻って炬燵でぬくぬくしたい⋯⋯」
「あっ! おーい、ヒロちゃーん! ヒロちゃんも一緒に雪合戦やろうよ!!」
「何をやってるんだ君たちは⋯⋯」
中庭では、エマらを含めた4人での雪合戦が繰り広げられていた。どうやら、エマとナノカがチームのようで、ノアとアンアンは一方的に雪玉をぶつけられて雪だるまのようになっていた。
「おっ! ちょうどいいところに来たね。ヒロちゃんも参加しな~? てか、審判変わって~?」
「ホノカさんも混じっているんですか」
「私は審判ね! なのちゃんの勇姿をすぐ近くで見られる特等席! でも、見てたら私もなのちゃんと一緒に雪玉喰らわせてやりたくなっちゃった! あ、あと敬語じゃなくていいからね。肉体年齢的にはそんな歳変わらないんだし!」
雪景色の中だと、ナノカの姉、ホノカの姿は髪色も相まってまるで雪の妖精のように見える。大人しそうな外見に反してかなりアグレッシブな性格なのは知っていたが、すっかり元気になった今ではそのパワーを持て余しているようにも思えた。
「⋯⋯分かった。審判は代わりに引き受けよう。しかし、そうなるとチームの人数が不均等になってしまうな。よし、ミリア。君も参加してくれ」
「ええ!? なんでおじさんなの? マーゴちゃんもいるじゃん!」
「マーゴはどうせ参加しないだろう」
「うふふ♡ そうね。身体を動かすことは別に嫌いじゃないけれど、どちらかというと見ている方が好きだわ。そういうわけで、頑張ってね。ミリアちゃん」
「お、おじさんにはこの気温の中はしゃぐのはしんどすぎるよぉ⋯⋯!」
「君はおじさんではないだろう。甘えたことを言っている暇があったら、濡れてもいいように服を着替えるんだ」
「逆になんでヒロちゃんはそんな乗り気なのさぁ!?」
なんでと言われても、遊ぶときは思いっきり遊んだほうが気分転換にもいい。それだけのことだ。それに、この季節しかできない遊びとなれば、なおさら。本気で取り組まない方が逆に正しくないだろう。
私は、足取りの重いミリアを引っ張り、中庭へと向かう。その道すがら、スマホで雪合戦の公式ルールを調べておいた。これで、雪合戦の審判も正しくできるはずだ。
「ホノカに代わって雪合戦の審判をすることになった、二階堂ヒロだ。公式では1チーム7人構成だが、人数が足りないのでそこは許容しよう。3対3に分かれてのチームバトル形式を採用する。フォワードが2名。バックスが1名。勝利条件は相手チームを全員アウトにすること、もしくは相手チームのフラッグを抜くことだ。アウトの条件は、投げた雪玉がノーバウンドで身体や着衣の一部に当たった場合とする。アウトになった者はコート外へと出てくれ。それから⋯⋯」
「えい」
中庭へと降りた私が皆の前で雪合戦のルールを語っていると、その途中でノアがこちらへ雪玉を投げてきた。咄嗟に上体を逸らして直撃は免れたが、ルール説明の途中で審判に雪玉を投げるのは正しくない。これはきちんと叱る必要があるだろう。
「ノア。ルール説明を遮るのは正しくない。ちゃんと最後まで話を聞くんだ」
「だって、のあ、そんなルールいちいち覚えてられないもん。それよりも、ヒロちゃんと一緒に遊びたいなぁ」
「私は審判だ。雪合戦をやるのは君たち6人。安心しろ、私が見ている以上は一切のルール違反を許さない公正な審判を務めて⋯⋯」
「えいっ」
ノアに懇々と説教していた私の後頭部に、ぽすっと雪玉が当たる。こんなことをやるバカは誰かと振り返ると、そこには悪戯っぽく笑う
「えへへ。ねえ、ボクもヒロちゃんと雪合戦、したいな」
「⋯⋯いいだろう。君たちがその気なら、私も付き合おうじゃないか。だが、覚悟しておけよ。私は遊びにも手を抜かない主義だ!」
私はその場にしゃがみこみ、雪をぎゅっと握りしめると、エマの顔面目掛け雪を投げつけた。「きゃんっ!」と悲鳴をあげて倒れるエマを無視して、次の標的目掛け雪玉を投げる。
「ぐふぅ」
アンアンが私の投げた雪玉に当たって吹っ飛んだ。これで2人は倒した。残り全員も私の雪玉でノックアウトしてやろう。
「ちょ、ちょっとヒロちゃん! 審判をやるんじゃなかったの!?」
「すまないミリア。事情が変わったんだ」
「そんな急に言われても⋯⋯ぎょええええ!?」
状況を理解しきれていない様子のミリアの顔面にも雪玉をぶつけてノックアウトさせる。乙女らしからぬ汚い悲鳴をあげて雪の上に倒れるミリア。その上を飛び越えて次なるターゲットへと向かおうとした時、こちらに鋭く雪玉が飛んできたので咄嗟に横に跳んで回避した。
「⋯⋯やるわね。二階堂ヒロ。この私の狙撃を回避するなんて」
「やっちゃえなのちゃん! 魔王ヒロちゃんを倒しちゃえ!」
「うん」
「誰が魔王だ!」
ナノカは、ホノカが作った雪の壁の後ろに隠れながらこちらに狙いをつけて雪玉を投げてきている。無くなった雪玉はすぐにホノカが作って補充しているので、なかなか弾幕が途切れない。流石姉妹というべきか。抜群のコンビネーションだ。
「だが⋯⋯まだ甘いな!」
私は、足元の雪を蹴り飛ばし、ナノカとホノカの視界を遮る。そして、その隙に壁の後ろに回り込むと、二人の首元目掛け雪玉を投げ込んだ。
「きゃっ!」
「ちょっとヒロちゃん! 女の子の柔肌に雪を投げ入れるなんてえっちですよ! 反則反則~!」
「先にルールを無視したのは君たちの方だろう! 私は君たちのやり方に合わせてやっているだけだ!」
ともあれ、これで黒部姉妹の戦意を喪失させることにも成功した。残すはノア1人だけだ。私は雪玉を握りしめ、ノアが先ほどまで立っていた方向を向く。しかし、そこにノアの姿はなく、その代わりに巨大な雪像が出来上がっていた。
「な!? なんだこの雪像は!」
「えへへ~。のあの魔法で作ったんだ。凄いでしょ。いけー、ユキヒロちゃん。本物ヒロちゃんをやっつけちゃえ~」
巨大な雪で創られた、私の姿を模した雪像が、私目掛け倒れ掛かる。その巨大な雪像相手に逃れる術はなく、私は雪の中に呑み込まれてしまった。
「くそ、それは反則だノア! 魔法を使うなんてずるいだろう!」
「魔法禁止なんてルールなかったもーん。あれれ、ヒロちゃんはルールにないからって言い訳するんだ。それって、正しくないよね~?」
「くっ! じゃあ次からは禁止だ。おいエマ。今度はチーム戦をやるぞ。君は私の別チームに行け」
「ええ!? ボクはヒロちゃんと同じチームがいいのに⋯⋯」
「はいはーい! 私はなのちゃんと同じチームを希望しまーす!」
「私とお姉ちゃんが同じチームなら、無敵ね」
「うう、おじさんもう寒くて無理~!」
「わ、わがはいも、凍えそうだ⋯⋯。ミリア、おしくらまんじゅうをやろう」
皆が中庭でわいわいと騒ぐ様を、マーゴは1人、アトリエのベランダから紅茶の入ったカップを片手に優雅に眺めていた。
「青春、ね♡」
結局、その日の雪合戦は夜遅くまで続き、びしょ濡れになった全員次の日軽く熱を出すことになってしまったのであった。