二階堂ヒロの事件簿   作:赤葉忍

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集う"元"魔女候補たち

 私たちの次に到着したヘリから出てきたのは2人。まだヘリは上空にあるにも関わらず、既にわーきゃーと何やら騒がしく話している声が聞こえてきていた。

 

「いやー、ここに来るのも久しぶりですね~。あ、エマさんヒロさん!! それにマーゴさん達も!! わざわざお出迎えとは嬉しいですね~!!」

 

「ちょっと、窓から身を乗り出すんじゃねーですわ!! そんなことして落ちたらどうするんですの!?」

 

 窓を開けてこちらに大きな身振りで手を振っている少女は、橘シェリー。そして、姿は見えないがあの独特な喋り方は遠野ハンナだろう。あの2人は高校こそ違うが、しょっちゅう一緒に遊んでいると聞いている。大方、私とエマのように一緒にいたところをそのまま連行されてきたのだろう。

 

「とお~っ!!」

 

「きゃーーーっ!?」

 

 シェリーの気の抜けた掛け声と、ハンナの甲高い悲鳴が同時に聞こえてくる。まだヘリは着地していないにも関わらず、待ちきれなかったのか開けた窓からシェリーがハンナを抱きかかえて飛び降りてきたのだ。

 

「シェリーちゃん!! ハンナちゃん!!」

 

 思わずといった様子でエマが悲鳴をあげる。だが、落下してきたシェリーとハンナは、そのまま地面に激突することはなく、直前でふわりと浮き、無事に着地を成功させていた。

 

「あなた一体何を考えてるんですの!? 急に窓から飛び降りるなんて正気じゃねーですわよ!!」

 

「いやー、『浮遊』の力を取り戻したハンナさんがいれば何とかなるかなーと思いまして! 信じてよかったです!」

 

「シェリーちゃん、危ないから次からはちゃんとヘリが着陸するのを待とうね⋯⋯」

 

 エマとハンナの2人から説教を受けても、シェリーは能天気なままだ。やはり彼女は全然変わっていない。ハンナは精神的にやや脆いところもあるので魔法の力が戻ったことで動揺していないか心配していたが、現状あまり変わりはなさそうだ。もしかしたらシェリーが傍にいることが彼女の精神的な支えになっているのかもしれない。まあ、それはそれとしてシェリーにいつも振り回されているであろうハンナには同情するが。

 

「3人とも、お喋りしたい気持ちは分かるけれど、今は一旦私たちのところまで下がって? 次のヘリが着陸するスペースがなくなっちゃうわ」

 

 マーゴに窘められたことで3人は一旦会話を止め、私やノアのいる隣へと並んだ。そのすぐあと、先ほどのヘリよりもやや小ぶりなヘリが一台、目の前にゆっくりと着陸する。先ほどのように会話が聞こえることも窓から手を振ってくるようなことも無く、着陸を待って静かにヘリから降りてきたのは、黒部ナノカだった。

 

「あ、ナノカちゃんだ~。久しぶり~」

 

「久しぶりね、城ケ崎ノア。⋯⋯できれば、こういう形での再会はあまりしたくなかったのだけれど」

 

 純粋に再会を喜ぶノアに対し、ナノカの表情はどこか複雑そうだった。それはそうだろう。政府の人間に無理やり連れてこられての再会など、誰も望んではいない。

 

「あら、ナノカちゃん。あなた、お姉さんと一緒には来なかったのかしら?」

 

「⋯⋯お姉ちゃんは、着いていくって言ったけれど、私が止めたの。魔法の力が戻ったのは、私だけだったから」

 

「⋯⋯そうか」

 

 私よりも先に、マーゴが聞きたかったことを聞いてくれた。少し寂しそうな、悲しそうな顔でそう語るナノカに対し、私はそれ以上何も言うことは出来なかった。

 

 ナノカのメンタルは少し心配だが、まだヘリは続々と飛んできている。次は、一番大きなヘリだった。しかも、シェリーたちのヘリが来た時と同じように、既に何やら騒いでいる声が聞こえてきている。

 

「あああああ!! 早くうちに帰してよぉ!! あてぃしは、また推しを心配させるのは嫌なんだよぉ!!」

 

「おい、暴れんな沢渡!! 佐伯、そっちもう少し強く抑えてくれ!!」

 

「ココちゃん落ち着いて!! だ、大丈夫だよ。きっとすぐ帰れるって」

 

「根拠のない慰めなんか聞きたくない!! あてぃしを帰してよぉ!!」

 

「ココちゃん⋯⋯」

 

 エマが心配そうにヘリを見上げる。やはりと言うべきか、この状況に一番心を乱されているのはココのようだ。高校が一緒だったアリサと、ココと仲のいいミリアが一緒にいてくれているのはありがたいが、それでも宥め切れていない様子が漏れ聞こえる声から伝わってくる。

 

「いやー、なかなか大変そうですね~。私が手伝った方がいいでしょうか?」

 

「⋯⋯今のあなたが抑える側に回ったら少し危なそうですから、やめた方がいいと思いますわ」

 

「え~? 私、ココさん相手なら怪我したりしないと思いますけれど」

 

「橘シェリー、遠野ハンナが心配しているのは沢渡ココの方よ」

 

「ココちゃん、大丈夫かなぁ⋯⋯?」

 

 私やエマだけでなく、他の皆もココを心配している。そんな中、ノアの心配そうな声を聞いて一歩前に出たのはアンアンだった。

 

「⋯⋯心配するな、ノア。わがはいがなんとかしてみせる。マーゴ、あれを頼む」

 

「は~い♡ こんなこともあろうかと、ちゃんと用意しておいたわよ」

 

 アンアンは何をするつもりなのか。気になってアンアンとマーゴの方を見れば、いつから持っていたのか、マーゴがアンアンに拡声器を手渡していた。ということは、まさかアレをやるつもりなのか。

 

「ココ、聞こえているか。聞こえているなら、わがはいの言うことを聞け。とりあえず⋯⋯【落ち着くんだ】!」

 

 拡声器で拡大されたアンアンの声は、ヘリのプロペラ音にも負けずにどうやらここまで届いたようだ。先ほどまで聞こえていたココの声が聞こえなくなっていた。そして、アンアンの『洗脳』の魔法の効果は私たちにも有効だったようで、心なしか先ほどまでより気持ちが落ち着いたように感じる。

 

「アンアン、ありがとう。どうやらココも落ち着いたようだ」

 

「ふふふ。もっとわがはいのことを褒めろ。わがはいだってちゃんと成長しているのだ」

 

 得意げに胸を張るアンアンは、確かに1年前より精神的に成長しているようだ。魔法を使うことを恐れていたアンアンが、友人のために率先して魔法を使うとは正直思っていなかった。

 

 それから少しして、無事着陸したヘリからは、少し気まずそうな様子のココが真っ先に降りてきた。そして、アンアンの前に立ち、照れくさそうに頭を掻く。

 

「⋯⋯あー、あのさ。さっきはありがと。おかげでちょっと冷静になれた」

 

『もっと褒めろ』

 

「うるせー、調子に乗んなヒッキー」

 

 悪態が飛び出してくるあたり、ココのいつもの調子が戻ってきたようだ。とはいえ、若干勢いはおとなしいので、まだ本調子ではなさそうだが、なんとか安心できる状態にはなっただろう。

 

「⋯⋯あと、さ。ごめんね、アリサ、ミリア。さっきはその、ちょっと暴れちゃったからさ」

 

「ちょっとじゃねえけどな。⋯⋯ま、後でなんかおごれ。それでチャラにしてやんよ」

 

「おじさんは別に気にしてないよ! おじさんだってまたここに連れてこられて不安だったし⋯⋯。むしろ、ココちゃん達が居てくれてよかったよ」

 

 アリサとミリアは、一番取り乱しているココが近くにいたからだろうか。割と落ち着いているように見える。だが、ミリアなんかはああ見えて自分の感情を隠すのがうまいタイプだ。ストレスを抱えている可能性もあるので注意は必要だろう。

 

 これで、この場に集まったのは11人。メルルはユキと一緒に死んでしまいもういないので、残すところあと1人となった。目立ちたがり屋の彼女が最後にやって来るのは偶然か。はたまた計算されたことなのか。判断に困るところだ。

 

「はーはっはっは!! やあ皆、待たせてしまったようだね!! 今そっちに向かうよ!!」

 

「⋯⋯はぁ」

 

 聞こえてきたテンションの高い声に、思わずため息が漏れる。視線を上げると、ヘリから下ろされた縄梯子に掴まりながら、こちらに向かって手を振る蓮見レイアの姿があった。そんなレイアに対する皆の反応はというと、

 

「わ~! 凄いですね~!! 私もやればよかったです~!!」

 

「レイアちゃん、凄いねぇ~」

 

 素直に感嘆する者が2人。

 

「レイアちゃん!? 落ちたら危ないよ!!」

 

「蓮見レイアは何をしているのかしら?」

 

「レイアちゃんは流石だね。でも、確かにおじさんもちょっと心配かも⋯⋯」

 

 困惑、あるいはレイアの身を案じる者が3人。

 

「ちょっとレイアさん!? なぁに馬鹿なことやってるんですの!! 危ないですわよー!!」

 

「ふふふ♡ レイアちゃんは凄いわねぇ。私なら恥ずかしくて絶対できないわ」

 

 やや小馬鹿にしているのが2人。

 

『ばかもの』

 

「おい蓮見! 何ふざけてんだ!! 普通に降りろ!!」

 

「ちょ、マジうける。ねえねえ、これ動画撮っていいやつ? あ、やっぱダメ?」

 

 完全に馬鹿にしたり普通に叱っているものが3人。とまあ、全体的に否定的な反応が多かった。そんな声を受けてもなお、レイアはキラキラとした笑みを浮かべたままだった。

 

 皆の注目を一身に浴びる中ゆっくりと地面に降り立ったレイアに、私は真っ先に駆け寄っていく。

 

「まったく⋯⋯。相変わらず目立ちたがり屋だな。君は舞台の稽古などでワイヤーアクションの経験はあるかもしれない。だが、それとこれとは別だ。危ないから、次からはやめておくように」

 

「ああ、すまない。ヒロくんがそこまで言うなら、次はやめておくよ。⋯⋯ところで、どうかな? 皆の雰囲気は少しは明るくなったかな?」

 

 そう言ってウインクしてみせるレイアに、私はため息を返した。レイアの心意気は立派だ。実際、レイアの派手な登場で、先ほどよりも皆の空気も明るくなったように感じる。レイアだって不安はあるはずなのに、それを表に出さずにこういう振る舞いができるところは、本当に尊敬できるところだ。だが、それを本人に言うと調子に乗るので直接伝えることはしないが。

 

 ともあれ、これで全員が揃った。そしてまるでこのタイミングを見計らっていたかのように、バサバサとこちらへ羽音が近づいてきた。確認するまでもなく分かる、ゴクチョーだ。

 

「おや、皆さん揃われたようですね。では、今後の詳しいお話をする必要がありますので、私についてきてください」

 

 そう告げて、ゴクチョーは背中を向けて牢屋敷へと向かって羽ばたいていく。私たちは一度視線を合わせ、ゴクチョーの後へと続いて牢屋敷へ向かっていくのであった。

 

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