二階堂ヒロの事件簿   作:赤葉忍

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“人造魔女因子”

『皆さんは、魔女を殺す薬のことを、覚えていますか?』

 

「あー、あれねぇ⋯⋯」

 

 苦々しい顔をしたのはココだ。ココは、『魔女を殺す薬』⋯⋯トレデキムをメルルに飲まされて、殺された世界線の記憶がある。忘れたくてもなかなか忘れられないだろう。勿論、私も忘れずに覚えていた。

 

「トレデキムのことなら覚えている。それで、トレデキムが私たちに魔法の力が戻ったことと何の関係があるんだ?」

 

『直接的には関係ないですが⋯⋯間接的に関係があります。政府は、魔女を殺すため、魔女因子の解明に努めていました。その過程で産まれたのが、魔女を殺す薬、トレデキムです。ですが⋯⋯実は、政府が研究の末に産み出した物は、トレデキムだけではなかったのです』

 

 メルルは、そこで一度自分の胸に手を置いて息を整えた。このメルルはあくまでスマホの画面上に映し出されているAIに過ぎないが、動作と言い喋り方といい、記憶の中のメルルにそっくりだ。本人から本物のメルルと精神接続しているという話は聞いているが、それを聞いたうえでも何とも不思議な感覚である。

 

「ふむ。その研究の末に産み出した物とやらが気になりますね。教えてください~!」

 

『は、はい。政府が研究の末に産み出した物。それは⋯⋯人工的に造り出した魔女因子、通称“人造魔女因子”です』

 

「な、なんてもんを造ってやがりますの!? そんなの造ったところで、なんにもならないじゃありませんの!」

 

「⋯⋯いえ、そんなことはないと思うわ。もし魔女因子を持ち、魔法を使える人間を自発的に産み出すことが出来るなら、それは国家にとって大きな力になる。勿論、制御できればの話ではあるけれども」

 

「あわわ、なんだか怖い話になってきてない? おじさん達、この話聞いて大丈夫なの?」

 

 ミリアが怯えるのも無理はない。今、私たちは国家の秘密情報を聞いてしまっている。それも、かなり黒い情報だ。しかし、メルルがこうして話しているということは、聞かせても大丈夫と判断しているのだろう。それに、私たちが牢屋敷に連れてこられたあの忌々しい過去も、国家の機密情報扱いされているはずだ。今さら更に一つや二つ知られたところで問題ないのかもしれない。

 

「そ、それで⋯⋯。その人造魔女因子が、ボク達の今の状況に関係があるの?」

 

『えーっとぉ⋯⋯。凄く言い辛い話なのですが、どうやら、研究所からその人造魔女因子を持ちだした研究員さんがいるらしくて。ヒロさん達が再び魔法が使えるようになったのは、その人造魔女因子を与えられた人物に接触したことが原因⋯⋯と、大魔女様が仰っていました』

 

「はぁ!? おい、なんでそんなヤバいもん持ち出されてんだ。セキュリティとかどうなってんだよ」

 

『ご、ごめんなさいぃぃ⋯⋯!!』

 

「落ち着くんだアリサくん。今メルルくんを詰めてもどうにもならないだろう?」

 

「⋯⋯ちっ」

 

 アリサが不機嫌そうに舌打ちをするのを聞きながら、私はユキとの会話を思い返していた。ユキが言っていた「大きなきっかけ」とは、人造魔女因子を持った者との接触のことだったのだ。つまり、あの時私がホームで感じた直感は正しかったということになる。やはり、あの魔法を使って高速で逃げた少女⋯⋯彼女との接触によって、私は再び魔法の力が芽生え⋯⋯それが、ここに居る他の少女たちにも連鎖したのだ。

 

「⋯⋯私たちが魔法の力を取り戻した原因は理解した。それで、私たちはこれからどうすればいい? もし、この場で処刑を行うつもりならば、やめておいたほうがいい。私とエマは、その人造魔女因子の持ち主に会っている。人造魔女因子を持ちだした犯人を捕まえるためにも、それを与えられたと思わしき人物の情報を持っている私たちを殺すのは愚策だと思わないか?」

 

 処刑という単語を口に出したことで少し場はひりついたが、私は努めて冷静にメルルに話しかける。大丈夫だ。私が絶対に、君たちを殺させはしない。幸い、話を聞く限り政府も人造魔女因子を持ちだされて焦っているはずだ。十分に交渉の余地はある。

 

『あ、安心してください。大丈夫です。政府は皆さんを殺すつもりはありません。むしろ、皆さんに依頼をする立場といいますか⋯⋯』

 

「いらい? のあ達にお願いがあるってこと?」

 

『は、はい! 皆さんには、人造魔女因子の持ち主の捕獲と無力化、そして人造魔女因子を盗み出した研究員の捕獲にもご協力していただきたいんです』

 

「なるほどねえ。餅は餅屋、みたいなことかしら。確かに、魔法を使う相手なら、同じ魔法を使える私たちを頼りたくなる気持ちも分かるわ。でも、捕獲はまだできないことも無いと思うけれど、無力化はどうするのかしら?」

 

『その件に関してですが⋯⋯無力化には、エマさんの『魔女殺し』の魔法が使えるみたいです』

 

「え、ボク!?」

 

 驚くエマに、全員の視線が集まる。私も、エマを一度見た後、スマホの画面に映るメルルをきっと睨みつけた。

 

「おい、まさかエマに人造魔女因子の持ち主を殺させる気か? エマひとりにそんな負担を負わせるというなら、私は反対だ」

 

『ここ、殺すなんて、そんな野蛮なことはさせません! 大魔女様は言いました。「エマの魔法は危険だから、私の手で少しいじっておきました」と』

 

「⋯⋯つまり、今のエマの『魔女殺し』の魔法は、魔女因子の持ち主を殺す魔法ではなく、あくまでも魔女因子そのものを無力化⋯⋯言い換えれば、魔女因子だけを殺す魔法になった、ということか?」

 

『は、はい⋯⋯! その通りです!!』

 

「よかったぁ⋯⋯。流石ユキちゃんだね!」

 

「エマ、君は能天気すぎる。分かっているのか? 君の『魔女殺し』の魔法でしか魔女因子の無力化が出来ないということは、君はこれから、この事態が解決するまでその力を人造魔女因子の持ち主相手に使い続けることになる。この前みたいに、殺されそうになる危険だってあるんだぞ?」

 

「確かに、それはちょっとだけ怖いけれど⋯⋯。でも、ボクがこれをやらないと、たぶんここにいる皆、殺されちゃうかもしれない。ボクは、それは嫌だ。だって、皆ボクの大切な友達なんだ。それに⋯⋯もし危険なことがあっても、ヒロちゃんと一緒なら大丈夫! ヒロちゃんは、ボクを守ってくれるよね?」

 

「⋯⋯当たり前だ」

 

 笑顔でそんなことを言うエマに、私はこう返すことしかできなかった。エマは、賢い。もし、ここでエマが協力を断れば、おそらく私たちは魔女因子を持った危険人物として殺される可能性が高い。それをちゃんと理解している。

 

 しかし、あれだ。その言い方はちょっと、ずるくはないだろうか。こんな風に言われたら、もう私はこれ以上何も言い返すことが出来ないではないか。

 

『ヒロはエマに弱い』

 

「惚れた弱みって奴かしらねぇ」

 

「アンアン、マーゴ、少し黙っててくれ」

 

 アンアンが不満げに『わがはいは喋っていない』と書かれたスケッチブックを掲げるのを無視して、私は全員に話しかける。

 

「私は、エマに協力する。この事態を解決し、少しでも早く元の日常を取り戻したい。だが、君たちには協力は強制しない。政府も、事態が解決するなら私とエマだけで納得してくれるはずだ。私が政府を説得してみせる。だから⋯⋯」

 

「水臭いじゃないか、ヒロくん。私たちが、そんな薄情な人間に見えるかい? 私は、君たちと一緒に事件解決に協力させてもらうよ!」

 

 私の声を遮り、レイアがこちらに向かってウインクをしてみせる。そんなレイアに続き、ノアも元気よく手を挙げた。

 

「のあも! のあもヒロちゃん達と一緒にがんばる! 人数が多い方が、きっとはやく解決できるよ!」

 

「⋯⋯ノアがやるなら、わがはいも手伝ってやらないこともない」

 

「あら、それなら私も協力するわ。二人がやる気なのに、私だけ何もしないなんて、流石にできないもの」

 

 アンアン、マーゴもノアに続く。そして、声をあげたのは4人だけではなかった。

 

「人探しなら探偵の十八番ですよね! いや~、久しぶりに事件の匂いがして、ワクワクしちゃいますね~!」

 

「あなたはただテンション上がってるだけじゃねーですの! ⋯⋯まあ? あなた達だけでは心配ですし? わたくしも手伝ってやらねーこともねーですわよ?」

 

「⋯⋯私も、何ができるかは分からないけれど、協力したい。だって、皆大切な仲間だもの」

 

「お、おじさんも協力するよ! エマちゃんとヒロちゃんだけに頑張らせるわけにはいかないし!」

 

 シェリー、ハンナ、ナノカ、ミリアも協力を申し出てくれた。残すは、アリサとココだ。アリサは、ぷいっと視線を逸らし、ぶっきらぼうにこう告げた。

 

「⋯⋯ウチも、やるよ。まあ、どこまで力になれるかは分からねーけどな」

 

 アリサも、素直ではないが協力してくれると言ってくれた。最後に残ったのはココだ。しかし、私はココに協力をお願いするつもりはない。何故なら、ココはこの中で誰よりも推し⋯⋯祖父への愛情が深い。こうして話している今だって、帰りたい気持ちでいっぱいだろう。

 

「ココ、君は別に無理をしなくてもいい。君には祖父がいるだろう。君だけは帰れるよう、説得してみせる」

 

「そ、そうだよココちゃん! 無理しなくていいからね? おじさんも説得頑張るから!」

 

 ミリアも私の説得を手伝ってくれた。ココは、しばらく何か考え込むように俯いていたが⋯⋯やがてその顔を上げた。その瞳には、涙が少し浮かんでいたが、それを誤魔化すようにココは不敵に笑ってみせた。

 

「はっ! あてぃしをのけものにしようったってそうはいかねーかんな! だいたい、この中で一番人探しに向いてる魔法を持ってるのはあてぃしだし! だから⋯⋯もっと頼れよな。あてぃし達、友達⋯⋯だろ?」

 

 最後の方は少し照れ臭かったのか、若干顔が赤くなっている。私は、全員の顔を見渡す。皆が、こちらをまっすぐに見返してくれていた。その表情には、一様に強い意志がこもっている。⋯⋯私は、どうやら彼女たちのことを見くびっていたらしい。

 

『あ、皆さん協力していただけるのですね! よかったです! では、皆さん今日は遅いですし、牢屋敷に泊まっていってください。明日から、捜索活動をお願いします!』

 

 全員がなんとなしに連帯感を感じていた中、そんな空気をぶち壊したのはメルルの声だった。私は、メルルのその発言に気になるものがあり、質問をぶつける。

 

「ちょっと待った。時間的に今日泊まっていけというのは理解できる。だが、その言い方だと、私たちはずっとここに閉じ込められるわけではないのか?」

 

『え、どうしてですか? だって、皆さんに人造魔女因子の持ち主と研究員の捜索をしてもらうなら、ここに閉じ込めてしまうよりも、外に居て貰った方がいいじゃないですか』

 

「じゃ、じゃあ、あてぃしは推しのところに戻れるの!?」

 

『はい、明日には戻れますよ。あ、でも、監視は付くことになると思います。それに関しては、申し訳ないですが、我慢していただくしかありません。ごめんなさい⋯⋯』

 

「な、なんだよそれ! それじゃあ、さっきのあてぃしの一大決心が馬鹿みたいじゃん!!」

 

 怒りと嬉しさ、そして羞恥心が織り交ざった真っ赤な顔で、ココが吠える。私も、てっきりまたあの時のように牢屋敷に閉じ込められるものだと勘違いしていたので、少しほっとした。

 

 こうして、私たちの今後の方針は決まった。全員で協力して、人造魔女因子の持ち主と、人造魔女因子を持ちだした研究員を捕まえること。それが解決したら、エマの魔法を使えばおそらく全員の魔女因子も消えるはずだということは、メルルからもお墨付きを貰った。

 

「まずは、桜羽エマと二階堂ヒロが接触したという魔女因子の持ち主を探すことからかしら。何か手がかりはないの?」

 

 そう尋ねてきたナノカに対し、エマは自身のスマホを取り出し前に掲げた。

 

「ボク達が遭遇した人造魔女因子の持ち主⋯⋯それを特定する手がかりは、これだよ!」

 

 そのスマホに映し出されていたのは、エマがいつの間にか写真に撮っていた、あの少女の顔だった。私は、メルルに写真を元に人物を特定するよう依頼。そうして、翌日にはこの少女が、足立スピノという私たちより一つ上の学年の生徒であることが判明したのであった。

 

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