30xx年x月x日
世界に「人生リセットアプリ」なるものがスマートフォンに導入された。
人生リセットアプリとはその名の通り、好きな時に、どんなことが起こっているとしても、人生を0からリスタートさせることができる代物だ。
だが、宿る母親は選べないし、リセットとはあまり呼び難い。
僕は今の人生に満足しているので、これを使う日は到底来ないだろう。
―――
人生リセットアプリが導入されしばらく立ち、世界では人生をリセットする人々が常に増加していることが課題点となっていた。
最初の方こそ、得体の知れないアプリをタップする者は少なかったが、安全性が証明されてからというものの、大勢の人が人生をリセットしていた。
今更人生リセットアプリを廃止するとしても多くの人が嘆き、自らの手で命を絶ってしまうだろう。
僕はそんなこと絶対にしないがね。
――数年後――
僕の友人は大体が人生をリセットしていた。最初は僕と同じように使おうとはしていなかったが、辛かったのだろう。
そういえば最近は色々な会社が人手不足だ。僕が入っている会社の人数も両手で数えられる程に。
大変な時期になると皆人生をリセットしてしまう。人生をやり直すのも簡単ではなさそうなのに。
僕も大変だ。人生をリセットしていない人は前よりも能力を求められている。求められれば求められる程限界になり、人生をリセットする。
究極の悪循環だな。そう思うほどに苦しい。
まるで理不尽な平等を押し付けられているみたいだ。
ほとんどが子供。世界の人口のほとんどが10代だ。皆仕事に入る前に人生をリセットする。
30代や40代なんて最近では幻かのようにこの世に居ない。
きちんと仕事をしている人は数少ない。その人達で、ギリギリだとしても世界が成り立っているのが不思議なくらいだ。
この世界の秩序は薄れてきていた。みんな嫌なこと、苦しいことはしたくないから。しないといけないとなるとスマホを取り出すから。
大半の人は楽をして楽しく過ごしているのに僕や人生をリセットせず、真面目に仕事をしている人達が苦しむというのは無性に腹が立ってしまう。
それに、僕がちっぽけな金を稼いだってそれは何の助けにもならないと思う。真面目に生きる苦しみと、手元に入る金の金額は比べものにならない。
早々に人生をリセットしていた友人は僕よりも辛くなかっただろう。苦しくなかっただろう。やはり、楽をしている。
あれ?
僕は、人生リセットアプリを使いたくない、という思いとは裏腹に、手には「お使い頂きありがとうございます!残り5秒で人生がリセットされます!」と表示されたスマホが握られていた。
5
違う、
4
僕は使わないんだ、
3
他の人とは違くて、
2
ちゃんと生きて、
1
違う、違う、
……
あ、れ?
リセットされない、
あぁ、そうだ。もうみんな赤ん坊なんて必要ないんだ。
その日、一つの魂が消えた。
自分だけは違うと信じていた魂だった。