Pocket Monsters Z-A étranger 作:ローロー仮面
ビルの窓も広告も、すべてが沈黙している。不夜城である常のミアレではあり得ない筈の光景。
突き刺すような殺気立った気配が、周囲一帯を囲うホログラムの明かりの赤に煽られるように衝突し合う。
作業用の足場で組まれたアスレチックの半ば程で、この風景に溶け込むような赤混じりの黒髪を風に靡かせた少年、ルカは地上の様子を窺っていた。
彼の目前に、ライトを抑えたスマホロトムがやってきて、セロと書かれた人物からのメッセージを浮かべた。
{これ以上待たせるなら、こっちで勝手にやらせてもらうぞ}
メッセージの内容に、ルカは困ったように苦笑いを浮かべながら、スマホロトムに口唇を読ませることで、音を立てずに連絡を取る。
{もう少し辛抱してくれ}
それだけ伝えると、バトルを繰り広げるトレーナーとそのポケモン達の様子を見て、これならいいだろうと再びスマホロトムを通してメッセージを送る。
{Fランク以上のトレーナーの姿は見えない、待たせてすまなかった。2人とも参戦してくれ}
ルカがそうメッセージを伝えるとともに、彼と同年代か少しばかり年下と思わしき少年と少女が混戦となった戦いの場へと姿を現す。
一息吐いていたトレーナーのミルホッグへと、少年の繰り出したルカリオが“はどうだん”で遠距離から不意を衝き、そのまま戦闘不能へと追い込む。
隣でも少女の連れたメタングが、”アイアンヘッド“で氷タイプのポケモン、バニリッチを的確に倒していた。
この2人は、ルカと同じチームでZAロワイヤルに参戦しているトレーナー。
彼らが必要以上の格上とはぶつからないように、ルカはこの場に居るトレーナーの顔ぶれやポケモン達の力量を確認してから彼らに突入させた。
{そのまま、お互いに死角をカバーしながら不意打ちに気を付けて}
それだけ伝えると、ルカは快進撃を続ける2人から目を離して、周囲や人気の無い屋根上へと意識を向けた。
そこにはおそらくはルカ同様に息を潜めて、状況を静観している者達がいる筈だ。
チームを組み、効率的にポイントを稼ごうと目論む集団は当然ルカ達だけではない。単独でも、漁夫の利を得ようと機を狙う者もいる。
有力チームのエース級や、単独で高ランクまで駆け上がった者達の集団を相手をさせるには、まだ彼らには荷が重い。
(……まだ動かないなら、こっちから動くか)
ルカは振り返ると、それまで影に徹して控えていたパートナーの一匹、シンボラーに視線で合図を送った。
アスレチックを駆け上り、そのまま屋上へと姿を晒す。その傍らには、シンボラーが念動力で音もなく並び立つ。
唐突な出来事に、一瞬のどよめきが屋上の静寂に広がった。
何人かの隠れていたトレーナーが反応して彼を取り囲み、各々にポケモンを繰り出した。
(同じチームの上位集団か……)
連れ立っているポケモンは視界に入るだけでバクーダ、ガメノデス、ファイアロー、ユキメノコ。
それぞれよく育ち、進化しきったパートナーを連れている。集団で取り囲んでいるが、彼らはすぐには襲い掛からない。
彼らもそれなりに戦歴を積み上げた者達だ。数の利だけで驕るほど軽率ではない。
この街では珍しいシンボラーにも警戒をしているのだろう。そして、息を揃えて一気に攻め立てる機を窺っている。
(……悪くない。今日は中々楽しめそうだ)
それまで打って変わって、好戦的な笑みがルカの口元に浮かぶ。
それを合図にしたように、周囲を取り囲むポケモンが、一斉にルカ達へと襲い掛かった。
***
夜が明け、日差しへと溶け込むように周囲一帯を囲うホログラムの赤い光が消えていく。
一晩中を戦い続けていたトレーナーとそのポケモン達は皆、一様に疲れきった様子でこの場を後にする。
ルカは屋上から同じチームの2人を見つけ、そのまま飛び降りると、スマホロトムに引っ張られてゆっくりと着地する。
降りてきたルカに2人が気付くと、柔和な笑みを浮かべて応じた。
「2人ともお疲れ様。どちらもポイントと賞金メダルは稼げたようだね」
「いい加減、俺にももっと手強い相手とやらせてくれよ」
笑いかけるルカに2人の内の少年の方、アッシュカラーの髪を逆立てたセロが不満を隠そうともせずに応じた。
彼のランクはまだRランクで、今回の相手の中にはランクだけで言えば格上も複数人いた筈だが、実力だけで言えばもっと上でも、それこそ上位層から見れば横並びが続くGランク以下なら有数の実力だ。
そんな彼からすれば、こんな格下狩りを続ける現状に不満が募るのも仕方ない。
そんな彼の内心を踏まえた上で、ルカはことも無げに答える。
「仕方ないだろう、万が一負けて賞金が減れば、アイシアはともかく俺たちはミアレに滞在出来なくなってしまう」
アイシアと呼ばれたカーディガンを羽織った少女に視線を向けながら、格安の宿でも馬鹿にならないからなあ……っとルカは乾いた笑い声で続ける。
ルカとセロはそれぞれ別の地方から私費でZAロワイヤルに参加しに来ている。
賞金でなんとか食い繋いでいるが、そのほとんどは滞在費と食費だけで消えてしまっている。
賞金が出るZAロワイヤルのバトルゾーンは毎夜開かれていて、一度の参加でも根気強く、そして上手くやれば1週間分くらいの生活費は稼げる。
だがそのために一晩を戦い続けることは、出来て週末の1日が精々で、それ以外の日は参加しても夜が更ける前に撤退するのが常だ。
ルカは多少の蓄えこそあるが、それでもセロの分も賄えるほどではない。
彼自身で賞金を稼げなければ、すぐにでもこのミアレから出て行かざるを得ないのだ。
アイシアも他所から来た身ではあるが、正式な留学として来ているので、生活費は実家から貰っている。
「私は生活費分は頂いていますし、賞金は全てお二人で分けていただいても構わないのですが……」
「そんなわけにはいかないよ。ただでさえチームの活動費をほとんど出して貰ってるんだし」
流石に女の子に養われるのはみっともない。何度か同様の提案があったが、ルカもセロも生活費に関しては、自分たちでどうにかするとして譲らなかった。
暫しの沈黙の後、ルカはセロへと向き直る。
「まあ、こうやって生活費を稼ぎながらランクを上げていけば、その内、否が応でも格上を相手にせざるを得ないさ」
それまでの我慢だと言い含めると、セロは渋々ながらも納得した様子で、そんな彼に笑い掛けながらルカは言った。
「戦い詰めで2人とも腹減ってるだろ。今日のところは俺はだいぶ稼げたし、飯は奢るよ!」
「いつものド・フツーか?」
「ああ!」
レストラン・ド・フツーは手軽なお値段でカロス料理を楽しめることで知られる、彼らの行きつけの店だ。
あそこは飽きたと言いたげなセロを引っ張り、自分の分は支払うというアイシアにはチームリーダーの顔を立ててくれと説き伏せながら、ルカは彼らを連れていつものように回復のためにポケモンセンターへと寄った後でレストランへと向かって行った。