Pocket Monsters Z-A étranger   作:ローロー仮面

11 / 13
10話

 メガエネルギーの奔流が収まった中心。そこに立つのは、もはやこれまでのゴルーグではなかった。

 

 巨体はさらに一回り膨れ上がり、全身の装甲の隙間から、制御を失ったエネルギーが青白いプラズマとなって噴き出している。

 特に胸の巨大な傷跡は、内部のエネルギー炉が露出したかのように眩く発光し、その熱量で周囲の石畳が赤く融解を始めていた。

 

「ただでさえあの化け物染みたゴルーグが……暴走メガシンカ!」

「ゴルーグだけではありません。周囲をよく見てください」

 

 制御装置の方からのFの忠告に、ルカは気付く。

 ゴーストタイプの一部、ゲンガーやジュペッタの群れが、いまだに滞留したメガエネルギーの影響を受けて暴走メガシンカしたことに。

 

 一匹や二匹では効かない。十、二十、パイプラインの死角に隠れている分を考えればそれ以上かもしれない。

 それらが一斉に暴れ出す。狙いはこの場で最も目立つメガエネルギーの貯蔵庫に向いていた。

 

「貯蔵庫が破壊されればカタコンベは崩壊します!」

 

 珍しく、Fが焦った様子で言った。その言葉にルカも冷や汗を見せる。

 そうなれば当然、自分達は生き埋めとなり、頭上のミアレシティも壊滅的な損害を受ける。

 

「暴走メガシンカしたゴーストポケモンはこちらで引き受けます。貴方はメガゴルーグをなんとか食い止めてください」

 

 Fのギャラドスがメガシンカし、メガゲンガーとメガジュペッタの群れを迎え撃つ。

 

 ルカは目の前で徐に貯蔵庫へと向かおうとするメガゴルーグをどうにかしなければと指示を出す。

 

「バルジーナ!“くろいまなざし”だ!」

 

 バルジーナから放たれた黒いオーラが直撃する。だが、ダメージはない。これは相手を逃げられない状態にする足止めの技だ。

 動いても不思議な力によって進まないメガゴルーグは、何かされたのを本能的に察して攻撃の対象をルカ達に移す。

 

(時間稼ぎの逃げに徹する……!それしか……!)

 

 メガシンカという決定打がない以上、それが最善だとルカは判断した。

 希望的観測だがFが暴走メガシンカしたゴーストポケモンは群れを鎮圧してこちらを援護してくれることを期待するしかない。

 

 だが、メガゴルーグの極大化された力による地揺れによってその考えは瓦解する。

 

(これは“じしん”……!?いや、この揺れはそれ以上だ……!)

 

 一瞬、ぐらりと揺れを感じると、ルカは咄嗟にギガイアスに“ヘビーボンバー”を指示して宙に逃した。

 その次の瞬間には、世界が揺れた。

 

 周囲が、カタコンベ全体が、その真上にあるミアレシティごと、まるで大きな手で丸ごと掴まれて、あらゆる方向へと揺らし回されてるように。

 

 ルカも、Fも、他の暴走メガシンカしたゴーストポケモンすらも、誰も揺れが収まるまで身動きが取れなかった。

 今攻撃されたらまずい、そう思った時には、既にメガゴルーグは拳を振りかぶっている姿が、正面に見えた。

 

 圧倒的な霊気を纏った拳が振り下される。強化された“シャドーパンチ”がルカとバルジーナを襲う。

 避けられない。そう思った瞬間に、宙にいたギガイアスが頭上からルカと技の間に立ち塞がる。

 

 凄まじいエネルギーとの衝突、そして均衡、霊気の迸りが収まったそこには仁王立ちのまま戦闘不能になったギガイアスの姿があった。

 

(ギガイアス……すまない、盾になって……)

 

 ギガイアスがボールに戻る。暴走メガシンカ状態のみの大技を放って、動きが鈍っているうちに状況を確認する。

 

 Fの方は驚異的な強さで暴走メガシンカしたゴーストポケモンを倒しているが、まだ半分以上残っている。

 バルジーナは“シャドーパンチ”の霊気に巻き込まれて戦闘不能寸前だ。無理をした代償による疲労は“はねやすめ”でも回復はしない。

 

 バルジーナが倒れれば、メガゴルーグは“くろまなざし”から解放されて、貯蔵庫を襲い、Fも他の暴走メガシンカを相手しながら防ぐことは不可能。

 

 メガゴルーグはルカが相手するしかないがバルジーナに無茶はさせられはしないし、バイバニラやシンボラーではメガゴルーグを押し留めることもまた不可能。

 

 残っているのは……

 

(ここは街じゃないし……いいよな……)

 

 自らに何かを言い訳するように、心の中で呟いた。

 

「頼むぞ、俺の“切り札”……」

 

 ルカの腰に提げられた5つ目のボールそこから現れたそのポケモンの名を、ルカは高らかに叫んだ。

 

「サザンドラ!」

 

 

 

***

 

 

 

 ボールが開いた瞬間、場が軋んだ。三つの頭を持つ黒き竜が、六つの翼を広げ、低く唸る。

 その姿が現れると、ルカの胸の奥がざわつき始める。

 

 空気が重く沈む中、メガゴルーグが腕を振り被ろうとした瞬間、サザンドラは嵐のように荒々しい咆哮をあげた。

 空間が震える。威圧されたかのようにメガゴルーグの動きがぴたりと止まった。

 

 異質な存在感を感じ、警戒しているのだろう。

 だが、傍目からはあの怪物のようなメガゴルーグが萎縮しているようにさえ見えた。

 

「“もろはのずつき”!」

 

 理性なき凶獣にすら思えたサザンドラだったが、ルカの発した指示通りに技を放った。

 轟音を響かせ、彗星のように弾かれたサザンドラの三つの頭がメガゴルーグへと衝突する。

 

 メガゴルーグの巨体を揺らす大技だが、タイプ相性は良くない。

 見た目ほどのダメージはなく、メガゴルーグは右腕を振り上げて冷気を溜めた。

 

「“ドラゴンダイブ”!」

 

 サザンドラの身体が一瞬にして宙に消えて、“れいとうパンチ”が空を切る。

 拳圧となって放たれた冷気がルカの真横を突き抜け、氷柱となって頬を浅く切り裂くが、彼は動じない。

 

 サザンドラがゴルーグの真上から強襲する。衝撃は床をヒビ入れさせ、周囲の空になったパイプに亀裂を生じさせた。

 

「噛み砕け!」

 

 上から組みついた状態のまま、サザンドラの三つ頭が首と両腕、それぞれに”かみくだく“。

 無尽蔵と思われた耐久に加えてメガエネルギーによって守られた筈のメガゴルーグが目に見えてダメージに悶えた。

 

「逃すなっ……そのまま食い破れ!サザンドラ!」

 

 気づけば、ルカの口の端に薄い笑みが浮かんでいた。トレーナーとともに凶暴性を増していくようにサザンドラもまた、発する圧を高めていく。

 だが、メガゴルーグもまた脅威的な剛腕でサザンドラの首の2つを締め上げると、そのまま起き上がり、”ストーンエッジ“で下から突き上げてサザンドラを引き剥がした。

 

(チッ……!流石に暴走メガシンカした奴の攻撃を受け続けたら、サザンドラの体力が保たねえ……!)

 

 トレーナーとしての冷静な部分が、長引かせれば不味いとルカに囁く。

 だが、大技を決めるには一瞬でもいいから隙が必要だ。

 

「バルジーナ!最後の力を振り絞れ!”ふきとばし”!」

 

 短期決戦に賭けるならもう”くろいまなざし“の効果は必要ない。戦闘不能直前で後ろに控えさせていたバルジーナに指示を出す。

 バルジーナはトレーナーであるルカの声に応え、無理やり身体を起こして最後の力を振り絞る。

 

 “ふきとばし”が、メガゴルーグの動きをほんの一瞬だが止めた。バルジーナは無理が祟り、そのまま戦闘不能となった。

 その瞬間に、ルカはいまだ滞留していたメガエネルギーをメガリングに取り込んだ。

 

「“りゅうせいぐん”!」

 

 一度だけだが、メガシンカした状態と同じ技を放てる技法、ワザプラス。

 ひとつひとつが膨大なエネルギーの塊である流星が、メガエネルギーの衣を貫き、メガゴルーグの身体を打ち据えた。

 

 轟音は、カタコンベ全体を揺らした。土煙が立ち上り、メガゴルーグの姿を覆う。

 暫しの沈黙の後、土煙の向こうにメガゴルーグの影が浮かんだ。

 

「“ドラゴ……っ!」

「もう決着は付いています」

 

 いつの間にか、側まで来ていたFが、指示を出すルカの腕を掴んだ。

 煙が晴れると、メガゴルーグの暴走メガシンカは解けて、元の姿へと戻っていった。

 

 サザンドラは敵がいなくなったことを理解すると、まるで何事もなかったかのように先程までの凶暴性はなりを潜め、静かにルカの近くまで降りてくる。

 

「随分荒っぽい戦い方でしたね。あなたが貯蔵庫を破壊してしまうのではと心配しました」

「……すみません」

 

 改めて見回すと、周囲の破壊痕は大半がサザンドラによるものだった。

 サザンドラとともに戦うと大抵はこうなる。ルカも引っ張られてより過激な戦術を用いる。

 

(バルジーナには無理をさせてしまった……しかし……)

 

 同時に、疑問が湧いた。単純な破壊力だけならサザンドラよりも暴走メガシンカしたメガゴルーグの方が上だった。

 

 あれだけの火力で暴れ回ったのだから、もっと破壊されていても、むしろカタコンベ自体は崩壊していてもおかしくなかった筈だ。

 

(暴走してなお、カタコンベの守護者として被害を抑えようともがいていたのか?)

 

 バルジーナとサザンドラをボールに戻して、元の状態に戻ったゴルーグへと近づいた。

 前回のメガヤミラミやFが倒した暴走メガシンカしたゴーストポケモンの群れは、鎮圧後にもすぐに起き上がっていた。

 しかし、ゴルーグは倒れた状態のまま動こうとしない。

 

「おそらくは、私がパイプラインを封鎖し、メガエネルギーの貯蔵が行われなくなったことで、役割を終えたのでしょう」

「そうなると、ゴルーグはどうなるのですか?」

「役目を終えた者は朽ち行くのみ。誰かが新たな役割を与えない限りは」

 

 何百年と地下を守り続け、最後には自ら暴走してその場所を破壊しかけて役割を終える。

 それは、酷く寂しい話だとルカには思えた。

 

 徐に、ルカは空のモンスターボールを取り出した。ボールをゴルーグに投げると、数回揺れて、カチッという音とともに止まった。

 

「捕まえたのですか」

「このまま、放っておくことはできませんでしたから」

 

 ゴルーグがいた場所に何かチカチカと光る物が見えた。

 拾い上げるとそれはビー玉のような球状で、内部には遺伝子のような模様が浮かんでいた。

 

 ルカはそれが何か知っていた。メガシンカに欠かせないキーアイテムのひとつ、メガストーンだ。

 何故そんな物がとルカは疑問に思うが、その答えはFが知っていた。

 

「暴走メガシンカの鎮圧後、そのポケモンのメガエネルギーが結晶となり、メガストーンが発生したのでしょう。それはメガゴルーグのメガストーンです」

 

 つまり、これがあればメガシンカの条件は揃ったということだ。あとはルカとゴルーグ同士の問題、それだけだ。

 あまりにも出来すぎたお膳立てだが、今は素直に受け入れることにした。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。