Pocket Monsters Z-A étranger 作:ローロー仮面
ミアレに来て以来、ずっと生活の拠点としているジョーヌ地区の安宿から出たルカは、既に染みついた仕草で腰のボールから連れ歩く形でポケモンを取り出した。
現れたのはバイバニラ。冷気を纏った氷タイプのポケモン。ふわりと浮かんで、冷気の粒をぱらぱらと落とす。
こうやってポケモンを連れ立って歩くのは、近年野生ポケモンの街中での発生が顕著なミアレでは、身を守る観点から当然と言ってもいい。
何せ、街中で彼らの生息地として指定されるワイルドゾーンが設置される程だ。
「少し出歩くだけでもいつも出て来てもらって悪いな」
シンボラーや他のポケモンでは街では目立つので、大抵連れ立つのはミアレシティでも珍しくないバイバニラだ。
ルカはひんやりとした手触りを気にせずにバイバニラを撫でると、バイバニラは涼しい風を吹かせて返事をした。
白い霧が髪をくしゃっと濡らす。
「あ、おい、出かけに髪を乱さないでくれよ」
バイバニラは悪びれもせず、くすくす笑うように低く鳴いた。
そのまま少し歩き、ノースサイドストリートを通って近場のバトルコートまでやって来ると、ルカは待っていたセロを見つけて声を掛けた。
「早いね。言ってくれれば時間を合わせたのに」
「合わせる必要はないだろ」
あっさりと言い捨てられ、ルカは苦笑いを浮かべる。チームを組んでいるが、彼らはZAロワイヤルに参加する時以外は互いに自由に行動している。
(普段は住み込んでる工務店で朝に働いてるから早いのは当然か)
まだランクの低い彼では、ルカの様にZAロワイヤルの賞金だけでは滞在出来ない。
そのため、ベール地区にあるラシーヌ工務店で彼は住み込みで働かせてもらっているわけだ。
「……呼んだのは俺だ。先に来ておくのは当然だろう」
「意外と律儀だね。まあ、それじゃあ本題に入ろうか」
そう言うと、セロはボールから1匹のポケモンをバトルコート上に繰り出す。現れたのは凶暴ポケモン、ギャラドス。
「なるほど、育てるのはそれにしたわけか」
セロはパートナーのルカリオ以外にちゃんと育てたポケモンを連れてはいなかった。
それでも十分に通用する程にルカリオは育て上げられていたが、それだけではロワイヤル形式のバトルゾーンで戦い続けるのは難しい。
そのために、追加で2体は育てた方が良いとルカがアドバイスを送っていた。
彼自身、バトルゾーンでの戦闘は連戦なので、一匹に負担が集中する厳しさを痛感していたのか、アドバイスを聞き入れて新たに育て始めたわけだ。
「ルカリオの苦手な炎や地面、格闘にも強い。良い選択だと思うよ。ただ、ギャラドスは扱いの難しいポケモンだ」
「扱えないかは試してみればわかる」
この日、彼がこの場にルカを呼んだ目的はバトルゾーンでの実戦の前に新たな戦力を試すためだ。
ルカはバイバニラに視線で合図を送ると、バイバニラは意を汲んでバトルコートの中でギャラドスと向かい合った。
「そいつでいいのか?」
「他の手持ちは目立つしね。こいつ以上の適任はいないよ」
その言葉に一応は納得したのだろう。セロはバトルへと意識を切り替えた。
2人と2匹の間に、実戦さながらの緊張感が走る。すぐには動かないセロ側に対して、ルカは先に攻撃を仕掛けた。
「“れいとうビーム”」
冷気の収束を見て、セロ側も動いた。
「“とびはねる”」
ギャラドスが視界外へと大きく飛び上がり、標的を見失った“れいとうビーム”が空を切る。
“とびはねる”はしばらくして急降下による攻撃を仕掛ける技だ。その間を利用してルカは新たな指示を出した。
“てっぺき”、ぼうぎょを上げるその技で、攻撃を受ける準備をして待ち受ける。
次の瞬間にはギャラドスの巨体がバイバニラへとのしかかった。バトルコート中に衝撃が広がり、守りを固めたバイバニラへのダメージは薄い。
「ダメージは……薄いか。ならば、“ストーンエッジ”!」
「退くぞ!バイバニラ!」
間一髪で、バイバニラは“ストーンエッジ”の射程から逃れる。
ルカもバトルコートを走り出し、ギャラドスから距離を取るバイバニラに指示を出しやすい位置を確保する。
再び、冷気が収束して、“れいとうビーム”が今度はギャラドスを捉える。
効果が普通とはいえ、小さくないダメージを負いながらも、相手が足を止めた隙を狙って、今度はセロ側が仕掛けた。
「“たきのぼり”で一気に詰めろ!」
噴き出す水流とともに今度は正面からギャラドスがバイバニラへと迫る。
そのまままともにぶつかった衝撃で、一瞬だがバイバニラが怯んだところを更に畳み掛ける。
「もう一度、“ストーンエッジ”!」
今度こそ、隆起した岩がバイバニラへと突き刺さる。氷タイプには効果抜群の一撃だが、“てっぺき”の効果が持続したバイバニラを仕留め切れるほどではなかった。
尚も攻め立てようとするセロとギャラドスに対して、ルカは2匹が密着した状態のまま技の指示を出した。
冷気が、バイバニラを起点に周囲へと広がった。次の瞬間、ギャラドスの巨体が崩れ落ちる。
衝撃とともに、一帯へと乾ききった冷風が吹き荒れた。
「……“フリーズドライ”か」
戦闘不能になったギャラドスをボールに戻しながら、セロが呟くように言った。
“フリーズドライ”は水タイプに効果抜群となる特性を持った氷技だ。特に水飛行タイプのギャラドスには絶大な効果を発揮する。
「ギャラドスを扱う上では警戒すべき技のひとつだね。けど、ギャラドスとはよく息が合っていたよ。“ストーンエッジ”が急所に当たっていれば結果は逆になっていた」
“ストーンエッジ”は急所に当たりやすく、急所ならば“てっぺき”のステータス上昇を無視して大ダメージを与えられていた。
そうなれば確実にバイバニラも戦闘不能を逃れられなかっただろう。
「よく言う。そもそも“とびはねる”を受けたタイミングで“フリーズドライ”を使っていれば、その時点で決着は着いていただろう」
図星を突かれて、ルカは誤魔化すように苦笑いを浮かべながら頬を掻いた。
元々、ギャラドスがバトルゾーンで通用するか確かめるためのバトルだったとはいえ、途中で手心を加えていたのは事実だ。
かといって、露骨に対策していたのに勝ち誇るのも情けない。
「まあ、おかげで目的は果たせた。感謝はしておく」
それだけ言って、セロはその場を去ろうとする。
ルカが飯でも食べに行かないかと声を掛けたが、住み込み先で用意されてるとあっさりと断られ、その場へと置いてけぼりにされてしまった。