Pocket Monsters Z-A étranger 作:ローロー仮面
ミアレ中央のメディオプラザ、現在は改装中で中には入れないがミアレ随一のランドマークであるプリズムタワーを望める一等地。
そのタワー近辺にフードトラックでコーヒー等を提供しているヌーヴォカフェで、ルカはアイシアと待ち合わせをしていた。
「はい、いつものもえつきロースト!それとその他の軽食ね!」
ぞんざいな言葉遣いとともに、頼んでいた深煎りのコーヒーと、いくつかのライトミールが運ばれてきた。
パートナーのポケモン達の食事を優先して、自身の朝食を抜いていたルカは、肉と野菜が挟まれたクロワッサンに適当にケチャップをぶっかけ、そのまま口に突っ込んだ。
咀嚼をしながらコーヒーに角砂糖をボトボトと加えて混ぜ込むと、一気に飲み込んだ。強い苦味と、それに負けない程の甘味が口一杯に広がる。
「おいおい、毎回そんな飲み方ばっかしてたら身体壊しちまうぞ」
とてもではないが店員とは思えない横柄な口調ながら、コーヒーを運んできた店員の女性が呆れた様子で、しかし身を案じるように言った。
「朝はこれくらい強い味の方が目が覚めるんだ」
「だからって何にでも限度ってもんがあんだろ。軽食だって肉系ばっかで、サービスで野菜を増量してやってんだぞ」
「お気遣い感謝しているよ」
サービス料のチップとして、一番大きな額の硬貨を指で弾いて店員へと渡した。
そのまま既に頼んでいた二杯目のコーヒーを、今度はゆっくりと飲んでいると、ちょうど飲み終わる頃にアイシアがやってきた。
***
ルージュ1番地と4番地の境目辺りに位置する市場。普段から露天が並ぶその場所で、ルカとアイシアは週末のバトルゾーンでの長期のバトルに備えて回復アイテムなどの補充をしていた。
今日はブロカントの日、普段のきのみやミントの露天などに加えて、古道具の出店なども並び、人が所狭しと市場に詰まっていた。
逸れないようにお互いの位置を確認し合いながら、ルカとアイシアは必要な道具の買い出しと、何かバトルに役立つ物でも売ってないかと出店を物色していた。
アイシアが周囲の喧騒に掻き消されないように珍しく声を上げるように言った。
「ミアレガレットは2ダース程でよかったでしょうか!?」
「ああ!余っても次の週末までには傷んでしまうしね!」
銘菓ミアレガレットには、ポケモンの状態異常を治す作用があり、こういった出店で安売りしている時に買い込むトレーナーは珍しくない。
バトルゾーンでは継続的に戦闘を続けるために戦闘後でも状態異常を回復させるのは重要性は高い。
それでも24個もあれば少しは余りが出るが、その場合は食べたいポケモンにでもあげればいい。
(きのみとか予定の物は大体揃えたし、後は何か使えそうな物でもないか見てみるか…)
雑多な古道具の中から、役に立ちそうなものを見つけ出すのは難しそうだった。
一部のポケモンと関係ありそうな骨董品や、ポケモンのものかもしれない化石などもあったが、今のルカ達には必要無い物だ。
掘り出し物を見つけようと欲をかいて散財するのも馬鹿らしいと、諦めようとしたところで、ある物が目を惹いた。
ルカの知識が確かなら、これはアイシアのパートナーである一匹に関係する物だ。
「すみません!これって……!」
「そいつなら!隣に置いてるガラクタと合わせて値札の通りだよ!」
「なっ……!」
値札を見ると合わせて結構な値段が付いている。
抱き合わせ商法かよ!?と突っ込みたくなったが、規制の範疇と言えるかは微妙なところだった。
(払えない額じゃないが……)
ちらりとアイシアの方に視線を向けるが、気付かない内に声が届かないくらいに遠くの方へと人混みに流されてしまっていた。
このままでは彼女とはぐれかねない。
仕方ないと値札の通りに支払って、買った物は他の荷物と同じ袋に突っ込むと慌ててアイシアの方へと向かった。
(なんだ……向こうは妙に騒ついてるな)
人混みを掻き分けて進む度に、騒ぐような声と周囲の混乱が増していく。
人が固まってこれ以上は進めなくなったところで、奥の方に視線を向けると、その原因が判明した。
ピジョットだ、街中でよく見かけるポッポやヤヤコマとは異なる巨躯。
通常種のピジョットとも比べられない、おそらくはあれはオヤブンと呼ばれる個体だ。
人混みにぽっかりと穴が空いたその中心にはオヤブンピジョットと、倒れて気絶したトレーナー、そして彼のパートナーと思われるハクリューだ。
おそらくトレーナーはあのピジョットと遭遇して屋上から落ちてきたのだろう。
ロトムスマホの安全機能で落下による怪我はないが、攻撃を受けて意識を失った。
(不味いな……)
自らのパートナーを守るために立ち塞がっているハクリューも既に満身創痍だ。
ピジョットはトレーナーを気絶させても戦意を失っていない。
このままでは人混みに阻まれて近づけそうもない、そう考えていると囲いの先頭からアイシアが飛び出した。
「メタング!お願い!」
ボールから飛び出したメタングが、ピジョットを庇うように前に出た。
その間に彼女は倒れたトレーナーを担ごうとするが、体格差から手間取っている。
「駄目だ!トレーナーが狙われている!」
ルカの叫びにアイシアはピジョットがメタングを無視してこちらを狙っていることに気がついた。
咄嗟にルカは人混みの隙間を縫ってボールを投げると、ほとんど賭けだったが上手くボールは技を放とうとするピジョットとアイシアの間まで通った。
現れたのはギガイアス。ピジョットの“ブレイブバード”を正面から受け止める。
周囲を震わせる程の衝撃が伝わってくるが、200kgを優に超え、四つ足でどっしりと構えたギガイアスは難なく踏み留まる。
(反撃……!いや、ギガイアスの技じゃ周囲や、何よりも後ろの2人を巻き込んでしまう!)
早めに倒れているトレーナーを介抱したいが、このままでは反撃もままならない。
他にあの状況で受け止めれる選択肢がなかったためにギガイアスを出すしかなかったが、次に繋がらない状況になってしまった。
ギガイアスが何とかピジョットを2人の方に行かせないように防いでくれているが、相手は頭上を抜けれることを考慮すれば長くは持たないかもしれない。
手をこまねいていた時、ルカからは反対側の人混みの更に奥から、周囲の喧騒を掻き消す程の大声が響いた。
「自分にお任せください!パワーが道無き道を切り開く時!」
叫ぶと共に、道着を纏った巨体が宙を舞った。
人混みに落ちる前に壁を蹴り上がり、繰り返し宙を駆け抜けて、人壁の囲いの中へと降り立った。
彼の姿に誰もが、アイシアやピジョットすらも呆気を取られた。人混みの誰かが彼の名を呼ぶ。
「あれは……ジャスティス会のシロー!」
ルカも知った名前だった。ZAロワイヤルの有力ランカーでもあるが、彼が率いるジャスティスの会と理念も含めて色々な意味で有名な人物だ。
顔だけなら美男子といった感じだが、それ以上に目を引くのはただでさえの長身と鍛え抜かれた肉体とのギャップだ。
「ピジョットよ!何があったかは分かりませんが、一度治まりなさい!でなければ、少々手荒なことになりますよ!」
当然、彼の言葉に応じるでもなくピジョットは再びアイシアへと狙いを向ける。
「やむを得ませんね!」
シローが自身のパートナーの入ったボールを取り出すが、既にピジョットは技を放とうとしている。
このままではシローがボールからポケモンを出すよりも早くアイシアが攻撃されるとルカは焦った。
(このままじゃ……いや、これは……!?)
巨体に似合わぬ俊敏さで、シローはピジョットの目前に入り込むと、“つばさでうつ”攻撃を素手で止めた。
そして動く前に投げていたボールから遅れてタイレーツが姿を現すとすぐさま攻撃に転じた。
「“インファイト”!」
守りを放棄した連撃がピジョットへと襲い掛かる。
ピジョットの並外れた巨躯が吹き飛び、そのまま人混みの奥の露店へと墜落した。
「よし!よくやりましたよタイレーツ!」
シローがタイレーツを労い、ピジョットの墜落した先に向かうと、人混みはそこだけ割れて、奥には“ひんし”状態のピジョットが見えたがすぐに煙のように消えた。
ポケモンは“ひんし”になれば本能で小さくなって姿を隠す。ポケットモンスターと呼ばれる所以だ。
場に安堵感が広がると、奥の人混みからシローのものと同じ道着を着た女性達がやってきた。
「シローさまお疲れ様です!お怪我はありませんか?」
「自分は問題ありません。それより倒れている彼を介抱してあげてください」
シローが倒れたトレーナーに視線を向けると、道着を着た金髪の少女はそちらへと向かい、他の女性達は運び出すために道を開けてもらうための周囲の誘導へと移った。
そうなってようやく人壁が崩れてだし、ルカはアイシアの方へと向かった。
既に倒れていたトレーナーは運ばれ、その場には先程のシローとギガイアスだけが他に居た。
隣にいるギガイアスを労った後でボールに戻して彼女へと話しかける。
「君は怪我はないな。しかし、随分と無茶をしたね」
「ご心配をお掛けしてすみません」
「まあ、無事で何よりだ。シローさんにも彼女を助けてもらって感謝するよ」
「シローで結構です。それに彼女が間に入っていなければあのトレーナーはもっと大怪我を負っていたかもしれない。全力で走って向かってきましたが出遅れてしまい、自分は修行不足を痛感する限りです」
慰めの言葉かと思ったが本気で口惜しげな様子に、ルカとアイシアも苦笑いを浮かべた。
「それに、自分達は強くなることでポケモン達とも共存することを目標としています。襲われた彼には悪いですが、結果として今日はそれを形で示す良い機会にもなりました」
人々が強くなることでポケモン達と垣根無しでも共存可能にするというのがジャスティスの会の理念だと聞いたことはあったが、本当に言ってるのかとルカは少々驚いた。
突拍子もない理屈だが、確かに今日この場に居た人達の間でのジャスティス会とその理念への印象は良くなっただろう。
それでその理念に共感までするかは別としてだが。
シローが彼の仲間達の元へと向かうと、ルカもアイシアとともに今日は帰路に着いた。
アイシアはまだ少し俯いていて、2人の間には沈黙が続いていた。ルカも何も言い出せずにいると、アイシアの方から口を開いた。
「結局、ルカさんとジャスティスの会のシローさんに助けられて迷惑をかけてしまいました。ごめんなさい」
「正直、らしくない無茶だったと思うよ。助けるにしてもまずはピジョットを対処してからにすべきだったし、君ならそれぐらい判断できたのでは?」
「……あの時は、恐怖であまり冷静になれていませんでした。飛び込んだのも
少し言い方が引っ掛かったが、ルカはあえては追求しないことにした。
あまり叱るつもりもなかったので、とりなすようにルカは言う。
「まあ、シローが言ってたように、おかげであのトレーナーも大怪我せずに済んだのだから。それに場数を踏めば落ち着いた判断は出来るようになるよ」
それと、と言ってルカは荷物を探ると中に入っていた先程のブロカントで買った物を取り出した。
アイシアがそれをマジマジと見つめると呟いた。
「これは……“イワイノヨロイ”ですよね?どうしてこれを……」
「さっきの市場で見つけてね。確か君がオレンジアカデミーに居た頃からのパートナーの為に欲しがっていただろう」
彼女の出身であるパルデアのあるポケモンを進化させるためのアイテム、それが“イワイノヨロイ”だ。
少し遠慮した様子のアイシアの態度に、ルカは続ける。
「もしかして違ったの買ってた?」
「い、いえ。私が欲しかったのはこちらであっています。ただ……」
もしかしてもう一つの進化アイテムである“ノロイノヨロイ”の方だったかと、一瞬ルカは取り違いを懸念したが、そうではなかった。
ならば、単純に遠慮してるのだろうと考え、ルカは勧める言い方を変えてみることにした。
「……ジャスティスの会の理念じゃないけど、君のポケモンが強くなればさっきのような状況にも安全に対応出来る。それに、ZAロワイヤルでだってポイントを稼ぎやすくなって俺たちも助かる。勿論、進化させたくないなら無理にとは言わないよ」
「……いえ、いただきます」
悩んだ様子だったが、意を決したようにルカから受け取ると、彼女はいくらでしたかと財布を開こうとしていた。
慌ててルカは大したことなかったからと言っても聞かなかったので、目の前に彼女の泊まっている寮が見えたのをいいことに、それじゃあと逃げるようにその場を後にした。
(流石に勝手に買ったのに学生に料金支払わせるのはな。けど、出費はまあ痛かったよなあ……)
宿泊先まで走りながら、ルカは内心で強がるべきじゃなかったかとも後悔も過ったが、まあ少しだけ戦えば今週分も足は出ないと、日暮れになって発生したバトルゾーンへと少しだけ寄ろうと足先を変えることにした。