Pocket Monsters Z-A étranger 作:ローロー仮面
冷たい夜風に吹かれながら、ルカはポケモンセンターから普段の宿へと帰路に着いていた。
昼間のブロカントの後、1人で少しバトルゾーンで戦い、これで今週も足は出ないだろうと思える程度には賞金メダルを集められた。
夜なら人目を惹いても多少はいいだろうと、今はシンボラーを連れ歩いている。
先程までのバトルも楽しかったようで、シンボラーは上機嫌に身体を揺らしながら宙を浮かんでいた。
そのままルカよりも前を進んで、ゆらゆらと脇道の方へと進んでいく。
「あ、そっちは違うぞ」
聞く耳持たずで、シンボラーはどんどん移動していく。
まあ、バトルを早めに切り上げたからまだ散歩する時間はあるかと、ルカはボールに戻さずそのまま追うことにした。
シンボラーはまたふらふら横道に逸れたかと思えば高度を上げて空へと向かっていく。
どうしたもんかと見上げてると、建物の壁に屋上へと繋がる梯子を見つけた。
(登れってことか。……梯子じゃなくホロベーター見つけてほしかったな)
仕方ないと急いで梯子を登ると、既にシンボラーは先の方に行ってしまっていた。
見失う前に走らねばと、ルカは真夜中の屋上パルクールを余儀なくされる。
屋根を登り、中途半端に他の屋上に繋がった鉄骨を走り抜け、建物と建物の間を、浮かぶスマホロトムに捕まって滑空しながら飛んだ。
飛んだ先の屋上でシンボラーは滞空し、何かと対峙している。
野生のポケモンかと思って見てみると、それは見たことのない四足の黒いポケモンだった。
ただの野生、にしては異質な雰囲気だ。そのポケモンが視線をルカへと向けると、彼はびくりと身を震わせた。
(なんだ……今、周囲から一斉に視線を浴びせられたような……)
そのポケモンは小柄な体格とは不釣り合いな程の存在感を放ちながら、ルカの方へと歩み寄って来る。
シンボラーはそれを敵意と判断したのか、翼を広げて次の瞬間には“エアスラッシュ”を放った。
「お、おい!待て!」
野生ポケモン相手とはいえ、指示を待たずに技を使って攻撃したことに、ルカは思わず静止の声を上げた。
“エアスラッシュ”が命中する寸前、黒いポケモンの身体が一瞬ぶれたかと思うと、次の瞬間には幻であったかのように消え失せた。
(“テレポート”……いや、“しんそく”なんかの技による高速での移動か?)
考えていると、シンボラーがルカの近くまで戻ってきた。
先程の静止に、勝手なことをしてしまったかと、このシンボラーの性格としては珍しく殊勝な様子で小さく鳴いた。
「いや……危険性の分からないポケモンが近付いて来ていたんだ。さっきのは無防備だった俺が悪い」
そう言ってシンボラーを撫でてやると、納得したのかいつもの間隔まで距離を離した。
もうさっきのポケモンの気配は何処にも感じられず、静寂が屋上を包む。
「あれは一体……」
「ジガルデ、そう呼ばれるポケモンですよ」
背後から人の声がして、ルカは振り向くとそこには、いつから居たのか白髪の大男の姿があった。
「あなたは……?」
そのくたびれた服装と気力の感じられない様子に浮浪者の類い方と思ったが、それは今のミアレでは考え難かった。
野生ポケモンの増加が進む今のミアレでは、その危険性からか最近では浮浪者など見なくなって久しいと聞く。
それに5年前からの人口流出の影響で空き家も少なくないので、市役所を頼れば住む場所くらいは簡単に見つけられる筈だ。
何よりも、男からは常人とは一線を画す得体の知れなさも感じられた。
「私、ですか。……一体何者なのでしょうね?今はただFと名乗っています」
どうにも要点を得ない回答だったが、誤魔化しているわけでも、巫山戯ているようにも思えなかった。
Fと名乗ったその男は、屋上の縁まで進むと、そこからある地点を指差した。
「ジガルデはあれを見に来ていたようです」
訝しみながらも、ルカは近付いてその指が刺す先を見ると、1匹のポケモンと、それに3人がかりで挑む少年と少女達の姿があった。
少年少女達の側にはライボルト、ヒトデマン、ズルッグ、対して1匹のポケモンはメガチャーレム。
「なんだ、あのチャーレム!?野生……じゃないのか……!?」
メガシンカはキーストーンとメガストーンというアイテムを介してトレーナーとの絆によって引き出される力、それがこの世界の通説だ。
だが、メガチャーレムにはパートナーとなるトレーナーが見当たらず、指示を受けずにただ暴れているように見えた。
「暴走メガシンカ……そう呼ばれている現象だそうです」
「暴走……」
Fと名乗る男が言うには、メガエネルギーの影響を受けた野生ポケモンがメガシンカして暴走した状態だという。
暴走メガシンカしたポケモンは自らの意思をコントロール出来ず、苦しみながら暴れているそうだ。
「暴走を鎮める手段は何か?」
「ポケモンバトルで勝利する。単純ですが、普通のポケモンでは難しい」
戦いは、メガエネルギーとやらの影響でダメージが通り難く苦戦していたが、少女が連れていたライボルトがメガシンカすることで鎮圧に成功していた。
Fが言うにはメガシンカ状態での攻撃やメガエネルギーを使った技は効くらしい。
少年少女達はパートナーのポケモンとともに疲れ果てた様子でその場に座り込んでいた。
鎮圧されたチャーレムも苦しみから解放されている様子に、ルカはほっと息を吐く。
暴走メガシンカを対処した彼女らは、そしてFは何者なのか、ルカはF本人に問おうとする。
「Fさん、でいいのかな?あなたは……」
「待ってください。……どうやら、ジガルデがこの場に来たのはあれだけが目的ではなかったようです」
かさりと、ルカ達の背後で小さな物音がした。
振り返ると夜の闇に紛れ、赤い宝石の光だけがぼうっと浮かび上がっていた。
「あれは……ヤミラミか?」
眼を凝らすと、徐々にその輪郭が見て取れ、あれはヤミラミだとの確証を得た。
だが様子がおかしい。身体をマリオネット人形の様にカクカクと震わせて、赤い宝石はむしろその輝きを強めている。
それを見て、Fは言った。
「なるほど、メガエネルギーが宝石へと集中しています。おそらくは計器では感知出来ない暴走。だからジガルデは……」
自分だけ納得した様子でFは呟くが、ルカはそれを気にしている余裕など無かった。
彼の目の前で、ヤミラミの宝石の輝きが臨界に達し、その全身を包むと次の瞬間には巨大化した宝石を抱え、その姿を変じていた。
「メガヤミラミ……」
「気をつけてください。来ますよ……!」
先程聞いたばかりの暴走メガシンカ。それを目の当たりにして呆然としていたルカをFが現実に引き戻す。
正気に戻ったルカは目の前のメガヤミラミの強烈な敵意を感じて、シンボラーとともに身構えた。