Pocket Monsters Z-A étranger 作:ローロー仮面
「お願いします。ドンカラス」
暴走メガシンカしたメガヤミラミを前に、Fもまたポケモンをボールから繰り出した。
そのドンカラスはルカには一眼で分かる程、鍛え抜かれた歴戦のポケモンだった。
(只者じゃないとは思ってたけど……まるでリーグトップレベルの強者だ)
ルカよりトレーナーとして格上の風格に、改めて何者なのか気になったが、今はそんな状況ではない。
暴走したメガヤミラミを前に、ルカとFは鎮圧のために攻撃を仕掛けた。
シンボラーの“エアスラッシュ”とドンカラスの“あくのはどう”が、メガヤミラミへと襲いかかる。
直撃したがダメージは薄い。やはり、暴走メガシンカした相手に普通の攻撃は通じにくい様だ。
(かといって、俺はメガシンカは使えない……)
Fの方はどうだろうかと一瞬意識を逸らした瞬間、メガヤミラミの姿が暗闇に溶けるように消えてしまった。
「逃げた!?……いや!」
屋上を取り巻く殺気だった気配は衰えていない。むしろより濃度を増しているとさえ感じられた。
何処から仕掛けて来るかは分からない。ルカは守りの手段を講じることにした。
「シンボラー、“リフレクター”」
シンボラーは物理攻撃のダメージを減じる障壁を自身の周囲へと展開する。
ヤミラミとは相性が悪いが、これなら多少の攻撃は大丈夫だろうと考えていたその時、背中にFの手が叩きつけられるようにして前に押し出された。
何を……!?、そう口に出そうとしたその時、背後でメガヤミラミの“シャドークロー”がFの腕を切り裂いた。
血が飛び散った音が、足元でしたことにルカは焦りを見せる。
「Fさんっ!?」
「私のことよりも、また姿を消す前に攻撃を!ドンカラス、“ブレイブバード”!」
「……っ!シンボラー!“エアスラッシュ”!」
シンボラーの”エアスラッシュ“がメガヤミラミの動きを一瞬怯ませ、ドンカラスの大技が追撃する。
少なくないダメージに今度こそよろめくが、メガヤミラミは抱えていた巨大な宝石を掲げると、光が内部で乱反射して増幅されていく。
「いけない……!避けてください!」
そう言いながらも自らは動きの鈍ったFを、ルカは咄嗟に覆い被さるようにぶつかって床に伏せさせた。
「シンボラー、”ひかりのかべ”!」
特殊技と判断して、今度はその威力を減じさせる防壁を展開させた。その次の瞬間には、宝石で増幅された光が閃光となって周囲へと放たれる。
それは床に伏せたルカとFの頭上スレスレを通過していった。
ひとつがシンボラーへと突き刺さり、何とか持ち堪えるが続けてふたつ、みっつと受けてシンボラーは戦闘不能となる。
ドンカラスも”まもる“で受けたが、多重の光線を防ぎきれずにそのまま倒れた。
(今の攻撃は……)
おそらくは“パワージェム”、だが通常ではあり得ない手数と威力だ。
姿の消し方といい、暴走メガシンカ状態では技や能力も通常とは全然違う形で使うことができるようだ。
また、メガヤミラミが暗闇の中に姿を消し去る。だが消える直前にさっきの技で消耗していた様子だった。
あれならすぐには攻めて来ないだろう。
ルカはシンボラーを戻し、他のポケモンが入ったボールに触れながら一旦、次の手を考える。
(街中だが
そのための算段ならある。
触れているボールから指を別のボールに移し、Fへと問う。
「Fさん……あなたのポケモンに暴走メガシンカへの有効打は?」
「それならひとつあります」
「なら、俺を信じて準備していてください」
ルカが繰り出したポケモンはギガイアス。そして、ギガイアスが姿を現すと同時に、砂嵐が周囲へと巻き起こる。
ミアレシティ内では都市再開発への悪影響の懸念から、現在は天候へと影響するポケモンの技や能力は使用を禁じられているが、今はそうは言っていられない。
(この砂嵐の中でなら、闇に紛れたところでメガヤミラミを捉えられる!)
常人では目を開けるのも難しいが、イッシュの砂漠地帯で育ったルカにはなんともない。
むしろ五感が研ぎ澄まされて、周囲一帯の状況まで感じ取れるかのようだった。
「なるほど、後は君を信じましょう」
ルカの狙いを理解したFは、ギャラドスを繰り出し、懐からキーストーンを飾った指輪を取り出した。
メガエネルギーが、トレーナーとの絆によってコントロールされた形でギャラドスへと宿る。
(向こうは準備できたみたいだな)
Fの方からメガシンカの気配を感じ取って、ルカは意識をメガヤミラミの索敵に集中させる。
砂粒が身を打つ音、そして視界の中で一瞬だけ砂が途切れた空間を見逃さなかった。
「”ステルスロック”!」
ルカの指示した先に、ギガイアスは石礫を撃ち出すとそれは滞空して、囲われ逃げ場を無くしたメガヤミラミの姿を浮かび上がらせる。
続け様に、ギガイアスの“ストーンエッジ”がメガヤミラミを襲い、その身体を押し上げた。
「今だ!」
「ギャラドス!“たきのぼり”です!」
メガギャラドスは自ら噴き出す水流で加速し、驚くべき速さで宙を舞ったメガヤミラミへとぶち当たる。
決定的な一打を受け、メガヤミラミにまとわりつくエネルギーが吹き飛ぶように霧散した。
「終わった……のか?」
「そのようですね」
砂嵐が収まり、月明かりに照らし出された屋上には、メガシンカの解除されたヤミラミがポツンと倒れていた。
小さくなっていないということは戦闘不能になったわけではないようだが、敵意はもう感じられなかった。
まだ控えのポケモンも残っているが、トレーナーを直接狙ってくる関係上、長引かせれば危うかった。
ルカが肩の荷が降りた様子で一息を吐いていると、Fは何やら思案するように呟いた。
「思っていた以上に事態の進行が早い……ジガルデが万全となるまで街が持つか……」
「あなたはこの現象を止める方法を知っているので?」
ルカの問いにFは、首を横に振った。
「かつての私ならば、あるいは。今の私に言えることは、プリズムタワーと地下に内蔵されたメガエネルギーに原因があるということだけです」
何とも得心を得ない回答だが、Fの言葉に改装中のプリズムタワーへとルカは視線を向けた。
あれは現在、ミアレの再開発を委託されたクエーサー社によって改装されている。
(クエーサー社が何か関係しているのか?)
安易だが、クエーサー社が何も知らないとも思えなかった。
もしかしたら先程メガチャーレムを相手していた少年少女たちとも関わりがあるのかもしれない。
最も、目の前にいるあからさまな偽名の男Fの、曖昧な言い分をそのまま信じるならばだが。
ルカは改めてFへと視線を向けると、彼は背を向けてこの場を去ろうとしていた。
「助力に感謝いたします。ジガルデの導きによってはまたお会いすることもあるでしょう」
それだけ言って、Fは夜の闇に消えていった。その腕から流れ落ちた血の跡を、足跡のように残しながら。
まだ聞くべきこともあったかもしれないが、ルカも疲れで考えもまとまらず、それを見送るしかなかった。
「とりあえず……これどうするかな」
砂まみれになった屋上を前に、嘆息を吐く。
忙しい1日に疲れ切ったルカは、後始末は明日でいいかともう一度ポケモンセンターに寄ったら帰ってもう寝ることを決めた。