Pocket Monsters Z-A étranger 作:ローロー仮面
ミアレシティ北西、13番道路と繋がるゲートを抜けて街に戻ったルカはふうっとひと息をついた。
荒野の砂埃での汚れを落とすため宿へと向かおうとすると、作業服を着たセロの姿を見つける。
住み込みで働いているラシーヌ工務店の仕事をしていたのだろう。
今は休憩時間のようなので、ルカは邪魔にならない程度に挨拶に近付いた。
「やあ、今日は工務店の仕事だったのか。ZAロワイヤルだってあるのに感心するよ」
「……手伝い程度で仕事って程じゃない。あんたはまた外でのトレーニングか」
「俺の仲間はミアレだと珍しいのも多くて、トレーニングも目立つからね」
「……何か見せたくないものでもあるのか?」
見透かすような視線に、一瞬ルカは視線を逸らす。だが、セロはまあいいとばかりに被りを振った。
「手の内を隠したいのかは知らないが、好きにすればいい。やり方は好きじゃないが、あんたの手腕は信用している」
「……」
隠したいことがあるわけではないのだが、言ってもややこしい話なのでルカは言葉に詰まった。
これ以上は休憩の邪魔になるかと「それじゃあ」とだけ言ってその場を去ろうとしたところで、先にセロの背後から声が響いた。
「なんじゃ、セロ。あんたの友人か」
腰の曲がった背の低い老人。だが、その声は衰えを感じさせない精力に満ちていた。
大量の白い髭が目を引くその人物について、ルカには見覚えがあった。街一帯の建築を担っているラシーヌ工務店の店主タラゴンだ。
「友人……とは違う。所属してるチームのリーダーだ」
「ほう、これが……思っていたより若いのう」
露骨にジロジロと見回してくるタラゴンの視線に戸惑いながらも、ルカは応じた。
「エトランジェでリーダーをしているルカです」
「確か……ガラルの方でリーグトレーナーをしとったんじゃったのう」
「ええ。と言っても、一番下のリーグですが」
セロに聞いたのだろうが、そんな話までしてるとは少し意外に思えた。
ルカがそんな風に考えていると、タラゴンはポンっと手を打って言った。
「わざわざミアレまで来るくらいだ。腕には自信あるんじゃろう。ちょいと力を貸してくれんか」
「え……」
***
ミアレの街中にいくつもあるバトルコート。そのひとつで、ルカはセロとともに2人のトレーナーと向かい合っていた。
対するは仕立ての良いジャケットに身を包んだ青年と、この場には似つかわしいとは言い難い淡い色のドレスの女性。
その所作ひとつ取っても気品が見られ、育ちの良さが見て取れた。
2人の内の青年の方が、コート外で見守るタラゴンへと声を飛ばす。
「我々が勝った場合は、約束は守っていただきますよ!」
「勝負に勝てたらな!セロ、ルカ!ラシーヌ工務店の今後が掛かったバトルじゃ!しっかり頼むぞ!」
当然とばかりに頷き、タラゴンがルカ達へと檄を飛ばす。
しかし、ルカの内心は混乱するばかりだった。
(いや、頼むも何もどういうことなのかさっぱりなのですが!?)
目的も説明されぬまま、チームメイトであるセロが住み込みで世話になってるため、拒絶もできずに流されてここまで来たが、急にバトルをすることになったルカは困惑で固まっていた。
「なあ、セロ。君は何か聞いてるのか?」
「あの人が何を考えてるのかはわからないが、目の前のバトルで勝った後で聞けばいい」
知らないがとりあえずバトルして勝った後で聞く。単純明快な回答だった。
どうしようもなく、仕方ないのでルカもセロの言う通りにしてバトルへと意識を向けた。
相手の2人は、おそらくは
主にセレブの子息たちによるポケモン勝負を愛でる集い。
金持ちの道楽とはいえ、資金を注ぎ込んで効率的なトレーニングと、専門的なバトル理論を学んだ彼らのトレーナーとしての水準は高い。
ZAロワイヤルにおいてもチームとしては最も上位ランクを占めている集団だ。
(決して油断のできる相手ではないか……)
ルールはマルチバトル。それぞれの使用ポケモンは1体まで。両者のポケモンがボールから同時に放たれた。
ルカとセロの選んだポケモンはシンボラーとルカリオ、対する相手は青年がカイリュー、女性はサーナイトを繰り出した。
先手とばかりに青年と女性は指示を出した。
「カイリュー、“りゅうのはどう”!」
「サーナイト、“ムーンフォース”!」
相性的に悪いルカリオを避け、シンボラーを狙い撃った両者の攻撃が迫る。
まずは倒しやすい片方を潰す。マルチバトルの定石に沿った戦術だが、ルカはそれを読んだ指示を出していた。
「シンボラー、“ひかりのかべ”」
シンボラーの周囲にシールドが現れ、ダメージを軽減する。
しかも、壁はシンボラーだけではなくルカリオの周囲にも展開された。
「読まれていたか……」
初手の有利を取られたことを悟り、青年は眉を顰めて言った。
両者の狙いがシンボラーに集中している隙に、セロのルカリオは距離を詰めていた。
「“アイアンテール”!」
抜群の一撃が、サーナイトを襲う。辛うじて体力を残したが、次の一撃をまともに受ければ耐えられはしない。
状況の不利を感じた青年が女性へと叫ぶ。
「こうなってはルカリオを無視できない!カイリューの後ろへ!」
「わかりましたわ!」
青年のカイリューがサーナイトより前に出て、ルカリオへと“かわらわり”が襲う。
「ここです!サーナイト!」
「させるか!“エアスラッシュ”!」
少なくないダメージを受け、“ひかりのかべ”を破壊されたルカリオに、続けてサーナイトの“マジカルフレイム”がトドメに放たれようとする瞬間、シンボラーの“エアスラッシュ”が先にサーナイトを捉える。
距離があったので大したダメージにならずに持ち堪えられたが、一瞬動きを怯ますと、その隙にルカリオは“マジカルフレイム”の範囲から逃れる。
「逃れたか!だが、サーナイトはやらせないぞ!」
青年のカイリューがコートの端に隠れるサーナイトを守りながら前に出る。だが、既にセロは突破法を見つけていた。
距離を離したのは攻撃を避けるためだけじゃなく、カイリューとサーナイトの間に少し距離を作らせるためでもあった。
「ルカリオ、“しんそく”」
ルカリオの姿が消え、カイリューの側面をすり抜ける。次の瞬間にはサーナイトへと一撃を加えていた。
ギリギリの体力で踏ん張っていたサーナイトはそのまま戦闘不能となる。
「ぐっ……ならばこちらもここで!カイリュー、“かわらわり”!」
何とかイーブンまで持ち直そうと、ルカリオへと攻撃を指示するが、今度はルカのシンボラーが間に割って入って受け止める。
タイプ相性的にカイリューの技はほとんどダメージとならず、逆に“エアスラッシュ”を近距離で受けて動きが鈍る。
「“れいとうパンチ”」
ルカリオの最後の一撃が、カイリューを捉え、その瞬間に勝敗は決した。
***
バトルを終え、ルカリオを戻したセロへとルカは声を掛ける。
「最初の攻防、ダメージ感覚が甘かったね」
「……わかっている」
あの時、サーナイトへの“アイアンテール”を耐えられるとは思わず、セロの次の指示が一瞬遅れていた。
もしもそれがなければ出の早い“しんそく”で追撃を仕掛け、あの時点でそのままサーナイトを仕留め切れた筈だ。
結果として、サーナイトはカイリューの後ろに退がり、そのまま集中攻撃で戦闘不能の危機に陥った。
ルカのフォローがなければやられていたことを理解しているセロはそのまま黙り込むと、ルカは言った。
「シンボラーの攻撃じゃどっちも倒しにくかったし、勝てたのは君とルカリオのおかげだよ」
「……余計な世辞はいい」
あっさりと切り捨てられてルカが何も言えなくなっていると、コートの向こう側でタラゴンが青年と女性と話す声が聞こえた。
「それでは約束通りこれからも足場はどんどん設置させてもらうぞ!あんたらの敷地の周囲にもな!」
「ぬうう……っ、負けたのだから仕方ない!しかし、もう少し街の景観にも配慮していただきたい!」
「何を言っておる!何処でもアスレチックを楽しめて最高ではないか!」
「それはあまりにタラゴンさんの嗜好に寄った考え方です!」
青年の言い分に、首を傾げるタラゴンに、女性の方が抗議するように言う。
そんな理由でバトルしてたのかと、今更ながら知ったルカはため息を吐いた。
(正直……向こうの言い分も理解できるが……)
今でこそ慣れたが、街中にアスレチックを設置されているのは外からやってきた当初のルカには随分と奇怪に思えたのはまだ記憶に新しい。
未だ続く言い争いを遠巻きにルカは眺める。
「アスレチックの足場は今ではあんたらも参加しとるZAロワイヤルにも欠かせんじゃろ!」
「確かに街を立体的に立ち回れる役割は果たしているが、それならホロベーターでもよいでしょう!」
「町中に設置できるわけないじゃろ!あれの設置にいくら掛かると思っとるんじゃ!」
整備費用はひとまず抜きとして、簡単な試算をスマホロトムの電卓機能で行い、2人に見せると金額を見て彼らは首を傾げて声を揃えた。
「「遊興費1週間分?」」
「このたわけセレブどもが!!」
一際大声でタラゴンが叫んだ。遠くで聞いていたルカも少々呆れ気味だ。
「ともかく、勝負はこっちが勝ったのだからこれ以上グダグダ言うでないわ!」
「うう……っ、わかりました」
渋々といった様子でタラゴンとの話を済ませると、2人はバトルしたルカ達へと話し掛けてきた。
「君たち、随分と強いね。これでも僕たちはMSBCでも上位の腕だったんだけど、見事に負けてしまったよ」
「いや、こちらも危ない場面はあった。いいバトルだったよ」
ルカと言葉を交わした青年は、その後セロの方を少し見て言った。
「君のルカリオも強かったよ」
「俺とルカリオの力だけではない」
「けどわたくし達のポケモンが、両方ともルカリオに倒されてしまいましたわ」
話の途中から、青年と女性はじっとセロの顔を見て言った。
「失礼だが、何処かで会ったことがあったかな?」
「そういえばわたくしもそのような気が……」
「人違いだ」
セロはそう返すと、そのままその場を離れるように去って行った。
そんな彼の様子に青年は罰が悪そうに呟く。
「気を悪くしてしまっただろうか」
「そういうわけではないから気にしないでくれ」
「そうか……それではまた、機会があればバトルしよう」
取りなすようにルカが言うと、MSBCの2人もその場を去って行った。
残されたルカにタラゴンが声を掛ける。
「いやあ、悪かったのう。面倒ごとに巻き込んで」
「そう思うのなら、せめて説明くらいはして欲しかったですね」
「はっはっはっ!悪い悪い!」
少し棘があるルカの返しをタラゴンは笑い飛ばす。
そんなタラゴンにルカは仕方ないとばかりに息を吐いて言った。
「それで、俺のバトルはタラゴンさんのお眼鏡に叶ったので?」
「なんじゃ、気づいとったんか」
「そりゃあ、あれだけバトル中に視線を感じてはね」
勝敗が仕事に関わるというのにタラゴンの注目はバトル全体ではなく、ルカへと向いていた。
その時点でルカは最初から、自分の実力が見たくて巻き込んだのだろうと当たりを付けていた。
「セロをフォローしながら、見事なもんじゃったわい。あれなら、やつも問題なくZAロワイヤルを戦い抜けるじゃろ」
「随分、彼を気にかけてるんですね」
「まあ、あやつのことはミアレに住んどった頃から知っとるからな。向こうは覚えとらんようじゃが」
「ミアレに……昔から?」
思わぬ言葉に、ルカの口から困惑が突いて出た。てっきり自分達同様に他地方の出身だと思っており、元々ミアレに住んでいたというのは初耳だった。
ルカの反応にタラゴンもまた意外そうな顔を見せる。
「知らんかったのか。まあ、他人に自分を語る奴でもないか。すまんが、わしから聞いたことは忘れてくれ」
そう言うと、タラゴンはそれ以上はセロのことについては口を開かなかった。
ルカもまた、気にはなったが詮索する気も無かったのでそれ以上、そのことを問うことはなかった。