Pocket Monsters Z-A étranger 作:ローロー仮面
ルカはアイシアとともにジョーヌ地区にあるジャスティスの会の道場を訪れていた。
前日での市役所の時から、アイシアは好きな配信者の話で意気投合したとかで、ムクと友人となり親しくしているようだ。
その手の話題に疎いルカにはさっぱりわからない話だ。
ジャスティスの会はポケモンの育成に知見があるという、それならとアイシアはチームの仲間であるルカにも誘いの言葉をかけた。
彼女はセロも誘ったが、工務店の仕事があると言われては仕方ない。
「これが、ワザプラスです」
「メガシンカした時と、同じ攻撃が撃てるのか」
ルカは道場の門下生の1人、コタネという少女に指南を受けていた。
ワザプラス、メガシンカ以外の方法で同質のエネルギーを扱うそれは、ルカにとっても未知の技法だった。
(流石はクエーサー社のお膝元、メガシンカに関する知見では先進してるな……)
クエーサー社による貴重なメガストーンの精製やキーストーンの代わりになるメガリングの発明など、ここミアレではメガシンカが一般のトレーナーにも広まりつつある。
それは、ワザプラスなど新たな技術の発展も同時に促したのであろう。
(これを使えば、暴走メガシンカにも対抗できるだろうか)
慢心を振り払うように、ルカは首を振った。ちゃんとしたメガシンカ込みでも油断ならないのだ、有効打ひとつ習得したところで過信すべきではない。
ルカの様子に、指南してくれていたコタネが、何か自分に不手際でもあったのかと不安そうにしていたのに気付き、慌てて参考になったとフォローした。
あとは練習あるのみ、他の門下生に混じってワザプラスの試し撃ちをしていると、先程までアイシアと日陰で話をしていたムクが近づいてきた。
「練習中に悪いけど……ちょっといい?」
「ああ、ちょっと待ってね」
オーロット風の木ポケ人形に技を放とうとしていたバイバニラにストップをかけて、向き直る。
「それで何かな?」
「今日は道場には来ないって言ってたけど、シローが近づいてきている」
要領を得ずに、ルカが首を傾げた。確かに今日はシローは不在だと聞いていたが、仮に道場主の彼が来るとしてそれの何が問題なのか。
むしろこの道場の門下生は女性ばかりなので、同じ男であるシローが居てくれた方がルカとしても居心地が良い。
というか、スマホロトムで連絡を取ってる風でもないが何故、シローが来るのがわかったのか。
聞いてみると、手持ちのゴーストポケモンの力で、シローが接近してくる時はわかるようにしているらしい。
面倒なので普段は向こうに悟られずに避けるためにそうしているらしいが、やはり兄妹関係が複雑らしい。
「そんなことより、あんたは逃げた方が良い。このままいると、厄介なことになる……」
「それは……」
どういう意味なのかと問おうとして、遮るように大声が野外の道場に響き渡った。
「おお!これはルカさん!まさか、道場にお越しになっていたとは!」
あちゃあとばかりに、ムクが頭を抱えた。
***
「さあ、ルカさん。正々堂々良い勝負をしましょう」
シローの宣言に、門下生達が湧き立つ。整った顔立ちと目立つ長身、筋肉質な体つきはミスマッチだが目を引き、こういった場面では映える。
ルカは道場に戻ったシローに怒涛の勢いで話しかけられ、慌てて応対していると、何故か気が付いたらバトルする流れに持ち込まれていた。
道場主のシローがバトルするとのことで、女子ばかりの門下生達が黄色い声をあげて、気づけば断れる空気ではなくなっていた。
道場の端では、熱気に圧倒されるアイシアにムクが申し訳なさそうに言った。
「……ごめん、折角来てくれたのにこんなことになって……」
「そんな、ムクちゃんが気にしないでください。それにしてもシローさん、凄い人気ですね」
「ここの門下生はみんな、シロー目当てでの入門だった……。それに、シローはあれで意外と面倒見良いから……厳しい稽古に耐えて残ったのは、熱心な信奉者みたいになってる」
まるで狂信者と門下生には呆れ果てた様子だが、一瞬シローに対して誇らしげに見えたのを、アイシアは気のせいではないと感じた。
熱狂の中心では、ルカはどうしたものか思案していた。バトルの形式は既に日暮れ近いので1対1で済ませることになった。
それはシローからの提案で、有無を言わせない圧力の割に案外その手の心配りもあるようだ。
(一匹か……選出が難しいな)
シローの扱うポケモンは格闘タイプで統一されていると聞いていた。対するルカのポケモンは、格闘が苦手なものが多く、逆にシンボラーなどは極端に相性が良い。
シロー本人が気にするかはどうかとして、こういった場で露骨にメタを張るのも、逆に目に見えて不利な選択肢を選ぶのも躊躇われた。
(となると残ったのは……攻撃手段は少ないが、立ち回り次第でむしろ強く出れる……)
両者のポケモンが姿を現す。ルカが選択したポケモンは悪、飛行タイプのポケモン、バルジーナ。
対するシローはエスパー、格闘タイプのチャーレムだった。
「では、行きますよ!チャーレム、“れいとうパンチ”!」
格闘タイプの苦手な相手への対策として仕込んでいたのであろう、飛行タイプへの有効打である氷技。
あえてルカは避けるでもなくそれをバルジーナに受けさせて、反撃する。
「“イカサマ”」
バルジーナの相手の攻撃力でそのまま殴り返す悪タイプの技。それがチャーレムへと襲う。
元のチャーレムの攻撃の高さもあり、大きく突き飛ばす程の衝撃を与えるが、ダメージ量としては弱点を突かれたバルジーナの方が大きかった。
「“れいとうパンチ”」
「“ふきとばし”」
再び距離を詰めて反撃に転じようとしたシローに対して、ルカはもっと距離を取るための技を選んだ。
“ふきとばし”に押されて、チャーレムの“れいとうパンチ”が空を切る。
「“はねやすめ”」
距離が離れた内に、ルカは回復技の指示を出す。チャーレムが与えたダメージは帳消しとなった。
これで、ダメージレースではルカの方が優位に立った。ならばとばかりにシローは攻め方を変えた。
「チャーレム、“いわくだき”です」
今度は格闘タイプの技がバルジーナへとぶつかる。
ダメージ量は“れいとうパンチ”よりも乏しい、だが“いわくだき”には相手のポケモンの防御を下げる追加効果があった。
(この後のダメージ量を増やして、回復の追いつかない状態にするつもりか……だが、チャーレムの体力が持つかな)
バルジーナの“イカサマ”が再びチャーレムを襲う。
その前にシローは新たな指示を出していた。
「“まもる”」
バルジーナの攻撃を、チャーレムの防御技が無効にする。まずいな、とルカは内心で考えた。
(バルジーナの攻撃技はひとつだけ、“イカサマ”を防がれ続けてはこっちは打つ手がない……)
おそらくはシローもそれを察しているのだろう。“イカサマ”をこちらが使うまで“まもる”は温存する筈だ。
ジャスティスの会の道場主だけあり、技の使い方と立ち回りが抜群に上手い。
近接戦で彼の虚をつくのは並大抵のことではないだろう。
ルカは“まもる”が解けるタイミングで再び“ふきとばし”で距離を取って“はねやすめ”を使う。
だが、その間に距離を詰めたチャーレムの“いわくだき”が、バルジーナに直撃する。
“はねやすめ”の影響で、飛行タイプが一時的に消えていたので、効果抜群となりダメージ量が多い。
“れいとうパンチ”を使わなかった点でもシローに確かなポケモンの技に対する知識が感じられた。
「ふふ、そう易々と裏はかかれませんよ」
「……なら、もう少し駆け引きに付き合ってもらおうか。バルジーナ、“イカサマ”」
「“まもる”」
再び、チャーレムは“まもる”で防御を固める。だが、先程の再現とはならなかった。
“イカサマ”が“まもる”を貫通して、チャーレムにダメージを通した。
「これは……ワザプラス!?」
メガシンカと同じ状態の攻撃は、“まもる”を貫通する。だが、ダメージ量はいくらか軽減された。
この程度ではまだ倒れはしない。チャーレムは反撃の“れいとうパンチ”を放ったが、今度はそれに“はねやすめ”を合わせられてバルジーナに凌がれる。
(攻防の肝はここだ)
ルカは、内心で呟く。次に出す指示は同時となる。何故ならこの密着状態では出遅れた方が負けるからだ。
「“ふきとばし”!」
「”まもる“!」
ヨシ、とルカは拳をグッと握った。”ふきとばし“に”まもる“を使った以上、”イカサマ“はもう防げない。
”ふきとばし“の方が”まもる”より解けるタイミングが先となり、動き出しはバルジーナが速い。
「“イカサマ”!」
バルジーナは技を放つ体勢に入る。だが……
「“れいとうパンチ”!」
既に、その時にはチャーレムの拳が振り下ろされていた。
“れいとうパンチ”の直撃を受けたバルジーナは地に墜落して、戦闘不能となった。
バルジーナが動き出した時には、チャーレムの“まもる”は解除され、シローの指示が通っていたのだ。
「ワザプラスで使われた“まもる”は発動時間が短縮される。その理解の有無が、勝敗を分けましたね」
一瞬の攻防と、チャーレムの動きに集中し過ぎて、シローがワザプラスを使ったのに、ルカは気付いていなかった。
ワザプラスの知識の差、シローが言うように勝敗を分けたのはそれだった。
「ありがとう、勉強になったよ」
ルカは素直に敗北を認め、右手を差し出して握手を求めると、シローは喜んでそれに応じる。
それを見て、バトルを観戦していた門下生達とムクがあっ!と声を上げた。
シローが握手する手に触れて少し力を入れた瞬間、ルカの右手に恐ろしい圧力が襲いかかり、彼の絶叫が道場に響き渡った。
***
すっかり日が暮れて、アイシアとともにルカは帰路へとついていた。
右手は痛みこそ引いたが未だに痺れが残り、門下生の子達が見てくれたが、本当に骨にヒビとか入ってないか不安になった。
「えっと……いいバトルでしたね」
「そうだね、今日は得られるものも多かった」
「随分、シローさんと話し込まれてましたね」
あの後で、治療を受けるルカに申し訳なさそうに何度も謝罪するシローと色々話をした。
バトルや技の理論の話から、トレーナーとしての考え方まで。
「ジャスティスの会の思想には賛同しかねる部分もあるけど。強さでは解決できなくても、守るためには強さがいるって考えは理解もできた」
「そうですね……ムクちゃんもジャスティスの会のこと、大事にしてました」
少しだけ、躊躇しながらアイシアはこんなことを言い出した。
「その、ムクちゃんの勧めもあって、しばらくジャスティスの会で特訓しないかって」
「へえ、いいじゃないか」
「そう……ですか?でも他のチームですし……」
ジャスティスの会もZAロワイヤルに参加している。そのことで遠慮があったのだろう。
だが、それは大した問題ではなかった。あくまでエトランジェは他地方のトレーナーの互助会目当てで立ち上げたものだ。
「別に、気にすることはないよ。自由にすればいい。君とセロ以外のメンバーはZAロワイヤルにすらほとんど参加してないくらいだし」
「あれ、私たち以外にもメンバーいたのですか?」
アイシアは目を丸くして言った。どうやらそこから知らなかったらしい。
まあ、顔合わせもしておらず、名簿を持ってるルカと当初からいたセロ以外はお互い名前も知らないのだから当然と言えば当然だ。
まあとにかくと、好きにすればいいとだけ伝えると、アイシアはこんなことを言った。
「それならルカさんも、一緒に稽古に参加してはどうですか」
「それは断る」
きっぱりとした拒絶だった。シローとの会話でも再三勧誘を受けたが、正拳突きがどうのとあのシローとポケモンに関係のない特訓に付き合わされそうで、とてもじゃないが身体が持ちそうもない。
いつになく明確な拒否反応、アイシアは「そ、そうですか……」とだけ言って、とりあえずその後の帰路は話題を切り変えることにした。