Pocket Monsters Z-A étranger 作:ローロー仮面
赤いホログラムに照らされた深夜の屋上。今宵の参加者では最も高ランクな2人のトレーナーが激突していた。
ルカに相対するは、様々な地方で実績のあるベテラントレーナーの女性。
ともに戦闘不能となったギガイアスとサーナイトが同時に両者のボールに戻る。
次に繰り出されたのはルカ側がバイバニラ、女性はピジョットだ。
一見すると相性はルカの方が有利だが、女性の身に付けたメガリングに共鳴して、ピジョットの持つメガストーンが光り輝く。
「進化を超え、雄々しく羽ばたきなさい!メガピジョット!」
光の殻を破り、より巨大となった大翼を広げる。鶏冠の先からは体長よりも長い赤色の羽が、その背まで靡かせ、鋭い視線をバイバニラへと向ける。
「“れいとうビーム”!」
「“エアスラッシュ”!」
正面からぶつかり合った技は一瞬の均衡を見せるが、優ったのはメガシンカしたピジョットの技だった。
「相性有利だからって、メガピジョットを舐めないでもらいましょうか!」
“エアスラッシュ”が“れいとうビーム”を切り裂き、そのままバイバニラに打ち付けられる。
(後出しで同時に……威力だけじゃなく技の出もメガシンカした向こうのほうが速いか)
幸い、威力はほとんど減衰しており大したダメージではないが、技の撃ち合いでは勝てそうもない。
ギガイアスなら真正面からでもやれたかもしれないが、それも先程戦闘不能になってしまっている。
「休ませませんよ!ピジョット、“ぼうふう“!」
「っ!バイバニラ!距離を詰めろ!」
本来は大技である”ぼうふう“が、メガシンカの恩恵で驚くべき速さで放たれる。
バイバニラがメガピジョットに密着するより速く、”ぼうふう“はバイバニラを打ち上げる。
「密着して自身の技に巻き込ませようとしたようですが、遅かったですね」
「いや……この距離で十分だ!”フリーズドライ“!」
”ぼうふう“に打ち上げられながらも、バイバニラは周囲一帯に水分を奪う乾燥した冷気を放った。
冷気は”ぼうふう“によって吹き荒れ、メガピジョットに本来以上に吹き付ける。
「ああ……メガピジョットの羽が……凍って!」
「バイバニラ、ゆっくりとでいい、”れいとうビーム“」
こおりづけで動きの止まったメガピジョットに、ふらつきながらも確実に狙いを定めて放たれた”れいとうビーム“が捉えた。
二度における弱点攻撃の直撃に、メガピジョットは遂に倒れ、元の姿に戻ったまま戦闘不能となった。
「メガピジョットなのに!メガピジョットなのに……!せっかく……ミアレでメガストーンを手に入れたのに……!」
手持ちの中核たるメガピジョットが敗れて、女性は項垂れるようにして言った。
しかしルカの側もバイバニラがギリギリ踏ん張っただけで、余力はないに等しい。
(まだメガシンカの力に慣れてなかったみたいだな……)
冷静に”エアスラッシュ“などで先に削られれば、勝負は分からなかった。
不慣れさからメガシンカの制限時間を意識し過ぎて勝負を焦ったのだろう。
(けど、メガシンカ自体はやっぱり強力だな)
メガシンカしたポケモン自体の能力が飛躍的に上昇し、技の威力も増す。
何よりも、あの夜の暴走メガシンカに対抗するにはまず必要となる力だ。
手に入れたいが、それには障害があった。まずメガシンカにはトレーナー用のキーストーンが必要だが、その代わりになるメガリングは今もルカの腕にある。
上位ランクになった時に、運営のクエーサー社から貰った。
問題はメガシンカさせたいポケモンの種類ごとのメガストーンが必要となることだ。
そして何より……
(根本的に俺の仲間にメガシンカできるポケモンがいないからなあ)
そもそも、入手すべきメガストーンも存在しない。根本的な問題が、ルカの前には立ち塞がっていた。
自身のバトルを終えたルカは地上へと視線を落とす。
向こうではセロとアイシアが戦っていたが、今日は自分のバトルに意識を割いていたのであまり様子を見ていなかった。
アイシアは進化させたばかりのグレンアルマとも上手く連携できているようだった。
苦手な岩や水タイプのポケモンも、“ソーラービーム”の火力で押し切る。進化前ではできなかった芸当だ。
対して、セロの方も新たに育てているポケモンを試している。
カメールの“れいとうビーム”を受けながら無理やり突き進み、オーロットの“ウッドホーン”が一撃で仕留めた。
弱点の攻撃を受けながらもオーロットは“ウッドホーン”による回復効果で体力に余裕が見えた。
タイプ相性だけではなく、連戦となる夜のバトルを意識した選出が見て取れる。
オーロットを警戒して周囲のトレーナーが距離を取り出すと、セロが交代で出したポケモンはバクーダだった。
“だいちのちから”と“ねっぷう”を使い分けて、物陰に隠れてやり過ごすつもりのトレーナーのポケモンまでも戦闘不能に沈めていく。
(アイシアは最初から安定してたけど、セロは少しの間にだいぶ強くなったなあ……)
手持ちもタイプ相性や戦術を事前に考えた上で、しっかりと適したポケモンを育て上げている。
(停滞してるのは……俺の方か)
思えば、ミアレに来る前と今で、自分とパートナー達の実力はどれほど変化しただろうかと内心で自らに問う。
実績づくりのための遠征とはいえ、得るものが無く停滞していてはトレーナーとしては劣化してるに等しい。
(あの2人なら、もう大丈夫だろう。しばらくは俺も少し自分のことに集中するか)
内心で自身の課題を整理しながら、ルカは徐々に夜が明けて、陽が差し出したのに気付き、撤収のために屋上を降りてセロ達と合流に向かった。
***
数日前の夜のバトルから、ルカは1人で連日の参加を続けていた。
後回しにしていたランク上げのために、バトルに勝利してポイントを稼ぐためだ。
参加者も生活があるので、週末を除き、トレーナーが多い時間には偏りがある。
ルカはある程度数が多い内にバトルを素早く終わらせてポイントを貯めていた。
そろそろ、次の昇格戦も見えてくる頃合いだ。そう考えながら、宿への帰り道に着いていた時、一斉に視線を向けられたかのような感覚に襲われた。
人通りはある。夜のミアレは完全に静まることはない。少し離れたところではネオンに照らされた通りを、遅い時間でも行き交う人影がいくつもあった。
だが、彼らではない。もっと野生的なーーポケモンの気配だった。
視線を感じた方向の1つを確認する。植え込みに、小さい黒い影が過ぎった。
逆方向へと視線を移すと、一瞬街灯の上に何かがいたような気がした。背後を振り向くと、何かが用水路の中に引っ込んでいくのが見えた。
頭上から何かが着地したような物音がした。見上げると、そこには夜闇に溶け込む黒に、浮かび上がるような緑が入り混じった四足歩行のポケモンの姿。
「ジガルデ……!?」
ルカが気づくと、ジガルデはそこから飛び降り、路地の隙間へと駆け出した。
まるで、ルカについて来いとでも言うように。
(まさか……また暴走メガシンカが出たのか!?)
一瞬、メガシンカの使えない自分に何ができるのかと躊躇したが、やっぱり放っておくこともできず、ジガルデを追って駆け出した。
ジガルデはルカが追うのを待っていたのかまだ見える位置にいた。ベール広場からジガルデがいた階段を登り、ブランタンアベニューを横断してブルー地区に入るとすぐ、3番地の路地裏へと入り込んでいく。
(この先は、確か……)
路地裏の先にあった階段を下り、地下に入るとそこにはミアレ地下水道に通じる扉があった。
そこには、ジガルデの姿はなかった。代わりにいたのは……
「Fさん!?」
「おや、君は……奇遇というわけではなさそうですね」
相変わらず無感動な調子でFはルカへと話しかける。事情を説明すると納得した様子で頷いた。
「そうですか、ジガルデが……どうやら今の私1人では心許ないと考えたのでしょう」
「以前……あなたはプリズムタワーの地下にメガエネルギーが内蔵されていると言ってましたね」
同時に、ムクが言っていた地下水道のポケモンが凶暴化しているという話を思い出す。
探るようなルカの視線に対して、Fは言った。
「ひとまず話は道中で」
地下水道に入ると、Fは少々お待ちくださいと言って、地図のようなものを確認しながら壁を探っていた。
壁を手の甲で叩くように確認すると、突如Fはボールからコジョンドを繰り出した。
「“きあいだま”」
「なっ……!?」
突如、地下水道の壁へと攻撃指示をするFにルカは驚くが、技によって崩れた壁の先に階段が現れて、余計に驚愕の表情を浮かべた。
行きましょう、とだけ言ってFは階段を下り、ようやくルカへと状況を説明しだす。
「この通路はかつてミアレシティの地下に存在したカタコンベへと通じています」
「カタコンベ……つまり、地下墓地?」
ルカも詳しいわけではないが、かつてミアレシティでは墓地不足から人やポケモンを地下の採掘場の跡地に埋葬していたという話を聞いたことがあった。
現在では封鎖され、立ち入りも禁じられており、その存在すら知らない者も多い。
ルカは足元に視線を落とす。
(確か、カタコンベが実際に使われていたのは数世紀前の話だったか)
石造りの階段は湿気を帯び、ところどころにひび割れが走っていた。壁面には古びた刻印のようなものが残っているが、長い年月で削れ、判別は難しい。
「何だってこんな場所に……」
墓荒らし紛いの行いに、ルカは酷く顔を顰める。対するFは淡々と言葉を紡ぐ。
「カタコンベの中央にはメガエネルギーをプリズムタワーに送り込むパイプラインとその制御装置があります」
「そんなものが……それを止めれば、今起きている問題は収まるのですか?」
「それはわかりません。5年前の一件以降、少なくともタワー自体の制御は失われている」
5年前、カロス地方全体を巻き込むような大事件があったというのは余所者のルカでも知っている。
あの事件がミアレシティの地価を暴落させ、今もまた都市再開発の重要なこの時期に、街に暴走メガシンカという影を落としている。
「今もエネルギーだけは供給され続けている。せめてパイプラインだけでも閉鎖できれば……」
そこまで言いかけて、先を進むFが足を止めた。一瞬、怪訝に視線を細めるルカだったが、その理由は直ぐにわかった。
殺気の入り混じった気配、そして地下だからというだけでは説明の付かない冷気……いや、霊気が背筋を駆け抜けた。
「このあたりはメガエネルギーの濃度が濃い。幸い、過剰なエネルギーはパイプラインに送られ、暴走メガシンカこそしていなくとも、凶暴化はしていると考えた方がいい」
階段の先に、暗闇が口を開けている。
底の見えない穴のようなそれを前に、ルカは小さく息を吐いた。
「私が先導しますが、なにぶん足が不自由ですので、援護を頼みます」
思えば、Fとはあってから彼が機敏な動きを見せるのは咄嗟の時など一瞬だけだった。
ジガルデが、わざわざルカを導いた理由はこのあたりにあったのかもしれない。
「それでは行きますよ」
ミアレシティの地下深くへと広がる闇へと、ルカとFは足を踏み出した。