浪速のボスゴリラ   作:五十嵐 響

42 / 42
Japan Games 2024 in Saga

10月。いよいよ「SAGA2024国民スポーツ大会」の幕が開ける。

実業団体を制し、「柔道家・第二幕」を歩むゴリラ女にとって、大阪の看板を背負うこの大会は、正に自分の経験の全てをぶつける約束の舞台となった。

 

決戦の前日、修道館での最終調整。

心地良い疲労感の中で道着を畳んでいると、次鋒のマウンテンゴリラ女が汗を拭いながら聞いてきた。

「明日佐賀ですね。ゴリラ女さん行ったことあります?」

「ないねんな」

九州地方と言えば福岡県に行ったことあるくらいで、佐賀県の地を踏むのはこれが初めて。新鮮な高揚感を胸に天王寺の自宅へ帰ると、我が家は既にオンライン配信の視聴環境を完璧に整えて手ぐすね引いて待っていた。「あんたの試合、テレビに繋いで大画面で観るからな!」という家族の熱いエールを受け、ゴリラ女は深く静かに眠りに就いた。

 

朝の臨戦態勢。新大阪駅の改札前に、大阪府代表チームが集合した。

チームリーダーであるゴリラ女が全員の顔を見渡し、ドッシリとした声で出欠を確認する。

「忘れ物ないな。今日は移動日や、しっかり体調整えるぞ」

すると、未成年の若い選手がキョロキョロしながら聞いた。

「あの、マウンテンゴリラ女先輩が居ません……!」

「ああ、あいつ京都住みやから京都駅から乗って来るよ。新幹線の中で合流や」

博多行きの山陽新幹線に乗り込むと、車内は比較的リラックスした空気が流れていた。初めての国スポの雰囲気に呑まれかけている若い選手が「国スポ初めてなので緊張します……」と溢すと、京都駅から合流したマウンテンゴリラ女が頼もしく笑った。

「試合始まったらいつもの柔道や。畳の広さも一緒やしな」

ゴリラ女も、シートに深く腰掛けながら落ち着いた口調で言葉を添える。

「普段通りやれば大丈夫。うちらが付いてるから、前で思い切って暴れて来い」

博多駅で特急リレーかもめに乗り換え、長閑な佐賀の風景を走り抜けて佐賀駅へ到着。そのまま決戦の地、完成したばかりのSAGAアリーナへと向かった。

 

最新鋭のSAGAアリーナに足を踏み入れると、天井の高さと真新しい匂いに若い選手達から歓声が上がる。ゴリラ女はまず、試合会場の畳、観客席の見え方、そして直前のアップ会場の位置を念入りにチェックした。

実際に畳の上に立ち、足の裏でじっくりとその感触を確かめる。

「思ったより滑らへんな。しっかり踏ん張れるわ」

その夜、ホテルの会議室で大阪府代表のミーティングが開かれた。

ゴリラ女はホワイトボードの前に立ち、マーカーを握ってオーダーと相手府県の特徴、そして具体的な試合運びの戦術を書き出していく。

「……ここは先取点が欲しい。中堅でタイに戻されても、副将で勝負をかける。大将のウチは、最後まで回る可能性が高い前提でいつでも行けるようにしとくから、お前らは後ろを気にせず突っ込め」

修羅場を何度も潜り抜けてきたゴリラ女の解説は、若手達の頭にスッと染み渡り、最高の安心感を与えていた。

夕食は全員揃って和やかに。「佐賀まで結構遠かったな」「明日は何時集合ですか?」

そんな会話を交わし、移動の疲れを残さないよう、それぞれ早めに部屋へと戻っていった。

 

朝食を済ませ、全員がお揃いの大阪府のジャージに身を包んで会場入り。

アップ会場では、ランニング、入念なストレッチ、そして道着を着ての打ち込みと軽い乱取りで身体を素早く温めていく。

この日のゴリラ女は、いつも以上に口数が少なくピリピリしているのが見て感じ取れた。完全に戦闘モードのスイッチが入っている。

マウンテンゴリラ女がそっと近寄り、「今日の調子はどうですか?」と小声で尋ねた。

ゴリラ女は鋭い眼光のまま、短く答えた。

「当日やから調子なんて言ってられんわ。やるしかない」

今回のチームは、ゴリラ女と実業団トップのマウンテンゴリラ女、そして勢いのある未成年3人という絶妙な構成。経験豊富な2人が精神的支柱となり、試合直前の若手達に「思い切って行こう」「一本狙ってええぞ」と声をかけ、緊張を解す。

開会式。各都道府県のプラカードが並ぶ壮観な景色に、若い選手達の肩に少し力が入る。しかし、数々の修羅場を経験してきたゴリラ女は、ただ静かに全体の空気を呑み込むような落ち着きで周囲を見渡していた。

アップを終え、畳のすぐ脇でガッチリと円陣を組む。

監督が最後に拳を突き出した。「大阪らしく、前へ出る柔道をしよう!」

「はい!!」

全員の気合いが響く中、ゴリラ女が最後に全員の目を真っ直ぐ見つめて一言、低く力強く言った。

「皆、自分の柔道をやろう」

その瞬間、若い3人の表情が完全に引き締まった。経験者が盾となり、若手が牙となる。最高のバランスを持った大阪府代表の戦いが始まった。

 

1回戦は島根県。大阪府代表は最高の入り方を見せる。先鋒の未成年選手が鮮やかな一本勝ちで勢いを付けると、次鋒のマウンテンゴリラ女もしっかりと組み勝って手堅く優勢勝ち。中堅が引き分けた後、副将が再び一本をもぎ取り、大将戦を待たずにチームの勝利が確定した。

最後を任された大将のゴリラ女は、無理なリスクを徹底的に排除。落ち着いて試合をコントロールして引き分けに纏め、3勝0敗2分で快勝のスタートを切った。

 

2回戦は山梨県。粘り強い山梨との接戦。先鋒が引き分けた後、次鋒のマウンテンゴリラ女が十八番の豪快な内股を一閃! 畳に爆音が響く完璧な一本勝ちでチームを鼓舞する。しかし中堅が惜敗し、1勝1敗。副将も息の詰まる攻防の末に引き分けとなり、勝負の行方は大将戦のゴリラ女に完全委ねられた。

「引き分けなら代表戦、勝てば準決勝」という痺れる場面。ゴリラ女は序盤から圧倒的なフィジカルで組み勝ち、相手をジリジリと場際へ追い詰める。終盤、強引に潰した相手を一瞬の隙も見逃さず寝技へ移行。巨体を完璧に浴びせる横四方固でガッチリと抑え込み、一本勝ち! 2勝1敗2分でチームを準決勝へ導いた。

 

準決勝は愛知県。今大会最大の山場。先鋒の若手が相手の猛攻に屈して敗れ、大阪は手痛い先行を許す苦しいスタート。しかしここからチームの底力が爆発する。次鋒のマウンテンゴリラ女が気迫の一本勝ちで即座にタイに戻すと、中堅が値千金の引き分けで繋ぎ、副将が見事な一本勝ちで逆転!

またしても大将戦の前にチームの勝利が確定。ゴリラ女はベテラン老獪さを見せつけ、焦る相手の技を全て完璧にいなして落ち着いて引き分け。計算通りの試合運びで、大阪府が決勝進出を決めた。

 

決勝の相手は、全国屈指の選手層を誇る静岡県。SAGAアリーナのボルテージは最高潮に達し、独特の緊張感が会場を支配する。

先鋒は大阪の若手が果敢に攻めるも、静岡の実力者に一瞬の隙を突かれ、惜しくも一本負け。先制を許す。

次鋒はマウンテンゴリラ女。チームの命運を懸けた一戦、鋭い組み手で終始主導権を握る。残り時間が少なくなる中、渾身の大外刈をねじ込んで技ありを奪取。そのまま相手の必死のリベンジを完璧にシャットアウトし、貴重な優勢勝ちで星を戻す。

中堅は互いに一歩も引かない大激戦の末、執念の引き分け。1勝1敗。

副将、大阪の若手がここで覚醒。前へ出る大阪の柔道を体現し、見事な一本勝ち! スコアは2勝1敗。遂に大阪がリードを奪った状態で、最後の大将戦へ。

 

大将戦のゴリラ女vs静岡の無差別級強豪。相手も全国にその名を知られる重量級の超実力者。引き分け以上で大阪の優勝が決まるシチュエーションだが、相手は一本勝ちしか後がないため、猛獣のような気迫で突っ込んでくる。

「始め!」の合図と共に、巨体同士が畳の中央で激突した。鈍い肉体音が会場に響き渡る。相手が死に物狂いで大内刈を仕掛けてきたその瞬間、ゴリラ女の体幹が電光石火で反応した。

技の芯を完璧に見切り、強烈な返し技で相手のバランスを崩して畳へ激突させる! すぐさま上から強襲し、寝技での完全決着を狙って抑え込みにいくが、相手も意地で体を捻って必死に逃れる。防戦一方となった相手に対し、ゴリラ女は終盤まで圧倒的なプレッシャーをかけ続け、組み手を完全に支配。最後は圧倒的な指導差をつけたままタイムアップのブザー。

「それまで!」

ゴリラ女の完璧な優勢勝ち。その瞬間、大阪府代表の優勝が決定した。

 

表彰式では、賞状とメダルを胸にした5人のメンバーと監督が、これ以上ない満面の笑みで並んだ。

全勝に近い大車輪の活躍で若手を引っ張ったマウンテンゴリラ女。そして、大将として無敗のままチームの状況に応じて完璧にゲームをコントロールし続けたゴリラ女。

控室に戻ると、監督が万感を込めて選手たちを見つめた。

「若い選手が前で勢いを出し、経験者が後ろでビシッと締める。ホンマに理想的な、最高のチームやった。全員、よう頑張った!」

マウンテンゴリラ女と若い選手達がメダルをカチャカチャ鳴らしながら盛り上がる中、ゴリラ女は自分の道着の「大阪」の文字を見つめ、静かに充実感を噛み締めていた。

勝負どころで一本をもぎ取る爆発力、そしてチームの状況を冷徹に分析して勝利へ導く戦術眼。この佐賀の地で、彼女は「大将」としての本当の完成形に達した確信があった。

スマホの画面を開くと、天王寺の家族から「おめでとう!!」「最強のゴリラや!!」と文字化けせんばかりのLINEが大量に届いている。更に、大阪の道場で留守番をしていたマントヒヒ女からも「おめでとうございます! ウチも早くその輪に入りたいです!」と熱いメッセージが届いていた。

「よし、大阪帰ったらマントヒヒも混ぜて、鶴橋で大焼き肉パーティーやな」

ゴリラ女はマウンテンゴリラ女とガシッと力強いハイタッチを交わし、佐賀の熱い秋空の下、大阪代表としての誇りを胸に、次なる修道館での畳へと視線を力強く向けていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

読者層が似ている作品 総合 二次 オリ

面倒なので黙っていたら天才参謀と誤解されました(作者:濃厚とんこつ豚無双)(オリジナルファンタジー/戦記)

後年、ノルトマルクの軍史家たちは、クラウス・フォン・ライフェンベルクを「沈黙の天才参謀」と記した。▼諸邦の利害を束ね、敵国の思惑を見抜き、ただ一言で戦役の方向を定めた男。と。▼だが、その大半は誤解である。▼確かにクラウスは名門ライフェンベルク家の嫡孫にして、陸軍高等軍学院首席、若くして統帥府(参謀本部)に配属されたエリートだった。▼とはいえ本人に言わせれば、…


総合評価:12123/評価:8.81/連載:63話/更新日時:2026年07月29日(水) 01:32 小説情報


小説検索で他の候補を表示>>